食中毒調査の迅速化・高度化及び広域食中毒発生時の早期探知等に資する研究

文献情報

文献番号
202224004A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒調査の迅速化・高度化及び広域食中毒発生時の早期探知等に資する研究
課題番号
20KA1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
明田 幸宏(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 哲也(九州大学大学院医学研究院基礎医学部門病態制御学講座細菌学分野)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 寺嶋 淳(岩手大学 農学部共同獣医学科 )
  • 平井 晋一郎(国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
38,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品由来が疑われる有症事案に係る調査(食中毒調査)においては、できる限り迅速に探知することが重要である。特に生死に関わる重症合併症を発症するリスクの高いEHECによる食中毒調査において,様々な集団感染事例を特定し、その原因を明確にすることで、様々な衛生規範、基準の作成、改訂につながってきた。しかしながら、EHEC感染症の報告数は3500-4000例と依然として多数にのぼり、原因や感染経路等が判明しないケースが多数残されている。そこで、迅速な分子型別手法の開発とその利用と、疫学情報との効果的な統合、食中毒調査を迅速、高度化することで、調査を効率的に実施することを可能となる。また、一つでも多くのケースで原因を明らかにすることでより適切な食品の取り扱い方法の提案、問題点の抽出が可能となり、より安全な食品の提供につながることが期待される。以上のような課題解決を目的として本研究を実施する。
研究方法
MLVA法の有効性の検証・精度管理手法の確立
感染研に送付された腸管出血性大腸菌2022年分離株に対してMLVA法により解析した。方法はIzumiyaら(2008、2020)の方法に従って実施した。血清群O157、O26、O111については17か所、O103、O121、O145、O165、O91については43か所の遺伝子座を用いた。地方衛生研究所からMLVA型付与のために送付されたMLVAデータ(血清群O157、O26、O111)も併せて解析を行った。また精度管理のため、地方衛生研究所での実施に向けたトライアルを行った。

地方衛生研究所と協同したWGS解析とその環境整備
地方衛生研究所における食中毒事例解析能力向上のため、沖縄県で2022年に発生した腸管病原性大腸菌(EPEC)O153感染事例について、協同してWGS解析を行った。原因菌と推定される菌株のゲノムDNAを抽出し、Rapid Barcoding Kit (Oxford Nanopore)でライブラリー抽出した後に、MinIONにてR9.4のフローセル(Oxford Nanopore)を用いてシークエンス解析を行い、cgSNPを抽出し、ONTデータによる結果との比較を行った。
WGSデータの収集とWGSデータベース
食中毒原因菌ゲノム・分子型別情報の蓄積データ利活用のための解析手法、必要要件を国内外の状況を確認し、検討した。

感染症発生動向調査(NESID)をベースとした腸管出血性大腸菌食中毒探知
感染症発生動向調査(NESID)データを活用し、過去データに基づくベースラインとの比較により、特異なEHEC患者報告数の増加を迅速に探知するアラートの構築をおこなった。

食品及び動物由来株の収集
腸管出血性大腸菌食中毒の原因となる可能性を検討するために食品及び動物から菌株分離を試み、その毒素遺伝子プロファイル、PFGE電気泳動を実施することで食中毒事例との相関を検討する。

結果と考察
感染研細菌第一部において、2564株について分子型別解析を実施した。このうち2275株についてMLVA法による解析を実施した。解析依頼施設数は95施設であった。各血清群において同定された型数は、O157が665、O26が182、O111が55、O103が42、O121が19、O145が16、O165が5、O91が26であった。また地方衛生研究所での解析環境を構築し、その運用を共同して支援した。MLVA法の精度管理では、長期的な継代培養を行い、蔓延菌株を模擬的に作成し、TR数の変化を観察した。また全国の地衛研を対象にMLVA法の精度管理試験を行ったところ、参加した37施設中30施設が全検体に正しく回答した。NESIDをベースとする食中毒探知アラートシステムの構築を引き続き実施し、2019年から2022年までの状況として、全体を通してレベル4は2019年第44週に探知したO157VT1VT2による1回のみであった。レベル3以上の年毎の検知回数/厚生労働省への情報提供回数は、2022年(3回/3回)であった。2022年は19週から22週にかけて、NESID上では東日本を中心に例年を上回るO157VT1VT2症例数の増加を認めたが、原因究明に繋がる情報は得られなかった。食品や動物からの由来株解析では、食品からはほとんどEHEC株が分離されなかったが、動物(ブタ)からは少なからず分離された。
結論
本年度の研究実施によりMLVA法の有効性、その精度管理、また地方衛生環境研究所での食中毒事例解析系の構築が進んだ。またゲノムデータベースも充実化されており、アラートシステムとの活用が期待される。食品及び動物由来EHEC株は食中毒事例株とは若干異なり、さらなる解析が必要である。

公開日・更新日

公開日
2023-09-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202224004B
報告書区分
総合
研究課題名
食中毒調査の迅速化・高度化及び広域食中毒発生時の早期探知等に資する研究
課題番号
20KA1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
明田 幸宏(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 哲也(九州大学大学院医学研究院基礎医学部門病態制御学講座細菌学分野)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
  • 寺嶋 淳(岩手大学 農学部共同獣医学科 )
  • 平井 晋一郎(国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の事例調査のためにこれまで各種の分子型別法が開発され、利用されてきた。反復配列多型解析法(MLVA法)が迅速性、精微性に優れていることから、国内では主にMLVA法を用いた解析が行われている。そこで本研究ではこれまで蓄積されてきたMLVA型データを基盤に有効性を明確にしMLVA 型が一致した場合あるいは類似型であった場合の検査結果の評価の仕方を整理し、集団事例における評価を行うことで検証する。地方衛生研究所におけるMLVA解析の利用を一層進めるために、検査結果の正確性を担保するための精度管理手法の確立を行う。
さらに、国際整合性の観点から腸管出血性大腸菌等の検査について、全ゲノム解析法の検討を行う。
これらと平行して、MLVA解析及びゲノム解析から得られたデータを利用した、感染源や経路経路等に関する後方視的な疫学解析手法の利用を検証する。そのために主な感染源である食品からの分離菌株のデータ収集を可能とする方策を検討し、臨床分離株との比較を進める。また、動物由来株のデータ収集を可能とする方策を検討し、事例調査への利用を試みる。
また、現在運用されている発生動向調査からリアルタイムに集団事例発生をモニターするシステムについて、さらに広域的な食中毒を迅速に探知する調査手法として有効な改善を進める。R2-R4年度において集団事例探知とその評価を行うことでシステムの改善を図り、広域連携会議への情報提供を行う。
研究方法
MLVA法の有効性の検証・精度管理手法の確立
MLVA解析データの有効性の検証を行うため、過去に蓄積したデータを地理的及び時間的な観点から整理しMLVAデータの有効性を検証する。また精度管理を進めるための基盤整備をおこなう。
腸管出血性大腸菌等の検査法(全ゲノム解析)の開発
諸外国におけるWGSの導入状況、活用状況、解析パイプラインやデータベース整備等の調査を行い、我が国の現状を踏まえた活用法について検討する。また地方衛生研究所で実施しうる方法を検討し、WGSデータベース等を利用して食中毒事例調査等における同一性判定基準を確立する。
食品及び動物由来株の収集と分子型別
過去の食中毒事例由来の原因食品から分離した保存株について、MLVA解析を行い患者株と一致率と多様性についての検討、食品や動物サンプルからのスクリーニングを実施し、陽性検体からは菌株の分離、MLVA型の多様性について検討する。
集団発生・広域散発事例の早期予測・調査手法の改良・改善
感染症サーベイランスや食中毒報告を中心に複数年を対象に広域疑い事例の記述疫学を実施し、調査手法、検査手法の有用性について、対応等の時系列を主な指標に設定して分析を試みる。またそれらの結果に基づいて広域食中毒疫学調査ガイドラインの改訂につなげる。また、後方視的疫学解析手法の検討を行う。
結果と考察
本研究では、腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)のサーベイランスにおいて、MLVAデータを基盤とするため継続的に全国のEHEC分離株およそ7700株を解析した。さらにその質を担保するための精度管理手法の確立、試行をおこなった。また厚生労働省NESFDにおいてMLVAリストの基盤データの提供とともにNESIDを活用した食中毒探知アラートシステムの構築、検証を実施した。さらに国内EHECのサーベイランスを全ゲノム配列解析で効率的に行うために、core genome single nucleotide polymorphism (cgSNP) および core genome multilocus sequence typing (cgMLST) パイプラインを構築するとともに、国内外株ゲノムデータのデータベース化を行った。同パイプラインを用いることで、新たにEHEC分離株ゲノムが得られた際に、国内外の大腸菌ゲノムとの比較解析を迅速に行える体制が確立した。食品及び動物由来株のスクリーニングとその細菌学的遺伝学的解析を実施し、食中毒事例株との関連性を検討した。また以上のような食中毒探知に資する菌株解析環境を地方衛生研究所にも試験的に導入した。
結論
MLVA法は迅速性、精微性に優れた分子型別手法であり、MLVAリストを共有することで広域食中毒等の早期探知に有効である。地衛研から送付されるMLVAデータは迅速性の向上に重要であり、今後も当該データの信頼性確保のため、モニタリング等の方策が必要である。また本研究では、国内EHECゲノムのデータベース化と国内外データベース株との効率的な比較解析パイプラインの構築を行った。今後、地方衛生研究所とも協同して、データ、解析手法の共有化や同手法の検証を行っていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-09-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202224004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
腸管出血性大腸菌食中毒探知アラートに資する分離株解析技術として、MLVA法を運用しおよそ7700株について型別付与をおこない、また精度管理基盤を構築した。さらに将来的なゲノムデータをベースとしたアラートシステムにつながるcgSNP および cgMLST パイプラインを構築するとともに、国内株ゲノムデータのデータベース化を行った。
臨床的観点からの成果
実際の腸管出血性大腸菌食中毒事例を継続して監視する上でMLVAデータによる菌株の関連性を加味し、集団発生事例の探知を行ない、注意すべきエピソードについては厚生労働省へ情報提供をおこなって、早期の情報収集が試みられた。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
MLVA法に関するプロトコール策定とその精度管理を試行的に実施し精緻化を進めた。
その他のインパクト
該当無し

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
35件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shinichiro Hirai, Eiji Yokoyama, Naoshi Ando, et. al
Another advantage of multi-locus variable-number tandem repeat analysis that can putatively subdivide enterohemorrhagic Escherichia coli O157 strains into clades by maximum a posteriori estimation
PLOS ONE , 18 , e0283684-  (2023)
原著論文2
Yano B., Taniguchi I., Gotoh Y, et al.
Dynamic changes in Shiga toxin (Stx) 1 transducing phage throughout the evolution of O26:H11 Stx-producing Escherichia coli
Scientific Reports , 13 , 4935-  (2023)
原著論文3
Nakamura K., Seto K., Lee K. et. al.
Global population structure, genomic diversity and carbohydrate fermentation characteristics of clonal complex 119 (CC119), an understudied Shiga toxin-producing E. coli (STEC) lineage including O165:H25 and O172:H25
Microbial Genomics , 9 , 000959-  (2023)
原著論文4
Miyata T., Taniguchi I., Nakamura K, et. al.
Alteration of a Shiga toxin-encoding phage associated with a change in toxin production level and disease severity in Escherichia coli
Microbial Genomics , 9 , 0009935-  (2023)
原著論文5
Ikeda R., Nakamura K., Saulmont M, et.al.
scherichia coli O80 in Healthy Cattle: Absence of Shigatoxigenic and Enteropathogenic E. coli O80:H2 and (Phylo) Genomics of Non-Clonal Complex 165 E. coli O80
Microorganisms , 11 , 230-  (2023)
原著論文6
Nakamura K., Seto, K., Isobe J. et.al.
Insertion Sequence (IS)-Excision Enhancer (IEE)-Mediated IS Excision from the lacZ Gene Restores the Lactose Utilization Defect of Shiga Toxin-Producing Escherichia coli O121:H19 Strains and Is Responsible for Their Delayed Lactose Utilization Phenot
Applied Environmental Microbiology , 88 , e0076022-  (2022)
原著論文7
Nakamura K, Ogura Y, Gotoh Y, et. al.
Prophages integrating into prophages: A mechanism to accumulate type III secretion effector genes and duplicate Shiga toxin-encoding prophages in Escherichia coli
PLoS Pathogens , 17 , e1009073-  (2021)
原著論文8
Nakamura K, Tokuda C, Arimitsu H, et. al.
Development of a homogeneous time-resolved FRET (HTRF) assay for the quantification of Shiga toxin 2 produced by E. coli
PeerJ , 9 , e11871-  (2021)
原著論文9
Nishida R, Nakamura K, Taniguchi I, et. al.
The global population structure and evolutionary history of the acquisition of major virulence factor-encoding genetic elements in Shiga toxin-producing Escherichia coli O121:H19
Microbial Genomics , 7 , 000716-  (2021)
原著論文10
Kimata K, Lee K, Watahiki M, et. al
Global distribution of epidemic-related Shiga toxin 2 encoding phages among enteroaggregative Escherichia coli
Sci Rep , 10 , 11738-  (2020)
原著論文11
Kato H, Yahata Y, Hori Y, et. al.
A shigellosis outbreak associated with a sports festival at a kindergarten in Kitakyusyu City, Japan
J Infect Chemother , S1341-321X , 30191-4-  (2020)
原著論文12
Izumiya H, Lee K, Ishijima N, et. al.
Multiple-locus variable-number tandem repeat analysis for non-O157 Shiga toxin-producing Escherichia coli: focus on serogroups O103, O121, O145, O165, and O91
Jpn J Infect Dis , 73 , 481-  (2020)

公開日・更新日

公開日
2023-06-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
202224004Z