システム生物学的方法論による癌のバイオマーカー及び分子標的の探索

文献情報

文献番号
200924012A
報告書区分
総括
研究課題名
システム生物学的方法論による癌のバイオマーカー及び分子標的の探索
課題番号
H19-3次がん・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 典子(東京大学医科学研究所 システム生命医科学技術開発共同研究ユニット)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 隆志(国立がんセンター研究所 生物学部)
  • 黒田 雅彦(東京医科大学 病理学部)
  • 宮野 悟(東京大学医科学研究所 DNA情報解析分野)
  • 野村 将春(東京医科大学 第一外科学講座)
  • 西村 俊秀(東京医科大学 第一外科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
22,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
システム生物学的方法論を駆使して、癌という疾病を統合的に理解し、これまでの手法で得られなかった肺がん及び乳がんの新規バイオマーカー並びに新規分子標的を見いだす。
研究方法
 前年度得た139遺伝子シグネチャーを用いて、米国NCIプロジェクト及びDuke大学にて解析された肺がん遺伝子発現プロファイリング情報さらには国立がんセンター症例の遺伝子発現プロファイリング情報を用いて、汎用性の評価を行う。
 イレッサ感受性肺腺がん細胞株PC9、並びにイレッサ耐性を獲得したPC9zdの遺伝子発現プロファイルに、MetaGP解析を行う。
 2000-2008年の国立がんセンター中央病院手術摘出標本より、肺線がん病期I-II期の標本390例を解析する。
 前年度乳癌幹細胞の新規分子標的候補となったNFkBをさらに解析。
 肺癌のプロテオミクス解析は、a)縦隔リンパ節転移のある症例とない症例並びに、b)大細胞がん、小細胞がん、及び大細胞神経内分泌がんをLC/MS,MSにて解析する。
 EGFRの標的となりうるmiRNAの候補をin silicoにて抽出、機能解析行う。
結果と考察
1. 肺腺がん予後予測シグネチャーの評価
我々のシグネチャーは、すべての病期のみならず、病期Iの症例においても、精度高く予後を予測できた。体外診断薬として実用化を予定する。
2. イレッサなどのHERファミリー分子標的薬の効果予測新規バイオマーカー並びに新規分子標的の研究
PC9ZDはN-cadherin依存性に生存を維持しており、N-cadherinが、イレッサ耐性がんの新規分子標的候補と同定できた。
3. 肺腺がん手術摘出標本からの核酸調整及び診療情報の収集及び解析
年齢・性別・喫煙歴・病期・治療歴・無再発生存期間・全生存期間の情報を取得した。ゲノムDNAを対象に、EGFRおよびKRAS遺伝子変異を検索、遺伝子発現profileの取得を行った。
5. 乳がん幹細胞の研究
NFkB特異的阻害剤であるDHMEQ投与により、がん幹細胞スフェアアッセイの系で、スフェア形成能が著しく抑制され、NFkBが乳癌の新規分子標的と確認された。
6.肺がんのプロテオミクス解析
転移に関連するバイオマーカー候補、並びにがんの鑑別に有用なバイオマーカー候補を得た。
7. 機能性RNA(ncRNA)の研究
EGFRの標的となりうるmiRNA2種同定した。
結論
システム生物学をキーワードに、トランスクリプトーム、プロテオミクス、バイオインフォマティクスのこれまでにない形態での共同研究は、画期的な成果が出た。

公開日・更新日

公開日
2010-06-03
更新日
-

文献情報

文献番号
200924012B
報告書区分
総合
研究課題名
システム生物学的方法論による癌のバイオマーカー及び分子標的の探索
課題番号
H19-3次がん・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 典子(東京大学医科学研究所 システム生命医科学技術開発共同研究ユニット)
研究分担者(所属機関)
  • 河野 隆志(国立がんセンター研究所 生物学部)
  • 宮野 悟(東京大学医科学研究所 DNA情報解析分野)
  • 黒田 雅彦(東京医科大学 病理学部)
  • 野村 将春(東京医科大学 第一外科学講座)
  • 西村 俊秀(東京医科大学 第一外科学講座)
  • 平野 隆(東京医科大学 第一外科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
システム生物学的方法論を駆使して、癌という疾病を統合的に理解し、これまでの手法で得られなかった肺がん及び乳がんの新規バイオマーカー並びに新規分子標的を見いだす。
研究方法
 初代肺上皮由来細胞をシステム生物学的解析に供する。
 イレッサ感受性肺腺がん細胞株PC9、並びにイレッサ耐性を獲得したPC9zdの遺伝子発現プロファイルに、MetaGP解析などを行う。
 2000-2008年の国立がんセンター中央病院手術摘出標本より、肺線がん病期I-II期の標本390例を解析。
 ヒト乳癌細胞株を用いて、システム生物学的解析を行う。
 肺癌のプロテオミクス解析は、縦隔リンパ節転移のある症例とない症例並びに、大細胞がん、小細胞がん、及び大細胞神経内分泌がんの解析を行う。
 PPARgammaあるいはHER1の標的となりうるmiRNA候補をin silicoにて抽出する。
 
結果と考察
1. 肺腺がん予後予測シグネチャーの確立
肺腺癌のすべての病期のみならず病期Iの予後を精度よく予測する、画期的グネチャーを得ることに成功した。手術後補助療法の恩恵を受ける人を選別する、日本発世界標準診断薬として、実用化へ着手した。
2. イレッサなどのHERファミリー分子標的薬の効果予測新規バイオマーカー並びに新規分子標的の研究
N-cadherinが、イレッサ耐性がんの新規分子標的候補と同定できた。
3. 肺腺がん手術摘出標本の遺伝子発現プロファイリング解析
年齢・性別・喫煙歴・病期・治療歴・無再発生存期間・全生存期間の情報を取得した。EGFRおよびKRAS遺伝子変異を検索、遺伝子発現profileの取得を行った。
4. 乳がん幹細胞の研究
NFkBを始め、がんバイオマーカー候補を多数得た。NFkBが乳癌幹細胞の新規分子標的候補と確認できた。
5. 肺がんのプロテオミクス解析
転移に関連するバイオマーカー候補、並びにがんの鑑別に有用なバイオマーカー候補を複数得た。
6. 機能性RNA(ncRNA)の研究
PPARgamma及びHER1を標的とするmiRNAをそれぞれ7種及び2種同定した。




結論
システム生物学をキーワードに、トランスクリプトーム、プロテオミクス、バイオインフォマティクスのこれまでにない形態での共同研究は、画期的な成果が出た。さらに、知的財産の獲得、実用化へと着実な筋道がつけられている。本研究をさらに発展させることにより、21世紀の医療として注目されているがんの個別化医療へ着実に進めるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-06-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新しい数理統計理論を取り入れたシステム生物学的解析法は、従来の分子生物学の限界点を克服する形で、癌という複雑システムの統合解明のために、大変有用であることが、本研究によって、初めて示された。
臨床的観点からの成果
システム生物学的手法により得た我々の早期肺腺癌予後予測シグネチャーは、これまで報告されたどのシグネチャーよりも、汎用性並びに精度が高い。今後体外診断薬として開発を進める予定である。術後補助化学療法の恩恵を受ける「再発高危険度群」の選別を行い、肺がん患者の予後を改善できると考える。
ガイドライン等の開発
今後、早期肺癌の診断薬を開発する上で、ガイドラインの開発は必至になるであろう。
その他行政的観点からの成果
我々の得た肺癌診断システムや、革新的分子標的に対する分子標的抗がん剤が実用化されれば、明らかに治療成績の向上に貢献し、それぞれの患者に最適な個別化医療の発展へ寄与する。それ以外にCTなどの検査の頻度、抗癌剤、放射線治療の治療頻度、ホスピスなどの癌終末期医療の利用頻度の減少が見込まれる。医療費が適切に使われるようになり、最終的に医療費の削減に繋がる。
その他のインパクト
肺癌予後予測シグネチャーを得た論文は、現在投稿中であるが、これが出版されることが決定した際には、大きくマスコミに取り上げられることになるであろう。すでに、日経新聞などの記者には取材を受け、論文出版決定まで待っていただけるよう要請してある。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
78件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
8件
英文総説
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
38件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計12件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iejima, D., Takenaka, K., Minegichi, Y.,et al.,
FRS2β, a potential prognostic gene for non-small cell lung cancer, encodes a feedback inhibitor for EGF receptor family members via ERK binding.
Oncogene , 29 , 3087-3099  (2010)
原著論文2
Sato, T., Shimazaki, T., Naka, H., et al.
FGF-FRS2α-Erk axis controls a self-renewal target Hes1 and growth of neural stem/progenitor cells.
Stem Cells , 28 , 1661-1672  (2010)
原著論文3
Murohashi, M., Hinohara, K., Kuroda, M., et al.
Gene set enrichment analysis provides insight into novel signaling pathways in breast cancer stem cells.
British J. Cancer , 102 , 206-212  (2010)
原著論文4
Murohashi, M., Nakamura, T., Tanaka, S., et al.
An FGF4-FRS2α-Cdx2 axis-in trophoblast stem cells induces BMP4 to regulate proper growth of early mouse embryos.
Stem Cells , 28 , 113-121  (2010)
原著論文5
Yamauchi, M., and Gotoh, N.
Molecular mechanisms determining efficacy of EGF receptor-specific tyrosine kinase inhibitors help to identify biomarker candidates.
Biomarkers in Medicine , 3 , 139-151  (2009)
原著論文6
Minegishi, Y., Iwanari, H., Mochizuki, Y., et al.
Prominent expression of FRS2β protein in neural cells and its association with intracellular vesicles.
FEBS lett., , 583 , 807-814  (2009)
原著論文7
Sato T. and Gotoh, N.
The FRS2 family of docking/scaffold adaptor proteins as therapeutic targets of cancer treatment.
Expert Opinion on Therapeutic Targets , 13 , 689-700  (2009)
原著論文8
Gotoh, N.
Control of stemness by fibroblast growth factor signaling in stem cells and cancer stem cells.
Current Stem Cell Research & Therapy , 4 , 9-15  (2009)
原著論文9
Gotoh, N.
Feedback inhibitors of epidermal growth factor receptor signaling pathways.
Int. J. Biochem. Cell Biol. , 41 , 511-515  (2009)
原著論文10
Gotoh, N.
Regulation of growth factor signaling by FRS2 family docking/scaffold adaptor proteins.
Cancer Sci., , 99 , 1319-1325  (2008)
原著論文11
Kohno T, Otsuka A, Girard L, et al.
A catalog of genes homozygously deleted in human lung cancer and the candidacy of PTPRD as a tumor suppressor gene.
Genes Chromosomes Cancer , 49 , 342-352  (2010)
原著論文12
Kohno T, Kunitoh H, Shimada Y, el al.
Individuals susceptible to lung adenocarcinoma defined by combined HLA-DQA1 and TERT genotypes.
Carcinogenesis , 31 , 834-841  (2010)
原著論文13
Roy BC, Kohno T, Iwakawa R, et al.
Involvement of LKB1 in epithelial-mesenchymal transition (EMT) of human lung cancer cells.
Lung Cancer , 70 , 136-145  (2010)
原著論文14
Nakanishi H, Matsumoto S, Iwakawa R, et al.
Whole genome comparison of allelic imbalance between noninvasive and invasive small-sized lung adenocarcinomas.
Cancer Res , 69 , 1615-1623  (2009)
原著論文15
Iwakawa R, Kohno T, Anami Y, et al.
Association of p16 homozygous deletions with clinicopathological characteristics and EGFR/KRAS/p53 mutations in lung adenocarcinoma.
Clin. Cancer Res , 14 , 3746-3753  (2008)
原著論文16
Ogiwara H, Kohno T, Nakanishi H, et al.
Unbalanced translocation, a major chromosome alteration causing loss of heterozygosity in human lung cancer.
Oncogene , 27 , 4788-4797  (2008)
原著論文17
Kohno T, Kunitoh H, Suzuki K, et al.
Association of KRAS polymorphisms with risk for lung adenocarcinoma accompanied by atypical adenomatous hyperplasias.
Carcinogenesis , 29 , 957-963  (2008)
原著論文18
Takahashi K, Kohno T, Matsumoto S, et al.
Clonal and parallel evolution of primary lung cancers and their metastases revealed by molecular dissection of cancer cells.
Clin. Cancer Res. , 13 , 111-120  (2007)
原著論文19
Masatoshi Shigoka, Akihiko Tsuchida, Takaaki Matsudo, et al.
Deregulation of miR-92a expression is implicated in hepatocellular carcinoma development.
Pathology International. , 60 , 351-357  (2010)
原著論文20
Tanaka M, Oikawa K, Takanashi M, et al.
Down-regulation of miR-92 in human plasma is a novel marker for acute leukemia patients.
PloS ONE , 4 , 5532-  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
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