輸出先国のリスク管理に対応した残留農薬データ等の補完に関する研究

文献情報

文献番号
202224031A
報告書区分
総括
研究課題名
輸出先国のリスク管理に対応した残留農薬データ等の補完に関する研究
課題番号
20KA2002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 敬浩(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 拓(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 山田 友紀子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 荒川 史博(日本ハム株式会社 中央研究所 品質科学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
11,361,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際標準の農薬最大残留基準値(MRL)の国内設定やインポートトレランス申請に必須であるが、これまでには要求等されていなかった事項について検討し、現在の政府方針である農産品等の輸出促進に貢献することを目的とする。具体的には、(1)消費並びに輸出産品としての可能性から重要であるが検討されていない加工農産品の加工係数の導出、(2)世界で広く利用されている農薬残留物分析法(QuEChERS法)の厳密な性能評価、(3)MRL設定また食事性暴露評価の基礎となる残留物の定義に関するガイダンス文書の改訂を検討するOECD会議への参加、(4)わが国の作物残留試験データの不足を補いインポートトレランス申請にも利用可能なデータセットの特定とそれを用いたMRL推定について検討する。
研究方法
①インカード試料の作成:農薬を投与した結果としての残留物を含む試料(インカード試料)を作成するために、稲とトリシクラゾール並びにメプロニル、チャノキとチアクロプリド並びにピフルブミドの組合せについて検討した。使用基準に従い農薬を投与しつつ圃場にて作物を栽培した。
②QuEChERS法の性能評価:QuEChERS法の性能を、インカード試料の計画的な分析を通じて厳密に評価した。評価では、公示分析法を基礎として構築した、一般的な溶媒抽出法を含む基本分析法により得られた分析値を指標とした。
③加工試験:インカード試料を原料とし、家庭での炊飯米調理、さらに飲料茶の調製について検討し、マスバランス及び加工係数を算出した。
④残留物の定義に関する国際的な検討:OECD に設置されたDrafting group on Definition of Residueによるガイドライン改訂の議論に参画し、文章案等を提出した。
⑤MRL設定等に利用可能なデータセット:検証すべき農薬と食品との組合せを特定し、わが国におけるcritical GAP(cGAP)との比較から利用可能なデータセットをFAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)評価書から抽出し、MRLの推定を試みた。
結果と考察
①インカード試料の作製:登録された使用基準に従い農薬を投与し、また慣行農業を考慮して稲及びチャノキを栽培した結果、加工試験と分析法の性能評価の用途に適した濃度でトリシクラゾールとメプロニル、チアクロプリドとピフルブミド残留物をそれぞれ含む米及び茶インカード試料が作製された。
②QuEChERS法の性能評価:茶インカード試料から得られたチアクロプリドの分析値は、基本分析法を用いた場合には10.9 mg/kg~11.2 mg/kg、QuEChERS法を用いた場合には10.5 mg/kg~10.8 mg/kgであった。unparid t-testを用いた検定を行った結果からは有意差が認められ、QuEChERS法により得られる分析値が一定の割合で低値になる確率が高いことが示唆された。同様の結果が、同じく茶インカード試料に含まれるピフルブミド代謝物Bについても観察された。
③加工試験:インカード試料を原料として調製された飲料茶におけるチアクロプリド、ピフルブミド、及びピフルブミド代謝物Bの加工係数は、それぞれ0.006、0.0001、0.0001と計算された。
④残留物の定義に関する国際的な検討:約4週間おきに開催されたウェブ会議に参加し意見を述べ、改訂ガイダンス文書に含まれる文章案を提供した。
⑤利用可能なデータセット:わが国のcGAPに照らして利用可能な作残試験データを特定した上でJMPR評価書から抽出し、33の農薬有効成分と食品との組合せについて検討し、19のMRLを推定することに成功した。わが国のMRL推定に海外で実施された作残試験データが活用できることが示されたが、わが国のGAPが特殊であるために利用可能な作残試験データの特定が困難であることも示された。
結論
加工試験と分析法性能評価に必要な濃度で残留物を含む各種インカード試料を作製することができた。作製されたインカード試料を用いてQuEChERS法の性能を厳密に評価した結果、妥当性が確認されることへの影響はないが、公示分析法との間で有意差のある分析値を与える性能差が生じている可能性が示された。標準的な淹れ方の規定とともに飲料茶におけるチアクロプリドとピフルブミドの加工係数が適正に算出された(脂溶性の高いピフルブミドの加工係数がより小さい)。残留物の定義に係るOECD文書の改訂に貢献することができた。JMPRに提出された海外で実施された作残試験のデータから、わが国のGAPにとって適切な19のMRLが推定された。

公開日・更新日

公開日
2024-01-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-01-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202224031B
報告書区分
総合
研究課題名
輸出先国のリスク管理に対応した残留農薬データ等の補完に関する研究
課題番号
20KA2002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 敬浩(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤 拓(東京農業大学 応用生物科学部)
  • 山田 友紀子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 荒川 史博(日本ハム株式会社 中央研究所 品質科学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国際標準の農薬最大残留基準値(MRL)の国内設定やインポートトレランス申請に必須であるが、これまでには要求等されていなかった事項について検討し、現在の政府方針である農産品等の輸出促進に貢献することを目的とする。具体的には、(1)消費並びに輸出産品としての可能性から重要であるが検討されていない加工農産品の加工係数の導出、(2)世界で広く利用されている農薬残留物分析法(QuEChERS法)の厳密な性能評価、(3)MRL設定また食事性暴露評価の基礎となる残留物の定義に関するガイダンス文書の改訂を検討するOECD会議への参加、(4)わが国の作物残留試験データの不足を補いインポートトレランス申請にも利用可能なデータセットの特定とそれを用いたMRL推定について検討する。
研究方法
①インカード試料の作成:農薬を投与した結果としての残留物を含む試料(インカード試料)を作成するために、3年間の研究により、エトフェンプロックス、ジノテフラン、スルホキサフロル、ブプロフェジン、トリシクラゾール及びメプロニルを投与し、約17aの水田において慣行農業に従い稲を栽培した。また、令和3年度から令和4年度の2年間でトルフェンピラド、ジノテフラン、チアクロプリド及びピフルブミドを投与し、試験圃場において慣行農業に従いチャノキを栽培した。
②QuEChERS法の性能評価:作製した玄米及び茶インカード試料の計画的な分析により、QuEChERS法の性能を評価しその妥当性を確認した。また、公示分析法を基礎とする基本分析法により得られる分析値との差について検討した。
③加工試験:インカード試料を原料とし、プラントレベルでのこめ油の製造、家庭での炊飯米の調理、さらに飲料茶の調製について検討した。
④残留物の定義に関する国際的な検討:OECD に設置されたDrafting group on Definition of Residueによるガイドライン策定の議論に参画し、文章案等を提出した。
⑤MRL設定等に利用可能なデータセット:検証すべき農薬と食品との組合せについて、出荷量や食品消費量等を要素に検討した。選択された組合せについて、わが国のGAPと整合する作残試験データをJMPR評価書から抽出しMRLを推定した。
結果と考察
①インカード試料の作製:登録された使用基準に従い農薬を投与し、また慣行農業を考慮して稲及びチャノキを栽培した結果、加工試験と分析法の性能評価の用途に適した濃度で各農薬残留物を含む玄米及び茶インカード試料が作製された。
②QuEChERS法の性能評価:各インカード試料の計画的な分析と、公示分析法を基礎とする基本分析法により得られる分析値との比較により、QuEChERS法の性能を厳密に評価した。全ての残留物の分析を通じてQuEChERS法の妥当性が確認された。しかし一方で、一部の残留物の分析に関しては、従来の分析法との間で、得られる分析値に有意差が認められ、明らかな性能差があることが示された。
③加工試験:インカード試料を原料とした加工試験の実施により、農薬残留物の加工工程における挙動がlogPowにより異なることを明らかにした。例えば、こめ油の加工については、logPowの高いエトフェンプロックス等の農薬残留物の濃度が糠ひいてはこめ油においてより高いことが明らかになった。その他、標準的な茶の加工試験方法として、家庭における調製を反映した方法を構築し、信頼できる加工係数の算出に成功した。
④残留物の定義に関する国際的な検討:定期開催されるリモート会議に参加し、残留物の定義に関するOECDガイダンス文書改定案の完成に向けて貢献した。
⑤MRL設定等に利用可能なデータセット:最終的に選択した8種の農薬有効成分と食品からなる33種の組合せのうち、グリホサートやベンタゾン等について19のMRLの推定に成功した。わが国のMRL推定に海外で実施された作残試験データが活用できることが示された一方で、わが国のGAPが特殊であるために利用可能な作残試験データの特定が困難であることが課題と考えられた
結論
加工試験と分析法性能評価に適した各種インカード試料の作製に成功した。作製されたインカード試料を用いてQuEChERS法の性能を厳密に評価した結果、妥当性が確認されることへの影響はないが、公示分析法との間で有意差のある分析値を与える性能差が生じている可能性を示した。エトフェンプロックス等の脂溶性の高い農薬残留物について、こめ油における加工係数が算出された。また、標準的な淹れ方の規定とともに、複数の残留物について飲料茶における加工係数が算出された。残留物の定義に係るOECD文書の改訂に貢献した。JMPRに提出された海外で実施された作残試験のデータから、わが国のGAPに照らして適切な19のMRLが推定された。

公開日・更新日

公開日
2024-01-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-01-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202224031C

成果

専門的・学術的観点からの成果
農産品等の輸出拡大に資する新たなデータの取得を目的とし、輸出先国の残留農薬規制を踏まえ、国際標準となるMRL設定やインポートトレランス申請に必要な加工係数の推定や簡易分析法であるQuEChERS法の厳密な性能評価またそれらに必要なインカード試料の作製、また国際整合した残留物の定義やグローバルデータセットの利活用を検討する本研究の専門性は高く、行政と科学との境界領域における活動の独自性は高く、得られた成果は貴重である
臨床的観点からの成果
臨床を取り扱う研究は実施されておらず、よって成果はない。
ガイドライン等の開発
現時点ではガイドライン等の開発は特にない。
その他行政的観点からの成果
現時点では、施策に反映された成果等は特にない。しかし、今後OECDガイドラインが改訂されれば、国内の評価にも反映させる必要がある。グローバルデータセットの活用可能性が示されたことは今後のMRL設定の1つのオプションになり得る。QuEChERS法の妥当性確認がされたことは、今後の更なる開発並びに国内導入の契機となる。
その他のインパクト
こめ油における農薬残留物の加工係数が示されたことや、適切な飲料茶への加工方法が規定され、複数の農薬残留物の加工係数が示されたことは、世界における農薬残留物の評価に有効な知見を提供することになる。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-01-19
更新日
-

収支報告書

文献番号
202224031Z