食品中の放射性物質の基準値施行後の検証とその影響評価に関する研究

文献情報

文献番号
202224033A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の放射性物質の基準値施行後の検証とその影響評価に関する研究
課題番号
21KA2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
明石 真言(東京医療保健大学 東が丘・立川看護学部看護学科/大学院看護学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 青野 辰雄(国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門 放射線医学研究所 福島再生支援研究部 環境動態研究グループ)
  • 塚田 祥文(福島大学 環境放射能研究所)
  • 福谷 哲(京都大学 複合原子力科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
15,537,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東京電力福島第一原子力発電所(福島原発)事故により食品の摂取による内部被ばくが懸念され、厚生労働省は平成24年4月以降、食品からの内部被ばく線量を1 mSv/年として導出された基準値を適用した。内部被ばく線量に対する放射性Csおよびその他の核種の寄与率は、環境モニタリングや環境移行パラメータから推定されており、その評価は十分安全側と考えられるが、実際に食品中濃度を測定した結果に基づくものではない。そこで現行の基準値によって食品中の放射性物質について安全性が十分に確保されていること、食品中の放射性物質の基準値に対して、国民が安心・安全を得ることができること、そして国内の食品の安全に関する根拠を示すことを目的に、食品中の放射性物質の基準値の妥当性について検証や食品中に含まれる放射性物質の濃度等に関する科学的知見の集約を行った。
研究方法
福島県浜通りで人口が多いいわき市周辺で栽培された作物を網羅的に採取し、福島原発事故から10年以上を経過した現在の作物中放射性Cs濃度を測定し、比較・検証した。また、福島県内に流通する福島相双海域の魚類の放射性物質の濃度測定を行った。本研究で得られた農作物中放射性物質濃度等のデータを用いて、農作物摂取による年間内部被ばくの線量推定を行った。放射線防護や食品安全等に関連する国際機関および諸外国から公表されている資料や論文等を調査し、放射性Csに対する基準値・規制値を抜粋し、基準値設定の基礎となった線量基準や汚染率、さらに消費量の少ない食品の設定等についてまとめた。
結果と考察
穀類(玄米)、芋類、葉菜類、根菜類、豆類、果菜類(果実類を含む)、種実類及びその他作物中Cs-137濃度測定の結果、基準値を超える作物はなかった。今回、原木栽培したシイタケ中Cs-137濃度が、21 Bq/kg-生重量と最も高い値であった。森林など表土の腐植除去に留まっている地域から採取される山菜などの自生植物中放射性Cs濃度については今後も比較的高い濃度にあることを周知しておくことが必要である。作物中Sr濃度から類推した90Sr濃度は、全て0.3 Bq/kg-生重量以下と極めて低い濃度であった。令和4年12月に採取したスズキ及びブリ可食部中Cs-137濃度はいずれも1 Bq/kg-生重量以下の濃度で、これまでの魚類の調査結果と大きな違いは認められなかった。魚類アラ部に濃縮されやすいSr-90や内蔵部に濃縮されやすいPu-239+240は検出下限値であった。海水中のこれら核種濃度と濃縮比から推定した魚類中濃度も検出下限値で、この結果は魚類の生息環境を反映したと考えられる。放射性セシウムによる被ばく線量(Cs-134とCs-137の合計値)被ばく線量の推定結果が最も高い年齢性別区分は【13-18歳男子】で、その推定値は0.0010 mSv/年であった。また、Sr-90による被ばく線量の推定結果が最も高い年齢性別区分は【13-18歳男子】で、その推定値は0.00082 mSv/年であった。いずれについても、介入線量レベルである1 mSv/年を大幅に下回っていた。本評価では調理加工等に伴う放射性Cs濃度等の低減は考慮していないため、被ばく線量も低くなっていると考えられる。さらに、食品の基準値設定の基礎となった汚染率は、CODEX、IAEA、EUでは主食の平均輸入率から0.1が採用されていた。少量消費食品はCODEX、IAEA、EUの勧告を参考に、一般的な食品基準値に対して0.1を挙げている等の情報をまとめた。
結論
いわき市とその周辺で栽培されている作物や福島相双海域で採取された市場流通する魚介類可食部中放射性Cs濃度で基準値を超えるものはなく、Sr-90濃度も十分に低い濃度であった。農作物の摂取に起因する放射性Cs及びSr-90による内部被ばく線量をそれぞれ推定し、比較検討を実施した。いずれについても、介入線量レベルである年間 1 mSvを大幅に下回っており、また、事故に起因するSr-90の寄与は極めて小さく、放射性Cs以外の放射性核種の寄与を安全側に考慮した放射性Csに対する基準値の算定値は、妥当であったと考えられる。主要な国際機関と欧米を中心とした諸外国における汚染率や少量消費食品について調査した。汚染率については、多くの国際機関や国において0.1を一般的な値として用いている場合が多かった。少量消費食品に対する設定は一律でなかった。引き続き欧米以外の諸外国についても調査し、情報を整理することが、日本の基準値の妥当性を考えるうえで有用であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-11-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202224033Z