非定型BSE等動物プリオン病のヒトへの感染リスクの推定と低減に資する研究

文献情報

文献番号
202224003A
報告書区分
総括
研究課題名
非定型BSE等動物プリオン病のヒトへの感染リスクの推定と低減に資する研究
課題番号
20KA1003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
堀内 基広(北海道大学 大学院獣医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 新 竜一郎(宮崎大学 医学部 感染症学講座 微生物学分野)
  • 古岡 秀文(帯広畜産大学 畜産学部)
  • 宮澤 光太郎(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門ウイルス・疫学研究領域感染生態ユニット)
  • 萩原 健一(国立感染症研究所 細胞化学部 第一室)
  • 飛梅 実(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 小野 文子(岡山理科大学 獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
26,390,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 牛海綿状脳症 (C-BSE) は世界的に公衆衛生上の脅威となったが、飼料規制等の管理措置により発生は収束している。一方、非定型BSEの存在が明らかとなり、非定型BSE (L-BSEとH-BSE) が高齢牛で孤発してC-BSEの起源となる可能性も指摘されている。ヒツジのスクレイピーは、病原体 “プリオン” に多様性があり、ヒトに感染しうるプリオン株の存在は否定できない。鹿科動物の慢性消耗病 (CWD) は、2016年以降、北欧でも発生が報告され、感染拡大が懸念されている。C-BSE発生収束後も、動物プリオン病は発生しており、ヒトの健康危害への懸念が絶えない。プリオン病は致死性の神経変性疾患で治療法がないため、C-BSE再興の防止、並びに非定型BSEを含め動物プリオン病のヒトへの感染リスクの低減を目的とした管理措置は重要である。最近、非定型スクレイピーがC-BSEの起源となることが報告された。従って、動物プリオン病の病原体の性状が変化してヒトへ感染することを想定した対策が必要となる。各種動物プリオン病の高精度検出・性状解析法の整備、各種動物プリオン病のヒトへのリスク、および、ヒトに感染性を有する病原体に変化する可能性に関する知見は、適切な管理措置の根拠となる。そこで本研究では、1) 各種動物プリオン病の高精度検出系の整備、2) 非定型BSE感染ウシおよびサルの病態解析、3) プリオンの異種間伝達によりヒトへの感染リスクを伴うプリオン株の出現、に関する研究を進め、動物プリオン病の病原体がヒトへ感染するリスクの低減に貢献する。
研究方法
1)中枢神経系組織中に存在するリン脂質がReal-Time Quaking Induced Conversion(RT-QuIC)を阻害することから、これらの除去法を検討した。ブタノール/メタノール (Bu/Me) によるワンステップ脂質除去法の応用を検討した。
2)L-BSE経口投与153ヶ月後のウシ組織中のPrPScを高感度検出が可能なProtein Misfolding Cyclic Amplification (PMCA)を用いて検出することで、伝達の有無を最終確認した。L-BSE経口投与カニクイザルの体液からRT-QuICを用いてPrPScを検出することで、経口伝播の可能性を検証した。H-BSE脳内接種サルおよび経口投与サルの臨床症状の観察、および病理学的ならびに生化学的解析実施して、感染成立の有無を調べた。L-BSEをカニクイザルで連続継代して、その神経病変を解析した。
3)動物プリオンの異種間伝播を再現する試験管内試験法を構築した。今回は非定型スクレイピーがウシに感染するルート、およびCWDがウシに感染するルートを想定したPMCA法を構築し、これを用いて、プリオンの性状が異種間伝播で変化する可能性を検討した。
4)我が国で発生したヒツジおよびヤギの非定型スクレイピー各1症例、米国由来のCWD感染オジロジカ脳乳剤(6症例)をヒトプリオンタンパク質遺伝子過発現マウス (TgHu129MM) の脳に接種し、伝達の有無を調べた。
結果と考察
1)Bu/Meによるワンステップ脂質除去法がRT-QuICの試料前処理法として有用であることを示した。本法を用いることで実用レベルの、非定型BSE、定型スクレイピー、およびCWD検出用のRT-QuICが構築できた。
2)L-BSEは伝播効率が悪いながら牛間で伝達が成立すること、L-BSEが経口ルートでカニクイザルに感染することが最終確認された。一方、H-BSEは脳内接種あるいは経口ルートでカニクイザルに感染しなかった。
3)動物プリオンの異種間伝播を再現する試験管内試験法を構築し、これを用いて、非定型スクレイピー感染ヒツジ脳乳剤にH-BSE様プリオンが含まれている可能性、CWD感染シカ脳乳剤にC-BSE様プリオンがごく微量存在する可能性を見いだした。
4)用いた非定型スクレイピー、CWD共に、TgHu129MMに伝播しなかった。また、Huorら (2019) が報告した非定型スクレイピープリオンのウシへの異種間伝達の過程で、C-BSEプリオンが出現するという現象は再現できなかった。
結論
・Bu/Meによるワンステップ脂質除去法がRT-QuICの試料前処理法として有用性が確認された。
・L-BSEの感染源がフードチェーンに入ることのないよう、現状のBSE対策を維持する必要があると考えられる。
・非定型スクレイピー感染ヒツジ試料中にH-BSE様プリオン、CWD感染シカ材料中にC-BSE様プリオンが存在することが示された。H-BSEが霊長類に感染する可能性は非常に低いと考えられた。
・我が国で発生した非定型スクレイピープリオンおよび北米由来のCWDプリオンのヒトへの伝播リスクは極めて低いことが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2023-08-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202224003B
報告書区分
総合
研究課題名
非定型BSE等動物プリオン病のヒトへの感染リスクの推定と低減に資する研究
課題番号
20KA1003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
堀内 基広(北海道大学 大学院獣医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 新 竜一郎(宮崎大学 医学部 感染症学講座 微生物学分野)
  • 古岡 秀文(帯広畜産大学 畜産学部)
  • 宮澤 光太郎(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門ウイルス・疫学研究領域感染生態ユニット)
  • 飛梅 実(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 萩原 健一(国立感染症研究所 細胞化学部 第一室)
  • 小野 文子(岡山理科大学 獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
  英国で発生した定型BSE(C-BSE)は、飼料規制等の管理措置により発生は制御下にある。しかし、病型が異なる非定型BSE(H-, L-BSE)が世界各地で摘発され、依然不安視されている。ヒツジのスクレイピーは、病原体 “プリオン” に多様性があり、ヒトに感染しうるプリオン株の存在は否定できない。鹿科動物の慢性消耗病 (CWD) は、2016年以降、北欧3国で発生が報告され、感染拡大が懸念されている。2018年にはアルジェリアでラクダのプリオン病が報告された。このようにC-BSE発生収束後も、動物プリオン病は発生しており、ヒトの健康危害の懸念が絶えない。プリオン病は致死性の神経変性疾患で治療法がないため、C-BSE再興の防止、並びに非定型BSEを含め動物プリオン病のヒトへの感染リスクの低減を担保する、科学技術、学術知見、および、それらを基盤とした管理措置は依然として食の安全性を確保する上で重要である。そこで本研究では、1) 各種動物プリオン病の高精度検出系の整備、2) 非定型BSE感染ウシおよびサルの病態解析、3) プリオンの異種間伝達によりヒトへの感染リスクを伴うプリオン株の出現、に関する研究を進め、動物プリオン病の病原体がヒトへ感染するリスクの低減に貢献する。
研究方法
・ 中枢神経系組織中に存在するリン脂質がReal-Time Quaking Induced Conversion(RT-QuIC)を阻害することから、これらの除去法を検討した。
・ L-BSE経口投与153ヶ月後のウシ組織中のPrPScを高感度検出が可能なProtein Misfolding Cyclic Amplification (PMCA)を用いて検出することで、伝達の有無を最終確認した。
・ L-BSE経口投与カニクイザルの体液からRT-QuICを用いてPrPScを検出することで、経口伝播の可能性を検証した。
・ H-BSE脳内接種サルおよび経口投与サルの臨床症状の観察、および病理学的ならびに生化学的解析実施して、感染成立の有無を調べた。
・ 今回は非定型スクレイピーがウシに感染するルート、およびCWDがウシに感染するルートを想定した異種間伝播を再現するPMCA法を構築し、プリオンの性状が異種間伝播で変化する可能性を検討した。
・ 我が国で発生した定型スクレイピー(6症例)、ヒツジおよびヤギの非定型スクレイピー各1症例、米国由来のCWD感染シカ脳乳剤(6症例)をヒトプリオンタンパク質遺伝子過発現マウス (TgHu129MM) の脳に接種し、伝達の有無を調べた。


結果と考察
・ ブタノール/メタノール (Bu/Me) によるワンステップ脂質除去法がRT-QuICの試料前処理法として有用であった。本法を応用して、実用レベルの、非定型BSE、定型スクレイピー、およびCWD検出用のRT-QuICが構築できた。
・ L-BSEは伝播効率が悪いながら牛間で伝達が成立すること、L-BSEが経口ルートでカニクイザルに感染することが最終確認された。一方、H-BSEは脳内接種あるいは経口ルートでカニクイザルに感染しなかった。
・ 動物プリオンの異種間伝播を再現する試験管内試験法を構築し、これを用いて、非定型スクレイピー感染ヒツジ脳乳剤にH-BSE様プリオンが含まれている可能性、CWD感染シカ脳乳剤にC-BSE様プリオンがごく微量存在する可能性を見いだした。
・ 用いた非定型スクレイピー、CWD共に、TgHu129MMに伝播しなかった。また、Huorら (2019) が報告した非定型スクレイピープリオンのウシへの異種間伝達の過程で、C-BSEプリオンが出現するという現象は再現できなかった。
結論
・ Bu/Meによるワンステップ脂質除去法を試料前処理法に用いて、実用レベルの、非定型BSE、定型スクレイピー、およびCWD検出用のRT-QuICが構築できた。
・ L-BSEは効率は極めて低いが経口ルートでウシ間で伝播すること、L-BSEが経口ルートでカニクイザルに感染することを確認した。従って、L-BSEの感染源がフードチェーンに入らないよう、現状のBSE対策は維持が必要である。
・ カニクイサルを用いた感染実験から、H-BSEのヒトへの伝達リスクは、C-BSEやL-BSEと比べ低いことが明らかとなった。
・ BSEプリオンのex vivo解析系として、サル馴化C-BSEプリオンが持続感染するIMR32ヒト神経芽細胞種由来の培養細胞を作出した。
・ 非定型スクレイピー感染ヒツジ脳乳剤にH-BSE様プリオンが含まれている可能性、また、CWD感染シカ脳乳剤にC-BSE様プリオンが極微量存在する可能性が示唆された。
・ 定型スクレイピー、非定型スクレイピーおよび北米由来のCWDのヒトへの伝播リスクは極めて低いことが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2023-08-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202224003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
非定型BSE、定型スクレイピー、CWDの高精度検査系を構築した。この方法を用いて我が国におけるCWDの清浄性を確認した。プリオンの異種間伝播によりCWDから定型BSE用プリオンが出現する可能性、非定型スクレイピーから非定型BSE用プリオンが出現する可能性を示した。カニクイザルの経口投与試験から、L-BSEがヒトに経口感染する可能性を示した。H-BSEのヒトの感染リスクは非常に低いことを結論した。
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
動物プリオンのヒトへの伝達を評価する際に、異種間伝播によるプリオンの性状変化は無視できないことを提示した。H-BSEはヒトへの感染リスクは非常に低いが、L-BSEはヒトに経口ルートで感染が成立することから、一定レベルの管理措置の継続が必要であることを提示した。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki A, Sawada K, Yamasaki T et al
Involvement of N- and C-terminal region of recombinant cervid prion protein in its reactivity to CWD and atypical BSE prions in real-time quaking-induced conversion reaction in the presence of high concentrations of tissue homogenates.
Prion , 14 (1) , 283-293  (2020)
10.1080/19336896.2020.1858694
原著論文2
Tanaka M, Yamasaki T, Hasebe R et al
Enhanced phosphorylation of PERK in primary cultured neurons as an autonomous neuronal response to prion infection
PLoS One , 15 (6) , e0234147-  (2020)
doi: 10.1371/journal.pone.0234147
原著論文3
Nakagaki T, Ishibashi D, Mori T et al
Administration of FK506 from Late Stage of Disease Prolongs Survival of Human Prion-Inoculated Mice
Neurotherapeutics , 17 (4) , 1850-1860  (2020)
10.1007/s13311-020-00870-1
原著論文4
Suzuki A, Sawada K, Erdenebat T et al
Monitoring of chronic wasting disease using real-time quaking-induced conversion assay in Japan
J. Vet. Med. Sci. , 83 (11) , 1735-1739  (2021)
doi: 10.1292/jvms.21-0368
原著論文5
Takatsuki H, Imamura M, Mori T et al
Pentosan polysulfate induces low-level persistent prion infection keeping measurable seeding activity without PrP-res detection in Fukuoka-1 infected cell cultures.
Sci. Rep. , 12 (1) , 7923-  (2022)
doi: 10.1038/s41598-022-12049-z
原著論文6
Imamura M, Tabeta N, Iwamaru Y et al
Spontaneous generation of distinct prion variants with recombinant prion protein from a baculovirus-insect cell expression system.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 613 , 67-72  (2022)
10.1016/j.bbrc.2022.04.137.
原著論文7
Matsuura Y, Miyazawa K, Horiuchi M
Extended application of the rapid post-mortem test kit for bovine spongiform encephalopathy to chronic wasting disease
Microbiol. Immunol . , 66 (5) , 212-215  (2022)
10.1111/1348-0421.12968

公開日・更新日

公開日
2023-08-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202224003Z