在宅介護者のストレス自己診断テストおよびストレス・マネジメント・プログラムの開発

文献情報

文献番号
199700618A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅介護者のストレス自己診断テストおよびストレス・マネジメント・プログラムの開発
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 昌久(早稲田大学人間科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日常の介護生活の中でストレスを蓄積している高齢化した在宅介護者を対象に、自分のストレスの程度や原因を自己診断できるチェックリストを作成し、その自己診断結果に基づいて、自分の状態に応じた適切な対処方法を自分で見いだし、実践できるストレス・マネジメントのプログラムを開発することにある。施設介護者が相談、協力できる同僚や、有効な情報に接する機会に恵まれているのに対し、在宅介護者は孤立しがちな環境にあるのでストレスを蓄積しやすいばかりでなく、ストレスに対処する方法を習得する機会や、時間的余裕を持たな。そのため自分のストレス状態の的確な把握、診断から適切な対処法の選択、実践まで独力で行えるプログラムが必要となる。この目的のステップ1として今年度は1)在宅介護者を対象にストレス構造の特異性の面接調査、2)在宅介護者用ストレス自己診断テスト試案作成、3)試案による調査実施、4)因子分析、妥当性、信頼性の検討、5)試案の修正、を行い、さらに修正を加えた質問紙を用いた再調査と、その結果についての因子分析、妥当性、信頼性の再検討、得点の標準化からなるステップ2に進むこととした。
研究方法
1)面接調査。関東、関西および中京地域の大都市、郊外都市、郡部の12地区に在住する、過去経験者を含む在宅介護者108名を対象として、1997年9月から10月に面接調査が実施された。調査方法は、半ば構造化された質問への回答および被調査者の自由口述という形で行われた。
ストレッサーを中心に在宅介護者のストレス特異性が抽出された。その結果に基づいて、診断結果をマネジメントの方法に連動させやすいLazarus,R.S.のストレス・プロセス・モデルを参考に、ストレス刺激、ストレス認知、ストレス反応の各段階に対応した質問項目で構成された、ストレス自己診断テスト試案が作成された。
2) 在宅介護者用ストレス自己診断テスト試案作成、妥当性、信頼の検討。
首都圏の男女大学生314名(男:135、女:179)(平均年齢19.91歳、SD=1.334)を対象として、1998年1月に在宅介護者用ストレス自己診断テスト試案を実施した。さらに198名(男:129、女:69)(平均年齢20.32歳、SD=1.416)には、妥当性検討のための尺度の平行調査を合わせて実施した。
在宅介護者用ストレス自己診断テスト試案は、A、B2つの尺度で構成される。A尺度は、認知的評価の過程に影響を及ぼす先行条件(個人、環境要因)を測定する45項目、B尺度は、対処過程に影響を及ぼす個人の対処傾向を測定する22項目、計67項目から構成されている。項目の作成には、一般性セルフエフィカシー尺度(坂野ら、1986)、ローゼンバーグの自尊感情尺度(日本語訳 星野、1970)、新完全主義尺度(MSPS)(桜井ら、1997)、オプティミズム傾向を測定する尺度(戸ヶ崎ら、1993)、 Goal Commitment Scale (Hollenbeckら、1989)、ソーシャルサポート尺度(DSSI)(福岡ら、1992)、 コーピング尺度(坂田、1989)が参考にされた。
回答方法は、各項目に対して、「あてはまらない(0点)」「どちらかというとあてはまる(1点)」「あてはまる(2点)」の3件法で行われた。
平行調査用既存尺度:一般性セルフエフィカシー尺度、自尊感情尺度、新完全主義尺度、オプティミズム傾向を測定する尺度、コーピング尺度が用いられた。
結果と考察
1.在宅介護者用ストレス自己診断テスト試案の因子構造の検討:
A、B-1、B-2各尺度について、各項目の粗点に基づいて主因子法、バリマックス回転による因子分析を行った。その結果、A尺度では、5因子26項目からなる尺度が作成された。各因子のα係数は、第1因子から順に、.80、.80、.80、.70、.47で、第5因子以外は高い内的整合性が認められた。第1因子は自分や自分の能力に対する自信を示す6項目から成る「confidence」因子、第2因子は失敗に対する不安を示す6項目の「ミスを過度に気にする傾向」因子、第3因子は6項目から成る「ソーシャルサポート」因子、第4因子は5項目から成る「高い目標達成へのこだわり」因子、第5因子は在宅介護に必要な知識に関する3項目から成る「知識」因子と命名された。Lazarusは先行条件に含まれる人格的変数を「コミットメント」と「信念」と表現している。
本調査では「信念」を構成する要因としてconfidenceを、「コミットメント」を構成する要因として、完全主義及び目標へのこだわり(コミットメント)を想定した。因子分析の結果、ほぼ仮説通りの因子が抽出された。
B-1尺度では4因子が抽出された。各因子のα係数は、第1因子から順
に、.63、.67、.59、.30である。第4因子以外は内的整合性が認められた。第1因子は6項目が含まれる「ポジティブな情動中心型対処」因子、第2因子は4項目の「回避的情動中心型対処」因子、第3因子は4項目から成る「問題中心型対処」因子、第4因子は2項目から成る「ソーシャルサポート型対処」因子と命名された。
B-2尺度では、2因子が抽出された。各因子のα係数は、第1因子から順に、.68、.28である。第1因子は4項目から成る「選択の柔軟性」因子、第2因子は2項目が含まれる「選択の不変性」因子と命名された。
2. 在宅介護者用ストレス自己診断テスト試案の併存的妥当性の検討:
A、B-1、B-2各尺度の下位尺度得点と、前述の既存の5尺度の各下位尺度得点との相関係数を算出し、併存的妥当性を検討した。その結果、A尺度では、confidence因子は、GSESの行動の積極性因子と、.468(<.01)、能力の社会的価値づけと.631(<.01)、自尊感情尺度と.632(<.01)と自分や自分の能力に対する自信を測定する尺度と高い相関が見られた。第2因子のミスを過度に気にする傾向因子は、MSPSの完全でありたいという欲求因子と.418(<.01)、ミスを過度に気にする傾向因子と.424、自分の行動に漠然とした疑いを持つ傾向因子と.406(<.01)と有意な相関が見られた。第3因子のソーシャルサポート因子は、オプティミズム傾向を測定する尺度の将来に対するポジティブな思考因子との相関係数は.452であった。第4因子の高い目標達成へのこだわり因子は、MSPSの完全でありたいという欲求因子と.483(<.01)、自分に高い目標を課する傾向因子と、.596(<.01)の相関が検出された。
B-1尺度では、第1因子のポジティブな情動中心型対処因子は、コーピング尺度の情動中心型対処因子と.516(<.01)、オプティミズム傾向を測定する尺度の将来に対するポジティブな思考因子と.525(<.01)、と有意な相関が認められた。第3因子の問題中心型対処因子は、コーピング尺度の問題中心型対処因子と.634(<.01)の相関が得られ、第4因子のソーシャルサポート型対処因子は、コーピング尺度のソーシャルサポート型対処因子と.448(<.01)の相関が得られた。
B-2尺度では、「選択の柔軟性」因子が、オプティミズム傾向を測定する尺度の過去に対するネガティブな思考因子と、.481(<.01)有意な相関が見られた。
結論
在宅介護者用ストレス自己診断テスト試案48項目が作成された。先行条件を測定する尺度であるA尺度は、confidence、ミスを過度に気にする傾向、高い目標達成へのこだわり、ソーシャルサポートの認知、知識の5因子で構成された。対処傾向を測定するB-1尺度は、情動中心型対処がポジティブなものと回避的なものの2因子にわかれ、問題中心型対処、ソーシャルサポートの4因子が抽出された。B-2尺度は、選択の柔軟、選択の不変性の2因子で構成された。さらに信頼性、併存的妥当性検討の結果、ストレス自己診断テストとして必要な水準にほぼ達していることが確認された。

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