霊長類胚性幹細胞をもちいた認知症、アルツハイマー病に対する新規治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
200922002A
報告書区分
総括
研究課題名
霊長類胚性幹細胞をもちいた認知症、アルツハイマー病に対する新規治療法開発に関する研究
課題番号
H19-認知症・一般-021
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 登(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 松井 宏晃(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 長田 賢一(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 黒川 真奈絵(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 千葉 俊明(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
2,610,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー型認知症はタウ蛋白異常およびアミロイド蛋白異常の両方の病態を持つ疾患である。両側面から治療を検討するため、タウ蛋白異常モデルマウスとアミロイド蛋白異常モデルマウスに移植治療を行い組織学的変化を検討した。
研究方法
1. ヒト異常(N279K)タウ遺伝子改変マウスであるSJLBマウスをヒトタウ特異的抗体を用いて組織学的に解析した。Luxsol first blue-bodian染色にて同部の神経線維変性を評価した。
2. アポトーシスはTUNEL法にて、活動型Caspase-3のみを認識する抗体による組織染色を施行した。
3. 電子顕微鏡による神経変性を確認した。
4.  移植治療
SJLBマウスの線条体(中心部と後方の海馬近傍)の2ヶ所に神経幹細胞を移植した。アミロイド蛋白異常(PDGFB-APPSwInd)マウスでは直接海馬に移植した。その後の組織評価を施行。
(倫理面への配慮)
動物実験と遺伝子組み換え実験は必要に応じて当大学に申請し許可された実験計画に基づいて行った。
結果と考察
ヒトタウ異常蛋白は月齢依存性に皮質・海馬の神経細胞に蓄積した。同部では神経突起の変性がみられた。
変性のみられた神経細胞はCaspase-3を介したアポトーシスが顕著だった。特に海馬おいて、アポトーシスを起こした核をもつ変性した神経細胞が確認された。アポトーシスは皮質で早くおこり、その後に海馬での細胞死が盛んになるという、先行する性格変化とその後の認知症という臨床経過に合致した。
胚性幹細胞株をPA6細胞との共培養にて6日目には約80%の細胞が神経幹細胞になることを確認した。その後bFGFを添加しneurosphere法で神経幹細胞を増殖させた。移植後には移植細胞が海馬内で容易に特定でき、生着していた。移植細胞はニューロンマーカー(Tuj)、節前シナプス(synapsinI)、節後シナプス(PSD95)の発現を認めた。移植細胞が海馬内で海馬神経の性質を持つGABAnergicなニューロン(vesicular GABA transporter; VGAT陽性)に分化していた。
結論
アミロイド蛋白異常マウスにおいては海馬内への神経幹細胞の移植で、海馬神経の性質を持つGABAnergicなニューロンに分化し生着し、シナプス形成を行い神経ネットワークを再構築することが示された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

文献情報

文献番号
200922002B
報告書区分
総合
研究課題名
霊長類胚性幹細胞をもちいた認知症、アルツハイマー病に対する新規治療法開発に関する研究
課題番号
H19-認知症・一般-021
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 登(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
  • 松井 宏晃(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
  • 長田 賢一(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
  • 黒川 真奈絵(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
  • 千葉 俊明(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病は認知症の中核的疾患で、新規治療法の開発は重要な意味を持つ。細胞移植治療の有用性を検討するため、タウ蛋白異常モデルマウスとアミロイド蛋白異常モデルマウスに移植治療を行い組織学的変化を検討した。
研究方法
1. ヒト異常(N279K)タウ遺伝子改変マウスであるSJLBマウスをヒトタウ特異的抗体を用いて組織学的に解析した。Luxsol first blue-bodian染色にて同部の神経線維変性を評価した。
2. アポトーシスはTUNEL法にて、活動型Caspase-3のみを認識する抗体による組織染色を施行した。
3. 電子顕微鏡による神経変性を確認した。
4.  移植治療
SJLBマウスの線条体(中心部と後方の海馬近傍)の2ヶ所に神経幹細胞を移植した。アミロイド蛋白異常(PDGFB-APPSwInd)マウスでは直接海馬に移植した。その後の組織評価を施行。
(倫理面への配慮)
動物実験と遺伝子組み換え実験は必要に応じて当大学に申請し許可された実験計画に基づいて行った。
結果と考察
ヒトタウ異常蛋白は月齢依存性に皮質・海馬の神経細胞に蓄積した。同部では神経突起の変性がみられた。
変性のみられた神経細胞はCaspase-3を介したアポトーシスが顕著だった。特に海馬おいて、アポトーシスを起こした核をもつ変性した神経細胞が確認された。アポトーシスは皮質で早くおこり、その後に海馬での細胞死が盛んになるという、先行する性格変化とその後の認知症という臨床経過に合致した。

胚性幹細胞株をPA6細胞との共培養にて6日目には約80%の細胞が神経幹細胞になることを確認した。その後bFGFを添加しneurosphere法で神経幹細胞を増殖させた。移植後には移植細胞が海馬内で容易に特定でき、生着していた。移植細胞はニューロンマーカー(Tuj)、節前シナプス(synapsinI)、節後シナプス(PSD95)の発現を認めた。移植細胞が海馬内で海馬神経の性質を持つGABAnergicなニューロン(vesicular GABA transporter; VGAT陽性)に分化していた。
結論
ES細胞から高効率に神経幹細胞を分化誘導した。この細胞はアミロイド蛋白異常マウスにおいては海馬内への移植で、海馬神経の性質を持つGABAnergicなニューロンに分化し生着し、シナプス形成を行い神経ネットワークを再構築することが示された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200922002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アルツハイマー病はタウ蛋白異常とアミロイド蛋白異常の両方の病態を持つ。タウ蛋白トランスジェニックマウスとアミロイドトランスジェニックマウスを用いて神経細胞移植を行った。ES細胞に造血支持能を有するPA6細胞と共培養後、線維芽細胞増殖因子とさらに培養して神経幹細胞を増殖させ直接海馬に移植した。移植細胞は海馬内でVGAT+、Synapsin1+PSD95+となり、海馬神経の性質を持つGABAnergicな細胞に分化した後、シナプス形成と神経ネットワークの再構築が起こることが明らかになった。
臨床的観点からの成果
アルツハイマー病は老年期認知症の主な原因であり新規治療法の開発は極めて重要である。その病理学的特徴は老人斑とpaired helical filamentからなる神経原線維変化であり、これらの結果として神経細胞死が起こる。本研究の結果から、ヒトにおいて神経細胞移植が進行した認知症患者において有効性の高い治療法となりうる事を提案することができた。本治療法が臨床応用された場合には進行した認知症においても著しい治療効果が期待され、患者本人のみならず社会的にも大きな貢献が可能である。
ガイドライン等の開発
本研究はその性質から、直ちに日常診療に対して有用なガイドラインの開発に結びつくものではない。現在まではマウスや霊長類(将来的にはヒト)の胚性(ES)幹細胞から神経細胞を分化誘導してきたが、山中らのiPS細胞からもほぼ同様の手法を用いて神経細胞を分化誘導できる事が分かった。将来的には認知症患者への細胞移植療法に、ES細胞由来あるいはiPS細胞由来神経細胞のどちらを用いるべきかのガイドライン作成まで、現研究を発展させたい。
その他行政的観点からの成果
特記すべきことなし
その他のインパクト
特記すべきことなし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
投稿中
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
特許出願中
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-