ヒトがんで高頻度に変異・発現亢進・活性化している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200924009A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトがんで高頻度に変異・発現亢進・活性化している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-009
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
北林 一生(国立がんセンター 研究所 分子腫瘍学部)
研究分担者(所属機関)
  • 堺 隆一(国立がんセンター 研究所 細胞増殖因子研究部)
  • 荒川 博文(国立がんセンター 研究所 生物物理部 )
  • 増富 健吉(国立がんセンター 研究所 がん性幹細胞研究プロジェクト)
  • 江成 政人(国立がんセンター 研究所 生物学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
52,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんの革新的な治療法の開発を目的として、がんの分子標的療法の標的として有効であることが期待される遺伝子産物の生物学的及び生化学的な機能やその分子経路の解明を行い、これらの作用を阻害する化合物をスクリーングし、分子標的治療薬の候補を同定する。
研究方法
(1) 化学療法に対して抵抗性を示すがん幹細胞の未分化性の維持や増殖を制御する因子、(2) ヒトがんで高頻度に活性が亢進し癌細胞の増殖に必須であるチロシンリン酸化シグナル伝達分子、(3) ヒトがんで異常を生じている様々な細胞死誘導経路、(4)、ヒトがんで高頻度に変異が認められるがん抑制遺伝子p53や白血病関連因子AML1の抑制因子、(5) ヒトがんで高頻度に発現が亢進しているテロメレース、などの作用機序を明らかにし、これらを標的とした阻害化合物を同定する。
結果と考察
急性骨髄性白血病において、M-CSF受容体の発現が高い細胞が白血病幹細胞であることを見出し、M-CSF受容体特異的チロシンキナーゼ阻害剤が発症を抑制することを見出した。固形腫瘍に足場非依存性を付与するチロシンリン酸化蛋白質CDCP1は、in vivoでがん細胞の転移・浸潤能に関わり、その高発現群は肺がんや膵がんの患者で有意に予後不良であることが示された。新規p53標的遺伝子としてUNC5A遺伝子, TMPS遺伝子, NEEP21遺伝子を同定し、これら遺伝子はカスペース依存性細胞死を誘導することを確認した。p53標的遺伝子として同定したMieap遺伝子が、オートファジー関連タンパク質としての機能を有し、ミトコンドリアの品質管理に重要な役割を果たす事実を見いだした。p53-Mdmx相互作用を阻害する低分子化合物を同定し、p53依存的にがん細胞を死滅させることを明らかにした。この化合物が野生型p53を持ちMdmxを過剰発現しているがん細胞に対する抗がん剤になり得ることが示唆された。テロメレース触媒コンポーネントのTERTがRNA依存性RNAポリメレース(RdRP)活性を有することを見出した。
結論
白血病幹細胞の増殖に必須であるM-CSF受容体、チロシンキナーゼの基質分子、ミトコンドリア経路、p53活性を抑制する因子、テロメレース制御因子が癌の分子標的として有効であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200924009B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒトがんで高頻度に変異・発現亢進・活性化している遺伝子を標的とした新たな治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-009
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
北林 一生(国立がんセンター 研究所 分子腫瘍学部)
研究分担者(所属機関)
  • 堺 隆一(国立がんセンター 研究所 細胞増殖因子研究部)
  • 荒川 博文(国立がんセンター 研究所 生物物理部 )
  • 増富 健吉(国立がんセンター 研究所 がん性幹細胞研究プロジェクト)
  • 江成 政人(国立がんセンター 研究所 生物学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がんの革新的な治療法の開発を目的として、がんの分子標的療法の標的として有効であることが期待される遺伝子産物の生物学的及び生化学的な機能やその分子経路の解明を行い、これらの作用を阻害する化合物をスクリーングし、分子標的治療薬の候補を同定する。
研究方法
がん幹細胞の未分化性の維持や増殖を制御する因子、チロシンリン酸化シグナル伝達分子、細胞死誘導経路、がん抑制遺伝子p53の抑制因子、テロメレース、などの作用機序を明らかにし、これらを標的とした阻害化合物を同定する。
結果と考察
急性骨髄性白血病において特に予後が不良であることが知られるMLL融合遺伝子やMOZ融合遺伝子が関与する白血病において、これらの融合遺伝子産物が転写因子PU.1と結合することによりM-CSF受容体の発現を誘導することを見出した。M-CSF受容体の発現が高い細胞が急性骨髄性白血病幹細胞であり、M-CSF受容体特異的チロシンキナーゼ阻害剤が発症を抑制することから、M-CSF受容体を治療の分子標的となることを示した。腫瘍の足場非依存性やマトリックス分解能に関わるCDCP1蛋白質、酸化ストレス抵抗性に関わる新規蛋白質Ossa、細胞間接着・運動能などに関わるephrin-B1などがどれもSrcファミリーの基質として転移・浸潤など腫瘍に密接する生物学的機能に関わることを明らかにした。新規p53標的遺伝子としてUNC5A遺伝子, TMPS遺伝子, NEEP21遺伝子を同定し、強力な細胞増殖抑制を認めた。Mieap蛋白質はミトコンドリアのオートファジーを制御することを明らかにした。がん抑制タンパク質p53の活性化を阻害する因子とp53との結合量を定量する実験系を確立し、p53とMdmxとの相互作用を阻害する化合物を単離し、がん細胞の増殖を抑制することを明らかにした。逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメレース)として知られるテロメレース触媒コンポーネントのTERTがRNA依存性RNAポリメレース(RdRP)活性を有することを見出した。
結論
白血病幹細胞に発現するM-CSF受容体、チロシンキナーゼ基質分子CDCP1、ミトコンドリアのオートファジーを制御するMeap、p53を抑制するmdm2、テロメレース制御因子が癌の分子標的として有効であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
急性骨髄性白血病においてにおいて、M-CSF受容体の発現が高い細胞が白血病幹細胞であることを見出した。チロシンリン酸化蛋白質CDCP1は、in vivoでがん細胞の転移・浸潤能に関わり、その高発現群は肺がんや膵がんの患者で有意に予後不良であることが示された。新規p53標的遺伝子としてUNC5A遺伝子, TMPS遺伝子, NEEP21遺伝子を同定し、これら遺伝子はカスペース依存性細胞死を誘導することを確認した。p53標的遺伝子Mieapが、ミトコンドリアの品質管理に重要であることを見いだした。
臨床的観点からの成果
ヒト急性骨髄性白血病の幹細胞におけるM-CSFRの発現を解析し、15例中14例でM-CSFRの発現が正常造血幹細胞に比べて非常に高い(平均18倍)ことを明らかにした。いくつかのM-CSFRチロシンキナーゼ阻害剤を白血病発症マウスに投与し、これらが発症を抑制する効果があることを見出した。中央病院及び製薬企業と共同で臨床試験を行うことを検討している。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
下記の新聞に記事が記載された。
日本経済新聞(平成21年9月28日号)
「がん、幹細胞狙い再発防ぐ」
朝日新聞(平成22年5月11日)
「急性骨髄性白血病 幹細胞を狙い治療 国立がん研究センター」

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
44件
その他論文(和文)
12件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
67件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計4件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Aikawa Y, Katsumoto K, Zhang P et al.
PU.1-mediated upregulation of M-CSFR is critical for leukemia stem cell potential induced by MOZ-TIF2.
Nat Med , 16 , 580-585  (2010)
原著論文2
Rokudai S, Aikawa Y, Tagata Y et al.
MOZ interacts with p53 to induce p21 expression and cell-cycle arrest.
J Biol Chem. , 284 , 237-244  (2009)
原著論文3
Shima Y, Shima T, Chiba T et al.
PML activates transcription by protecting HIPK2 and p300 from SCF/Fbx3-mediated degradation.
Mol Cell Biol. , 28 , 7126-7138  (2008)
原著論文4
Tagata Y., Yoshida H, Nguyen LA et al.
Phosphorylation of PML is essential for activation of C/EBPe and PU.1 to accelerate granulocytic differentiation.
Leukemia , 22 , 273-280  (2008)
原著論文5
Ono M, Yaguchi H, Ohkura N et al.
Foxp3 controls regulatory T cell function via interacting with AML1/Runx1.
Nature , 446 , 685-689  (2007)
原著論文6
Li XL, Arai Y, Harada H et al.
Mutations of the HIPK2 gene in acute myeloid leukemia and myelodysplastic syndrome impair AML1- and p53-mediated transcription.
Oncogene. , 26 , 7231-7239  (2007)
原著論文7
Yoshida H, Ichikawa H, Tagata Y et al.
PML-RARA inhibits PML IV enhancement of PU.1-induced C/EBPe induced-expression in myeloid differentiation.
Mol. Cell. Biol. , 27 , 5819-5834  (2007)
原著論文8
Miyazawa,Y, Uekita,T, Hiraoka, N et al.
CDCP1, a prognostic factor for human pancreatic cancers, promotes cell migration and extracellular matrix degradation.
Cancer.Res.  (2010)
原著論文9
Tanaka, M, Kamata, R, Yanagihara, K et al.
Suppression of gastric cancer dissemination by ephrin-B1-derived peptide.
Cancer Sci. , 101 , 87-91  (2010)
原著論文10
Futami, H, Sakai, R
RET protein promotes non-adherent growth of NB-39-nu neuroblastoma cell line.
Cancer Sci. , 100 , 1034-1039  (2009)
原著論文11
Miyake, I, Ohira, M, Nakagawara, A et al.
Phosphorylation of Runx1 at Ser249, Ser266, and Ser276 is dispensable for bonemarrow hematopoiesis and thymocyte differentiation.
Oncogene , 28 , 662-673  (2009)
原著論文12
Tanaka, M, Sasaki, K, Kamata, R et al.
Phosphorylation of PML is essential for activation of C/EBPe and PU.1 to accelerate granulocytic differentiation.
Mol Cel. Biol. , 29 , 402-413  (2009)
原著論文13
Uekita, T, Tanaka, M, Takigahira, M et al.
CUB-domain containing protein 1 regulates peritoneal dissemination of gastric scirrhous carcinoma.
Am J Pathol. , 172 , 1729-1739  (2008)
原著論文14
Jia, L, Uekita, T, Sakai, R
Hyperphosphorylated cortactin in cancer cells plays an inhibitory role in cell motility by regulating tyrosine phosphorylation of p130Cas.
Mol Cancer. Res. , 6 , 654-662  (2008)
原著論文15
Uekita, T, Jia, L, Narisawa-Saito, M et al.
CUB domain-containing protein 1 is a novel regulator of anoikis resistance in lung adenocarcinoma.
Mol Cell Biol. , 27 , 7649-7660  (2007)
原著論文16
Tanaka, M, Sasaki, K, Kamata, R et al.
Carboxyl terminus of ephrin-B1 regulates metalloproteinase secretion and invasion of cancer cells.
J Cell Sci. , 120 , 2179-2189  (2007)
原著論文17
Futamura M, Kamino H, Miyamoto Y et al.
Possible role of Semaphorin 3F, a candidate tumor suppressor gene at 3p21.3, in p53- regulated tumor angiogenesis suppression
Cancer Res. , 67 , 1451-1460  (2007)
原著論文18
Maida Y, Yasukawa M, Furuuchi M et al.
An RNA dependent RNA polymerase formed by TERT and the RMRP RNA
Nature , 461 , 230-235  (2009)
原著論文19
Ohata H, Ota N, Shirouzu N et al.
Identification of a function-specific mutation of clathrin heavy chain (CHC) required for p53 transactivation.
J. Mol. Biol. , 394 , 460-471  (2009)
原著論文20
Ohmori K, Endo Y, Yoshida Y et al.
Monomeric but not trimeric clathrin heavy chain regulates p53-mediated transcription.
Oncogene , 27 , 2215-2227  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-