アルツハイマー病発症と進展の客観的評価法確立のための多施設縦断臨床研究:J-ADNIコアスタディ

文献情報

文献番号
200922014A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病発症と進展の客観的評価法確立のための多施設縦断臨床研究:J-ADNIコアスタディ
課題番号
H19-認知症・一指定-024
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岩坪 威(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 朝田 隆(筑波大学 臨床医学系)
  • 荒井 啓行(東北大学 加齢医学研究所)
  • 山田 正仁(金沢大学 医学部)
  • 松田 博史(埼玉医科大学 医学部)
  • 佐藤 典子(国立精神神経センター病院)
  • 伊藤 健吾(国立長寿医療センター研究所)
  • 桑野 良三(新潟大学 脳研究所)
  • 杉下 守弘(新潟リハビリテーション大学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AD根本治療薬の有効性を評価し速やかに実用化するには、疾患の本質過程に直結したサロゲートマーカーの制定が不可欠である。このためにADNI研究では世界統一のプロトコールを用いて、MRIやPETデータの長期的変化に関する一定の基準値を作るための方法論を確立し、根本治療薬の臨床治験に役立てることが本研究の目的である。
研究方法
朝田はJ-ADNIデータに基づき、13例のコンバージョン例で臨床心理検査との対応について検討を行った。荒井は東北大学をモデル臨床施設とし、規範的なADNI研究を施行し、実行上の問題点を探った。杉下はMMSE-Jの国際的バリデーションを施行した。山田はFDG-PETと髄液バイオマーカーを用いてADの経過を検討した。桑野はX-MAP法による髄液生化学バイオマーカー検査を立ち上げた。松田はMRIによる脳撮像のゆがみ補正プログラム作成を行った。伊藤は多施設PET研究における標準化撮像体制を確立し、品質管理を実行した。佐藤は画像・臨床データを集積するデータベースを設立し運用した。
結果と考察
全国38臨床施設からなる臨床研究を開始し、358例のエントリーを完了した。朝田らはコンバート判定においてテストバッテリーを応用する場合、最終判定はCDR, General cognition and ADLを用いてコンセンサスに至るべきことを示した。荒井らはフルスペクトラムのADNI研究を先導的に行い、16例のMCIをこの間組み入れ、実行上の問題点について解決策を提示した。山田らはJ-ADNIと平行してAD 81例をFDG-PET、脳脊髄液検査で検討し、後部帯状回・楔前部優位に萎縮を伴う群では,代謝低下の程度が高度であることを指摘した。桑野らはX-MAP法を用いた世界標準となる脳脊髄液測定系を立ち上げた。松田らはMRIによる容積計測にあたり、補正前処理を自動的に行うプログラムを開発した。伊藤らはJ-ADNIのPET研究におけるデータ品質管理体制を確立した。佐藤らは大規模臨床・画像データベースの構築及び継続的運用のための情報基盤作成について検討を加えた。杉下らはMMSE-Jの詳細なバリデーションを行い、MMSE―Jが認知症のスクリーニング検査として十分に使用可能であることを示した。
結論
これらの研究により、J-ADNI臨床研究開始のための基盤が確立され、円滑なリクルート促進につながった。

公開日・更新日

公開日
2010-06-08
更新日
-

文献情報

文献番号
200922014B
報告書区分
総合
研究課題名
アルツハイマー病発症と進展の客観的評価法確立のための多施設縦断臨床研究:J-ADNIコアスタディ
課題番号
H19-認知症・一指定-024
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岩坪 威(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 朝田 隆(筑波大学 臨床医学系)
  • 荒井 啓行(東北大学 加齢医学研究所)
  • 山田 正仁(金沢大学 医学部)
  • 松田 博史(埼玉医科大学 医学部)
  • 佐藤 典子(国立精神神経センター病院)
  • 伊藤 健吾(国立長寿医療センター研究所)
  • 桑野 良三(新潟大学 脳研究所)
  • 杉下 守弘(新潟リハビリテーション大学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、AD根本治療薬の有効性を評価し速やかに実用化するために、疾患の本質過程に直結したサロゲートマーカーを制定することを目的とする。このためにJ-ADNI研究では世界統一のプロトコールを用いて、MRIやPETデータの長期的変化に関する一定の基準値を作るための方法論を確立し、根本治療薬の臨床治験に役立てる.
研究方法
J-ADNIプロトコルと、それに基づく手順書を制定した。ADAS-CogJ, CDR, MMSEをはじめとする主要臨床心理検査バッテリーのの改訂版を行った。MRIによる脳容積測定標準方法を確定し、標準撮像プロトコルを全国に配布し研究を行った。FDG-PET, アミロイドPETについても標準撮像法を確立、quality controlを施行した。ITコア、データセンターにデータ収集・集積を行った。生化学コアはJ-ADNIサンプルレポジトリーを新潟大学脳研究所内に確立、バイオマーカーの送達方法を確定し、保管体制を確立した。
結果と考察
本コアスタディに属する3臨床施設(東北大、筑波大、金沢大)ではMCI 30例、AD, 健常者各15例を登録する規範的臨床研究を行う予定で開始し、3年間にMCI33例、健常者14例、AD7例の組み入れを達成した。MCIからADへのconversionを臨床判定委員会を2回開催して合議判定し、このうち2例で認定した。MMSE, CDR, ADAS-Cogを含めた14種類の主要な臨床・神経心理検査を国際標準に適合するよう改良後、系統的に施行した。1.5テスラ MRI を、灰白質描出に優れた3D-MPRAGEプロトコルを用いて標準化された方法により撮像し、むら・歪み補正を施し厳密な脳容積を反映した画像を取得した。FDG-PETもJ-ADNI PET標準プロトコルに従って撮像し、機器・施設間較差の解消につとめた。アミロイドPETイメージングについては、PIBもしくはBF227を用いて施行、アミロイド蓄積の有無をベースラインで判定した。体液バイオマーカーについては、血液、尿を取得・保存し、承諾の得られた被験者については、脳脊髄液を採取し、Aβ、タウを定量する。ADのリスク多型であるapoE遺伝子のジェノタイプ決定を行った。ITコア、データセンターでは、大規模な臨床データならびに画像データの送達・管理法を樹立し、procedure manualを策定した。
結論
今後のJ-ADNI研究の施行、ならびに臨床研究に幅広く活用できる基盤が形成された。

公開日・更新日

公開日
2010-06-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200922014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アルツハイマー病(AD)の根本治療薬開発のため、発症・進行過程を忠実に反映する客観的評価法の確立を目的に大規模縦断臨床観察研究Japanese AD Neuroimaging Initiative (ADNI)を遂行するための基盤づくりを遂行することができた。J-ADNIでは世界統一のプロトコールを用いて、NEDO支援によるJ-ADNIグローバルスタディと連携し、全国38施設において492名のリクルートを完了した。
臨床的観点からの成果
臨床的に、152例の健常者、233例のMCI, 107例の早期ADをリクルートし、MMSE, CDR, ADAS-Cogなどの臨床心理検査を施行、米国ADNIとcompatibleな結果を得た。アポE4多型は健常者の25%、MCIの58%、ADの62%で陽性、アミロイドPETでは健常者の24%、MCIの67%、ADの95%が陽性を示し、アミロイド病理の早期検出が可能であった。臨床・画像・遺伝子・バイオマーカーの各面で厳密な縦断研究が開始できた
ガイドライン等の開発
J-ADNI臨床研究プロトコルを制定し、健忘型MCIのリクルートを開始した。本研究で用いられるプロトコル、ならびに14種の臨床・心理テストバッテリー、MRI, PET画像取得方法は、今後の本邦におけるアルツハイマー病根本治療薬治験における標準的方法となるものと考えられ、複数の内外製薬企業の臨床治験においても類似の方法が採用されている。
その他行政的観点からの成果
J-ADNI臨床研究の推進によるアルツハイマー病発症過程の臨床的解明、ならびにそれにもとづく根本治療薬開発の方針は、2008年に施行された厚生労働省「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」においても重要施策としてとりあげられた。また科学技術振興機構臨床医学ユニットにより2009年に施行された俯瞰調査ならびに2010年の先制医療に関する調査でも重要課題として取り上げられた。医療イノベーション構想においても、J-ADNIの取り組みは認知症に対する医薬品創製の基盤をなすものと議論された。
その他のインパクト
J-ADNI臨床研究は、NHK、朝日・毎日・読売・日経の各紙、共同通信、日経バイオテク誌、東洋経済誌などにより頻回に採り上げられた。また2009年11月には長寿科学振興財団の支援により世界ADNIシンポジウムを開催し、日米を基軸とするADNI研究の進展がインパクトをもって周知された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
27件
その他論文(和文)
33件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iwatsubo T
Japanese ADNI: present status and future.
Alzheimer’s and Dementia , 6 , 297-299  (2010)
原著論文2
Ota M, Nemoto K, Sato N et al.
Relationship between white matter changes and cognition in healthy elder.
Int J Geriatr Psychiatry  (2009)
原著論文3
Sasaki M, Kodama C, Hidaka S et al.
Prevalence of four subtypes of mild cognitive impairment and APOE in a Japanese Community.
Int J Geriatr Psychiatry , 24 , 1119-1126  (2009)
原著論文4
Mizukami K, Hatanaka k, Tanaka Y et al.
Therapeutic effects of the selective serotonin noradrenaline reuptake inhibitor milnacipran on depressive symptoms in patients with Alheimer’s disease.
Prog Neuropharmacol Biol Psychiatry , 33 , 349-352  (2009)
原著論文5
Nemoto K, Mori T, Moriguchi Y et al.
Effect of BDNF and the ApoE polymorphisms on disease progression in preclinical Alzheimer’s disease.
Gene Brain Behav , 8 , 43-52  (2009)
原著論文6
Hirohata M, Yoshita M, Ishida C et al.
Clinical features of non-hypertensive lobar intracerebral hemorrhage related to cerebral amyloid angiopathy.
Eur J Neurol  (2010)
原著論文7
Hamaguchi T, Ono K, Murase A et al.
Phenolic compounds prevent Alzheimer's pathology through different effects on the amyloid β aggregation pathway.
Am J Pathol , 175 , 2557-2565  (2009)
原著論文8
Yamashita F, Sasaki M, Takahashi S et al.
Detection of changes in cerebrospinal fluid space in idiopathic normal pressure hydrocephalus using voxel-based morphometry.
Neuroradiology  (2009)
原著論文9
Yanagida K, Okochi M, Tagami S et al.
The 28-amino acid form of an APLP1-derived Ab-like peptide is a surrogate marker for Ab42 production in the central nervous system.
EMBO Mol Med , 1 , 1-13  (2009)
原著論文10
Hamaguchi T, Morinaga A, Tsukie T et al.
A novel presenilin 1 mutation (L282F) in familial Alzheimer’s disease.
J Neurol , 256 , 1575-1577  (2009)
原著論文11
Kasuga K, Ohno T, Ishihara T et al.
Depression and psychiatric symptoms preceding onset of dementia in a family with early-onset Alzheimer disease with a novel PSEN1 mutation.
J Neurol , 256 , 1351-1353  (2009)
原著論文12
Ito F, Toyama H, Kudo G et al.
Two activated stages of microglia and PET imaging of peripheral benzodiazepine receptors with [(11)C]PK11195 in rats.
Ann Nucl Med , 24 , 163-169  (2010)
原著論文13
杉下守弘、朝田 隆
高齢者用うつ尺度短縮版ー日本版(Geriatric Depression Scale-Short version-Japan, GDS-S-J)について
認知神経科学 , 10 , 87-90  (2009)
原著論文14
Nishimiya M, Matsuda H, Imabayashi E et al.
Comparison of SPM and NEUROSTAT in voxelwise statistical analysis of brain SPECT and MRI at the early stage of Alzheimer's disease.
Ann Nucl Med , 22 , 921-927  (2008)
原著論文15
Miyashita A, Arai H, Asada T et al.
GAB2 is not associated with late-onset Alzheimer's disease in Japanese.
Eur J Hum Genet  (2008)
原著論文16
Noguchi-Shinohara M, Tokuda T, Yoshita M et al.
CSF α-synuclein levels in dementia with Lewy bodies and Alzheimer’s disease.
Brain Res , 1251 , 1-6  (2009)
原著論文17
Matsumoto Y, Yanase D, Noguchi-Shinohara M et al.
Cerebrospinal fluid/serum IgG index is correlated with medial temporal lobe atrophy in Alzheimer's disease.
Dement Geriatr Cogn Disord , 25 , 144-147  (2008)
原著論文18
Hirohata M, Ono K, Morinaga A et al.
Non-steroidal anti-inflammatory drugs have potent anti-fibrillogenic and fibril-destabilizing effects for α-synuclein
Neuropharmacology , 54 , 620-627  (2008)
原著論文19
Ota M., Obata T., Akine Y. et al.
Laterality and aging of thalamic subregions measured by diffusion tensor imaging.
Neuroreport , 18 , 1071-1075  (2007)
原著論文20
Yamada K, Yabuki C, Seubert P et al.
Abeta immunotherapy: Intracerebral sequestration of Abeta by an anti-Abeta monoclonal antibody 266 with high affinity to soluble Abeta.
J Neuroscience , 29 , 11393-11398  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-