孤発性アルツハイマー病の病態機序解明を目的とする、神経系軸索輸送の加齢性変化および障害メカニズムの解明

文献情報

文献番号
200922018A
報告書区分
総括
研究課題名
孤発性アルツハイマー病の病態機序解明を目的とする、神経系軸索輸送の加齢性変化および障害メカニズムの解明
課題番号
H20-認知症・若手-013
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
木村 展之(独立行政法人 医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 誠(ディナベック株式会社)
  • 根岸 隆之(青山学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 世界に類を見ない超高齢化社会に突入した我が国において、アルツハイマー病(AD)を代表とする認知症の克服は急務となっている。近年、エンドサイトーシスと呼ばれる一連の膜輸送機能の障害とAD発症メカニズムとの関連性を示唆する報告が相次いでおり、初期AD患者の脳内では肥大化した初期エンドソームにおけるアミロイド前駆体蛋白(APP)の蓄積が報告されている。
 そこで本研究ではAD発症メカニズムの全容解明を目指し、軸索輸送の低下・障害がAD発症メカニズムにどのように関与しているのか、また、何故加齢によって軸索輸送が低下・障害を受けるのかを明らかにすることを目的とする。
研究方法
 前年度確立したin vitro軸索輸送障害モデルを用いて、軸索輸送の障害とAβ蓄積との関係を明らかにするための検索を行う。
 In vivo軸索輸送障害モデル動物の作出を目指し、前年度開発したshRNA発現ウイルスベクターの有効性を、神経系株化培養細胞および初代培養神経細胞の双方を用いて評価検討を行う。
 軸索輸送障害を誘導するバランス異常の経路同定を目的として、各種脱リン酸化酵素の阻害剤を用いた評価を行う。
結果と考察
 In vitro軸索輸送障害モデルを用いた検索の結果、アミロイドβ(Aβ)を含むβ切断産物の細胞内蓄積病態が再現され、軸索様神経突起先端部におけるAPPの蓄積が再現された。また、軸索輸送の障害はエキソソームの放出量を低下させた。
 前年度の成果によって作成されたshRNA発現ベクターの神経系培養細胞におけるノックダウン効果が確認されたことから、上記ウイルスベクターの有効性が実証された。
 低濃度オカダ酸処理およびPP2A特異的阻害剤であるcantharidic acidを処置したNeuro2a細胞でRab7の発現上昇が確認された一方、PP2B特異的阻害剤であるcyclosporin Aを処置した細胞ではRab7の発現亢進が確認されなかった。
結論
 本研究の成果によって、軸索輸送の障害が細胞内での輸送停滞を引き起こし、その結果として細胞内に不要なAβが蓄積してAβカスケードが動き出すという新たな病態メカニズムの存在が示唆された。そこで、この仮説を「Traffic Jam仮説」と名付け、SAD病態メカニズムの全容解明と、輸送機能の回復・機能低下阻止をターゲットとする新規予防・治療法開発に向けた応用研究への発展を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

文献情報

文献番号
200922018B
報告書区分
総合
研究課題名
孤発性アルツハイマー病の病態機序解明を目的とする、神経系軸索輸送の加齢性変化および障害メカニズムの解明
課題番号
H20-認知症・若手-013
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
木村 展之(独立行政法人 医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 誠(ディナベック株式会社)
  • 根岸 隆之(青山学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 アルツハイマー病(AD)患者の8割以上は孤発性AD(SAD)患者であり、SAD発症に関与する最大の危険因子は「加齢」であると考えられていることから、加齢によって神経系にどのような変化が生じているのかを解明することは、SAD発症メカニズムの全容解明に必須のアプローチであると考えられる。
 そこで本研究ではSAD発症メカニズムの全容解明を目指し、軸索輸送の低下・障害がSAD発症メカニズムにどのように関与しているのか、また、何故加齢によって軸索輸送が低下・障害を受けるのかを明らかにすることを目的とする。
研究方法
 若齢から老齢までのカニクイザル脳組織を用いて、加齢に伴うエンドサイトーシス関連蛋白群の変化を検索するとともに、RNA干渉法を応用して軸索輸送障害のin vitroモデルを作成し、軸索輸送の障害とアミロイドβ(Aβ)蓄積との関係を明らかにする。
 軸索輸送障害による神経系への影響をin vivoレベルで検索を行うため、脳内でshRNAを持続的に発現可能なベクターの開発を行い、その効果を評価する。
 AD患者の脳内では脱リン酸化酵素の活性が顕著に低下していることから、加齢に伴うリン酸化・脱リン酸化バランスの異常が軸索輸送の障害を引き起こすのではないかと仮定し、軸索輸送障害メカニズムの解明を目指す。
結果と考察
 老齢カニクイザルの脳組織ではAD患者と同様に各種エンドソームの肥大化が確認され、それらエンドソームの肥大化病変は老人斑形成に先立って生じていることが明らかとなった。
 In vitro軸索輸送障害モデルを用いた検索の結果、軸索輸送の障害によって各種エンドソームの肥大化病変が再現され、それら細胞内輸送系の停滞がAβの細胞内蓄積病態を誘導することが明らかとなった。
 VSVGシュードタイプshRNA(ヒトダイニン)搭載SIVベクターの開発に成功した。
 脱リン酸化酵素の活性が阻害された細胞ではRab7陽性エンドソームの肥大化が確認され、その現象はPP2A特異的阻害剤によってのみ確認された。
結論
 本研究の成果によって、加齢に伴う軸索輸送の障害がAβの蓄積を介してAD発症の一因となっている可能性が示唆された。
今後さらに本研究系を発展させてAD発症メカニズム解明に向けた検索を行うとともに、in vivo軸索輸送障害モデルを確立して、診断・治療法の開発に向けた応用開発研究を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-18
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200922018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の成果によって、加齢性神経変性疾患のサロゲートモデルとしてのカニクイザルの有用性・信頼性が再確認されたとともに、加齢に伴う軸索輸送の障害が、Aβの蓄積を介してAD発症の一因となっている可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
今後、in vivoレベルの研究を行うことに加え、軸索輸送改善につながる薬剤の開発に取り組みたい。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
長寿科学振興財団主催の研究報告会にて発表したことで一般の方にも興味を持って頂き、さらにはMedical Tribune誌に本研究成果に関する記事が掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
全て、細胞内輸送機能とアミロイドβ病態に関する研究成果を発表している。
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
日本認知症学会にて発表。
学会発表(国際学会等)
2件
国際アルツハイマー病学会(ICAD)にて発表。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
Medical Tribune誌に研究成果が掲載された。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okabayashi S, Kimura N.
LGI3 interacts with foltillin-1 to mediate APP trafficking and exosome formation.
Neuroreport  (2010)
原著論文2
Kimura N.
Review: Endocytic dysfunctyion and Alzheimer’s disease.
Endocytosis: Structural Components, Functions and Pathways (Book)  (2010)
原著論文3
Kimura et al.
Dynein dysfunction induces endocytic pathology accompanied by an increase in Rab GTPases: a potential mechanism underlying age-dependent endocytic dysfunction.
J Biol Chem , 284 (45) , 31291-31302  (2009)
原著論文4
Kimura N.
Nonhuman Primates as the Animal Model for Age-Dependent Diseases.
Women and Aging: New Research (Book)  (2008)
原著論文5
Okabayashi S, Kimura N.
Leicine-rich glioma inactivated 3 is involved in amyloid β peptide uptake by astrocytes and endocytosis itself.
Neuroreport , 19 (12) , 1175-1179  (2008)
原著論文6
Okabayashi S, Kimura N.
Immunohistochemical and biochemical analyses of LGI3 in monkey brain: LGI3 accumulates in aged monkey brains.
Cell Mol Neurobiol , 27 (6) , 819-830  (2007)
原著論文7
Kimura et al.
Aging attenuates dynactin-dynein interaction: down-regulation of dynein causes accumulation of enodogenous tau and APP in human neuroblastoma cells.
J Neurosci Res , 85 (13) , 2909-2916  (2007)
原著論文8
Kimura et al.
Aβ upregulates and colocalizes with LGI3 in cultured rat astrocytes.
Cell Mol Neurobiol , 27 (3) , 335-350  (2007)
原著論文9
Kimura et al.
Amyloid β up-regulates brain-derived neurotrophic factor production from astrocytes: rescue from amyloid β-related neuritic degeneration.
J Neurosci Res , 84 (4) , 782-789  (2006)
原著論文10
Kimura et al.
Age-related changes of intracellular Abeta in cynomolgus monkey brains.
Neuropathol Appl Neurobiol , 1 (2) , 170-180  (2005)
原著論文11
Kimura et al.
Astroglial responses against Abeta initially occur in cerebral primary cortical cultures: species differences between rat and cynomolgus monkey.
Neurosci Res , 9 (3) , 339-346  (2004)
原著論文12
Kimura et al.
Presenilin-2 in Cynomolgus Monkey Brain: Investigation of Age-Related Changes.
Primates , 5 (3) , 167-175  (2004)
原著論文13
Kimura et al.
Age-related changes of Alzheimer’s disease-associated proteins in cynomolgus monkey brains.
Biochem Biophys Res Commun , 10 (2) , 303-311  (2003)
原著論文14
Kimura et al.
Age-related changes in the localization of presenilin-1 in cynomolgus monkey brain.
Brain Res , 922 (1) , 30-41  (2001)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-