食品の安全性評価の迅速化・高度化に資する造精機能障害の新規ハザード評価体系の基盤構築

文献情報

文献番号
202224042A
報告書区分
総括
研究課題名
食品の安全性評価の迅速化・高度化に資する造精機能障害の新規ハザード評価体系の基盤構築
課題番号
21KA3001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
横田 理(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 齊藤 洋克(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
2,837,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品成分の濃縮や抽出、製剤化により、従来の食経験では安全性が担保できないことがあること、また、生理活性成分を含む食品等を過剰摂取すること、等による有害影響が危惧される。実際に、疫学調査等によりこれら過剰摂取と不妊との関連が示唆されている。しかし同時に、これらの因果関係には不明瞭な点も多く残されている。その中でも特に、ホルモン様作用を有する食品等は内分泌器官への影響が懸念されるが、生殖の有害影響はその評価特性からヒトでの把握は容易ではない。このため、食品安全行政面からヒトへの迅速な健康影響の予測性向上に資する実験動物を用いた新規ハザード評価体系の基盤構築が不可欠と考える。現在、男性不妊の主な原因である造精機能障害は、生殖細胞への直接影響とそれを支持するセルトリ細胞の障害を介した間接影響に起因する。生殖細胞の影響評価は精子濃度や運動率の測定、セルトリ細胞の影響評価は細胞数の減少で評価される。しかし、先行研究において、不妊症患者の多くは精子濃度や運動率の低下が認められないこと(臨床現場での測定方法の問題)、また、成人男性の食事を含むライフスタイルの変化等によりセルトリ細胞数が減少するような報告はなされていないことを確認しており、当該評価のみでは食品の健康影響の有用な指標にはならないこと(偽陰性)が懸念される。一方、食品摂取による影響指標として生殖細胞を支持するセルトリ細胞の機能変化が想定されるが、当該変化を検出する評価系がないことも問題点として挙げられる。これらの問題点を踏まえ、本研究では、食品安全行政面からヒトへの迅速な健康影響の予測性向上に資する実験動物を用いた新規ハザード評価体系の基盤構築を行うことを目的とした。
研究方法
私たちが先行研究で精子形成が障害されることを報告しているビタミンA過剰・欠乏、ビタミンE欠乏モデルマウス精巣をホルマリン固定し、余分な固定液を洗浄した後に脱水しパラフィン包埋ブロックを作製した。次に、ミクロトームを用い薄切切片を作製した。作製した切片は使用する抗体試薬に応じ適切な抗原賦活化処理を行った後、精子形成関連分子を認識する抗体試薬を用いた免疫組織化学染色を行った。
一方、ヒトと齧歯類の両方で造精機能障害を誘発するモデル化合物として、ゴシポールを選択し用量設定試験を実施した。野生型マウス雄に、単回経口曝露試験 (30, 70, 100, 300 mg/kg 対照は溶媒のコーン油) を実施し、投与後14日後に精巣毒性(上記と同様)ならびに精子毒性評価を実施した。精子は精巣上体尾部から採取し、TYH培地にてインキュベーションした後、運動評価を行った。
結果と考察
ビタミンA過剰またはビタミンE欠乏マウス精巣組織切片を用い、PNAレクチン抗体を用いた蛍光免疫組織化学染色を実施し、病理組織学的解析ではハザード検出が困難なプレレプトテン期精母細胞数の減少を明らかにした。また、セルトリ細胞の中間径フィラメントVimentinに着目したセルトリ細胞の機能評価を行った。その結果、ビタミンA欠乏、E欠乏モデルマウス精細管においてVimentinの有意な発現亢進を組織学的に明らかにした (Saito et al., 2023 Acta Histochem. In press.)。現在、その分子毒性メカニズムを解析中である。
次に、ゴシポールの単回経口曝露試験の結果、HE染色を用いたプレ実験により300 mg/kgで病理所見が認められたが、それ以下の用量では毒性が認められなかった。一方、精子の運動性やハイパーアクチベーションなどへの影響については、全ての用量において毒性は認められなかった。
結論
本研究の遂行により、生殖毒性を早期に検出する精巣毒性評価を確立した。次年度はゴシポール投与の本実験を実施し、リスク評価へとつなげたい。

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202224042Z