ワンヘルスに基づく食品由来薬剤耐性菌のサーベイランス体制強化のための研究

文献情報

文献番号
202224014A
報告書区分
総括
研究課題名
ワンヘルスに基づく食品由来薬剤耐性菌のサーベイランス体制強化のための研究
課題番号
21KA1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
菅井 基行(国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
  • 小西 典子(東京都健康安全研究センター 微生物部 食品微生物研究科)
  • 富田 治芳(群馬大学大学院医学系研究科 生体防御機構学 細菌学分野)
  • 浅井 鉄夫(岐阜大学大学院連合獣医学研究科)
  • 石井 良和(東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座)
  • 川西 路子(農林水産省動物医薬品検査所 検査第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
37,683,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚労省は「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020」に従い、ヒト、動物(家畜含)、農業、食品、及び環境の各分野において薬剤耐性菌の動向を把握し、我が国のデータとして「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書」を公開することとした。本研究では動物性食品の薬剤耐性菌の動向調査・薬剤耐性機序に関する研究を実施するとともにこれらの報告書にデータを提供することを目的とする。
研究方法
地方衛生研究所で扱う耐性菌について全国20-30か所の協力施設により菌株の収集、薬剤感受性試験。食肉衛生検査所および検疫所由来鶏肉検体から耐性菌の分離と収集、薬剤感受性試験、耐性機序・染色体遺伝子型別。食肉処理場(豚)および市販豚肉由来メチシリン耐性ブドウ球菌の収集、市販鶏肉由来第三世代セファロスポリン耐性菌の季節変動の検討、薬剤感受性試験を含む性状解析。JVARM参加食肉処理場(牛・豚)、食鳥処理場の健康家畜由来株の耐性菌の収集、薬剤感受性試験、耐性機序・染色体遺伝子型別。健常人糞便からのESBL産生大腸菌の分離。これらの分離株について薬剤耐性研究センターにおいてゲノムデータの取得を実施した。
結果と考察
研究班で得られた耐性菌のデータが、国内・国外への情報発信に貢献していることは大きな成果である。国内においては「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書 2021」、国外においては WHO GLASSに提供され、JANISやNESID等のヒト由来データとともに日本におけるワンヘルスアプローチによる基礎データを提供した。
「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書」「WHO GLASS」では薬剤耐性データは菌株の感受性データとして報告されている。現在、検討されているGLASS 2.0ではさらに耐性遺伝子データの収載が検討されており、併せて全ゲノムシークエンス配列を読む Genomic Surveillanceが推奨されている。このことに鑑み、本研究班では新規に収集する薬剤耐性菌及び、すでに収集した薬剤耐性菌について可能な限り全ゲノムシークエンスデータを採取し、それを元に遺伝子レベルでの薬剤耐性データを集め、国内外での報告に資する基盤データを作出することを目的とした。昨年度の準備を経て、今年度は各分担研究者から収集菌株あるいは精製DNAを収集し、全ゲノムシークエンスを作出するとともに個別に解析したゲノムデータを収集した。今後、データをさらに蓄積するとともに、それらを用いて基盤データのフォーマットを確定させる予定である。
結論
サルモネラに関してはヒト由来株のうち食品からも分離された血清型、S. Infantis, S. Schwarzengrund, S. Manhattanでは、2015年~2022年分離株と同様にヒト由来株と食品由来株の耐性傾向に強い類似性があり、食品由来耐性菌とヒト由来耐性菌との関連が強く示唆された。大腸菌については下痢原性大腸菌の方がEHECより薬剤耐性率は高く、多剤耐性傾向を示した。C. jejuniとC. coliはともにヒト由来株と食品由来株の耐性傾向に強い類似性があり、食品由来耐性菌とヒト由来耐性菌との関連が強く示唆された。また鶏肉由来ESBL産生菌の探索結果でも国産鶏肉の方が輸入鶏肉より多く検出されており、今後、全ゲノムデータの解析によって耐性遺伝子の違いが浮き彫りになると考えられる。食鳥処理場及びと畜場で分離された大腸菌及びサルモネラのうち、コリスチンのMIC が2 μg/mL以上の株についてコリスチン耐性遺伝子(mcr-1~mcr-10)の保有状況を確認したところ、大腸菌からmcr-1、mcr-3及びmcr-5 遺伝子は検出されたが低率(各年、動物種毎に、いずれも5%以下)であった。鶏肉からの薬剤耐性腸球菌については、VanN 型VRE 株が国産鶏肉5 検体(4%)から検出されているが、ヒトで多く認められるVanAやVanBは検出されなかった。しかしリネゾリド耐性腸球菌(optrA 陽性株)が国内産鶏肉7検体(6%)検出されている。ヒト由来VREではリネゾリド耐性株は依然として少ないため、今後ヒトに移行しないかを継続してモニターする必要があると考えられた。と畜場での豚耳検体からは関東、東海等地域を問わずMRSAが検出された。薬剤感受性検査結果からLA-MRSAが疑われ、ドラフトゲノム解析からCC398株が多数検出された。豚耳検体の採取法についてクロスコンタミネーションの可能性が捨てきれないため、今後、検出率を求める際には異なるアプローチが必要になると思われる。市販豚肉の検討では今年度の研究で得たMRSA12株は全てST398であった。今後、全ゲノムシークエンス解析の結果に基づき、病原性を含めた性状を明らかにしてゆく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-07-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-05-16
更新日
2023-12-07

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202224014Z