アルツハイマー病巣での膜結合型プロスタグランジンE合成酵素1の生物学的・臨床医学的意義の解析

文献情報

文献番号
200922001A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病巣での膜結合型プロスタグランジンE合成酵素1の生物学的・臨床医学的意義の解析
課題番号
H19-認知症・一般-020
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
原 俊太郎(昭和大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中谷 良人(昭和大学 薬学部)
  • 高橋 三津雄(医療法人さわらび会福祉村病院 長寿医学研究所)
  • 赤津 裕康(医療法人さわらび会福祉村病院 長寿医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
14,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プロスタグランジン(PG)類の産生を抑制する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がアルツハイマー病(AD)の進行を抑えることが疫学的に示され、その分子機構としてはNSAIDsの抗炎症作用による神経細胞死の抑制が想定されているが、PG類産生とAD進行との関連については未だ明確にされていない。本研究では、PG類産生とAD進行との関連を明らかにすることを目的とし、NSAIDsの標的となるCOX-2の下流で働くmPGES-1に注目し解析を行った。
研究方法
1) Aβ刺激によるマウス胎仔大脳初代培養神経細胞のアポトーシス誘導の検討:妊娠16.5日目のマウス胎仔を摘出し、この胎仔の大脳から大脳初代培養神経細胞を調製した。さらに、培養神経細胞をAβあるいはPGE2に曝し、TUNELアッセイによりアポトーシスの誘導について検討した。
2) AD患者尿・血清・脳脊髄液中のPGE2の定量:AD患者および脳障害のある非AD患者より尿、血清、脳脊髄液を採取しEIAキットを用いPGE2量を測定した。

結果と考察
1) mPGES-1遺伝子欠損下での実験的ADの発症:野生型マウス胎仔由来培養神経細胞をAβで処理するとアポトーシスが誘導されたが、Aβ処理によりPGE2産生が増加しないmPGES-1遺伝子欠損細胞では、Aβで処理してもアポトーシスの誘導は観察されなかった。また、mPGES-1遺伝子欠損細胞をPGE2単独で処理してもアポトーシスは誘導されなかったが、AβとPGE2の両者で処理したところアポトーシスが誘導された。Aβによる神経細胞のアポトーシスには、Aβによる直接作用とmPGES-1由来PGE2を介した間接作用の両者が重要であることが考えられた。
2) AD患者試料でのPGE2類の変動:AD患者および脳に障害がみられる非AD患者の尿・血清中におけるPGE2量を測定したところ、いずれの患者においても尿・血清中においてPGE2量が検出されたものの、AD患者と非AD患者間でPGE2量に有意な差は観察されなかった。

結論
NSAIDsの標的であるCOX-2の下流ではたらくmPGES-1の遺伝子欠損によってAD様症状が抑制されることが、in vivoの系に加え、in vitroの系においても示された。これらの結果は、mPGES-1阻害剤がADに対し有効である可能性を強く示している。今後は、AD進行にmPGES-1がいかなる分子機構により関与するかをより詳細に検討するとともに、mPGES-1の阻害剤がどのような副作用を起こし得るかについて解析することも重要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200922001B
報告書区分
総合
研究課題名
アルツハイマー病巣での膜結合型プロスタグランジンE合成酵素1の生物学的・臨床医学的意義の解析
課題番号
H19-認知症・一般-020
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
原 俊太郎(昭和大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中谷 良人(昭和大学 薬学部)
  • 高橋 三津雄(医療法人さわらび会福祉村病院 長寿医学研究所)
  • 赤津 裕康(医療法人さわらび会福祉村病院 長寿医学研究所)
  • 工藤 一郎(昭和大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プロスタグランジン(PG)類の産生を抑制する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がアルツハイマー病(AD)の進行を抑えることが疫学的に示され、その分子機構としてはNSAIDsの抗炎症作用による神経細胞死の抑制が想定されているが、PG類産生とAD進行との関連については未だ明確にされていない。本研究では、PG類産生とAD進行との関連を明らかにすることを目的とし、NSAIDsの標的となるCOX-2の下流で働くmPGES-1に注目し解析を行った。
研究方法
1) ヒト脳組織の免疫組織学的解析:AD患者、非AD神経疾患患者、対照者の剖検組織よりパラフィン切片を作製し、抗mPGES-1抗体等各種抗体により免疫染色を行った。
2) TG2576マウスを用いた解析:TG2576マウス脳組織の免疫組織染色を行うとともに、その記憶機能についてはモリスの水迷路を用い解析した。
3) マウス胎仔大脳初代培養神経細胞を用いた解析:妊娠16.5日のマウス胎仔大脳より大脳初代培養神経細胞を調製し、この細胞をAβに曝した後、アポトーシスの誘導、mPGES-1の発現変化等を解析した。

結果と考察
まず、AD患者脳やADモデルマウス(TG2576マウス)の脳において、mPGES-1蛋白質がADの特徴的病理像と重なって高発現していることを見出した。さらに、mPGES-1の遺伝子欠損がTG2576マウスで見られるAβ沈着部位への活性化グリアの集積、記憶機能低下を抑制することを明らかにした。次に、マウス大脳由来の初代培養神経細胞をAβで刺激すると、mPGES-1発現が誘導され、さらにこの誘導に伴いPGE2産生が増加することを見出した。このマウス初代培養神経細胞ではAβ処理によりアポトーシスが誘導されたが、Aβ処理によりPGE2産生が増加しないmPGES-1遺伝子欠損細胞では、AβあるいはPGE2単独で処理してもアポトーシスは誘導されず、AβとPGE2の両者で処理するとアポトーシスが誘導された。これらの結果から、ADの進行にはmPGES-1由来PGE2が関与することが示された。
結論
NSAIDsの標的であるCOX-2の下流ではたらくmPGES-1の遺伝子欠損によってAD様症状が抑制されることが、in vivo、in vitroいずれの系においても示された。これらの結果は、mPGES-1阻害剤がADに対し有効である可能性を強く示している。今後は、AD進行にmPGES-1がいかなる分子機構により関与するかをより詳細に検討するとともに、mPGES-1の阻害剤がどのような副作用を起こし得るかについて解析することも重要である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200922001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
プロスタグランジン(PG)類の産生を抑制する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がアルツハイマー病(AD)の進行を抑えることが疫学的に示されているが、PG類産生とAD進行との関連についてはほとんど明らかにされていなかった。本研究では、NSAIDsの標的であるCOX-2の下流で働く、膜結合型プロスタグランジン(PG)E合成酵素mPGES-1を介し産生されるPGE2が、ミクログリアの活性化や神経細胞死を引き起こし、ADの進行に深く関与することを示した。
臨床的観点からの成果
臨床の場で広く用いられるNSAIDsであるが、生体恒常性の維持を担うPG類の産生をも抑制してしまうために、消化器障害など様々な副作用が問題となっている。一方、mPGES-1は種々の病態の発症や進行に関わるPGE2産生を担うものの、生体恒常性の維持を担うPG類の産生には関わらない。このため、現在、副作用のない新たなNSAIDsとしてmPGES-1特異的阻害剤の開発が国内外で進められており、本研究により、mPGES-1阻害剤がADに対しも有効である可能性が強く示されたことの意義は大きい。
ガイドライン等の開発
本研究は、特に、何らかのガイドライン等の開発につながるものでない。
その他行政的観点からの成果
ADは高齢化社会とともにその発症率が増え、変性性認知症の中でも発症頻度の高い疾患であるが、この疾患に対する有効な薬としては塩酸ドネペジル(アリセプト)しかない。本研究により、NSAIDsの有効性が再認識された点、現在開発中のmPGES-1阻害剤が有効である可能性が強く示唆された点の意義は大きい。
その他のインパクト
本事業の研究成果発表会で発表した内容について、医学新聞Medical Tribune誌で取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
26件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Daisuke Kamei, Makoto Murakami, Yuka Sasaki et al.
Microsomal prostaglandin E synthase-1 in both cancer cells and hosts contributes to tumour growth, invasion and metastasis
Biochemical Journal , 425 (2) , 361-371  (2010)
原著論文2
Shuntaro Hara, Daisuke Kamei, Yuka Sasaki et al.
Prostaglandin E synthases: Understanding their pathophysiological roles through mouse genetic models
Biochimie , 92 (6)  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2016-09-13