がん病理・病態学的特性の分子基盤の解析とそれに基づく診断・治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200924008A
報告書区分
総括
研究課題名
がん病理・病態学的特性の分子基盤の解析とそれに基づく診断・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
落合 淳志(国立がんセンター東病院臨床開発センター 臨床腫瘍病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 保典(慶應義塾大学医学部)
  • 坂元 亨宇(慶應義塾大学医学部)
  • 加藤 光保(筑波大学大学院)
  • 平尾 敦(金沢大学がん研究所)
  • 平岡伸介(国立がんセンター研究所)
  • 神奈木玲児(愛知県がんセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
52,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん組織に特徴的な病理形態・病態はがんの悪性度と強い相関を示し、これら病理・病態学的変化はがんの生物像を規定する分子基盤に関わっていることが強く推察される。1)膵臓がんの神経浸潤モデルを作製し、神経浸潤距離と体重減少、疼痛、血清中のIL-6量が強い相関があることが示された。2)分化型ヒト扁平上皮がん幹細胞マーカーであるポドプラニンの機能を阻害した。3)血管周囲外膜より培養した間質線維芽細胞はヒト肺腺癌細胞の免疫不全マウスにおける生着に関わることを示した。4)ヒト膵がん患者のIL-6のシグナルを阻害する抗IL-6受容体抗体治療の第一相臨床試験を膵臓がん患者に対して行った。
研究方法
1)膵臓がんの神経浸潤モデルを用いて、マウスの食餌量と体重変化ならびに疼痛の変化を調べた。また、脊髄の組織における分子発現を免疫組織学的に行った。
2)分化型ヒト扁平上皮がん幹細胞マーカーであるポドプラニンの機能を検討した。
3)間質線維芽細胞の産生するポドプラニンの発現を変化させ、腫瘍形成能を確認した。
4)神経浸潤モデルで見出された膵がん患者のIL-6のシグナルを阻害する抗IL-6受容体抗体治療の第一相臨床試験を膵臓がん患者に対して行った。
結果と考察
1)膵臓がんの神経浸潤モデルにおいて、神経浸潤距離に相関して食餌量減少を伴わない体重減少、疼痛の増加が認められ、悪液質・異痛に対する新しい動物モデルとして考えられた。
2)分化型ヒト扁平上皮がんA431細胞を用いてがん幹細胞マーカーであるポドプラニンの機能を阻害すると、A431細胞の免疫不全マウスにおける腫瘍形成が低下した。また、ポドプラニン発現が変化することで、抗癌剤に対する薬剤耐性能も変化することが示された。
3)血管外膜由来線維芽細胞の発現するポドプラニンを抑制すると、腫瘍形成能が抑制された。また、ポドプラニン発現抑制によりコロニー形成が低下した。
4)神経浸潤モデルで見出された膵がん患者のIL-6のシグナルを阻害する抗IL-6受容体抗体治療の第一相臨床試験を膵臓がん患者に対して行った。
結論
今年度の成果により、がん生物像に関わる新しい分子基盤の研究がすすみ、その一部は臨床への応用がすすめられた。今後、その他の分子機構に関してもモデル作製で得た情報を基に治療への応用を展開できると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-06-22
更新日
-

文献情報

文献番号
200924008B
報告書区分
総合
研究課題名
がん病理・病態学的特性の分子基盤の解析とそれに基づく診断・治療法の開発に関する研究
課題番号
H19-3次がん・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
落合 淳志(国立がんセンター東病院臨床開発センター 臨床腫瘍病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田 保典(慶應義塾大学医学部)
  • 坂元 亨宇(慶應義塾大学医学部)
  • 加藤 光保(筑波大学大学院)
  • 平尾 敦(金沢大学がん研究所)
  • 平岡 伸介(国立がんセンター研究所)
  • 神奈木 玲児(愛知県がんセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん生物像は、がん細胞の遺伝子変化の積み重ねにのみ規定されるだけでなくがん周囲微小環境が重要な役割を果たしていると考えられる。特に、がんに特異的な病理・病態はがんの悪性度と強い相関を示し、これら病理・病態学的変化はがんの生物像を規定する分子基盤に関わっていることが強く推察される。
研究方法
1)がん浸潤性増殖ならびにがん生物像に相関する特徴的な病理形態・病態を示す転移モデルの作製と、その分子機構の解明を試みた。2)MMP13およびADAM28の機能を明らかにした。3)基底細胞がんの発癌過程に関わる分子機構を検討した。4)肝細胞がんの腫瘍径、分化度、門脈侵襲、肝内転移、切除後の再発期間に関わるTGFβの分子機構を検討した。また、食道がん、肺の扁平上皮がんにおけるTGFβ分子機構を検討した。5)幹細胞GFP標識システムを用いてがん幹細胞の局在の変化を調べた。扁平上皮がん幹細胞の同定を試みた。6)ヒト膵多段階発がん過程における宿主免役反応性の変化とその分子機序について検討した。7)がん細胞糖鎖機能に関わる癌微小環境の作用を検討した。
結果と考察
1)膵がん神経浸潤モデルでは、悪液質やがん性疼痛のモデルとして有用であることを明らかにした。抗IL-6受容体抗体を用いたヒト膵がん患者治療の臨床第一相試験を開始した。2)ADAM28の体液中の測定法の開発とADAM28新規基質をがVWFであり、その切断部位を決定した。3)基底細胞がんにおいてEndotherin-2(EDN2)遺伝子が高発現し、Gli1に直接制御されていることを示した。4)TGFBR2の発現低下は肝細胞がんの臨床病理、再発期間と有意に相関し、悪性度の指標となることを示した。また、TGF-βにより活性化されるTHG1は食道がん、肺の扁平上皮がんで発現が亢進していることを示した。5)GFP強陽性分画に腫瘍源性を持つ細胞は“がん幹細胞”であることを示した。扁平上皮がん幹細胞にはポドプラニン(PDPN)が関わっていることを明らかにした。6)ヒト膵多段階発がん過程における抗腫瘍免疫反応が、前がん病変初期で確認されるが、進行した病変で免疫寛容に向かうことを見出した。7)。悪性リンパ腫や白血病における悪性Bリンパ球と血管内皮とのあいだの細胞接着はリンパ球側のCD22と血管内皮側の糖鎖リガンドとの結合にることを明らかにした。
結論
がんに特異的な病理・病態はがんの悪性度と強い相関を示し、これら病理・病態学的変化はがんの生物像を規定する分子基盤に関わっていることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2010-06-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200924008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
がんの生物像はがん細胞の遺伝子変化の蓄積に規定されるのではなく、がん細胞とがん組織を構築する間質線維芽細胞とが創り出すがん微小環境により大きく影響を受けることを、動物モデルや試験管内モデルを用いて検討し、様々ながんの発生進展に関わる新しい分子基盤を明らかにした。特に膵臓がん神経進展に関わるモデル解析により見つけられたIL-6の分子機構の解明により、ヒト膵臓がん患者の治療に対する新しい分子標的治療法の開発が行われた。
臨床的観点からの成果
本研究班では、様々な病理形態に関わる分子基盤の研究を行ってきたが、その中で初めて明らかになった分子基盤として、ヒト膵がんの神経進展と悪液質があり、この分子基盤に関わるIL-6を標的とした世界で初めての分子標的療法がヒト膵臓がん患者に応用された。今後、これらの分子基盤を基にした新しい治療法の研究が発展することは極めて臨床的に意義が深いと考えられる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
149件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
57件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計5件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yonou H, Ochiai A,et al.
The bisposphonate YM529 inhibits osteoblastic bone tumor proliferation of prostate cancer.
Prostate , 67 (9) , 999-1009  (2007)
原著論文2
Okada Y.
Modulation of the microenvironment and adhesion of cancer cells by ADAMs (a disintegrin and metalloproteinases)
Verh. Dtsch. Ges. Path. , 91 , 29-38  (2007)
原著論文3
Takubo K, Ohmura M,Sakamoto N, et al.
Stem cell defects in ATM-deficient undifferentiated spermatogonia through DNA damage-induced cell cycle arrest
Cell Stem Cell , 2 , 170-182  (2007)
原著論文4
Iwanaga A, Sato T, Hirao A, et al.
Neural-specific ablation of the scaffold protein JSAP1 in mice causes neonatal death.
Neurosci Lett. , 429 , 43-48  (2007)
原著論文5
Shiozaki H, Nakanishi Y, et al.
Clinical significance of immunohistochemically detected lymph node micrometastasis in patients with histologically node-negative esophageal carcinoma: a multi-institutional study.
Esophagus , 4 , 35-39  (2007)
原著論文6
Go S, Sato C, Kannagi R, et al.
Hypoxia-enhanced expression of free deaminoneuraminic acid in human cancer cells
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 357 , 537-542  (2007)
原著論文7
Ito TK, Ishii G,Ochiai A, et al.
Degradation of soluble VEGF receptor-1 by MMP-7 allows VEGF access to endothelial cells.
Blood. , 113 (10) , 2363-2369  (2008)
原著論文8
Takaishi H., Kimura T, OkadaY, et al.
Joint diseases and matrix metalloproteinases: A role for MMP-13.
Curr. Pharm. Biotechnol. , 9 , 47-54  (2008)
原著論文9
Tanese K, Fukuma M, Sakamoto M, et al.
G-Protein-Coupled Receptor GPR49 is Up-regulated in Basal Cell Caricinoma and Promotes Cell Proliferation and Tumor Formation.
Am J Pathol , 173 , 835-843  (2008)
原著論文10
Wang B, Suzuki H, Kato M
Roles of mono-ubiquitinated Smad4 in the formation of Smad transcriptional complexes.
Biochem Biophys Res Commun , 376 (2) , 288-292  (2008)
原著論文11
Oguma K, Oshima H, Hirao A, et al.
Activated macrophages promote Wnt signalling through tumour necrosis factor-alpha in gastric tumour cells.
EMBO J. , 27 , 1671-1681  (2008)
原著論文12
Zhang H, Yoshioka S, Kannagi R, et al.
Core 2 GlcNAc modification and megalin ligand-binding activity.
Biochim. Biophys. Acta , 1780 , 479-485  (2008)
原著論文13
Shichuan Z, Hayashi R, Ochiai A, et al.
Total Microvessel Perimeter Per Tumor Area Is a Predictor of Radiosensitivity In early-Stage Glottic Carcinoma.
Int.J.Radiation Oncology Biol.Phys , 73 , 1104-1109  (2009)
原著論文14
Tanese K, Fukuma M, Sakamoto M,et al.
Endothelin-2 is upregulated in basal cell carcinoma under control of Hedgehog signaling pathway.
Biochem Biophys Res Commun. , 391 , 486-491  (2010)
原著論文15
Mochizuki S. Okada Y
ADAM28 as a target for human cancers.
Curr. Pharm. Des. , 15 , 2349-2358  (2009)
原著論文16
Itoh F, Itoh S, Kato M, et al.
Poor Vessel Formation in Embryos from Knock-in Mice Expressing ALK5 with L45 Loop Mutation Defective in Smad Activation.
Lab Invest , 89 , 800-810  (2009)
原著論文17
Nara S, Onaya H, Hiraoka N, et al.
Preoperative evaluation of invasive and noninvasive intraductal papillary-mucinous neoplasms of the pancreas: clinical, radiological, and pathological analysis of 123 cases.
Pancreas , 38 , 8-16  (2009)
原著論文18
Yamakoshi K, Takahashi A, Hirao A, et al.
Real-time in vivo imaging of p16Ink4a reveals cross talk with p53.
J Cell Biol. , 186 , 393-407  (2009)
原著論文19
Yang Z, Wu J.H., Kannagi R, at al.
Expression of sialyl Lex, sialyl Lea, Lex and Ley glycotopes in secreted human ovarian cyst glycoproteins.
Biochimie , 91 , 423-433  (2009)
原著論文20
Ebisuno, T., Katagiri, Kannagi R, et al.
Rap1 controls lymphocyte adhesion cas-cades and interstitial migration within lymph nodes in a RAPL-dependent and independent manner.
Blood , 115 , 804-814  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-09-30
更新日
-