認知症高齢者の自動車運転に対する社会支援のあり方に関する検討

文献情報

文献番号
200922005A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症高齢者の自動車運転に対する社会支援のあり方に関する検討
課題番号
H19-認知症・一般-025
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
荒井 由美子(国立長寿医療センター 長寿政策・在宅医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 学(熊本大学大学院医学薬学研究部)
  • 上村 直人(高知大学教育研究部医療学系医学部門)
  • 新井 明日奈(国立長寿医療センター 長寿政策・在宅医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
6,530,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成19年改正道路交通法により、75歳以上の高齢者に対して認知機能検査が導入されることとなった一方で、認知症高齢者における運転中止に伴う本人及び家族介護者の困難に対する社会支援のあり方については、未だ十分に検討されていない。そこで、本研究は、認知症高齢者の運転中止が必至となった場合、認知症高齢者やその家族介護者が、運転について円滑に検討を進め、地域での自立した生活が継続されるための社会支援のあり方を提示することを最終目的として、社会医学的及び老年精神医学的、両観点からの調査、分析及び評価を実施した。
研究方法
社会医学的観点からは、認知症患者の運転行動特性の検討に資するため、一般生活者に対する意識調査により得られたデータを用い、一般運転者の運転行動の分析を行った。また、老年精神医学的観点からは、若年性認知症患者の自動車運転の実態に関する研究、及び、認知症患者の自動車運転に関する中長期的予後について原因疾患別の検討を行った。さらに、本研究事業の最終成果物として、認知症高齢者の家族介護者に対する支援マニュアルを作成した。
結果と考察
1)40歳以上の運転者505名における自己評価による運転行動について、交絡因子を調整しても、年齢が高いほど有意に高頻度に発現する要注意運転行動を明らかにした。2)一大学附属病院において、6ヶ月の期間内に初診となった若年性認知症患者10名のうち、4名が運転を継続しており、その半数に、危険な運転行動が認められた。3)一大学附属病院における認知症患者データベースから、132名の認知症患者の運転行動を縦断的に追跡したところ、運転継続期間について、原因疾患別に異なる傾向が認められた。4)本研究事業における3年間の調査研究により得られた知見を統合し、認知症患者の運転に関する原因疾患別の事例、認知症の解説、関連法制度や運転に対する一般生活者の意識を含む全6章から構成される「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者に対する支援マニュアル」を完成させ、家族介護者等関係者への普及啓発を実施した。
結論
認知症高齢者の家族介護者に対する具体的な社会支援策として提示された、本マニュアルの普及を推進することにより、認知症高齢者、家族介護者、主治医、ならびに自治体や関連機関が情報を共有し、連携・協働できる社会支援体制の構築に資することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200922005B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症高齢者の自動車運転に対する社会支援のあり方に関する検討
課題番号
H19-認知症・一般-025
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
荒井 由美子(国立長寿医療センター 長寿政策・在宅医療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 池田 学(熊本大学大学院医学薬学研究部)
  • 上村 直人(高知大学教育研究部医療学系医学部門)
  • 新井 明日奈(国立長寿医療センター 長寿政策・在宅医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、認知症高齢者が病状の進行により、安全な自動車運転の継続が困難になった場合に、患者本人及び家族介護者が、運転について円滑に検討を進め、地域での自立した生活が継続されるための社会支援のあり方を提示することを目的とした。
研究方法
認知症の原因疾患を考慮した運転行動への適切な対処方法や、認知症高齢者が地域で自立した生活を継続できるような、医療・保健・福祉分野に及ぶ社会支援策の確立が喫緊の課題であることから、本研究では、社会医学的及び老年精神医学的、両観点からの調査研究を実施した。
結果と考察
1)一般生活者における高齢者・認知症高齢者の自動車運転に対する意識と属性による差異を明らかにしたことにより、関係者間の情報共有と理解の促進に対する支援の必要性を示した。2)認知症の原因疾患別に運転技能が異なることを明白にしたことにより、認知症の原因疾患別の適切な運転対処方法の提案に寄与した。3)高齢者の自動車運転に関わる臨床医の現状と課題を明確化したことにより、医師に求められる役割の提示に寄与した。4)本研究により得られた結果を統合し、「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者に対する支援マニュアル」を完成させ、全国市区町村への周知を含め、家族介護者等関係者への普及啓発を実施した。
結論
本研究では、社会医学的及び老年精神医学的、両観点からの研究を実施することにより、地域において認知症高齢者が自立した生活を可能な限り継続するための、医療・保健・福祉の多分野に及ぶ社会支援策の確立に資する知見を呈した。また、家族介護者に対する支援マニュアルの作成により、エビデンスに基づく社会支援策を具現化し提示した。本マニュアルは、認知症高齢者の運転に関して困難を抱える家族介護者にとって、確かなエビデンスに基づく支援ツールとなるばかりでなく、本マニュアルを啓発資料として、今後、認知症高齢者の家族介護者、関係機関等に普及することにより、関係者ならびに自治体や関連機関が情報を共有し、連携・協働を基盤とした支援体制の構築に資することが期待される。また、本マニュアルの共有を通じた関係者間の連携・協働体制を原動力として、高齢者に対する社会支援策を推進していくことにより、地域における高齢者の自立した生活の継続に寄与することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200922005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症患者の運転行動に関する実態、及び、一般生活者における自動車運転に関する意識を全国規模の調査から明らかにしたことは、認知症高齢者の自動車運転に関する課題の明確化に寄与し、関係者間の情報共有と理解の促進を図るべく、具体的な社会支援策を提示するにあたっての貴重な知見となった。本研究の成果は、国際老年精神医学会における特別講演等、国内外の学会及び、Int J Geriatr Psychiatry、J Am Geriatr Soc等の雑誌において報告された。
臨床的観点からの成果
認知症の原因疾患により患者の運転行動が異なることを示し、認知症患者の運転について検討する際には、原因疾患の正確な診断と各疾患の特徴を考慮した対応が重要であることを示した。また、認知症高齢者の自動車運転に関して、家族介護者や臨床医の対応及び各々が抱える困難について明らかにしたことにより、地域において認知症高齢者が自立した生活を可能な限り継続するための、社会支援策の確立に資する有用な知見を呈した。本研究成果は、国際アルツハイマー病学会やInt J Geriatr Psychiatryにて報告された。
ガイドライン等の開発
老年精神医学的及び社会医学的エビデンスに基づき、1)認知症患者の自動車運転に関する事例、2)認知症の解説、3)認知症患者における運転の特徴、4)関連法制度、5)一般生活者の意識、6)認知症患者の運転への対応・考え方、以上の6章より構成される「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者に対する支援マニュアル」を作成した。本マニュアルは、認知症高齢者の自動車運転に困難を抱える家族介護者に対する社会支援策の一つとして具現化されたものであり、多分野の連携による社会支援策の構築に寄与するものである。
その他行政的観点からの成果
本マニュアルの幅広い活用を図るため、研究代表者の研究部HPから、pdfファイルの無償ダウンロードによる利用を可能とした。この旨、全国市町村、及び特別区と政令指定都市の行政区の高齢福祉担当者宛に周知した結果、少なくとも15の地方自治体HP上において、情報の告知と当該pdfファイルへのリンクが貼られていることが確認された。また、厚生労働省主管の認知症サポート医養成研修、及び、かかりつけ医認知症対応力向上研修の両テキストに採用されており、これは認知症に係る地域医療体制の構築に寄与するものである。
その他のインパクト
本マニュアルの完成と閲覧方法については、社)認知症の人と家族の会や、警察庁及び警視庁等、関係機関においても周知されたことが確認された。さらに、当該支援マニュアルについて、NHKをはじめ、読売新聞、中日新聞、産経新聞、その他45の地方紙等が紹介しており、国民への幅広い啓発が実施されている。該当ホームページへのアクセス数は、1日当たり最高1700件に達し、また、日本老年精神医学会及び日本認知症ケア学会のHPへ掲載される等、本マニュアルが遍く利用されていることが示唆され、今後、一層の普及が期待される。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
27件
その他論文(和文)
60件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
70件
学会発表(国際学会等)
32件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
15件
少なくとも15市町村のHPに掲載
その他成果(普及・啓発活動)
45件
45あまりの新聞報道及び警視庁HPなど

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sasaki M, Arai Y, Kumamoto K, et al.
Factors related to potentially harmful behaviors towards disabled older people by family caregivers in Japan.
Int J Geriatr Psychiatry , 22 (3) , 250-257  (2007)
原著論文2
Arai A, Matsumoto T, Ikeda M, et al.
Do family caregivers perceive more difficulty when they look after patients with early onset dementia compared to those with late onset dementia?
Int J Geriatr Psychiatry , 22 (12) , 1255-1261  (2007)
原著論文3
Matsumoto N, Ikeda M, Fukuhara R, et al.
Caregiver’s burden associated with behavioral and psychological symptoms of dementia in the local community elderly people.
Dement Geriatr Cogn Disord , 23 , 219-224  (2007)
原著論文4
Shinagawa S, Ikeda M, Toyota Y, et al.
Frequency and clinical characteristics of early-onset dementia in consecutive patients in a memory clinic.
Dement Geriatr Cogn Disord , 24 , 42-47  (2007)
原著論文5
Toyota Y, Ikeda M, Shinagawa S, et al.
Comparison of behavioral and psychological symptoms in early-onset and late-onset Alzheimer’s disease.
Int J Geriatr Psychiatry , 22 , 896-901  (2007)
原著論文6
Sasaki M, Arai A, Arai Y.
Factors related to institutionalization among disabled older people; a two-year longitudinal study.
Int J Geriatr Psychiatry , 23 (1) , 113-115  (2008)
原著論文7
Arai Y, Arai A, Zarit SH.
What do we know about dementia?: A survey on knowledge about dementia in the general public of Japan.
Int J Geriatr Psychiatry , 23 (4) , 433-438  (2008)
原著論文8
Mizuno Y, Arai A, Arai Y.
Determination of driving cessation for older adults with dementia in Japan.
Int J Geriatr Psychiatry , 23 (8) , 987-989  (2008)
原著論文9
Shinagawa S, Toyota Y, Ishikawa T, et al.
Cognitive function and psychiatric symptoms in early- and late-onset frontotemporal dementia.
Dement Geriatr Cogn Disord , 25 , 439-444  (2008)
原著論文10
Nomura M, Makimoto K, Kato M, et al.
Empowering older people with early dementia and family caregivers: a participatory action research study.
Int J Nurs Stud , 46 (4) , 431-441  (2009)
原著論文11
Arai A, Mizuno Y, Arai Y.
Differences in perceptions regarding driving between young and old drivers and non-drivers in Japan.
Int J Geriatr Psychiatry , 25 (12) , 1239-1245  (2010)
原著論文12
Arai Y. Arai A, Mizuno Y.
The National Dementia Strategy in Japan.
Int J Geriatr Psychiatry , 25 (9) , 896-899  (2010)
原著論文13
Mizuno Y, Arai A, Arai Y.
Measures for enhancing the mobility of older people with dementia in Japan: Should it be a matter of self-help?.
J Am Geriatr Soc , 58 (10) , 2048-2049  (2010)
原著論文14
Arai Y, Zarit SH.
Exploring strategies to Alleviate Caregiver Burden: The Effects of the National Long-term Care Insurance Scheme in Japan (in press).
Psychogeriatrics  (2011)
原著論文15
上村直人.
認知症と自動車運転~わが国における認知症ドライバーの実態と課題~.
交通安全教育 , 493 , 6-18  (2007)
原著論文16
上村直人,井関美咲,谷勝良子,諸隈陽子.
認知症患者の自動車運転の実態と医師の役割.
精神科 , 11 (1) , 43-49  (2007)
原著論文17
荒井由美子,新井明日奈.
認知症患者の自動車運転:社会支援の観点から.
日本臨牀(増刊号1 アルツハイマー病) , 66 , 467-471  (2008)
原著論文18
荒井由美子,新井明日奈.
認知症患者の自動車運転に対する家族介護者の意識と困難.
老年精神医学雑誌(増刊号1) , 19 , 149-153  (2008)
原著論文19
荒井由美子,新井明日奈,水野洋子.
認知症患者の運転:社会支援の必要性.
精神神経学雑誌 , 111 (1) , 101-107  (2009)
原著論文20
寺川智浩,玉井 顯,池田学.
認知症高齢者の自動車運転に関するアンケート調査 -アルツハイマー病患者の自動車運転に対する家族と患者の認識の乖離に関する研究-.
老年精神医学雑誌 , 20 , 555-565  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-