飲料水中の有機リン化合物の健康影響評価に関する研究

文献情報

文献番号
202224053A
報告書区分
総括
研究課題名
飲料水中の有機リン化合物の健康影響評価に関する研究
課題番号
22KA3004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
徳村 雅弘(静岡県公立大学法人 静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 王 斉(ワン チー)(静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,092,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 有機リン化合物はプラスチックの難燃剤や可塑剤として使用され,室内空気やハウスダストを介した曝露が主要とされている。一方,近年,我が国においてウォーターサーバーを設置し常飲する家庭が急増しているが,海外の事例では,その水中から高濃度の有機リン化合物が検出されたことが報告されている。
 飲料水は調理過程にて加熱されることがあり,また,COVID-19の影響から,紫外線照射などの化学反応を伴う浄水器も普及し始めている。有機リン化合物は,加熱や光照射により置換基の脱離など,非意図的変化体を生成し,毒性が向上する場合もある。
 本研究では,飲料水に含まれる有機リン化合物の分析方法の精緻化および汚染実態調査を行う。また,非意図的変化体についても測定・毒性試験(アセチルコリンエステラーゼ阻害能評価)を行う。以上により,多様化する飲料水中の有機リン化合物に対し,優先的に取り組みを進めるべき物質や広く事業者がリスク低減に取り組めるような提案を行うことを目的とする。
研究方法
有機リン化合物の汚染実態調査:飲料水として、水道水、ウォーターサーバーの水、浄水器により浄水した水、ボトルドウォーターを対象とする。液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いて、飲料水中の有機リン化合物の一斉分析法を開発し、IUPACの国際ハーモナイズドガイドラインを参考に分析法の妥当性を検証し、それを用いて飲料水中濃度の測定を行う。

非意図的変化体の汚染実態調査:既往研究にて環境水および飲料水からの検出例のある有機リン化合物の非意図的変化体として、リン酸ジエステル類およびリン酸モノエステル類を対象として、飲料水中の分析法を開発する。分析はLC-MS/MSを用いて行う。

AChE活性阻害能評価:有機リン化合物の非意図的変化体で、特に毒性の向上が懸念される神経毒性に着目し、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)活性阻害試験を行う。一方、リガンドドッキング計算(in silico評価)によりスクリーニングすることで、AChE活性阻害試験の優先順位をつけ、効率的に試験を行う。AChE活性阻害試験はEllmanらの方法を基とした改良型Ellman法により行う。
結果と考察
 ウォーターサーバーの水からは測定対象とした有機リン化合物19種類のうち,9種類の有機リン化合物が検出頻度50%以上で検出された。特に濃度が高かった有機リン化合物は,tris(2-chloroethyl) phosphate(TCEP)(32 ng L−1:中央値)であり,次にtris(1,3-dichloro-2-propyl) phosphate(TDCPP)(7.5 ng L−1),tris(2-chloroisopropyl) phosphate(TCPP)(7.5 ng L−1)が続いた。有機リン化合物の主要な曝露経路であるハウスダストを介した経口曝露および室内空気を介した経気道曝露と比較すると,TCEPはそれぞれ7.8倍および10倍の値となった。これらの結果より,ウォーターサーバーからの飲料水の摂取がヒトへのTCEP曝露の重要な曝露経路となる可能性が示唆された。
 in vitro評価およびin silico評価により得られた優先順位の高い変化体のなかから,有機リン化合物の汚染実態調査の結果も考慮して,TCEP,TDCPP,tris(2-ethylhexyl) phosphate(TEHP)の非意図的変化体に対して,標準試薬を入手し,LC-MS/MS(イオン化法:ESI)を用いて分析方法の開発を行った。今回の測定で得られたクロマトグラムは,それぞれの非意図的変化体で良好なピーク形状が得られた。
結論
 飲料水中の有機リン系化合物の測定法を開発した。飲料水としてウォーターサーバーの水中の有機リン化合物濃度を測定した結果,9種類の有機リン化合物が検出頻度50%以上で検出され,TCEP,TDCPP,TCPPの濃度が高い傾向にあった。
 ウォーターサーバーの水の摂取に伴う有機リン化合物の曝露量は,有機リン化合物の主要な曝露経路であるハウスダストを介した経口曝露や室内空気を介した経気道曝露と比較して,例えばTCEPの場合,それぞれ7.8倍および10倍の値であった。
 以上の結果より,ウォーターサーバーからの飲料水の摂取は,有機リン化合物の主要な曝露経路となり得ることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2023-10-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-10-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202224053Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,719,000円
(2)補助金確定額
2,719,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,432,815円
人件費・謝金 619,440円
旅費 37,360円
その他 2,385円
間接経費 627,000円
合計 2,719,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2023-10-26
更新日
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