骨粗鬆症予防のための骨量測定法に関する研究

文献情報

文献番号
199700615A
報告書区分
総括
研究課題名
骨粗鬆症予防のための骨量測定法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
森田 陸司(滋賀医科大学放射線医学教授)
研究分担者(所属機関)
  • 福永仁夫(川崎医科大学)
  • 白木正孝(成人病診療所)
  • 三木隆巳(大阪市立大学医学部)
  • 串田一博(浜松医科大学)
  • 山本逸雄(滋賀医科大学)
  • 伊東昌子(長崎大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨粗鬆症の治療の基本は骨量などの喪失や骨折による骨の不可逆的変化が起こる前に予防することにある.このためには早期の段階での正確な骨の評価とそれに対する対処法の確立が肝要である.近年発展してきた骨量計測法は骨塩量の早期の変化を正確に定量することが可能でありひろく用いられているがその意義はなお充分明らかでない.一方、骨量測定と同時に、骨の代謝を特異的に反映する骨代謝マーカーの開発が進んでおり、骨代謝マーカーの測定により、より正確に骨の状況を把握できると考えられ、特に治療法の選択や治療効果の評価予測など骨粗鬆症への応用が試みられている。このような視点に立ち本研究は骨粗鬆症予防のための骨量測定法及び骨代謝マーカーに関する評価,開発を行うことを目的とする.
研究方法
骨量測定法にはDXA法(2重X線吸収測定法)をはじめとする諸種の方法があり,昨年度までに各方法における日本人女性の年令分布をもとめてきたが,本年度は既存の各方法につき各研究者ごとに分担して検討を深めた.まず,測定法自体の基準化を図るために日本放射線技術学会と協同で測定法のマニュアルの作成を試みた.そして各測定法の臨床的意義に関し,特に脊椎圧迫骨折との関連に関し詳細な評価を行った.また骨代謝マーカーに関しても昨年度に引き続き検討を進めた.
1.基準的な測定法として広く行われているDXA法に関しその基準化のための機器の精度管理法,及び測定法に関する誤差要因を検討し,マニュアルの作成を試みた.
2.橈骨DXA法に関し測定側(左右差)に関し3070例の分析から比較検討を行った.また橈骨DXA測定と同時に腰椎や大腿骨を測定できた188例につき脊椎圧迫骨折の検出率に関し比較を行い,橈骨測定の意義に関し検討を加えた.更に3部位同時測定し経過観察できた201例に関し平均1.48年経過観察し骨量減少率を比較検討し急速骨量減少者の抽出に関し測定法間の比較を行った.
3.踵骨DXA法測定値と脊椎圧迫骨折との関連に関し295例の女性に関し検討を加え骨折との関連に関し踵骨骨密度値のカットオフ値の変化による感度,特異度を求め,最適のカットオフ値の設定を試みた.
4.pQCT法(末梢骨定量的CT法;Densiscanによる)に関し,精度や測定上の技術的な問題点など基礎的な検討を行い,更に橈骨や脛骨pQCT法と躯幹骨QCT法との相関を検討した.また橈骨pQCT法により得られるパラメータの年令変化を求め,海綿骨と皮質骨の違いに関し比較した.脊椎圧迫骨折との関連についても212例に関し他の測定法との比較検討を行った.その他骨粗鬆症以外の代謝性骨疾患の橈骨pQCTの測定成績に関しても検討を加えた.
5.踵骨超音波法測定値と脊椎圧迫骨折の関連に関し同時に施行された腰椎や大腿骨頸部DXA測定,踵骨SXA測定など他の測定法との比較を260例の女性において検討しその測定意義に関し考察を加えた.
6.X線写真による骨密度定量法として中手骨を測定するMD法(あるいはその改良型としてのCXD法,DIP法)があるが,同時にX線写真にてとらえられる橈骨遠位端の測定を行い新たな情報を付加できるかどうか検討を加えた.
7.骨代謝マーカーに関してオステオカルシン特に非Gla化オステオカルシンの測定を骨粗鬆症患者においておこない,ビタミンK2治療例における反応例と低反応例における非Gla化オステオカルシンの意義に関し検討を加えた.
結果と考察
それぞれの検討項目につき以下のような結果を得た.
1.腰椎DXA法による骨量測定のマニュアル作成に関しては基本的な誤差要因の検討を行いその最終段階にあり,近い内に完成する予定となっている
2.橈骨の測定において左右差(左<右)があり,利き腕側の骨密度が高かった.脊椎圧迫骨折との関連性においてROC分析にて腰椎DXA法が最も優っていたが橈骨測定値は大腿骨頸部の測定より優っていた.また橈骨骨密度は閉経後年間減少率が最も高く鋭敏に骨量の年令変動をとらえられた.
3.脊椎圧迫骨折群では踵骨骨密度が有意に低く,そのカットオフ値を成人平均値の75%としたとき感度,特異度ともに66%となり,この値が基準値として妥当と考えられた.
4.pQCT法の測定精度は0.4~0.71%と良好であった.脊椎QCT測定値との相関は橈骨,脛骨ともに腰椎DXA測定値(R=0.79)よりは低かった(R=0.37~0.63).脊椎圧迫骨折との関連では脊椎QCTと橈骨皮質骨面積比が高いodds比を示したが橈骨骨幹部全骨密度や皮質骨面積も有意のodds比を示し,橈骨の皮質骨測定と脊椎圧迫骨折とが関連していた.
5.踵骨超音波法測定値は脊椎圧迫骨折の有無群間で有意差を示したが,腰椎DXAや大腿骨頸部(Wards)に比し早期の骨粗鬆症例(圧迫骨折1ヶ例)では感度が低く,2ヶ所以上骨折群ではむしろ腰椎DXAや大腿骨頸部(Wards)測定より骨折例の分別は良好であった(Odds比1.58 vs 1.34~1.19).
6.X線写真による橈骨遠位部の骨密度定量法は精度は2.99%と中手骨に比し若干劣ったが,卵巣摘出例と非摘出例との分別は中手骨より良好であった.
7.各種薬剤治療中の骨粗鬆症患者における血中非Gla化オステオカルシン(GluOC)の値はエストロゲン投与例とビタミンK2投与例で有意に低かった.また血中GluOCの低値群では血中ビタミンK2濃度が高かった.更にビタミンK2を投与しているにも関わらず骨密度が減少する例においては血中GluOC濃度が高いことが認められた.
今回の検討の結果,DXA法による橈骨遠位部の測定,DXA法による踵骨の測定,pQCT法による橈骨の測定,更に超音波法による踵骨の測定などの末梢骨をはじめとする各測定法による脊椎圧迫骨折のリスク評価は,腰椎測定そのものには及ばない点はあるがかなりの程度で可能であることが確認された.橈骨測定は閉経後の年令による骨密度の変動を鋭敏にとらえることができまた脊椎圧迫骨折の予知において大腿骨頸部の測定より優っていた.またpQCT法による橈骨の皮質骨面積比の測定は脊椎圧迫骨折の予知において脊椎DXA法より優っていることが示された.一方踵骨超音波法は骨粗鬆症の程度が進んだ時点での評価においては腰椎DXA法より脊椎の強度を反映する可能性があることも示された.このように,各評価方法の特徴が明らかにされた.
これらに加えて,踵骨DXA法による診断基準値の再設定が試みられカットオフ値を従来のものより5%高くするのがよいことが示された.また従来のMD法で得られる写真から橈骨遠位端の骨密度測定が可能であり,それは中手骨の測定より有益な情報を与える可能性があることが示されたがその臨床的有用性に関しては今後の検討が残されている.
骨代謝マーカーの一つとしての非Gla化オステオカルシンの測定成績が検討され,ビタミンK2投与例における無反応例の機序にその比較的高値が関わっていることが示された.
結論
骨量測定法に関する検討を行い,以下の結論を得た.
1.腰椎DXA測定のためのマニュアルの作成を行った.
2.橈骨DXA法は鋭敏に閉経後の骨量の変動をあらわし,脊椎圧迫骨折のリスク評価に有用である.
3.橈骨pQCT法においてその皮質骨部分の評価値は脊椎圧迫骨折のリスク評価にかなり有用である.
4.踵骨DXA法は脊椎圧迫骨折のリスク評価に有用であり,脊椎圧迫骨折のリスク評価におけるカットオフ値を新たに設定した.
5.踵骨超音波法は脊椎圧迫骨折のリスク評価おいて,特に重症例の評価において有用である.
6.MD法において橈骨遠位部の測定も可能であり,それはより鋭敏に閉経による変動をあらわす.
7.非Gla化オステオカルシンの測定は骨粗鬆症の臨床において有用と考えられる.

公開日・更新日

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