文献情報
研究課題名
人生の最終段階における臨床経過ならびに死の徴候に関する研究
研究代表者(所属機関)
小川 純人(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究報告書(概要版)
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
文献情報
研究課題名
人生の最終段階における臨床経過ならびに死の徴候に関する研究
研究代表者(所属機関)
小川 純人(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究報告書(概要版)
研究目的
人生の最終段階における機能低下のパターンや疾患等を踏まえた類型化、死の徴候を含めた臨床経過について国内外の文献レビューを通じて明らかにする。また、実際に人生の最終段階における臨床経過や死の徴候を見守り、看取った経験を有する全国医師を対象にWebアンケート調査を行い、人生の最終段階における臨床経過や死の徴候に関して時間軸に沿って整理し、実臨床データに基づいた体系的整理を進める。
研究方法
人生の最終段階における機能低下パターンや臨床経過について、人生の最終段階における医療経験を豊富に有する研究協力者の参画により文献レビューに際して協議を行い具体的課題を抽出し、その後システマティック・レビューに準じた国内外の文献レビューを行う。また、全国のリビング・ウイル受容協力医師に対して、人生の最終段階における臨床経過や死の徴候に関するWeb形式でのアンケート調査を実施し、得られたデータセットに関して解析を行う。
結果と考察
人生の最終段階における機能低下パターンや臨床経過に関する国内外の文献レビューについては、採用基準、除外基準、検索式を決め、Pubmed、Cochrane、医中誌にて文献検索を行い採用基準に該当するものを採用した。これらの文献レビューまとめとして、1)人生の最終段階の患者において多く報告されている徴候は、疼痛、呼吸困難、食思不振、嚥下障害、意識レベルの変化などであった点、2)死亡の原因疾患により人生の最終段階における徴候が異なっている可能性が示唆された点 3)人生の最終段階や看取りの段階で認められる徴候について、その出現時期・経過に関するエビデンスは未だ不十分である可能性が高い点などが挙げられた。
また、これまでに全国のリビング・ウイル受容協力医師を対象として、人生の最終段階における臨床経過や死の徴候に関するWEBアンケートを作成、回答依頼を行い収集した(配布数2031、回収数442、回収率21.7%)。死の一週間前に多くみられた徴候として、食事が摂れなくなる、寝ている時間が増える、発語が減り、発音も聞き取りにくくなる、死の48時間前に多くみられた徴候として、呼びかけても反応が鈍い、言語が不明瞭になる、死の1日~半日前に多くみられた徴候としては、寝たきりの人であれば足や腕など少しでも動かせるところをもぞもぞと動かす、家族や介護者が心配してタオルなどかけようとしても、手でふり払うなどが挙げられた。また、因子分析を行った結果では、死の一週間前に多くみられる徴候として、身体的影響が出る徴候と、突発的対応に追われる徴候に大別される可能性が示唆された。死の48時間前に多くみられる徴候に関する因子分析では、①言語、認知障害に関する徴候、②脈拍、呼吸の乱れ、③体温の低下に大別される可能性が示唆された。さらにまた、死の1日~半日前に多くみられる徴候に関する因子分析では、明らかな特徴は認められなかった。次に、LightGBM AI分析アルゴリズムに基づく決定木モデルにより、死の徴候の合計数を予測するのに重要な設問について検討した結果、「患者さんの緩和ケアの有無について教えてください」、「患者さんのリビング・ウイルの有無について教えてください」の重要度が大きく、死の徴候の予測に貢献している可能性が示唆された。
本研究に基づく文献レビューから、人生の最終段階の患者において多く報告されている徴候は、疼痛、呼吸困難、食思不振、嚥下障害、意識レベルの変化などであった点、死亡の原因疾患により人生の最終段階における徴候が異なっている可能性が示唆された点、人生の最終段階や看取りの段階で認められる徴候についてその出現時期・経過に関するエビデンスは未だ不十分である可能性が高い点などが示され、当該分野の更なるエビデンス、特にわが国における更なるエビデンスの構築、集積が求められる。また、人生の最終段階における臨床経過や死の徴候に関するWEBアンケートにより、死の一週間前、48時間前、1日~半日前にみられる徴候は多様であり、かつ因子分析の結果等からは、各時期における徴候に共通性や連鎖が認められる可能性も示唆された。
結論
人生の最終段階の患者において多く報告されている身体徴候は、これまでの解析結果から、疼痛、呼吸困難、食思不振、嚥下障害、意識レベルの変化などが挙げられ、国内外の文献レビュー解析等から、死亡の原因疾患により人生の最終段階における徴候が異なっている可能性が示唆された。また、人生の最終段階における臨床経過や死の徴候に関するアンケート解析により、死の一週間前、48時間前、1日~半日前にみられる徴候が多様であり、各時期の徴候に共通性や連鎖が認められる可能性が示唆された。
研究報告書(PDF)
研究報告書(紙媒体)
行政効果報告
成果
専門的・学術的観点からの成果
人生の最終段階における機能低下や疾患等を踏まえた類型化、死の徴候について、国内外の文献レビューを含めた体系的整理を実施し、わが国における人生会議や在宅医療・ケアの更なる普及、啓発、推進に向けた基盤的成果となり得ると考えられる。人生の最終段階や死に至る可能性が高い状態での治療・ケアや看取りを検討する上で必要な基礎情報になる可能性があり、在宅をはじめ人生の最終段階や看取り期において活用される可能性が示唆される。
臨床的観点からの成果
国内外の文献レビュー解析等から、死亡の原因疾患により人生の最終段階における徴候が異なっている可能性が示唆された。また、人生の最終段階における臨床経過や死の徴候に関するアンケート解析により、死の1週間前~半日前の徴候が多様であり、各時期の徴候に共通性や連鎖が認められる可能性が示唆された。今後、本研究の大規模かつ継続的な実施により、臨床現場における人生の最終段階の臨床経過や死の徴候に関する特性の更なる解明に繋がると期待される。
ガイドライン等の開発
本研究期間中にはガイドライン開発等は行われず、特記事項はありません。
その他行政的観点からの成果
特記事項はありません。
特許
主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)
収支報告書