骨粗鬆症治療薬の開発に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
199700613A
報告書区分
総括
研究課題名
骨粗鬆症治療薬の開発に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
須田 立雄(昭和大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口朗(昭和大学歯学部)
  • 田中栄(東京大学医学部)
  • 赤松穰(明治製菓(株)薬品総合研究所)
  • 堀正幸(旭化成工業(株)骨代謝研究所)
  • 久保田直樹(中外製薬(株)創薬研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)本研究では、IL-1による破骨細胞の延命効果の作用機序を詳細に検討した。(2)最近、我々は転写因子Cbfa1のノックアウトマウス[Cbfa1 (-/-)]では全身の骨が形成されていないことを明らかにした。本研究ではCbfa1 (-/-)マウス頭蓋冠から採取した培養細胞の性状を解析した。(3)破骨細胞の骨吸収メカニズムを知り、その機能を調節することが重要である。本研究では破骨細胞への遺伝子導入法としてのアデノウイルスベクターの有用性を検討した。(4)本研究では、ラット卵巣摘出 (OVX) モデルを用い、チルドロネートの骨減少防止効果に賦与されたCaがどのような与える影響を調べた。(5)今回、卵巣摘出 (OVX) 成熟ラットにヒトPTH(1-34) を 予防的及び治療的に投与し、その骨量減少に対する効果を検討した。(6)我々は骨量増加作用が極めて強いビタミンD誘導体としてED-71を見出した。本研究では ED-71の骨形成促進という特性に着目し、骨粗鬆症モデルに比べて骨形成が評価しやすいウサギ脚延長モデルを用いて検討した。
研究方法
(1)マウス骨芽細胞と骨髄細胞をコラーゲンゲル上で共存培養し、破骨細胞の形成を促した。破骨細胞はコラゲナーゼとプロナーゼ処理により純化した。純化した破骨細胞を用いて、IL-1受容体やNF-κBの核移行を検討した。更にプロテアソーム阻害剤であるZLLLalあるいはNF-κB に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドで破骨細胞を前処理し、NF-κBの核移行、DNAの断片化等を計測した。(2)胎生18.5日のCbfa1ノックアウトマウスの頭頂骨形成予定域より線維性結合組織を採取し、コラーゲンゲル内で14日間培養した。ゲル内で組織片より遊走した細胞を継代培養し、10種類のクローン化細胞株を分離した。これらの細胞においてBMP-2に反応性の高い細胞株と低い細胞株があることが判明した。前者の代表としてC6細胞を、後者の代表としてC2細胞を選び、その性状を母細胞と比較解析した。(3)ヒト骨巨細胞腫より得た多核細胞(ヒトOCL)およびマウス共存培養によって得られた多核細胞(マウスOCL)を使用した。非増殖型の組換えアデノウイルスに目的遺伝子(LacZおよびEGFレセプター遺伝子)を挿入し、アデノウイルスベクターを得た。遺伝子の発現はX-galを用いた酵素染色等で確認した。破骨細胞の骨吸収能は、象牙質切片上に形成された吸収窩の面積を測定することによって定量した。(4)9カ月齢の雌性ラットに偽手術 (Sham) またはOVXを施し、手術直後より0.125、0.25、0.5、1.0%Ca調製飼料でラットを飼育した。OVXモデルを用い、賦与されたCaがチルドロネートの骨減少予防効果に与える影響を調べた。(5)6ヶ月齢のFischer系雌性ラットに偽手術 (sham) あるいはOVXを施した。手術直後より、あるいは手術後6ヶ月目より溶媒あるいはヒトPTH(1-34) (1.5, 6, 30, 60μg/kg ) を6ヶ月間投与した。脛骨の骨密度、血清中のオステオカルシン (BGP) 濃度、左右大腿骨の骨密度と骨幹部の3点曲げ強度等を測定した。(6)新規ビタミンD誘導体ED-71の骨形成促進作用について、ウサギ脚延長モデルを用いて評価した。10週齢のJw/csk rabbit雄性ウサギの下腿骨に創外固定器(Orthofix M-100)を装着した。骨幹部で骨切りを行った後仮骨を形成させた。10日目より1日1 mm の延長速度で10日間、合計10 mmの仮骨延長を行った。薬剤を投与し、延長終了後1、2、および3週目の各時点で骨密度等を測定した。
結果と考察
(1)RT-PCR法および免疫染色より破骨細胞がIL-1受容体を発現していることを確認した。また、NF-κBの核への移行は一過性に認められ、それはIκBの分解
と相関した。破骨細胞をZLLLalで前処理すると、NF-κBの核への移行は抑制された。また、破骨細胞をIL-1非存在下で培養すると、DNAの断片化が検出され、IL-1はこれを阻害した。また、ZLLLalで前処理後、IL-1存在下で培養してもDNAの断片化は検出された。NF-κBに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドで前処理すると、NF-κB の発現が特異的に抑制され、IL-1による延命効果が抑制された。本研究の結果より、IL-1による破骨細胞の延命効果にNF-κBの活性化が関与することが示唆された。(2)C2, C6細胞をBMP-2で処理すると、ALP活性はC6細胞で15倍上昇したが、C2細胞では3.7倍しか上昇しなかった。転写因子Dlx5のmRNAの発現レベルは、母細胞よりC2とC6細胞の方が高かった。BMP-2は各細胞のDlx5 mRNAの発現レベルを上昇させた。母細胞、C2, C6細胞をBMP-2で処理すると軟骨様細胞の数が増加した。C2およびC6細胞をrhBMP-2と共にdiffusion chamberに入れて移植すると軟骨組織が形成されたが、骨形成は認められなかった。軟骨組織の出現はC6細胞で顕著であった。この結果は、Cbfa1は骨形成に重要な転写因子であるが、Cbfa1の転写が起こらなくてもBMP-2が誘導する他の転写因子を介して骨芽細胞前駆細胞はオステオカルシンを発現する段階までは分化できることを示している。(3)LacZ遺伝子を発現する組換えアデノウイルスを用いて破骨細胞への遺伝子導入が可能であることが判明した。EGFレセプターを発現する組換えアデノウイルスをマウス破骨細胞様細胞に感染させたところ、明らかなEGFレセプターの発現が免疫染色およびウエスタンブロットで確認された。また、EGF刺激に伴って、数種の蛋白のチロシンリン酸化が認められた。EGFレセプターを発現した破骨細胞をEGFで刺激すると、吸収窩の形成はEGFによって用量依存性に抑制された。本研究においてわれわれは、アデノウイルスベクターを利用することによって非常に効率良く破骨細胞に遺伝子導入が可能であることを明らかにした。(4)Shamラットにおいては、0.125%および0.25% のCa調製飼育により脛骨近位部BMD変化率は初期値に比べていずれも約5%減少した。OVXラットにおいてはいずれの低Ca調製飼料でも術後12週で脛骨と腰椎のBMDは減少し、骨減少モデルの成立を確認した。チルドロネートによる骨吸収抑制効果は脛骨と腰椎でともに認められたが、Ca賦与のみでも維持効果が現れている腰椎BMDに対しては骨吸収抑制効果の寄与は少なく、Ca賦与のみでは効果の少ない脛骨BMDに対してはその寄与が大であった。以上の結果は、チルドロネートとCaの併用は有効である事を示唆する。(5)OVX群による骨量減少の病態モデルにおいて、ヒトPTH(1-34)は予防的投与および治療的投与のいずれも投与開始後より用量依存的に骨量を回復させた。このPTHの投与は骨量の増加が骨の力学的強度の増加を伴っていることが示され、閉経後骨粗鬆症あるいは卵巣摘出後骨粗鬆症に対する効果的な治療薬になると考えられた。(6)延長部骨密度はD-71投与群では、vehicle群と比較して高い骨密度を示した。一方、1,25D投与群およびPTH投与群では、骨密度測定を行ったいずれの時点においてもvehicle投与群との間に差は認められなかった。ED-71投与群では、血清Caが正常範囲を逸脱することなしに骨密度が上昇していた。ED-71はCa吸収亢進作用と骨芽細胞活性化作用の両者を併せ持つことで効率的に仮骨の石灰化を促進させ、著しい骨密度増加作用を示すと考えられた。
結論
(1)IL-1は骨芽細胞に作用して破骨細胞の形成を促進するだけでなく、破骨細胞にも直接作用してその延命を促進することが考えられた。(2)骨芽細胞前駆細胞はCbfa1が存在しなくてもBMPで誘導される他の因子を介してオステオカルシンを産生する段階までは分化できることが示された。(3)アデノウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は骨吸収性疾患の遺伝子治療法として有用であることが示された。(4)チルドロネートはOVXラットの脛骨、腰椎のBMD減少を防止した。また、チルドロネートとCa賦与の併用は有効である事が判明した。(5)ヒトPTH(1-34)の週1回の皮下投与はOVX成熟ラットの骨量減少に対
して予防的効果および治療的効果を示した。(6)ED-71は腸管からのCa吸収亢進とともに骨芽細胞の活性化させる可能性が示唆された。

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