サルを用いたアルツハイマー病及び血管性認知症に対するワクチン療法の有効性、安全性の評価

文献情報

文献番号
200922003A
報告書区分
総括
研究課題名
サルを用いたアルツハイマー病及び血管性認知症に対するワクチン療法の有効性、安全性の評価
課題番号
H19-認知症・一般-022
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
田平 武(順天堂大学 大学院 認知症診断・予防・治療学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 籏野健太郎(国立長寿医療センター研究所 長寿脳科学研究部)
  • 中村紳一朗(滋賀医科大学動物生命科学研究センター)
  • 脇田英明(国立長寿医療センター研究所 血管性認知症研究部)
  • 冨本秀和(三重大学大学院医学系研究科 神経病態内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
12,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1. 老齢サルにPIB/PETを施行しAbetaワクチンの有効性・安全性をしらべ、Abetaワクチンの効果発現に必要な期間を明らかにする。
2. サルを用いた脳虚血、微小脳梗塞のモデルを作製し、接着分子E-selectinを標的とするワクチン療法を開発する。
研究方法
 昨年度老齢カニクイザル4頭にSeV/Abeta-IL-10ワクチンを経口投与しPIBの脳内集積減少結果を得た。本年度はこれらのデータをさらに解析するとともにサルを解剖して老人斑との対比を行う。また本年度は老齢サル4頭にAAV/Abetaワクチンを経口投与し、3ヶ月後にPIB/PETを施行する。
 カニクイザルの両側内頸動脈内に滅菌した50ミクロンのビーズを注入し、1ヶ月後同量のビーズを注入した。対照としてビーズの代わりに生理食塩水を注入した偽手術を行った。記憶機能は食物回収試験で評価し、経時的にMRI撮影を行った。
(倫理面への配慮)
本研究は所属研究機関の承認を受け動物愛護精神に則り適正に行った。

結果と考察
 SeV/Abetaワクチン投与サルのPIBの脳内集積は減少し前頭葉では統計学的に有意であった。6ヵ月後SeV/Abetaワクチンを再投与しその4ヵ月後にPIB/PETを繰り返したが、それ以上有意な変化を認めなかった。ワクチン非投与サルに11ヵ月後PIB/PETを繰り返したが有意な変化は認めなかった。ワクチン投与サル4頭について病理学的にしらべたところ、3頭では年齢に比し明らかに老人斑が少なかった。またAAV/Abetaワクチン投与3ヶ月後のPIB/PETでは劇的な効果がみられた。
 昨年度までの研究成果から得られたカニクイザルを用いた霊長類血管性認知症モデル作製の至適条件について、MRI病変と記憶機能障害の再現性を2頭の動物を用いて確認し、多発する脳血管障害を基礎とし、脳萎縮、持続する記憶機能障害を呈する霊長類血管性認知症モデルが開発された。本モデルを用いてE-selectin阻止ワクチン療法を行ったが死亡例があり、能動免疫によるE-selectin阻止ワクチン療法は安全性に関するデータの蓄積が必要と考えられた。

結論


1.老齢カニクイザルにPIB/PETを施行し、老齢サルでは若齢サルに比しPIBの脳内集積が高いこと、SeV/Abeta, AAV/Abetaワクチンの経口投与によりPIBの脳内集積が減少し、3ヵ月後にPIB/PETで評価できることが分かった。

2.カニクイザルで多発脳梗塞性血管性認知症モデルの作製に成功した。E-selectinワクチンについてはさらなる基礎研究が必要である。

公開日・更新日

公開日
2010-06-02
更新日
-

文献情報

文献番号
200922003B
報告書区分
総合
研究課題名
サルを用いたアルツハイマー病及び血管性認知症に対するワクチン療法の有効性、安全性の評価
課題番号
H19-認知症・一般-022
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
田平 武(順天堂大学 大学院 認知症診断・予防・治療学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 籏野健太郎(国立長寿医療センター研究所 長寿脳科学研究部)
  • 中村紳一朗(滋賀医科大学動物生命科学研究センター)
  • 脇田英明(国立長寿医療センター研究所 血管性認知症研究部)
  • 冨本秀和(三重大学大学院医学系研究科 神経病態内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1. 老齢サルにAbetaワクチンを投与し、経時的にアミロイドイメージングを行い、その安全性・有効性を確認するとともに、効果判定に必要な期間を明らかにする。
2. サルの血管性認知症モデルを開発し、接着分子E-selectinを標的とするワクチン療法を開発する。
研究方法
20歳以上の老齢カニクイザル10頭にPIB/PETを施行し、浜松ホトニクスにある既存の若齢サルデータと比較する。2年度はその老齢サル4頭に組換えSeV/Abeta/IL-10ワクチン(DNAVEC社提供)を経口投与しPIB/PETを施行しワクチン投与前後で比較する。3年度は組換えAAV/Abetaワクチンを経口投与し同様にPIB/PETで評価を行う。
霊長類血管性認知症モデル動物の開発には成年カニクイザルを用いる。マイクロビーズを両側内頸動脈から投与し微小塞栓による多発脳梗塞モデルを作製し、MRI画像、記憶機能と病理像を検討する。ワクチンの開発ではビーズ投与直後からE-selectinをアジュバントとともに1か月間隔で2回免疫する。
結果と考察
老齢サルでは若齢サルに比しPIBの脳内集積が有意に高かった。その4頭にSeVワクチンを投与し3ヵ月後にPIB/PETを施行し投与前の画像と比較したところ、PIBの脳内集積は減少し前頭葉で有意であった。ワクチンを投与しないサルでPIB/PETを繰り返したが、有意な変化は認めなかった。2回目のワクチン投与4ヵ月後にPIB/PETを施行したが、さらなる変化は認めなかった。ワクチン投与サルでは年齢に比し老人斑は明らかに少なかった。AAVワクチン投与3ヵ月のPIB/PETでは劇的な効果がみられた。
 多発脳梗塞を基礎とし、脳萎縮、持続する記憶機能障害を発症する再現性の高い血管性認知症霊長類モデルが開発された。マイクロビーズの数は1回2,250が適正であった。このサルの血管性認知症モデル5頭に、E-selectinワクチンの投与を開始したが、1頭が急性期の脳血管障害、1頭が腎機能障害で死亡した。
結論
 老齢カニクイザルはPIB/PETにより脳アミロイドの蓄積を評価することが可能である。SeVワクチン、AAVワクチンともに1回の経口投与で3ヵ月後にはPIB/PETで効果を評価できる。
 多発性微小梗塞、長期間持続する記憶障害を発症する再現性の高い霊長類血管性認知症モデルが開発された。E-selectin阻止ワクチンは有効性、安全性に関するさらなる基礎研究が必要である。

公開日・更新日

公開日
2010-06-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200922003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
20歳以上のカニクイザルはPIB/PETで老人斑アミロイドの蓄積を評価することができる。PIB/PETを用いると組換えセンダイウイルスアミロイドワクチン、組換えアデノ随伴ウイルスアミロイドワクチンとも1回の経口投与から3カ月で評価できることが分かった。
カニクイザルの内頸動脈にマイクロビーズを注入することで持続性記憶機能障害を示す再現性の高い血管性認知症のモデル作成に成功した。これを用いてE-selectinを標的とする能動免疫ワクチンをこころみたが、安全性に検討課題を残した。
臨床的観点からの成果
ワクチンによる老人斑アミロイド除去効果はPIB/PETで評価でき、3か月で効果が確認できるので、ワクチン開発が促進される。老人斑の除去が認知機能の改善をもたらさない可能性が指摘されているが、超早期ADでは有効な方法となる可能性がある。
血管性認知症は脳梗塞部位への白血球浸潤が悪影響を与えておりその侵入を阻止するE-selectinワクチンは期待される。今回サルで再現性の高い血管性認知症のモデル作成に成功した。これを用いることでE-selectinワクチンの有効性・安全性の評価を行うことができる。
ガイドライン等の開発
とくにない。
その他行政的観点からの成果
とくにない。
その他のインパクト
AD発病後のワクチン投与では進行を止めることができない可能性が指摘されている。我々が開発中の経口ワクチンは超早期の予防投与が可能で期待が大きく、新聞や雑誌で繰り返し取り上げられている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
34件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
研究会等を含む
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
田平 武著 「アルツハイマー病に克つ」朝日新書 2009年

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sakurai F, Nakamura S, Akimoto K et al.
Adenovirus serotyp 35 vector-mediated transduction following direct administration into organs of nonhuman primates.
Gene Therapy , 16 , 297-302  (2009)
原著論文2
Ushitora M, Sakurai F, Yamaguchi T, et al.
Prevention of hepatic ischemia-reperfusion injury by pre-administration of catalase-expressing adnovirus vectors.
J Controlled Release , 142 , 431-437  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-