文献情報
文献番号
202224037A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児期の玩具使用における健康被害防止に向けた有害性化合物の曝露評価に関する研究
課題番号
20KA3001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 加奈江(戸次 加奈江)(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
- 江口 哲史(千葉大学 予防医学センター)
- 高口 倖暉(千葉大学 予防医学センター)
- 湯川 慶子(国立保健医療科学院 政策技術評価研究部)
- 東 賢一(近畿大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
2,660,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、子供の成長や健康影響に対する化学物質曝露による影響が着目される中、特に柔軟性や難燃性のある合成樹脂やゴム製品を作る上では多くの可塑剤・難燃剤が使用されている。こうした原材料から作られる玩具は、小児が日常生活を送る上でも接触頻度が非常に高く、化学物質に対する特異的な曝露機会となり得る。特に、感受性の高い乳幼児期に玩具を口に入れるマウシングによる経口曝露は、化学物質の乳幼児へのリスクを評価する上でも無視できないものである。また、可塑剤や難燃剤などの有害性化合物の中には、製品から住宅のハウスダストへ移行することが明らかとされているものも含まれているため、玩具に含まれる可塑剤・難燃剤は,室内環境汚染源となる潜在的なリスクとなることが予想される。そこで本研究では、乳幼児用玩具の使用による規制対象化合物及び未規制化合物の曝露実態を網羅的に調べ、さらに、乳幼児の室内行動や普及する玩具の使用状況について広く情報収集することで、乳幼児への化学物質曝露のリスク評価と将来的な健康被害の未然防止に向けた対応策を提案することを目的としている。
研究方法
令和4年度は、マウシング行動を模擬した人工唾液による前年度までの溶出試験のデータとマウシング行動時間から、成分の曝露量を推定し健康リスク評価を行った。また、R3年度のアンケート調査による、玩具製品の取り扱いや玩具にまつわる事故事例に関する情報について、国民へ向けた玩具の安全性に関する情報提供のためのパンフレットを作成し、自治体の保育園及び幼稚園、また乳幼児が集う公的施設等への情報発信により、おもちゃの安全性に対する意識向上のための普及啓発を図った。
結果と考察
本研究では、 乳幼児用玩具約 100 製品を対象とした材質試験及び溶出試験を実施したところ、 フタル酸エステル類/代替成分は、 DBP(80%)及び DINCH(67%)を初め、殆どの成分がいずれかの製品から検出され、リン系難燃剤についても検出率の高かった TPHP(48%)及び EHDPP(40%)を初め、その他多くの成分が製品中に含まれていた。これらは、 LC-QToFMSによる網羅的な分析においても同様であり、可塑剤・難燃剤が多く含まれている傾向が確認された。一方で、人口唾液を用いた溶出試験において検出された成分と、製品中との含有量には必ずしも関連性は見られておらず、溶出試験において検出率が比較的高かった成分としては、 DINA(42%)、 ATBC(41%)、 DIDP(40%)、 DINP(38%)、 DEHP(36%)、 TPHP(100%)、 TBOEP(14%)などであった。また、マウシング行動による玩具を介した化学物質接取の可能性が懸念されるため、乳幼児を対象にた室内行動調査により 、1日のマウシング行動時間を求め、 各成分の曝露量を算出し健康リスク評価を行ったところ、 DBPについては、玩具のマウシングのみであっても、リスクが懸念されるレベルと考えられ、DEHPに関しては、継続した調査と情報収集が必要なリスクレベルであると考えられた。本調査結果については、和光市内の乳幼児用施設において、調査に協力頂いたご家庭に結果をフィードバックすると共に、和光市の協力を得て、施設のホームページや施設内に調査結果を掲示することで、施設の利用者や和光市民へも広く情報共有を図ることができた。
結論
本研究結果から、市場に普及する玩具のマウシングにより、可塑剤として使用されるDnBPやDEHPは、懸念されるリスクや、継続した調査と情報収集が必要であることが明らかとなった。また、身の回りの生活用品や廃材を活用した手作りおもちゃなども、フタル酸類などの有害成分の曝露源となる可能性が考えられ、健康及び安全面への配慮から、規制されるフタル酸エステル類を含まない素材選びなどが有効と考えられた。さらに、乳幼児用玩具の安全管理においては、化学物質の曝露による健康リスクのみでなく、誤飲による事故や怪我などの予防も含め、普及啓発のための情報発信が重要であり、国民へのリスクコミュニケーションを継続していく必要性が考えられた。
公開日・更新日
公開日
2023-10-02
更新日
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