軟骨・骨の加齢変化とホルモン・サイトカインによる組織修復能の再活性化

文献情報

文献番号
199700609A
報告書区分
総括
研究課題名
軟骨・骨の加齢変化とホルモン・サイトカインによる組織修復能の再活性化
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
池田 恭治(長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
軟骨・骨の退行性変化を基盤として発症する変形性関節症・骨粗鬆症は、高齢者の日常生活を制限し、寝たきりにつながる重要な疾患であるが、真に有効な薬物治療は未だ確立されていない。超高齢社会を迎える我が国において、病因の解明と有効な治療・予防法の確立は急務である。軟骨・骨の代謝は、全身性のホルモン、局所で働くサイトカイン、細胞間あるいは細胞・基質間相互作用、機械的負荷など多様なメカニズムによって制御されている。本研究では、これらの退行性疾患が、軟骨・骨の修復能の低下に起因するという発想に基づき、ホルモン・サイトカインによって自己の再生・修復能力を活性化することによって独自の予防・治療法を開発するにあたっての基盤形成を構築することを目的とする。
研究方法
1)FGFによる関節軟骨の修復
成熟家兎の大腿骨膝蓋面に電気ドリルで3 mm径、5 mm径(深さは4 mm)の関節軟骨全層欠損を作成し、hrFGF-2 (50 pg/hr) あるいはFGF-2中和抗体 (50 ng/hr) を2週間持続投与した。1, 2, 4, 8, 24週後に、欠損部の組織学的観察及び抗II型コラーゲン抗体による免疫組織化学的観察を行った。
2)破骨細胞の分化を制御する新たなサイトカインの病態生理的意義
Osteoprotegerin(OPG)/ osteoclastogenesis inhibitory factor(OCIF)のELISA測定系(雪印乳業・生物科学研究所)を用いて、さまざまな年齢層の健常人、および骨粗鬆症患者の血中OPG/OCIF濃度を測定し、骨量・骨代謝の生化学マーカーとの相関を調べた。種々の骨芽細胞および骨髄間質細胞において、OPG/OCIFの発現をNorthern、Western解析、培養液中のELISAを用いて解析しその調節機構について検討した。
3)第二のエストロゲン受容体の機能解析
ERa、ERbの転写促進領域の同定は、各種欠失体を作成しCAT assayにより調べた。サル腎臓由来のCos細胞、ヒト子宮上皮細胞由来のHeLa細胞を用い、細胞種特異的な転写促進能を調べた。ERa、ERbの転写促進領域に相互作用する転写共役因子群を酵母two-hybrid系により検索した。
4)老化促進マウスklothoの病態解析
kl/klマウスの骨密度をDEXAによって測定した。部位による違いは、脛骨・大腿骨を近位から遠位まで20の分画に分けて測定した。kl/klマウスの骨形成および骨吸収の異常を、1) 骨組織形態計測、2) 骨芽細胞および破骨細胞の培養系を用いて検討した。 kl/klマウスと+/+マウス由来の骨芽細胞と破骨細胞前駆細胞 (骨髄細胞または脾細胞) の組み合わせの共存培養系において破骨細胞形成能を評価した。
結果と考察
結果=
1)FGFによる関節軟骨の修復
5 mm径欠損部組織は、術後24週後に至るまで硝子軟骨による修復を認めなかったが、FGF-2投与群では、早期より未分化間葉系細胞の旺盛な増殖と軟骨分化を認めた。8週後では正常軟骨様の外観を呈し、Safranin-O、抗II型コラーゲン抗体による良好な染色性を認め、硝子軟骨による修復であることを示した。24週後においても、FGF-2投与群では、関節軟骨の組織形態を保持していた。
自然修復が期待される3 mm径の欠損では、対照群の欠損部は4週で光沢のある軟骨組織で修復されたが、FGF-2の中和抗体投与群では欠損部表面は凹凸不整で、欠損部に遊走した未分化細胞の軟骨分化は著明に阻害された。
2)血液を循環するOPG/OCIFと老化
OPG/OCIFは、血液中をng/mlオーダーで循環していることが明らかとなった。血中OPG/OCIF濃度に性差は認められなかったが、男性においても女性においても、加齢とともに上昇した。同年齢での比較では、骨粗鬆症患者の血中OPG/OCIF濃度は、対照の閉経女性群より有意に高値を示した。 種々の骨芽細胞およびストローマ細胞でOPG/OCIFの発現が認められ、TGF-bはOPG/OCIFの発現をmRNAレベルでも蛋白の分泌においても増加させた。
3)新たなエストロゲン受容体の機能
ERbにはERa同様、N末端(AF-1)、C末端(AF-2)の2ヶ所に転写促進能が存在し、 ERbもMAPキナーゼによりAF-1機能が亢進された。細胞種特異的な活性(COS細胞ではAF-1が、HeLaではAF-2が高い)、エストロゲン・エストロゲンアンタゴニスト(tamoxifen、ICI164,384)の効果についてはa、b間に差がなかった。ERa、ERbのAF-1、AF-2領域をプローブに酵母two-hybrid系により、相互作用する転写共役因子群を検索したところ、幾つかの有望なクローンを得た。既知の転写共役因子群(SRC-1、TIF2、AIB1)のERa、ERbのAF-1、AF-2への効果については、AF-2にのみ有効であったことから、AF-1には未知なる転写共役因子の存在が考えられた。
4)klotho遺伝子と骨粗鬆症
kl/klマウスの脛骨、大腿骨、椎体全体の骨密度は+/+マウスに比べて10%~12%減少していた。骨密度減少は、脛骨、大腿骨ともに骨幹部で最も著明に認められたが、脛骨近位および大腿骨遠位(膝関節周囲)の骨幹端部ではむしろ+/+マウスよりも骨密度が増加していた。組織学的検討では、骨幹部での骨量低下は皮質骨の皮薄化によるもので、骨内膜側の骨形成の低下に起因し、膝周囲の骨幹端部の骨密度増加は1次海綿骨が骨吸収障害によって大量に残存するためであると思われた。
骨形成については、ALP陽性の骨芽細胞数およびカルセイン二重骨標識幅が皮質骨・海綿骨とも著明に減少していた。培養骨芽細胞では、ALP陽性率が約1/12に低下、石灰化結節形成能も明らかに低下していた。骨吸収については、成熟破骨細胞の数が著明に減少しており、分化障害はその支持細胞の異常ではなく破骨細胞前駆細胞の異常に基づくことが示された。
考察=
現在のところ、変形性関節炎やリウマチにみられる関節軟骨の変性に対する根治療法は知られていない。軟骨全層欠損部は骨髄腔由来の未分化間葉系細胞の侵入と、その軟骨分化によって修復されるが、本研究で内因性のFGF-2が関節軟骨の修復に重要な役割を担うこと、外因性のFGF-2により欠損部内に軟骨分化が誘導されることが明らかとなった。したがって、組織幹細胞の増殖制御に参画するサイトカインの投与により、組織修復能を再活性化できる可能性が示された。
破骨細胞の最終分化を制御するサイトカインOPG/OCIFが、ヒトの血液中を循環していること、そのレベルが加齢とともに上昇し、老化の生理的マーカーの一つとなりうる可能性が示された。さらに、同年齢でも、骨粗鬆症において高値を示したことから、老化に伴う骨減少の原因というよりはむしろ、防御的に発現が上昇する可能性が考えられる。
骨でのエストロゲン特異的作用の分子メカニズムを解明する第一歩として、ER転写制御領域の解析と共役因子群の検索およびその性状等の解析を行った。ステロイドホルモン受容体は、通常リガンド1つに対し、レセプターは1種であるが、エストロゲンのみに、第二のレセプター(ERb)が見い出された。このことは、エストロゲンの複雑な生理作用を良く説明するものであり、実際エストロゲン標的組織内でも、細胞種によってはこの2種のレセプターの局在が異なることが報告されている。
骨粗鬆症・寿命の短縮・動脈硬化・活動性の低下・肺気腫・性腺/胸腺/皮膚の萎縮・軟部組織石灰化などヒトの老化に極めて類似したモデル動物であるkl/klマウスの骨組織を詳細に解析し、骨粗鬆化・皮質骨の皮薄化と一次海綿骨の吸収障害が存在すること、その背景に骨芽細胞と破骨細胞の両者の分化障害に基づく骨形成と骨吸収の低下が存在することを明らかにした。
結論
今年度は、軟骨の修復とサイトカイン(開)、破骨細胞の分化を司る新たなサイトカイン(池田)、第二のエストロゲン受容体(加藤)、老化促進マウスklothoにおける骨粗鬆化の病因(川口)について明らかにした。

公開日・更新日

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