国民のニーズに応える薬剤師の専門性のあり方に関する調査研究

文献情報

文献番号
202225003A
報告書区分
総括
研究課題名
国民のニーズに応える薬剤師の専門性のあり方に関する調査研究
課題番号
20KC1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
矢野 育子(国立大学法人 神戸大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 入江 徹美(国立大学法人 熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
3,981,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 薬剤師免許取得後のキャリアパスとして、研修認定薬剤師を経て、認定薬剤師、領域別専門(認定)薬剤師、領域別高度専門(指導)薬剤師に至るというラダーが日本学術会議から2008年に提言された。しかし、これら専門性を有する薬剤師の認定は、個別の職能団体や学会等において行われており、制度設計も様々で認定要件に整合性がないという課題がある。
 令和4年度は、これまで研究班が提示した専門薬剤師の質保証のための認定要件の改定案等について各団体と改めて意見交換を行う。そして公開シンポジウムを開催し、研究班の活動を周知したうえで広く意見を募り、医療機関や薬局に勤務する薬剤師に求められる専門領域を医療マネジメントの観点から決定するプロセスを考案するとともに、薬剤師の専門性の質を確保するための具体的な仕組みについて提案することを目的とする。
研究方法
1.薬剤師認定制度認証機構(CPC)との意見交換
 CPCの第2次ビジョン委員会において研究班のこれまでの研究成果を説明し、研究班とCPCビジョン委員会委員でWEBミーティングにより意見交換を行う。
2.日本病院薬剤師会、日本医療薬学会、日本薬剤師会との意見交換
 研究班と各団体役員で、専門薬剤師の質保証のための認定要件の改定案や第三者機関認証の必要性、専門領域を決定するプロセスの方向性について、WEBミーティングにより意見交換を行った。
3.公開シンポジウムの開催
 令和4年2月23日に公開シンポジウムを現地とWEBのハイブリッド開催し、各学会・団体代表者にコメンテーターとして登壇いただき意見交換を行った。また事後アンケートを行い、参加者から広く意見を収集した。
結果と考察
 CPCや日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、日本医療薬学会との意見交換を踏まえたうえで、専門薬剤師の認定要件や第三者評価の必要性、名称・定義に関する改定案を作成した。また、専門領域を新たに決定するプロセスの方向性についても議論した。そして、公開シンポジウム「国民のニーズに応える薬剤師の専門性のあり方に関する調査研究」を開催した(事前参加登録者数:313名)。第一部で3年間の研究成果を報告するとともに、第二部では専門薬剤師の在り方に関する課題について主な関連団体のステークホルダーや参加者と意見交換した。さらに、参加者への事後アンケートを通して広く公開シンポジウム参加者から意見を聴取した。
 公開シンポジウムの事後アンケートでは、88名から討論テーマに沿った回答が得られた。アンケートの回答者は病院所属が62.5%と多かったが、ついで薬局所属が20%であり、回答者の80%が何らかの認定あるいは専門薬剤師の資格を有していると回答した。
 研究班が公開シンポジウムで提案した「専門薬剤師」の新規申請に必要な外形基準の改定案は以下である。①薬剤師としての実務経験5年以上 ②研修認定薬剤師(ジェネラルな薬剤師)であること ③専門領域のカリキュラムに沿った研修 ④過去5年間での自身が関わった症例あるいは事例の要約30例以上程度 ⑤認定試験の合格 ⑥専門領域の筆頭論文1報(要査読)または学会発表2回(うち筆頭1回)
 また、国民から見て分かりやすい専門薬剤師制度とその質を担保し、良質かつ安全な医療を提供するために、学会・団体の枠を超えて今後検討が必要な課題について、研究班は以下のように提案した:①資格のある薬剤師の名称と定義の統一化 ②専門薬剤師という名称を、質を保証しながら大事に使っていくこと ③専門薬剤師の第三者機関による質保証の仕組みに関する具体的な議論を開始すること ④各領域の薬学的管理において必要な専門性を有する薬剤師を地域偏在なく養成し、国民の医療に広く貢献できる体制を整えること
 公開シンポジウムにおける関連団体との意見交換や、シンポジウム参加者のアンケート意見を集約した結果、研究班が提案した専門薬剤師に至るまでの名称の定義や専門薬剤師の認定要件、第三者評価の必要性、専門領域を決定するプロセスの方向性等については概ね多くの同意する意見を頂いた。一方で具体的な第三者機関の運営方法についての課題が残った。また、専門薬剤師になるための前提条件であるジェネラリストとして、薬剤師の資質向上を望む声も多く、薬剤師全体の質の底上げとしての卒後教育の体系化や、専門性を持った薬剤師の貢献事例を蓄積していくことの重要性などが指摘された。
結論
 今回、初めて公的な場で学会・団体の枠を超えて専門薬剤師制度について議論する機会となったとの声も多く寄せられた。薬剤師の専門性に関する課題は、国民のニーズに応える薬剤師そのものの在り方と合わせて検討することが重要で、今後も公的な場で、専門薬剤師制度を有する学会や団体のみならず、行政やアカデミア、他の医療職、一般の国民を含めて継続的に議論していく必要があると考える。

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202225003B
報告書区分
総合
研究課題名
国民のニーズに応える薬剤師の専門性のあり方に関する調査研究
課題番号
20KC1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
矢野 育子(国立大学法人 神戸大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 入江 徹美(国立大学法人 熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
専門性を有する薬剤師の認定は、現状では個別の職能団体や学会等において行われており、制度設計も様々で認定要件に整合性がないという課題がある。専門性を有する薬剤師の認定制度を国民にとって分かりやすく、また国民が専門性を有する薬剤師の恩恵を享受できるようにするために、医療機関に勤務する薬剤師に求められる専門領域を医療マネジメントの観点から決定するプロセスと、薬剤師の専門性の質を担保するための仕組みについて検討する。
研究方法
(1) 各学会・団体のHP等をもとに、新規あるいは更新申請に必要な認定・専門薬剤師の要件と専門性を持った薬剤師の貢献事例を調査した。(2)医師・歯科医師・看護師の専門制度および米国・韓国の専門薬剤師制度に関する調査を実施した。以上の調査結果を踏まえ、(3)資格を有する薬剤師の名称と定義、(4)専門薬剤師としての認定要件(新規および更新)、(5)第三者機関による質保証のあり方、(6)専門領域を決定するプロセス、について取りまとめた。取りまとめにあたっては、職能団体や各学会、薬剤師認定制度認証機構(CPC)の協力を得ながら進め、医薬系73団体を対象としたアンケート調査結果(令和3年度)や、公開シンポジウムの事後アンケート結果(令和4年度)を反映させた。
結果と考察
(1) 専門薬剤師については、薬剤師の実務経験は5年以上で共通しており、必要な認定資格については、日病薬病院薬学認定薬剤師を基本に、CPCにより認証された生涯研修認定制度(G)までを認める制度があった。専門領域の活動歴あるいは専門領域の研修については、実務経験で良いものから認定研修施設での5年間のカリキュラムに沿った研修まで幅があった。専門領域の講習会等の履修については、新規・更新ともにほぼ同一単位が必要とされていた。専門領域の症例は全ての認定制度で新規申請の場合に必要であったが、更新申請では必要としない制度もあった。認定試験の合格は全ての制度で必須であった。学会発表や論文発表については認定制度ごとに幅があり、専門薬剤師という名称であっても必要としない制度もあった。また、専門領域ごとの貢献事例の論文数を調査したところ、最も報告数が多かったのはがん領域で、次いで感染領域であり、教育・生涯研鑽との関連に関する論文も含まれていた。
(2) 他の医療職の専門制度や海外の専門薬剤師制度に関する調査を実施した結果、共通して考慮されたことは、制度の質を担保し信頼性を高めるための第三者認証機関の必要性、専門認定の目的は国民の健康と福祉の向上のための標準的な医療の提供であるという認識の共有であった。さらに、他の医療職や米国・韓国の専門薬剤師において領域の設定にあたっては、「社会的ニーズ」や「提供されるサービスの価値」等を評価して設定されていることが明らかとなった。
(3)資格を有する薬剤師の名称と定義について、以下のように取りまとめた。ステップ1:認定薬剤師(ジェネラル)。免許取得後3〜5年目の薬剤師全てが目指すべき資格。ステップ2:領域別認定薬剤師。特定領域の専門的薬剤業務を提供する能力を兼備する証。ステップ3:専門薬剤師。専門領域に関する研究能力も兼ね備え、指導的役割を果たす。また、指導薬剤師については、専門薬剤師の上位資格としておくことができるが、専門的薬剤業務の提供に携わる場合は、専門薬剤師の資格を併せて有する必要がある。
(4)専門薬剤師としての新規要件として、①薬剤師としての実務経験5年以上、②認定薬剤師(ジェネラル)であること、③専門領域のカリキュラムに沿った研修、④過去5年間での自身が関わった症例あるいは事例、⑤認定試験の合格、⑥専門領域の筆頭論文1報(要査読)または学会発表2回(うち筆頭1回)とする。
(5)認定された専門薬剤師が社会から信頼を得るためには、公正・中立な第三者機関による質保証が不可欠である。また、質保証と合わせて、医療法における専門性の広告標榜との連動、診療報酬や調剤報酬上の業務との関連などを検討する必要がある。
(6)薬剤師の専門領域の決定にあたっては、特定領域の専門性を持った薬剤師の貢献事例を引き続き蓄積していくことが重要で、客観的な評価指標を用いながら、新しい仕組みで専門薬剤師の質保証と合わせて第三者機関が担っていくことが望ましい。
結論
薬剤師の専門性に関する課題は、国民のニーズに応える薬剤師そのものあり方と合わせて検討することが重要で、卒前・卒後教育の調和のなかで、専門制度を運営する職能団体や学会のみならず、行政・アカデミアなどの公的機関を含めて継続して議論し、プロフェショナルオートノミーのもと、専門薬剤師の質保証と専門領域の決定といった新しい機能を持った第三者機関の仕組みについて、早期に決定する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202225003C

収支報告書

文献番号
202225003Z