地域リハビリテーションシステムに関する研究

文献情報

文献番号
199700617A
報告書区分
総括
研究課題名
地域リハビリテーションシステムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 利之(横浜市総合リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤利之(横浜市総合リハビリテーションセンター)
  • 浜村明徳(国立療養所長崎病院)
  • 林拓男(公立みつぎ病院)
  • 三宅誼(医療法人社団三草会クラーク病院)
  • 石川誠(近森リハビリテーション病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者や高齢障害者が地域社会で生活したいというニーズに応えるには、その基本的な生活を保障した上で、社会参加を実現する総合的なサービス・システムが必要である。そこで本研究では、県、大都市、小都市を単位とした地域リハ・システムおよび民間組織を単位としたシステムの先進例をモデルに、各種サービスをより効率的・効果的に提供する方法について検証する。今回は研究計画の初年度として、在宅高齢障害者を対象とした各種サービスの利用状況などを調査するとともに、各単位別にその特徴を明らかにした。
研究方法
県、大都市、小都市、民間組織を単位とした地域リハ・システムにおいて、すでにサービスの提供が行われている在宅高齢障害者を対象に、各種サービスの利用状況や今後の希望などにつき聞き取り調査を行った。また、これらの結果を基にそれぞれのシステムのあり方について検討した。調査対象数は、長崎県:100人、横浜市:116人、御調町(広島県):111人、医療法人社団三草会(札幌市:クラーク病院):200人、医療法人近森会(高知市:近森リハビリテーション病院):382人である。また調査内容は、対象者の属性、日常生活自立度、現在利用している訪問および通院・通所によるサービス、福祉用具の利用状況、住宅改造の状況などとした。
結果と考察
長崎県における調査結果の特徴は、種々のサービスの中でも、現状では外来診療、デイケア、外来リハなどの通院形態のサービス利用が多く、訪問看護や訪問リハのサービスは、ニーズがあるにも関わらず利用経験が少ないことであった。その一方で、サービス間の連携や役割分担が不十分なまま援助を延々と続けている実態が推察されたことである。県単位の特徴として、地理的に見て広域な割には拠点となるリハ専門機関が少なく、それぞれのチームが有機的に連携することの困難性を示唆したものといえよう。
横浜市における調査結果の特徴は、行政機関を中心とした地域・在宅リハによるサービス提供が行われており、保健・福祉系のサービスの種類や内容は豊富であった。利用しているサービスは外来診療、訪問介護、訪問看護、通院リハの順に多く、福祉用具の処方が60%強、住宅改造が85%弱に行われていた。この結果は、狭い地域に人口が密集している大都市の特徴として、対人口に占める保健・福祉施設の少なさと在宅生活を強く希望する市民ニーズを反映したものであり、住環境整備などの財源をどう捻出するか、独自の政策の必要性が認められた。また、群雄割拠する医療機関との直接的連携や訪問看護ステーションとの連携の不十分さ、対人口に見合ったサービス量の不足などが課題であった。
御調町における調査結果の特徴は、システムが病院と保健・福祉行政との一体運営で成り立っていることを反映し、保健・医療・福祉のサービスが総合的に提供されていることである。その結果、サービスの利用経験は訪問看護、外来診療、通院リハ、訪問介護、機能訓練、訪問リハの順に多く、福祉用具の処方、住宅改造も約半数に行われており、比較的サービスの種類に片寄りがなく多種多様であった。しかし、現状では町の財政的事情を考慮しなければならず、システムの規模や対象の範囲、サービス内容をどこまで充実させるべきか、今後、対費用効果の面からも検討を深めることが課題である。
札幌市に所在する医療法人社団三草会および高知市の医療法人近森会における調査結果の特徴は、いずれもが病院を基盤に老人保健施設、在宅介護支援センター、訪問看護ステーションなどを併設して地域活動を展開していることを反映したものであった。具体的には、看護婦、理学療法士、作業療法士、ホームヘルパーの4者がチームを形成、相互の連携に基づいた保健・医療・福祉の一体的なサービスを提供しており、同組織の病院退院者を中心に比較的きめ細かな活動を展開している。しかし、施設・設備の割に情報ネットワークなど、地域リハの中核機能の整備が遅れている。また、単一の医療機関を基盤とした民間組織によるサービスの限界も示唆された。所在地域全体を管轄する行政機関との連携を強化、地域単位の総合的なシステムの構築が必要である。なお、札幌市における調査結果の特異性として、冬期間の活動制限による機能低下の不安が強く訴えられ、この期間の社会参加をどう確保するか、地域特性の強いサービス提供のあり方として大きな課題である。
今回の研究では、県、大都市、小都市、病院を中心とした民間組織を単位に、先進的なシステムの下で活動している地域の実態を調査した。いずれも高齢障害者が地域・在宅で生活していくために必要なサービスがそれなりに提供されており、サービス利用者の満足度も高かった。長崎県では79市町村のうち地域リハ・システムの下、チームが有機的に機能していると思われたのは一部の地域に限られており、一定の地域単位毎にシステムの中核となる拠点を設置、そこを中心としたシステムを形成することが急務である。また、リハ専門職などの人材育成の必要性、さらには県域全体のサービスを調整・統括するセンター機能の存在が必要と考えられ、公的介護保険制度の導入を前に、行政の主導によりチームやシステムの整備が早急に具体化されなければならないであろう。
横浜市においても医療機関や訪問看護ステーションとの連携の必要性が問題提起されており、人口密度の高い大都市の特徴である量的ニーズにどう応えていくかという問題と合わせ、システムを見直さなければならないと思われる。県単位のシステムに比べて比較的狭い地域を対象としていることから、今後は訪問看護・介護を第一線のサービスのとして位置づけ、必要時にリハ・サービスを提供する機関として地域リハ・センターを位置づけることが効果的かつ効率的だといえよう。
今回、小都市におけるシステムの先進例として公立みつぎ総合病院を中心とした御調町の実態を調査したが、その結果は、サービスの多様性からみても小都市における地域リハ・システムを構築する上で、一つの典型を示したものといえる。今後は、公的介護保険制度が導入されることによる財政基盤の充実を基に、システムの規模やサービス内容をどこまで充実させることができるか、そのあり方について検証する必要があろう。
民間組織の中でも医療機関を基盤とした札幌市や高知市の調査では、民間組織の活動とはいえ小都市として位置づけた御調町の規模に匹敵するものであり、行政機関が直接導入されていないという点を除けば同様の結果が示された。これらの活動が成功しているポイントは、同一組織内に病院、老人保健施設、訪問看護ステーション、在宅介護支援センターを有しており、地域・在宅生活に必要な保健・医療・福祉のサービスを一体的に提供していることである。何よりも、看護婦・理学療法士・作業療法士・ホームヘルパーの4者が同一拠点から訪問することの効率のよさは大きな利点である。しかし、それぞれがカバーする地域の範囲、障害特性や重症度の調整、あるいは民間組織であるが故のサービスの質的保証をどのように保つか、今後の課題である。
結論
今回の調査では、県、大都市、小都市、民間組織の単位に分け、各種サービスの利用状況と彼らのニーズを把握した。その結果、それぞれの特徴が明らかとなり、各単位におけるリハ・システム構築の課題を示すことができた。地域・在宅におけるリハ・システムを構築する上で重要なことは、訪問看護・介護のサービスを基盤に、これらをバックアップする機能として訪問診療やリハ・サービスを位置づけることである。今後はこれらの調査結果をふまえ、公的介護保健制度の導入を前提とした各単位別システムのあり方について検証する。

公開日・更新日

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