神経変性疾患の原因となるプリオン様蛋白の家畜における発現分布および生物種間伝達の調査研究

文献情報

文献番号
202224052A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患の原因となるプリオン様蛋白の家畜における発現分布および生物種間伝達の調査研究
課題番号
22KA3003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
Chambers James(チェンバーズ ジェームズ)(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科獣医学専攻)
研究分担者(所属機関)
  • 内田 和幸(東京大学大学院 農学生命科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
2,249,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経変性疾患では特定の蛋白が神経組織に蓄積し、進行性に神経細胞が脱落する。これまでにアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症の患者の神経組織においてβ-amyloid(Aβ)、Tau、α-synuclein(αsyn)、TDP-43等の蓄積蛋白が同定されている。これらの蛋白はプリオンのように神経組織内で伝播することが示されており、患者の組織から抽出した蛋白を腸(マウス)または脳(マウス、サル)に接種することにより、それぞれ疾患特異的な蛋白が固体間で伝達することが近年確認された。また、申請者はヒト型Tauを過剰発現するマウスの脳を解析し、Tauの蓄積とともにαsynが蓄積することを明らかにした。すなわち、ヒト型Tauがseedとなり、マウス型αsynが蓄積する可能性が示唆された。これらのことから、動物に由来する蛋白をseedとしてヒトの蛋白が蓄積する可能性が考えられるため、食肉を介して神経変性疾患の原因蛋白を摂取するリスクを評価する必要性がある。そこで本研究は、食の安全性をふまえて以下の課題を明らかにすることを目的とした。
① 神経変性疾患の原因となるプリオン様蛋白が食肉となる家畜の組織に存在するのか
② 異なる種類のプリオン様蛋白が神経組織において伝播するのか
③ 動物種間でプリオン様蛋白が伝達するのか
研究方法
本年度(1年度目)は、課題①について牛(4個体)、山羊(2個体)、馬(10個体)、豚(2個体)、鶏(5個体)、その他鳥類(9個体)、イノシシ(1個体)の組織サンプルを収集し解析に用いた。蛋白の検出および分布を評価するために免疫組織化学を手法とした。蛋白検出に以下の一次抗体を使用した:Aβ, Tau, p-Tau, αsyn, p-αsyn, Ubiquitin。課題②については、ヒト型Tau発現マウスを繁殖維持し、3ヶ月齢(5個体)、6ヶ月齢(9個体)、8.5ヶ月齢(9個体)、10ヶ月齢(18個体)の組織をサンプリングした。また、ドキシサイクリン投与によりヒト型Tauの発現を抑制した個体群についても同様にサンプリングした。それぞれの群について、Tau, p-Tau, αsyn, p-αsyn, Ubiquitin, TDP-43抗体を用いて免疫組織化学的に解析した。
結果と考察
本年度(1年度目)は主に①の課題に取り組んだ。牛、山羊、馬、豚、鳥の脳においてTauおよびα-synの生理的な発現を認めた。高齢の牛、山羊、馬、豚の脳においてリン酸化Tau(p-tTau)およびUbiquitinの蓄積を認めた。高齢の鳥の脳においてAβ、リン酸化αsyn(p-αsyn)およびUbiquitinの蓄積を認めた。以上のことから、家畜の脳において神経変性疾患に関連する蛋白が生理的に発現しており、加齢性に異常蓄積が認められることが明らかになった。これに加えて、イノシシの組織サンプルが入手できたため予備的な検討を行ったところ、脳において重度のp-Tau蓄積を認めた。
本年度(1年度目)は②の課題に向けた準備を実施しており、サンプリングしたマウスの脳においてヒト型Tauの蓄積とともにマウス型TDP43が蓄積することを示す予備データが得られた。また、これらの蛋白の蓄積量には相関が認められ、ドキシサイクリン投与によりヒト型Tauの蓄積を抑制したところ、TDP43の蓄積も抑制された。次年度は、これらの蛋白蓄積が脳内でどのように伝播するのか、その分布を調べるとともに、蓄積物の生化学的な性質を解析する。それにより、異種に由来する蛋白によるcross-seedingのリスクを評価する。
結論
本年度の研究結果から食用家畜の中枢神経組織において神経変性疾患に関連する蛋白が蓄積することが分かったので、次に末梢神経等を含む食用部位における蓄積の有無を確認し、食肉検査を通じて市場に流通する食肉の安全性を示すデータを収集する。また、高齢イノシシの脳において重度のp-Tau蓄積を認めたため、ジビエを想定した食肉の安全性についても並行して解析を進める。
課題①について得られた結果については、末梢組織のデータと追加することで、食肉検査を通して市場に流通する食肉の安全性を示すデータとして活用されることが考えられる。ジビエを想定したイノシシ等の野生動物については別にデータを収集し、成果が得られた段階で公表する。年齢不明の個体や中枢神経組織を含むジビエについては、家畜と比較してリスクが想定されるため、必要に応じて関連するガイドライン(野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針)に追記することも考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-07-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202224052Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,719,000円
(2)補助金確定額
2,719,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,992,008円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 256,992円
間接経費 470,000円
合計 2,719,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2023-11-10
更新日
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