食品中の放射性物質の規制継続による線量低減効果に関する研究~蓄積検査結果の有効活用による検証~

文献情報

文献番号
202224040A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の放射性物質の規制継続による線量低減効果に関する研究~蓄積検査結果の有効活用による検証~
課題番号
20KA3004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小山内 暢(弘前大学 大学院保健学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤 幸清(弘前大学 保健学研究科)
  • 對馬 惠(弘前大学 大学院保健学研究科)
  • 細川 翔太(弘前大学 保健学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
2,235,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東京電力(株)(当時)福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)を受け、平成23年3月に設定された暫定規制値に続き、平成24年4月からは食品中の放射性物質に関する現行の基準値(以下「基準値」という。)が適用されている(一般食品の場合で100 Bq/kg)。この基準値を指標として、原子力災害対策本部で定めたガイドラインに基づき17都県を中心に地方自治体においてモニタリング検査が継続して行われている。原発事故から10年以上が経過した現在までに250万件を超えるモニタリング検査結果が蓄積されてきた。本研究では、当該検査結果を有効活用し、基準値以内の検査結果群及びすべての検査結果群それぞれから放射能濃度を無作為抽出して食品摂取に係る内部被ばく線量を推定し、基準値の設定や違反食品の流通制限といった規制の効果を検証した。
研究方法
 研究3年目(最終年度)である令和4年度は、平成24年度から令和3年度までの10年間に採取・購入された試料を対象として検証を行った。また、今年度は、食品の種類ごとの内部被ばく線量(セシウム摂取量)への寄与割合を解析した。さらに、これまでの我々の研究では、平均食品摂取量(固定値)を用いて内部被ばく線量を推定してきたが、今年度の研究では、高摂取者の内部被ばく線量を過小評価しないように、食品摂取量に分布を仮定することを試みた。まず、厚生労働省が公表している食品中の放射性物質の検査結果と食品摂取量を紐づけるために、検査結果での品目名を国民健康・栄養調査における食品の98小分類に飲料水や山菜を加えた合計100分類に対応させた。次に、各食品の平均摂取量と標準偏差を基に、単純モデルとして、正規分布を仮定した食品摂取量分布を食品分類ごとに得た。この各食品分類の摂取量分布からそれぞれ10,000回の無作為抽出を繰り返した。検査結果から食品分類(全100種類)ごとに放射能濃度(セシウム134と137の合計値(Bq/kg))の無作為抽出を10,000回繰り返し、先の無作為抽出によって得られた各食品の年間摂取量(kg)及び半減期で加重平均した経口摂取に係る内部被ばく線量係数(Sv/Bq)を乗じて100種類分を合算し、仮想10,000人分の預託実効線量(mSv/年)を算出した。すべての検査結果、基準値以内の検査結果から抽出し算出した預託実効線量をそれぞれ、「規制なし」(基準値設定や違反食品の流通制限がないものと仮定)、「規制あり」(基準値設定や違反食品の流通制限があり)の場合とした。
結果と考察
 規制の有無にかかわらず、内部被ばく線量の95パーセンタイル値(国際放射線防護委員会は95パーセンタイル値を「代表的個人」の線量とすることを提示している)は、各年度とも1 mSv/年を下回った。平成24年度は規制効果が大きく、平成28年度以降は「規制あり」と「規制なし」の内部被ばく線量に顕著な違いは認められなかった。内部被ばく線量はおおよそ平成28年度まで減少し、その後は低値を示したまま一定であった。
 モニタリング検査結果において、放射能濃度が比較的高かった食品は、その他の畜肉、その他の鳥肉、山菜、きのこ類であった。しかしながら、セシウム摂取量において、それらの食品は大きな割合を占めておらず、食品中の放射能濃度とセシウム摂取量には明らかな相関は認められなかった。食品摂取に係る内部被ばく線量推定に当たっては、試料中の放射能濃度だけでなく、食品摂取量も大きな要因であることが改めて示された。
結論
 食品摂取量に分布を仮定した検証においても、我が国における食品中の放射性物質に関する規制は効果的であり、食の安全が確保されていることが確認できた。

公開日・更新日

公開日
2023-09-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-22
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202224040B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の放射性物質の規制継続による線量低減効果に関する研究~蓄積検査結果の有効活用による検証~
課題番号
20KA3004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小山内 暢(弘前大学 大学院保健学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤 幸清(弘前大学 保健学研究科)
  • 對馬 惠(弘前大学 大学院保健学研究科)
  • 細川 翔太(弘前大学 保健学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東京電力(株)(当時)福島第一原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)を受け、平成23年3月に設定された暫定規制値に続き、平成24年4月からは食品中の放射性物質に関する現行の基準値(以下「基準値」という。)が適用されている(一般食品の場合で100 Bq/kg)。この基準値を指標として、原子力災害対策本部で定めたガイドラインに基づき17都県を中心に地方自治体においてモニタリング検査が継続して行われている。原発事故から10年以上が経過した現在までに250万件を超えるモニタリング検査結果が蓄積されてきた。本研究では、当該検査結果を有効活用し、基準値以内の検査結果群及びすべての検査結果群それぞれから放射能濃度を無作為抽出して食品摂取に係る内部被ばく線量を推定し、基準値の設定や違反食品の流通制限といった規制の効果を検証した。
研究方法
 3カ年での本研究課題において、最終的には、平成24年度から令和3年度までの10年間に採取・購入された試料を対象として検証を行った。また、段階的に、①地域住民にとって多様な価値のある山菜の摂取量を考慮した検証、②食品の種類ごとの内部被ばく線量への寄与割合の解析、さらに、③高摂取者の過小評価を防ぐために食品摂取量に分布を仮定した検証といった新たな手法を試みた。厚生労働省が公表している食品中の放射性物質の検査結果と食品摂取量を紐づけるために、検査結果での品目名(10年間で6,670品目)を国民健康・栄養調査における食品の98小分類に飲料水と山菜を加えた合計100分類(山菜の摂取量を考慮しない場合は99分類)に対応させた。検査結果から食品分類(全100種類)ごとに放射能濃度(セシウム134と137の合計値(Bq/kg))の無作為抽出を10,000回繰り返し、各食品の年間摂取量(kg)及び半減期で加重平均した経口摂取に係る内部被ばく線量係数(Sv/Bq)を乗じて全食品分種類分を合算し、仮想10,000人分の内部被ばく線量として預託実効線量(mSv/年)を算出した。すべての検査結果、基準値以内の検査結果から抽出し算出した内部被ばく線量をそれぞれ、「規制なし」(基準値設定や違反食品の流通制限がないものと仮定)、「規制あり」(基準値設定や違反食品の流通制限があり)の場合とした。
結果と考察
 山菜の摂取量を考慮し、食品摂取量に分布を仮定した検証において、規制の有無にかかわらず、内部被ばく線量の95パーセンタイル値(国際放射線防護委員会は95パーセンタイル値を「代表的個人」の線量とすることを提示している)は、各年度とも1 mSv/年を下回った。平成24年度は規制効果が大きく、平成28年度以降は「規制あり」と「規制なし」の内部被ばく線量に顕著な違いは認められなかった。内部被ばく線量はおおよそ平成28年度まで減少し、その後は低値を示したまま一定であった。モニタリング検査結果において放射能濃度が高い食品の内部被ばく線量への寄与が必ずしも大きいわけではなく、食品中の放射能濃度と内部被ばく線量(セシウム摂取量)には明らかな関係性は認められなかった。食品摂取に係る内部被ばく線量推定に当たっては、試料中の放射能濃度だけでなく、食品摂取量も大きな要因であることが改めて示された。
結論
 保守的な仮定の上に立った、より精緻な検証においても、我が国における食品中の放射性物質に関する規制は効果的であり、食の安全が確保されていることが確認できた。

公開日・更新日

公開日
2023-09-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-22
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202224040C

成果

専門的・学術的観点からの成果
福島第一原子力発電所事故後に蓄積されてきた膨大なモニタリング検査結果を有効活用し、基準値の設定や違反食品の流通制限といった規制の効果を検証した。規制の有無にかかわらず、「代表的個人」の被ばく線量は基準値設定根拠である1 mSv/年を下回った。また、原発事故後の初期に食品規制が特に効果的であったことが示された。食品中の放射性物質に関する規制は効果的であり、食の安全が確保されていることが確認できた。成果は国際誌(Foods誌)に3編掲載された。
臨床的観点からの成果
本研究課題では、地元住民にとって多様な価値のある食材である「山菜」の摂取量を考慮した検証も行った。また、食品摂取量を平均値(固定値)として扱うのではなく、食品摂取量に分布を仮定することにより、より精緻に高摂取者の内部被ばく線量を評価する方法を試みた。このように、より詳細で保守的な検証によっても、福島第一原子力発電所事故後の食の安全性が確保されていることが示された。食の安全に不安を抱く住民に対して有益な知見となるものと考える。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
食品中の放射性物質の規制による線量低減効果に関する検証結果をリスクコミュニケーションツールとして広く役立てるため、講義・講習等において、リスクコミュニケーションを担うであろう医療従事者・医療系学生等に対して検証結果を紹介した。さらに、研究成果を基に、福島県内の住民に対して食品中の放射性物質に関する食の安全性についての説明を行った。対象者は、食品に起因する内部被ばく線量は十分に小さい状況にあることを理解し、安心につながったようであった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
住民に対する説明会1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Osanai M, Hirano D, Mitsuhashi S, et al
Estimation of effect of radiation dose reduction for internal exposure by food regulations under the current criteria for radionuclides in foodstuff in Japan using monitoring results.
Foods. , 10 (4) , 691-  (2021)
https://doi.org/10.3390/foods10040691
原著論文2
Osanai M, Noro T, Kimura S, et al
Longitudinal Verification of Post-Nuclear Accident Food Regulations in Japan Focusing on Wild Vegetables.
Foods , 11 (8) , 1151-  (2022)
11(8): 1151. https://doi.org/10.3390/foods11081151
原著論文3
Osanai M, Miura M, Tanaka C, et al
Long-Term Analysis of Internal Exposure Dose-Reduction Effects by Food Regulation and Food Item Contribution to Dose after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident.
Foods , 12 (6) , 1305-  (2023)
https://doi.org/10.3390/foods12061305

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202224040Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,905,000円
(2)補助金確定額
2,905,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 705,189円
人件費・謝金 0円
旅費 660,750円
その他 869,061円
間接経費 670,000円
合計 2,905,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-11-14
更新日
-