作業経験の異なる建設作業者のリスク回避の認知過程に関する特性分析とリスク回避行動促進のための支援デバイスの検討

文献情報

文献番号
202223007A
報告書区分
総括
研究課題名
作業経験の異なる建設作業者のリスク回避の認知過程に関する特性分析とリスク回避行動促進のための支援デバイスの検討
課題番号
21JA1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 明子(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 島田 行恭(独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
  • 菅間 敦(独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 リスク管理研究グループ)
  • 平内 和樹(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 新技術安全研究グループ)
  • 島崎 敢(近畿大学 生物理工学部 人間環境デザイン工学科)
  • 石垣 陽(電気通信大学 大学院情報理工学研究科情報学専攻)
  • 中嶋 良介(電気通信大学 大学院情報理工学研究科情報学専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
6,405,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建設業は死亡リスクの高い業種であり,様々な工学的対策(例えば,設備・保護具の使用の義務化)や管理的対策(例えば,法令で決められた安全教育,自主的な安全活動)が実施されているが,それらの対策だけでは“設備・保護具を適切に使用しない”,“危ないとわかっていて不安全な行動をする”などの労働者の意図的なリスクテイキング行動を防止するのは難しい.
建設業における労働者のリスクテイキング行動及びリスク回避行動に関して,国外では先行研究により要因等が検討されているが,社会制度や文化が異なるためそれらの知見を我が国へ適用できるかどうかは不明である.一方,我が国での先行研究は見当たらず,知見は非常に少ない.
労働者のリスクテイキング行動を抑制しリスク回避行動を促進するには,労働者の行動前に着目し,①労働者がなぜリスク回避行動(またはリスクテイキング行動)をとるのかという認知的要因を明らかにするアプローチと,行動後に着目し②労働者のリスクテイキング行動(またはリスク回避行動)を検出し評価するアプローチの両面からの研究を実施し,それらの知見を基に安全教育や安全対策へどのように展開するかについて検討することが重要である.①については建設作業者の労働災害リスク回避要因を定量的に明らかにするとともに,模擬作業現場での建設作業者への効果的な作業手順の教示方法等についても実験的に検討した.また,②については,メタ認知に着目し,建設作業者がリスクテイキング行動(またはリスク回避行動)をメタ認知の観点から評価することにより,それらをリスク回避行動の支援へつなげる方法について実験的に検討した.
研究方法
①「行動前」に着目したアプローチについて,令和4年度では,前年度に実施した建設作業者を対象としたインタビュー調査の結果と先行研究を基に,リスク回避行動を安全行動へ置き換え,建設作業者の安全行動を促進する要因について質問紙調査により定量的に検討した.また,模擬作業実験を実施するにあたって,前年度に実施した作業手順マニュアルの検討を基に,実際の建設現場についてIE(Industrial Engineering)手法を用いて実態調査を実施し,建設現場の作業特性について分析した.さらに,模擬作業現場において,非定型作業が含まれる課題を対象に,どのような作業に対して重点的な教育が必要であるか,作業手順についてどのように作業者に教示すべきかを実験的に検討した.
②「行動後」に着目したアプローチでは,労働者のリスクテイキング行動(またはリスク回避行動)をメタ認知の観点から評価するための実験系と評価体系を試作し,予備実験までを行った.本実験系では映像から被験者の姿を削除し背景と骨格モデルだけの映像(匿名化映像)に変換した.この骨格モデルと背景だけの匿名化映像を,脚立作業を行った被験者に(自身が映っていると知らせることなく)提示することで,自分自身に対する客観的な評価や,それに続くメタ認知能力の獲得,安全行動への変容のための介入を試みた.
結果と考察
これらの結果,建設作業者を対象とした質問紙調査では,安全知識・作業のスキル・状況認識・判断と安全行動の間に特定の認識・自覚が存在することや,「ケガ・事故後の自己・他者への影響の認識」が安全行動を間接的に促進する主要な変数であることが明らかとなった.また,実態調査と模擬作業現場の実験では,新人作業者に対しては作業手順マニュアル等を用いて適切に「教える」ということが効果的である可能性が示唆され,特に,脚立を用いる作業に対しては脚立上での作業域など想像しづらいことなどに対して重点的な教育が必要であることが明らかとなった.
脚立作業の骨格モデル化の評価とメタ認知能力向上実験では,予備実験の結果,安全性に関するメタ認知の先行研究と同様に,建設作業者の主観的視点は客観的視点よりも評価が高いことが示唆された.
結論
本研究では,建設作業者の「行動前」と「行動後」に着目した研究を実施した.令和4年度は,前者については質問紙調査により安全行動を促進する要因の特徴について定量的に明らかにできた.また,実態調査と模擬作業現場の実験により,新人作業者に対する適切な作業手順の教示方法と脚立作業の教示の問題点について明らかにできた.さらに,後者については,脚立作業の骨格モデル化の評価とメタ認知能力向上実験の予備実験の結果により,建設作業者のメタ認知の特徴を明らかにすることができた.今後は,引き続き研究を進めるとともに,これらの研究成果を基に有効な安全教育や安全対策について提案をまとめる予定である.

公開日・更新日

公開日
2023-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202223007Z