外傷患者に対する適切な救急医療提供体制の構築に資する研究

文献情報

文献番号
202222017A
報告書区分
総括
研究課題名
外傷患者に対する適切な救急医療提供体制の構築に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21IA1013
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
大友 康裕(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
1,623,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、どのように外傷医療体制を構築するか、および受傷現場からどのような観点で搬送先の病院を選定するかについて解析することを目的とする。先行研究では、病院前搬送時間が短いことは患者の良好な生命転帰と関連することが報告されているが、受傷から根治的治療までの時間と転帰との関連は未だ明らかではない。受傷から根治的治療までの時間を短縮するために直近の病院ではなく遠方の外傷診療に精通した専門施設(外傷センター)へと搬送するいわゆる「トラウマバイパス」の概念の妥当性を検証する。重点施設の必要数などを考慮した最適な外傷医療提供体制の構築に関する考察を行う。また今年度は、前内閣総理大臣銃撃死亡という痛ましい事件を機に、わが国の外傷診療体制(銃創対応を含む)を調査・把握するため、厚生労働省医政局地域医療計画課と協議の上で、緊急アンケート調査を実施した。
研究方法
本研究はデータソースとして日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank, JTDB)、National Clinical Database (NCD)、およびDiagnosis Procedure Combination(DPC)などのデータベースを用いる。用いるデータベースには、それぞれ利点・問題点があることを踏まえ、互いに補完しあうよう解析を進める。本年は、DPCとJTDBを用いた研究を行った。NCDデータ使用に関して、NCD事務局との調整が不調に終わった。
緊急アンケート調査では、全国の救命救急センター295施設(2022年8月現在)の代表者宛に電子メールでアンケートの依頼を行い、Webアンケートによる調査を行った。
日本航空医療学会全国症例登録システム(JSAS-R)に登録された全症例のうち、以下の適格基準にしたがって患者抽出を行ない、1)全症例および2)外傷患者に特化した疫学的な記述を行った。
横浜市では全国に先駆けて行政が地域重症外傷センターを指定し、重症外傷症例の集約化することが、Preventable Trauma Death (PTD)を減らすことを見出してきた。この結果を受けて、従来の重症外傷センターへ搬送適応と考える時間制限を撤廃し、新たなプロトコルを運用した。本年度は新しいプロトコル前後の外傷患者の転帰を比較した。
結果と考察
全国の救命救急センターへの緊急アンケート調査では、179施設(61%)から有効な回答を得た。重症外傷(銃創)症例の救命のためには一刻も早く適切な止血手術が肝要となるが、迅速な手術開始の律速段階が「外科医の参集」と回答した施設が最多(56.4%)であった。院内に外科医が常駐している救命救急センターは59施設(33.7%)であり、このうち臓器横断的に頸部から体幹四肢におよぶ外傷に対応可能な体制(臓器別外科医を参集する必要がない)をとっているのは、わずか46施設(25.7%)であった。さらに患者収容から手術開始までの時間については、半数以上の施設で30分以内の手術開始は不可能であるという結果であった。また大量輸血プロトコルを事前に整備している施設は68施設(40.0%)であり、速やかに輸血が開始できるよう救急外来に赤血球輸血及び新線凍結結晶を常備している施設はそれぞれ41施設(22.9%)及び27施設(15.1%)であった。
JTDBデータ解析では、2004年から2019年までの16年間に登録された338,744例の重症外傷症例のうち191の外傷診療施設の集中治療室に入室した170,844例を対象とした。解析では、調整後入院中死亡リスクが減少する傾向を示した。
横浜市外傷検証委員会では、今回の時間制限を撤廃により搬送症例が増加し集約化が進むこと、同時に患者の予後や治療成績には変わりがないことが明らかにされた。
結論
今年度は、以下の研究成果が得られた。
緊急アンケート調査から、本邦の重症外傷診療の準備体制は救命救急センターであっても施設間で大きな違いがあることが示された。このような準備状況の違いは診療の質、ひいては患者の転帰に直結する可能性がある。全ての救命救急センターにおいて体制の整備を進めていくことはリソース格差の面からも非現実的である可能性があり、十分な整備状況を有する施設へ症例を集約することが望ましいことが考えられた。
JTDBの解析から重症外傷患者を多数診療する集中治療室を備えた外傷診療施設は、より良好な生命転帰をもたらす事が確認された。
JSAS-Rの解析では、現場のフライトドクターには、ISSが高値となる多発外傷や頭部体幹四肢を含めた緊急手術が必要な患者を、より専門の施設(多くは基地病院)に搬送しようとする思考が存在すると考えられた。
横浜市重症外傷センターでの時間制限撤廃による悪影響はみられないことが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2026-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202222017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,109,000円
(2)補助金確定額
1,565,086円
差引額 [(1)-(2)]
543,914円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 100,000円
旅費 979,086円
その他 0円
間接経費 486,000円
合計 1,565,086円

備考

備考
① 旅費(うち外国旅費): 当初の計画通り、米国からCoimbra教授を招聘し、米国外傷システムおよび米国外科学会の外傷データベースについて情報を提供頂き、本研究の遂行に資することが出来た。当初の招聘旅費概算から18万円弱の増額となった。
② 物品費:
NCDデータ解析は、研究者側に生データが提供されず、NCD解析チームに解析を依頼する形式となっている。当初、NCDデータ解析のために委託費として50万円を予算計上した。残念ながらNCD事務局との協議が難航し、NCDを用いた研究を実行することができず、減額となった。物品は購入することなく研究を遂行した。
③ 経費の変動はあったが、NCD以外の研究に支障はなく、中間評価でも好評価を得ており、研究目標を概ね達成できた。

公開日・更新日

公開日
2024-05-17
更新日
-