高齢障害者の機能的状態の予測因子に関する研究

文献情報

文献番号
199700620A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢障害者の機能的状態の予測因子に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中村 隆一(国立身体障害者リハビリテーションセンター更生訓練所長)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は高齢者(健常者および障害者)を対象として、日常生活活動尺度や活動状況調査などを機能的状態を代表する従属変数として、現状および将来の機能的状態を予測するための簡便かつ適切な指標(尺度)を独立変数として探求することを第1の目的としている。第2に機能的状態の低下(その量と時期:死亡を含む)についての危険因子を明らかにする。また、高齢障害者に多い脳卒中患者を中心として、リハビリテーションの医療のような機能的状態の維持あるいは改善に関連する要因も検討する。
研究方法
本研究は大きく2領域で構成されている。第1は機能的状態の予測を主題とする。第2は脳卒中患者のリハビリテーションを主題として、障害の諸側面の予測に関するモデルの検証である。
1.現在の機能的状態の評価
?地域社会に生活している高齢者の最大歩行速度の決定因(鈴木・他)
宮城県O町の体力調査に参加した高齢者71名を対象に、10m最大歩行速度、右膝伸展筋力、バランス安定性を測定し、最大歩行速度の決定因を検討した。
?高齢者におけるMotor Fitness Scaleと体力測定との関係(細川・他)
宮城県W町の65-89歳の在宅高齢者のうち、歩行可能な97名から歩行速度、立位バランス、筋力、指タッピングなどを含む体力測定データ、長谷川式簡易知能評価スケール、バーセルインデックス、老研式活動能力指標、Motor Fitness Scaleなどの質問紙への回答を得た。これらデータに統計処理を行った。
2.将来の機能的状態の予測
?地域高齢者の身体機能の推移-活動的平均余命による検討-(辻・他)
宮城県W町の65歳以上の者全員を対象として1994年と1996年にADL、移動能力およびIADLに関して調査を行った。回答は追跡可能であった2,936名から得た。この間の推移確率と死亡率を性、年齢別に求め、2段階生命表法によって各レベルの活動的平均余命(活動が自立している期待生存年数)を算出した。
?在宅高齢者の身体機能予測に関する研究-社会的関わりの移動能力への関連を中心に-(高山・他)
中部地方の大都市近郊農村に在住し、1992年と1996年に回答が得られた60歳以上の586名をコホート集団として、ADLおよび社会関連性評価等の調査を行った。身体機能維持にかかわる要因について、年齢を統計要因としたロジスティック回帰分析を行った。
3.脳卒中患者の機能的状態の予測
?在宅脳卒中患者の生活活動尺度の作成(佐直・他)
在宅脳卒中患者153例から得られた活動状況調査表(75項目の活動頻度を記録)から、通過率が20%未満および80%以上の項目を棄却し、さらに項目間の内的整合性を高めるように信頼性分析を加えて、簡便な1次元尺度を構成した。
?脳卒中患者における社会的不利の定量的評価に関する研究(千野・他)
発症前に職業を有し、65歳未満であった脳卒中患者31例を対象として、退院後6月の時点でCHARTによる調査を行い、退院時FIMの領域別スコアとCHARTスコアとの関連について検討した。
?脳卒中患者のバーセルインデックス項目の通過率変動(中村・他)
入院リハビリテーション治療を受けた脳卒中患者108例を対象に入院時および2月後のバーセルインデックスについて、各項目の通過率(困難度)順序およびクラスター分析による各項目の非類似度について経時的変動を検討した。
結果と考察
本年度に得られた結果について概略を記し、併せて考察を加える。
1.現在の機能的状態の評価
?地域社会に生活している高齢者の最大歩行速度の決定因
被験者71名の平均では、年齢は74.1歳、身長153.2cm、体重55.4kg、最大歩行速度は110.8m/minであった。最大歩行速度の決定因は年齢、筋力、バランス安定性、体重であった。筋力とバランス安定性が最大歩行速度の主要な決定因であるのは脳卒中患者と同じである。脳卒中患者では最大歩行速度が一部生活活動の制限要因であることも明らかにされている。10m距離最大歩行速度の測定は、高齢者の機能的状態を予測するための簡便であり、信頼度の高い尺度である。
?高齢者におけるMotor Fitness Scaleと体力測定との関係
Motor Fitness Scale得点は最大歩行速度、ペグボード、膝伸展力と相関が高く、性差(男性>女性)があり、加齢とともに低下し、主観的健康感および長谷川式簡易知能評価スケール得点が高いほど高得点であった。逐次重回帰分析では、得点は通常歩行速度によって39%が説明可能であった。歩行可能なレベルの在宅高齢者ではMotor Fitness Scale(質問紙)によって機能的状態を推定できることを示唆している。
2.将来の機能的状態の予測
?地域高齢者の身体機能の推移-活動的平均余命による検討-
65歳男性の平均余命は16.0年であり、IADLの自立した生存期間は12.0年、ADL自立と移動自立の生存期間はともに14.3年であった。65歳女性の平均余命のうち、IADLの自立は16.3年、ADLは19.8年、移動は19.9年であった。IADLは要介護であって、ADL・移動が自立している期間は男性が2.3年、女性は3.5年と推定された。能力障害の重度化は女性よりも男性で早く進行する。
?在宅高齢者の身体機能予測に関する研究-社会的関わりの移動能力への関連を中心に-
オッズ比を利用した判定では、在宅高齢者の移動能力で代表される身体機能の将来における維持を示唆するマーカーは、男性では本・雑誌・新聞などの購読であり、新聞の購読については女性も同様であった。さらに女性では、趣味、規則的な生活、生活の工夫、積極性も重要であった。
3.脳卒中患者の機能的状態の予測
?在宅脳卒中患者の生活活動尺度の作成(佐直・他)
対象となった脳卒中患者は平均年齢は64.8歳、発症から調査までの期間は318.7週であった。活動調査は75項目中、通過率が20%未満と80%以上の項目を除いた30項目に信頼性分析を行い、27項目でCronbachのα係数0.909の1次元尺度を得た。対象者平均得点は10.0±6.8であり、75項目の活動状況調査との相関係数0.962であった。老研式活動能力指標との相関も高い。在宅脳卒中患者の活動状況を知るための簡便な質問紙が得られた。
?脳卒中患者における社会的不利の定量的評価に関する研究
CHARTの平均得点は273.7であり、年齢別に見ると、年齢が高くなるほど得点は低下した。CHART得点とFIM得点との間には有意な相関があった。脳卒中患者の退院6月後の在宅生活における社会的不利は年齢とともに増大し、50歳代以上になると復職や趣味的活動などの時間の過ごし方に多くの不利益を被っている。退院時の能力低下から在宅生活における社会的不利の程度を予測するには、セルフケア、移乗/移動、社会的認知の能力について考慮すべきである。
?脳卒中患者のバーセルインデックス項目の通過率変動
バーセルインデックス項目の通過率は経年的に調査した在宅高齢者のデータ、あるいは入院リハビリテーション中の脳卒中患者の経過中の複数の時点での調査において、順序に多少の変動がある。108例のデータでは、入院時と2月後では尿禁制と食事の通過率順序が変ってくる。クラスター分析では、入院時と2月後にはかなりの相違がある。同じコホートから入院時と2月後にバーセルインデックス30-65、70-90の4群を選び、同一の処理を行った結果でも、クラスターにはかなりの変動が認められた。脳卒中患者の機能的状態の回復過程では、遂行可能となる項目の順序にかなりの個人差があること、それらはリハビリテーション医療の影響を受けることを示唆している。
結論
本年度の研究から、在宅高齢者では10m距離の最大歩行速度、移動能力(50mの歩行可能)あるいは階段昇降などの身体機能の測定、評価が簡便で、しかも現状および将来の機能的状態を予測するのによい指標であることが明らかになった。また主観的健康感、Motor Fitness Scale のような質問紙も実用に供することが可能となった。脳卒中を中心とした、高齢障害者の機能的状態を予測するための指標としては簡便な生活活動尺度が完成した。 

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