レジリエント・ヘルスケアによる医療の質向上・安全推進に資する研究

文献情報

文献番号
202222044A
報告書区分
総括
研究課題名
レジリエント・ヘルスケアによる医療の質向上・安全推進に資する研究
課題番号
21IA2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
中島 和江(国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
1,970,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
レジリエント・ヘルスケア(RHC)理論に基づく医療安全への統合的アプローチを実践するための教育リソース「RHC教育・実践ガイド」を開発することを目的とし、これらを用いて全国の医療機関で先行的安全マネジメントが展開できるようにすることを目指すものである。
研究方法
研究2年目である今年度は全6回の研究班会議を開催し、開発すべきコンテンツのテーマを絞りこみ、各研究者で分担して教育コンテンツを開発し、それらの内容に関してブラッシュアップを図った。研究班会議のうち1回はオンライン国際会議とし、医療安全施策においてSafety-IIを推進しているオランダの先進的取り組みを学び、教材化した。これらの開発教材を用いて各種学会や医療機関の研修会等で講義やワークショップを行った。また、本教材公開用ホームページのユーザーインターフェイスデザインについても検討した。
結果と考察
【結果】実践例の教材として、①Safety-IIによる薬剤部調剤室の業務中断問題の解決、②Safety-IIによる手術室における輸血手順の改訂、③ロボット支援下食道切除術において「やりにくい」を「やりやすい」に変えるサブスコープの使用、④腹膜透析患者同士(peer-to-peer)のサポートによる適応キャパシティの拡張、の4つを作成した。解説教材として、①多職種手術チームによるレジリエンスの発揮、②不確実性と時間の制約下での麻酔科医の意思決定、③「適応キャパシティのしなやかな拡張」理論、④COVID-19パンデミック下での大学病院におけるレジリエンスの発揮、⑤高齢者医療における統合的アプローチ、⑥Safety-II 実践のために安全管理者が行うべきこと(論文日本語訳)、⑦オランダの医療政策におけるSafety-II推進の取り組み、の7つを作成した。Safety-IIにより安全上の課題解決を行った実践例(薬剤部調剤室の中断問題の解決)については、英文雑誌に掲載された。
 開発したコンテンツを用いて様々な専門領域の医療系学会や医療機関等での講演、指導医講習会や看護管理研修等において教育を行い、受講者との対面での意見交換や講演会主催者によるアンケート等を通じてフィードバックを得たところ、理論の理解や実践への関心を導くことができ、本教材がSafety-Ⅱの教育資材として活用可能と考えられた。
【考察】教材開発を通じて、Safety-IIの実践に関して次のようなことが明らかになった。
① Safety-IIはインシデント事例をきっかけとして行うことが可能であること
② Safety-IIでは、システムを広く見て、複数のシステム間の相互作用から創発する問題を同定したり、人々のパフォーマンスの調整によってマスクされている業務遂行上の制約や困難さを理解すること
③ Safety-IIにおける医療安全対策では、「やりにくい」を「やりやすい」へ変える方法(システムやプロセスの再設計等)を見出すこと
④ 原因分析や安全対策の検討においては、ステークホルダー間の意見調整を行う者が必要であること
⑤ 個人、部署、組織等がパフォーマンスの破綻(例えば、事故の発生)を来さないためには、適応キャパシティのしなやかな拡張が不可欠であり、そのためには時機を逸することなく、ネットワーク内で境界を越えて協働する必要があること
⑥ 医療安全部門や医療安全管理者は、将来起こりうることを想定し、対応の準備をし、各部署の活動をシンクロさせ、組織が学習及び成長できるように活動し、適応能力誘導型の安全マネジメントを行うこと
⑦ RHC理論はつながりを通じたレジリエンスの発揮(適応能力向上)のための統合的アプローチであることから、医療安全(Safety-II)にとどまらず、看護管理や経営、COVID-19への対応、医療の質の向上、患者のウエルビーイング向上等にも適用できること
⑧ Safety-IIの実践やレジリエンスの発揮を通じた先行的安全マネジメントが推進されるような国の医療安全施策が必要であること。
結論
今年度もRHC教育・実践ガイドの教材開発を継続し、新たに7つのコンテンツを作成した。また、国際会議を開催し、オランダの医療安全施策におけるSafety-IIの推進状況等ンいついて情報を収集した。開発した教材を用いて、医療機関における医療安全研修会や各種学会の専門医共通講習会等において教育を実施した。

公開日・更新日

公開日
2023-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-19
更新日
2023-07-24

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202222044B
報告書区分
総合
研究課題名
レジリエント・ヘルスケアによる医療の質向上・安全推進に資する研究
課題番号
21IA2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
中島 和江(国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
分析的アプローチを用いたインシデント事例の原因分析と再発防止を中心とした現在の医療安全管理には限界が指摘されている。近年、安全科学の新しい考え方として、レジリエンス・エンジニアニリング(RE)理論とその医療版であるレジリエント・ヘルスケア(RHC)理論が提唱され、統合的アプローチに基づく安全マネジメントが発展しつつあるが、その実践手法は未確立である。本研究は医療安全への統合的アプローチ(Safety-II)を実践するための「RHC教育・実践ガイド」を開発することを目的とし、全国の医療機関における先行的安全マネジメントの展開を目指すものである。
研究方法
2年間で計14回の研究班会議を開催した。RHCに関する国際的知見および研究メンバーの臨床実践・教育例を集約し、ガイドに盛り込むべき概念を抽出し、教材を開発した。班会議のうち1回は公開オンライン国際会議とし、オランダの医療安全施策におけるSafety-IIの推進に関する講演会を開催した。また、開発教材公開用のWebサイトのユーザーインターフェイスデザインについても検討を行った。
結果と考察
【結果】23教材(うちRHC理論キーコンセプトは15の用語)を開発し、次の8カテゴリーに分類しウエッブサイトに公開予定である。研究目的(1. 複雑なシステムにおいて成功を確実にするための新たな安全マネジメントの理論と実践のための教育リソース開発)、RHC理論(2. RHC理論キーコンセプト、3. レジリエント・ヘルスケアに対するブリコラージュ的な探索的検討、4. 不確実性と時間の制約下での麻酔医の意思決定、5. 複雑な高齢者医療と医療安全の統合的アプローチ、6. Safety-Ⅱプロフェッショナル、WAI/WAD(7. 業務の上流での変動の制御:レボフロキサシンと胸腔ドレーン、8. Work-as-imaginedとwork-as-doneのギャップとパフォーマンスの調整-高濃度KCl液の取り扱いを例に-、9. Safety-Ⅱによる薬剤部調剤室の業務中断の解決、10. Safety-Ⅱによる手術室における輸血手順の改訂、11. ロボット支援下食道切除術におけるサブスコープの使用ー「やりにくい」を「やりやすい」へー、12. 麻酔科医同士の迅速応援システム:インカムによる情報共有、13. 多職種手術チームによるレジリエンスの発揮)、しなやかな拡張性・チームミング(14. 「適応キャパシティのしなやかな拡張性」理論の骨子、15. 情報システム開発/管理に見るレジリエンス・エンジニアリング、16. COVID-19におけるgraceful extensibility の発揮:伸縮自在の院内診療体制、17. COVID-19におけるgraceful extensibility の発揮:スラック、18. COVID-19 パンデミック下での大学病院におけるレジリエンスの発揮、19. チーミングによるチームや組織におけるレジリエンスの発揮:造影剤アナフィラキシーショックと気道確保困難症を有する患者への対応)、患者参加(20. 患者同士(peer-to-peer)のサポートによる適応キャパシティの拡張)、教育法(21. 日常生活に潜むパフォーマンスの変動要因の把握:In-situ simulation、22. エアラインパイロットの柔軟なパフォーマンスを促す新しい教育プログラム:レジリエンスへの挑戦)、Safety-Ⅱ推進施策(23. 医療現場および規制におけるsafety-Ⅱの実践-オランダの先進的な取り組み-)、その他である。
【考察】教材の主要ドメインは、①動的システムの制御とリデザイン、②チームや組織マネジメント、③ネットワークの解明や形成に大別された。また、Safety-IIの実践に関して次のことが明らかになった。①インシデント事例から展開可能、②システム間の相互作用から創発する問題やパフォーマンスの調整によりマスクされている業務上の制約の同定すること、③安全対策では「やりにくい」を「やりやすい」へ再設計すること、④ステークホルダー間の意見調整役が必要、⑤境界を越えた協働が必要、⑥適応能力誘導型の安全マネジメント、⑦経営、看護管理、COVID-19対応、患者のウエルビーイング向上等にも適用可能、⑧国の医療安全施策による推進が必要。
 教材「Safety-Ⅱによる薬剤部調剤室の業務中断の解決」は、Safety-II実践例として英文雑誌に掲載された。また、多領域の学会等で教材を用いて講演等を行い、教材に関するフィードバックを得た。
結論
医療安全のステークホルダーがRHCを理解し、自施設での教育や医療安全対策に取り入れることができるよう、全23教材を開発し「RHC教育・実践ガイド」としてまとめた。本研究成果はWebサイトに公開予定である。

公開日・更新日

公開日
2023-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-21
更新日
2023-07-24

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202222044C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、レジリエンス・エンジニアリング(またはレジリエント・ヘルスケア)理論を医療安全の実践に落とし込むのための方法的ガイダンス、ノンリニア分析手法を用いたシステミック分析の実例、介入策の効果の実証、実際の医療事故調査における責めない文化と説明責任の両立例等を示した。研究成果の一部は英文原著論文や国際学会等で報告し、大きな反響を得た。
臨床的観点からの成果
本研究により、医療をはじめとする複雑な社会技術システムにおいて、変化と制約、及び不確実性のもとで、パフォーマンスを成功に導く安全マネジメント(Safety-II)の具体的な手法や教育法が明らかになった。インシデント事例の原因分析と対策を講じる従来型のアプローチ(Safety-I)に加え、変化と制約に対するチームや組織全体としての適応キャパシティを向上させるSafety-IIが医療現場で実践されることで、医療安全の向上のさらなる加速が期待される。
ガイドライン等の開発
医療安全管理における新たな手法である統合的アプローチ「Safety-II」を実践するための教育リソースとして、「レジリエント・ヘルスケア教育・実践ガイド」を作成した。本ガイドの全国的普及を図るために専用ウエッブサイトで公開し、医療安全のみならず他の産業安全も含めた安全の実務者や研究者が活用できるようにした。
その他行政的観点からの成果
チームや組織の適応キャパシティ(レジリエンス)向上を通じた医療安全の確保と向上は、次世代の医療安全推進総合対策の中心的課題であり、本研究成果はその対策を検討する際の指針になると同時に、成果物である「RHC教育・実践ガイド」は全国の医療機関における展開の必携資料となる。
その他のインパクト
各種医学会(日本医学会、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本リウマチ学会、日本透析医学会、日本手術医学会、日本泌尿器科学会等)における専門医共通講習会、医療機関や病院薬剤師会の医療安全研修会等に研究代表者らが招かれ、本研究成果を発表した。広く産業安全に関わる専門家や研究者を対象としたオンラインによる国際講演会を開催した。広く産業安全に関わる専門家や研究者を対象としたオンラインによる国際講演会を開催した。本研究成果を広く社会に公開、普及するためのウエッブサイトを作成した(近日公開予定)。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
14件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
45件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
78件
講演77件、ホームページ1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
202222044Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,550,000円
(2)補助金確定額
2,546,000円
差引額 [(1)-(2)]
4,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 61,341円
人件費・謝金 44,000円
旅費 271,620円
その他 1,589,084円
間接経費 580,000円
合計 2,546,045円

備考

備考
事業計画をしていた論文投稿「BMC Health Services Research」のオープンアクセス料において、外貨建て換算レートの変動により、予定していた執行金額から差額が発生いたしました。

公開日・更新日

公開日
2024-05-17
更新日
-