閉経後骨粗鬆症の病態解析と破骨細胞形成因子に関する研究

文献情報

文献番号
199700610A
報告書区分
総括
研究課題名
閉経後骨粗鬆症の病態解析と破骨細胞形成因子に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
北澤 理子(神戸大学医学部病理学第2講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨組織において、骨芽細胞と破骨細胞は相互にバランスを保って骨代謝回転を維持している。骨吸収にたずさわる破骨細胞の分化成熟過程において骨芽細胞/ストローマ細胞系の果たす役割は、
1)骨髄造血系~破骨細胞前駆細胞の増殖に必要な液性因子の供給、
2)破骨細胞の最終分化に不可欠とされる骨芽細胞/ストローマ細胞系の直接的接触を介する相互作用
の2段階が想定されてきた。
私どもは、実験的破骨細胞形成系としてマウス骨髄単核細胞とストローマ細胞株ST2の共存培養系を用い、ST2細胞の継代数に依存して破骨細胞形成支持能が減衰する現象に着目した。継代数のみが異なるST2細胞を対象として、ST2細胞の破骨細胞形成支持機能と連動して発現する遺伝子を解析することによって、特に2)の機序について破骨細胞形成機構の一端を解明することを目指した。
研究方法
マウス骨髄単核細胞とST2細胞を10 nM 活性型Vitamin D3 (D3)及びDexamethasone (Dex)の存在下に7日間共存培養し、破骨細胞様TRAP陽性多核細胞(MNC)数を計測した。ST2細胞を継代数毎にサンプリングして共存培養に使用し、MNC形成能を比較すると、Passage 10 (P10)以前のST2は約1000/cm2のMNC形成を支持したが、P15以後のST2を用いた共存培養系ではMNCは殆ど形成されなかった。
そこでST2細胞のP9とP16を対象としてmRNA Differential Display法を行い、ST2細胞の破骨細胞支持能と連動して発現する分子種を分離した。また遺伝子クローニングと並行して、破骨細胞形成・骨吸収機能に関する遺伝子の発現を組織形態学的に評価する実験系の確立を目指して、マウス脱灰骨組織を用いた組織分子雑種法の基礎検討を行い実験法を確立した。
B-I. ST2細胞の破骨細胞形成に関連する遺伝子の分離
1)P9とP16のST2細胞より各々mRNAを精製し、3'oligo-dT primer、5'任意primerにて各mRNAについて逆転写反応と33P標識下でPCR反応を行った。各PCR産物を電気泳動し、autoradiographyの後、P9とP16のPCR産物のfinger print patternを比較検討した。P9優位に発現している分子種を選択的にgelから切り出してDNAを回収した後、定法に従ってTA cloningし、insert DNAの塩基配列を決定して遺伝子データベース検索に供した。又、これらのDNA fragmentを32P標識してprobeとして用い、P9とP16のST2細胞より抽出したRNAに対してNorthern blotを行い、P9優位の発現パターンを示す分子を選択した。さらに各分子に関して5'側の塩基配列情報を得るためにRACE reactionを行った。
2)ST2細胞P9とP16をそれぞれ10 nM のD3及びDexで処理後にmRNAを精製した。P9、P9 (D3+Dex)、P16、P16 (D3+ Dex)の4種類のmRNAを対象として同様にDifferential Display法を行った。各々のmRNAについて、3'oligo-dT primerと5'任意primerにて逆転写反応と33P標識下でのPCR反応を行い、電気泳動の後、finger print patternを比較検討した。4種類のサンプルのうちでP9(D3+Dex)のみに特異的に発現している分子種を選択し、gelから切り出してDNAを回収し、常法に従ってTA cloningを行い、シークエンスを行って塩基配列を決定し遺伝子検索に供した。ここで得たDNA fragmentを32P標識probeとして、上記4種類の細胞より精製したRNAに対してそれぞれNorthern blot法を行い、それらの発現がP9 (D3+Dex)優位かどうかを検討した。
B-II. 脱灰硬組織を用いた組織分子雑種法に関する基礎検討
12週令BALB/cマウスの頚骨を摘出後速やかに4%パラホルムアルデヒドにて3日間固定し20%EDTAにて4日間脱灰しパラフィンに包埋して5mmの薄切標本を作成した。検索に関して約300bp前後の領域を対象にセンス・アンチセンスプライマーを設定し、RT-PCRを行ってcDNAを増幅し精製した後、Digoxigenin dUTP存在下にアンチセンスプライマー単独でPCRを行って1本鎖アンチセンスDNAプローブを作成しhybridizationに供した。
結果と考察
B-I. 遺伝子クローニング
1)ST2細胞のP9とP16を比較してP9特異的なfinger printより24種類のDNAを得た。その中より、Northern blot法にてP9優位のmRNA発現パターンを確認できた分子としては、Mouse GDP-dissociation inhibitor β、Mouse long chain fatty acyl coA synthetase、及びRat sec 61と相同性を示す因子が分離された。Mouse GDP-dissociation inhibitor βは線維芽細胞のadipocyteへの分化に関わることが報告されている。間葉系細胞のpreadipocyteへの分化能と破骨細胞支持機能との因果関係については今後さらに検討を要すると思われた。
2)P9、P9 (D3+Dex)、P16、P16 (D3+Dex)の4種類のmRNAを比較したDifferential Display法にて、P9 (D3+Dex)のみに特異的なバンドより解析を行い、塩基配列の異なる51種類の分子種を単離し、スクリーニングを行った。それらの中から、Northern blot法で、P9 (D3+Dex)優位な発現パターンを示した分子が1個得られ、そのmRNAは約7kbであった。そのgenomic DNAに関しては、poly A tailより5'側に約1.5 kbまでの分子をクローニングし塩基配列を決定した。今回遺伝子検索を行った範囲においては既知の因子との相同性は認めなかった。ST2細胞のearly passageのみが有し且つD3+Dex処理に依存して発現が亢進する分子は、共存培養系の破骨細胞形成に関連する可能性が想定され、現在、引き続き分離同定作業を継続中である。
B-II. 硬組織における分子雑種法
マウス骨組織における骨基質蛋白(オステオネクチン、オステオポンチン)を始め、頚骨骨折モデルにおける、骨形成因子(BMP)、血小板由来増殖因子受容体(PDGF receptor a, b)のmRNA発現局在を観察することができた。特に、骨折治癒過程後期の骨改変期に観察されるwoven boneにおいて、骨芽細胞のみならず破骨細胞にもPDGF receptor bのmRNA発現を認めたことから、PDGFが骨リモデリングにおいて破骨細胞の機能を修飾する可能性が示唆された。
最近他の研究グループにより、ストローマ細胞由来の破骨細胞形成因子の本体については、osteoprotegerinのligandであり、TNF ligand familyのTRANCE/ RANKLであることが報告された。私どもがクローニングを進めていた分子はTRANCE/ RANKLとの相同性はなかった。閉経後骨粗鬆症は、閉経に伴って急激な骨吸収の亢進・骨量減少を来し、骨折を招来する。とりわけ大腿骨頚部骨折は高齢者の患者の日常活動性を著しく損なうため、高齢化社会における国民保健や上重要な問題である。閉経後骨粗鬆症の病態の中心をなす破骨細胞の骨吸収機構の詳細に関しては、今後さらに様々な観点から研究を進めることが重要と思われる。
結論
閉経後骨粗鬆症の病因の一端を解明するために、骨髄ストローマ細胞の破骨細胞形成支持機能に関わる因子について解析を行った。また、破骨細胞の機能に関わる因子に関してマウス骨組織を用いた組織分子雑種法の基礎検討を行った。

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