認知症治療を目的とした変異型オリゴマーアミロイドペプチドを抗原とする神経免疫療法の開発

文献情報

文献番号
200922009A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症治療を目的とした変異型オリゴマーアミロイドペプチドを抗原とする神経免疫療法の開発
課題番号
H21-認知症・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
森 啓(大阪市立大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 富山 貴美(大阪市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病(AD)の根本治療薬開発は国民の福祉医療のためにも大きな課題である。現在もっとも重要な問題点は、Aβオリゴマーを同定、制御することである。このためにADDLs、dimerあるいはlow-nAβオリゴマーさらにはAβ*56の病理学的役割を明らかにしなければならない。このためにAβオリゴマーモデルを作成し、その異常蓄積、シナプス機能や学習記憶機能の変化を検討することを本研究の目的とする。
研究方法
<トランスジェニックマウスの作成>
家族性ADのAPPの新変異(E693Δ)は、老人斑の形成なしに、Aβのオリゴマー化を促進することが知られている。そこで、同変異(E693Δ)を組み込んだマウスモデルを確立した。
<免疫組織学的解析>
マウス脳組織を種々のAβ抗体と各種マーカー抗体により検討した。
<電気生理学的解析>
シナプス機能を検討するためにLTP測定を実施した。
<行動科学的解析>
変異型APPを発現するTgマウスの表現型を調べることで、Aβオリゴマーの病理学的役割を探ることにした。
(倫理面への配慮)
臨床研究ではない、組み換え動物実験を使用した基礎医学的研究であるために、倫理面での配慮は不必要である。ただし、DNA組み換え、動物実験についての承認は取得済みである。
結果と考察
マウスプリオンプロモーター下でE693Δ変異APPを発現するTgマウスを作製した。このマウスは、8月齢頃よりニューロン内にAβオリゴマーが蓄積したが、老人斑は24月齢においても検出されなかった。また8月齢頃より海馬のシナプスが消失し始めると同時に、LTP障害および学習記憶障害が現れた。異常リン酸化タウ、ミクログリアの活性化、アストロサイトの活性化、海馬ニューロンの消失が各々8、12、18 、24月齢で認めた。その結果、AβオリゴマーだけでADが発症・進行し得ることが示された。
考察
Aβオリゴマーを蓄積し、フィブリルや老人斑を形成しない唯一のADのオリゴマーモデルを作成した。本研究により、ADの発症・進行過程におけるAβオリゴマーの病理学的役割を明らかにすることができた。今後、老人斑の病理学的意義やADの定義を考える上で重要な情報になると考えられる。
結論
AD発症原因分子として注目されているAβオリゴマーに特化した実験的モデルマウスを作成した。本モデルは、診断および治療薬開発の標的モデルマウスとして今後の研究に有用である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-20
更新日
-