ヒト末梢血誘導型ミクログリア細胞技術を用いた食品の神経毒性評価システムの開発

文献情報

文献番号
202224041A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト末梢血誘導型ミクログリア細胞技術を用いた食品の神経毒性評価システムの開発
課題番号
20KA3005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
扇谷 昌宏(旭川医科大学 医学部 解剖学講座機能形態学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 原口 祥典(佐賀大学 医学部精神科)
  • 加藤 隆弘(九州大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
1,897,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品中に微量に含まれる汚染物質(金属類)が示す毒性は様々である。その中でも神経毒性は重篤であり、注意が必要である。近年、神経毒性はニューロン(神経細胞)だけでなく、周囲のミクログリアも関与していることが明らかとなり、その相互作用が特に注目されている。
一方、食品安全の分野においては未だニューロンしか研究対象にされておらず、本事業(食品の安全確保推進研究事業)においてもミクログリアに着目した研究は皆無である。
 本研究は、汚染物質(金属類)のミクログリアおよびニューロンに対する影響を明らかにし、科学的根拠に基づく食品安全行政に寄与することを目的としている。
研究方法
(1)使用細胞
 ヒト由来ニューロンは、文献(Fujii H, et al., Brain Res. 1613, 59-72 (2015))を参考に間葉系幹細胞から誘導した。
ヒト由来ミクログリアは、文献(Ohgidani M. et al., Sci Rep, 4, 4957 (2014))を参考に、単球から誘導した。

(2)使用金属
実験に使用した金属は、カドミウム、コバルト、マンガンおよび銅の塩化物を使用した。前年度までの基礎検討で、上記4種類の金属がニューロン単独と共培養系でIC50値に比較的大きな差が認められたため使用した。

(3)ニューロンおよびミクログリアの共培養系の構築
 ニューロンおよびミクログリアの共培養系は、上記で作成したニューロンおよびミクログリアを用いた。

(4)毒性評価
 毒性評価は、酵素活性測定法であるWST法を用いて測定を行った。

(5)カルシウムイメージング
 ミクログリアのカルシウムイメージングは、Fura2AM溶液を用いて染色し、Ratio Imagingによる細胞内カルシウム濃度測定を行った。
結果と考察
(1)ヒト由来ニューロンの作成と毒性評価
 ニューロン単独での毒性評価の結果、金属種によって毒性が大きく変化することが明らかとなった。金属種間での比較で興味深いのは、カドミウムに対する毒性が他の金属と比べて許容量が比較的大きいことがあげられる。
 また特に重要な知見として、金属の毒性に個人差が存在していることが明らかとなった。

(2)ヒト由来ミクログリアの作成と毒性評価
 ミクログリア単独での毒性評価の結果、金属種によって毒性が大きく変化することが明らかとなった。興味深い知見として、ニューロンよりも各種金属(コバルトを除く)に対する毒性感受性が圧倒的に高いことが明らかとなった。
(3)ヒト由来ニューロンおよびミクログリア共培養系の作成と毒性評価
ヒト由来ニューロンおよびミクログリアを用いた共培養系は(研究方法B-3)に記載の方法で作成した。
 共培養系での毒性評価の結果、金属種によって毒性が大きく変化することが明らかとなった。加えて、それぞれの単独培養と比べて毒性が大きく異なる傾向がみられた。これらの知見は、ニューロン・ミクログリア、それぞれ単独培養のみでは十分な毒性評価を行えていない可能性を示唆しており、共培養系による評価が重要であることを示している。
 一方、共培養系でみられた現象は、単にニューロンとミクログリアの毒性を平均化したという単純なものではなかった。例えば、マンガンやコバルトでは共培養系にすることでニューロン・ミクログリアの単独培養よりもIC50が増大する(毒性が低下する)という現象が起きている。またこれらの反応は金属種によって異なっている。つまり、共培養系で起きている現象は非常に複雑な相互作用による可能性も示唆された
結論
本年度は3年計画の最終年度であり、R2からR3年度で実施した基礎的検討を礎にヒト由来細胞での検討を行った。特に本研究では、ヒアリング時に委員の先生方から「ミクログリア+ニューロンの評価系を目指せばより望ましい」との貴重なコメントを頂き、共培養系での評価を最終目標として研究を実施してきた。
最終年度である本年度において、最終目標であったヒト由来細胞での共培養系を構築することに成功し、共培養系が重要であることを示唆する知見を得ることができた。加えて、神経毒性に個人差が存在していることなど、副次的にも重要な知見を得ることができた。
今回、共培養系を用いて初めて明らかになった複雑な事象は、今後の研究課題として推進する必要があるが、ヒト由来細胞での共培養評価系の構築という最終目標に対しては到達できたと考えられる。
なお、今回明らかになった神経毒性に対する個人差は非常に重要であり、どの程度の差が存在するのかを、2名だけではなく複数名の規模で明らかにする必要がある。これが明らかになると日本人における神経毒性のキャパシティレンジを知ることができ、様々な政策等への利用が可能になると思われる。

公開日・更新日

公開日
2023-11-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-11-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202224041B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト末梢血誘導型ミクログリア細胞技術を用いた食品の神経毒性評価システムの開発
課題番号
20KA3005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
扇谷 昌宏(旭川医科大学 医学部 解剖学講座機能形態学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 原口 祥典(佐賀大学 医学部精神科)
  • 加藤 隆弘(九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品中に微量に含まれる汚染物質(金属類)が示す毒性は様々である。その中でも神経毒性は重篤であり、注意が必要である。近年、神経毒性はニューロン(神経細胞)だけでなく、周囲のミクログリアも関与していることが明らかとなり、その相互作用が特に注目されている。
一方、食品安全の分野においては未だニューロンしか研究対象にされておらず、本事業(食品の安全確保推進研究事業)においてもミクログリアに着目した研究は皆無である。
 本研究は、汚染物質(金属類)のミクログリアおよびニューロンに対する影響を明らかにし、科学的根拠に基づく食品安全行政に寄与することを目的としている。
研究方法
(1) 使用細胞
マウス由来のBV2細胞株(ミクログリアとして)およびNeuro2A細胞株(ニューロンとして)を実験に使用した。
 ヒト由来ニューロンは、文献(Fujii H, et al., Brain Res. 1613, 59-72 (2015))を参考に間葉系幹細胞から誘導した。
 ヒト由来ミクログリアは、文献(Ohgidani M. et al., Sci Rep, 4, 4957 (2014))を参考に、単球から誘導した。し、
(2) 使用金属
実験に使用した金属は、リチウム、亜鉛、マンガン、銅、ニッケル、クロム、鉄、コバルト、ガドリニウム、カドミウム、ガリウムおよびアルミニウムの塩化物を使用した。
(3) ニューロンおよびミクログリアの共培養系の構築
本研究での共培養系とは、Neuro2A細胞とBV2細胞を細胞数比=5:1で混合し、培養したものとしている。
ヒト由来ニューロンおよびミクログリアの共培養系は、上記で作成したニューロンおよびミクログリアを用いた。
(4) 毒性評価
 毒性評価は、酵素活性測定法であるWST法を用いて測定を行った。
(5) カルシウムイメージング
ミクログリアのカルシウムイメージングは、Fura2AM溶液を用いて染色し、Ratio Imagingによる細胞内カルシウム濃度測定を行った。
(6) FACSを用いた共培養後の細胞分取
 共培養の影響を細胞ごとに評価するため、共培養後の細胞集団を回収し、FACSを用いてニューロンとミクログリアに分離して回収した。
(7) 遺伝子発現解析
 FACSによって分取した細胞は、リアルタイムPCR装置を用いて、各種遺伝子発現を解析した。
結果と考察
本研究によって、金属種はミクログリアに対する毒性および細胞機能に種々の影響を及ぼすことが明らかとなった。加えて、その作用はニューロンと異なることが今回初めて明らかとなった。特に毒性試験において、ミクログリアとニューロンでは毒性が異なる金属種が存在しており、ミクログリアの方がニューロンよりも高い毒性を示す金属種が多く存在した。これは、ミクログリアの方がニューロンよりも金属に対する感受性が高い可能性を示しており、従来のニューロンのみを対象としていた食品の安全性確保推進研究にミクログリアの重要性を提案できるものであると考える。
本研究の申請時はミクログリア単独培養での評価系構築を想定していたが、ヒアリングで審査員の先生方から「ミクログリア+ニューロンの評価系を目指せばより望ましい」との貴重なコメントをいただいた。そこで、本研究ではミクログリアを用いた実験系の基礎構築に加え、当初の予定(申請書提出時)には無かったマウス由来ニューロンを用いた実験系の基礎構築も行った。ミクログリアおよびニューロンの共培養系において、ニューロン単独培養とは異なる毒性を示す金属種が存在していることを初めて明らかにすることができた。加えて、共培養系のみで遺伝子発現変化を伴う反応が起こっており、単独培養と共培養では細胞の状態が大きく変化している可能性も示唆された。これは従来のニューロン単独培養での毒性評価では真の(生体を反映した)毒性評価には不十分であることを示唆しており、本研究の意義を示す重要な成果である。
結論
本研究は、基礎的検討を礎に最終目標であったヒト由来細胞での共培養系を構築することに成功し、共培養系が重要であることを示唆する知見を得ることができた。加えて、神経毒性に個人差が存在していることなど、副次的にも重要な知見を得ることができた。今回、共培養系を用いて初めて明らかになった複雑な事象は、今後の研究課題として推進する必要があるが、ヒト由来細胞での共培養評価系の構築という最終目標は達成できたと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-11-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-11-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202224041C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究によって、従来の神経細胞のみで構成されていた神経毒性評価系では不十分であり、真の(生体を模倣した)神経毒性評価にはグリア細胞も加えた評価系が必要であることが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
従来の株化細胞での評価と比較して、ヒト由来細胞による評価では毒性に対する個人差が大きいことが明らかとなった。個人差が生じる可能性は十分に予測できうる事象であったが、本研究によって実際の数値として明からにできたことは、今後の評価系構築、延いては今後の食品安全行政に有益な基礎情報を提供できたと考えられる。
ガイドライン等の開発
該当無し。
その他行政的観点からの成果
該当無し。
その他のインパクト
本研究内容は、専門家が参加する学会のみならず、高校生や市民向けにも紹介し、反響を得た。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
現在投稿準備中。
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
講演5件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202224041Z