HIV感染症の医療体制の整備に関する研究

文献情報

文献番号
202220024A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の医療体制の整備に関する研究
課題番号
20HB2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
横幕 能行(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症内科)
研究分担者(所属機関)
  • 田沼 順子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 今村 淳治(国立病院機構 仙台医療センター 感染症内科)
  • 南 留美(独立行政法人国立病院機構九州医療センター臨床研究センター)
  • 内藤 俊夫(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 豊嶋 崇徳(国立大学法人北海道大学 北海道大学病院)
  • 茂呂 寛(新潟大学医歯学総合病院・感染管理部)
  • 渡邉 珠代(石川県立中央病院 免疫感染症科)
  • 今橋 真弓(柳澤 真弓)(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
  • 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センターエイズ先端医療研究部)
  • 藤井 輝久(広島大学 病院輸血部)
  • 宇佐美 雄司(国立病院機構 名古屋医療センター 歯科口腔外科)
  • 池田 和子(国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センター)
  • 矢倉 裕輝(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 薬剤部)
  • 本田 美和子(国立病院機構東京医療センター 総合内科 )
  • 三嶋 一輝(福井大学 病院部医療支援課)
  • 日ノ下 文彦(帝京平成大学 健康医療スポーツ学部看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
69,231,000円
研究者交替、所属機関変更
仙台医療センター伊藤俊広から仙台医療センター今村淳治へ、千葉大学医学部附属病院葛田衣重から福井大学三嶋一輝へ交替。

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症及びAIDS(以下エイズ)は感染症法上5類に分類されている。また、感染症法に基づくエイズ予防指針や通知及び医療法に基づく医療計画作成指針により、行政及び医療機関等は、エイズに関し必要な医療体制を構築することが求められている。
これらを根拠に設置された全国の377の拠点病院(2021年末時点)は、我が国のエイズの診療に対し中心的な役割を担っている。今後、我が国のエイズ治療の拠点病院体制の発展には、拠点病院の診療体制及び機能の把握と評価を継続的に実施可能で、かつ、実施・被調査側双方に負担の少ないシステム構築が重要である。厚生労働省は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、医療機関の診療提供体制の把握を目的に医療機関等情報支援システム(Gathering Medical Information System以下G-MIS)の運用を開始した。エイズ治療についてもG-MISを利用したシステムを構築することは、エイズ治療に関する情報収集の継続に資する。2021年度、本研究では、拠点病院を対象に実施する診療体制及びエイズ治療の現況に関する調査のG-MISへの移行を試みる。
研究方法
全国の拠点病院および拠点病院以外でエイズ医療に関わる医療機関に調査票を郵送し調査するとともにG-MISへの入力を依頼した。各施設の2021年末時点の各施設のエイズ診療の診療体制に加え、2021年の各施設の抗HIV療法の実施状況等について、自治体を通じて情報提供を求めた。得られた情報から、拠点病院のエイズ診療の体制や現況の解析を行った。UNAIDSの90-90-90 targets及び95-95-95 targetsにおける治療継続率(2nd 90(95))と治療成功率(3rd 90(95))の算出は、先行研究(PLoS One. 2017 Mar 20;12(3):e0174360.)の解析方法に従った。治療成功の定義は「HIV RNA量を6ヶ月以上安定して200コピー/mL未満に抑制できている状態」とした。
(倫理面への配慮)
情報の収集、解析及び公開等について、国立病院機構名古屋医療センター臨床研究審査委員会で承認を得た(整理番号:2016-86)。
結果と考察
2021年末時点の拠点病院377施設及び拠点病院以外の17施設情報から得られた調査票の回答を得た。回答率は100%であった。また、全施設からG-MISへの入力を得た。
拠点病院の定期通院者総数は28,106人であった。定期通院者数100人以上の55施設の定期通院者数は21,879人で全体の約80%を占めた。なお、5ブロック17の拠点病院以外の施設の定期通院は2,341人、治療継続は2,280人、治療成功は2,276人であった。拠点病院における治療継続率は94.8%、定期通院者の治療導入率は95.5%、治療成功率は99.6%で、施設及び地域差を認めなかった。拠点病院のエイズ診療・抗HIV療法の機能や手術・観血的処置の提供機能等の対応の可否についての調査したところ、定期通院者数が多い群の方が対応可能と回答する割合が高く、とりわけ定期通院者が一人でもいる施設と0の施設との間に顕著な差を認めた。
G-MISによる情報収集システムへの移行により国及び都道府県は拠点病院等のエイズ診療の体制や現況を把握することが可能となった。拠点病院体制の発展に必要な合併症や併存疾患及び高齢化に関連した診療情報の収集には、national data base(NDB)の活用が有用である。現在、「HIV感染症を合併した血友病患者に対する全国的な医療提供体制に関する研究」班(野田班)との共同研究を進めている。G-MIS及びNDBを活用しエイズ診療の現況を可視化することは、今後の日本のエイズ診療の施策立案及び成果評価に有用であり必須である。
結論
拠点病院制度は抗HIV療法の治療成績向上に大きな貢献をした。一方で、大きく変化したエイズ診療に対応するためにはエイズ診療体制の再整備を行う必要がある。抗HIV療法の提供は、医療費負担軽減のために身体障害者手帳の制度を用いることから、当面は拠点病院等の特定の医療機関が担うことになると考えられるが、合併症や併存疾患等への対応はどの医療機関もその機能に応じて担うべきである。エイズが他の疾病と同等にどの医療・福祉施設でも対応可能な疾病となるよう、1995(平成5)年に発出された拠点病院の整備に関する通知に記載されている理念に基づき、COVID-19対応を機に強力に推進されている医療DX等をうまく活用しながら、現代のエイズ診療の実情にあった診療体制を改正される新たな予防指針のもと整備すべきである。そのためにG-MISやNDBの活用し、正確な情報収集と解析を継続して実施すべきである。

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202220024B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV感染症の医療体制の整備に関する研究
課題番号
20HB2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
横幕 能行(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症内科)
研究分担者(所属機関)
  • 岡 慎一(国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 田沼 順子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 伊藤 俊広(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 統括診療部)
  • 今村 淳治(国立病院機構 仙台医療センター 感染症内科)
  • 南 留美(独立行政法人国立病院機構九州医療センター臨床研究センター)
  • 内藤 俊夫(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 豊嶋 崇徳(国立大学法人北海道大学 北海道大学病院)
  • 茂呂 寛(新潟大学医歯学総合病院・感染管理部)
  • 渡邉 珠代(石川県立中央病院 免疫感染症科)
  • 今橋 真弓(柳澤 真弓)(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
  • 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センターエイズ先端医療研究部)
  • 藤井 輝久(広島大学 病院輸血部)
  • 宇佐美 雄司(国立病院機構 名古屋医療センター 歯科口腔外科)
  • 池田 和子(国立国際医療センター/エイズ治療・研究開発センター)
  • 矢倉 裕輝(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 薬剤部)
  • 本田 美和子(国立病院機構東京医療センター 総合内科 )
  • 葛田 衣重(千葉大学医学部附属病院 感染制御部)
  • 三嶋 一輝(福井大学 病院部医療支援課)
  • 日ノ下 文彦(帝京平成大学 健康医療スポーツ学部看護学科)
  • 三木 浩司(平成紫川会 小倉記念病院 精神科)
  • 四柳 宏(東京大学 医科学研究所 先端医療研究センター感染症分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
国立国際医療研究センター岡慎一から国立国際医療研究センター田沼順子へ、仙台医療センター伊藤俊広から仙台医療センター今村淳治へ、千葉大学医学部附属病院葛田衣重から福井大学三嶋一輝へ交替。日ノ下文彦は国立国際医療研究センターから帝京平成大学へ所属機関変更。平成紫川会小倉記念病院三木浩司及び東京大学医科学研究所四柳宏は令和2年度のみ。

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、全拠点病院及びHIV感染者/AIDS患者の診療(以下、エイズ治療)に携わる医療機関を対象に診療体制及びエイズ治療の現況の把握を行ってきた。本調査の限界の一つに患者の属性の解析ができないことがある。また、今後、拠点病院以外の施設への診療の拡がりによって調査票による全数把握が困難になると予想される。
「HIV 感染症及びその併存疾患や関連医療費の実態把握のための研究」班(以下、野田班)では、レセプト情報・特定健診等情報データベース(以下、NDB)解析が行われている。また、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、厚生労働省は医療機関の診療提供体制の把握を目的に医療機関等情報支援システム(G-MIS)の運用を開始した。
本研究では、G-MIS、NDB活用により、実施・被調査側双方に負担の少ない、かつ、質のよい情報の収集を継続するためのシステムの構築と移行を行う。さらに、その情報をもとに90-90-90 targetsの達成状況の検討を行う。また、歯科・透析・長期療養に関わる診療ネットワークの構築を試みる。最後に、これからのエイズ治療体制のあり方について提言を行う。
研究方法
全国の拠点病院および拠点病院以外でエイズ医療に関わる医療機関に調査票を郵送し、情報の提供を求める。G-MISによる調査を同時に行なう。得られた情報を基に、NDB抽出データの検証を行うとともに、拠点病院の90-90-90 targets等の達成度評価を行う。
ブロックおよび中核拠点病院を対象に、転地療養・転院時の相談窓口の設置を依頼する。拠点病院にはチーム医療加算の算定要件である専任看護師や専任薬剤師の配置を促す。
(倫理面への配慮)
国立病院機構名古屋医療センター臨床研究審査委員会で承認を得た(整理番号:2016-86)。
結果と考察
2016年度以降、全拠点病院から調査票への回答を得た。2022年度、G-MISによるエイズ治療の現況把握を同時に実施し、全施設から入力を得た。G-MISで得られた情報の二次利用に関する指針が定まっていないことは、今後、研究にその情報を活用する上で障害になる可能性がある。
本研究班で得られた全国及び各都道府県の定期通院者数及び治療継続者数を、野田班から提供されたNDB抽出データと比較したところ、双方共に一致する傾向を示した。NDB抽出データを基に、新しいエイズ診療体制構築に重要な情報が抽出可能になる可能性がある。
2016年(2017年度調査)から2020年(2021年度調査)で90-90-90 targetsのうち2nd 及び3rd 90を算出したところ、全ての年度でそれぞれ約95%、99%以上であることが明らかになった。さらにその成績は地域や定期通院者数に関係しないことも示された。これは、拠点病院診療体制に加え、国民皆保険制度、医療費負担軽減のための福祉制度及びよく整備された交通インフラ等が貢献している可能性がある。
歯科医師会主導による診療ネットワークの構築が進行し、全都道府県で受診可能な歯科施設の紹介窓口の設置の試みが開始された。また、透析医学会主導で透析医療ネットワーク構築のための啓発活動が行われた。全国のブロック・中核拠点病院で相談に応じる窓口が設置され、療養支援に関する看護師とMSW共催のwebシンポジウムも開始された。エイズ治療に従事する医師の診療支援を目的に、チーム医療加算の算定要件でもある専任看護師や専任薬剤師の配置が進んだ。今後、医療・福祉の基本スキルとして、他領域・多職種の間でエイズ診療の情報・経験が共有され対処できるよう、エイズ学会のみではなく、それぞれの学会や団体等の主導によるネットワークの構築を進めることが効率的である。
結論
我が国のエイズ診療において、90-90-90 targetsのうち2nd、3rd90は、諸制度や従事者の貢献により高い水準で達成されており、今後の課題はHIVの疾病知識の普及とHIV検査機会の提供であることを明確にした。
現在の高水準の診療レベルを維持するため、正確な疫学・臨床情報を行政に提供し、時代に適合し医療度に応じた診療体制の構築に貢献することが重要である。本研究では、NDB抽出データの有用性を示すとともに、診療現場からの情報収集の方法を調査票からG-MISに移行させることも達成した。今後、我が国の優れたHIV診療体制の維持と発展には、医師をはじめとする抗HIV療法の提供に関わる従事者の育成とともに、合併症等への対処のために他分野・他領域へのHIV感染症/AIDSの正しい疾病知識の啓発とそれらの関係者との協働が最重要である。

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202220024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
2016年から2021年それぞれの年末時点における全拠点病院の抗HIV療法の治療継続率と治療成功率はそれぞれ94%以上、99%以上で、設置地域や施設毎の定期通院者数にかかわらないこと示した。2021年末時点、日本の拠点病院は、UNAIDSの「検査と治療の95-95-95 targets」の2番目と3番目の「95」をほぼ達成していることを示した。回答率は全調査年で100%であった。新型コロナウイルス感染拡大以降も、抗HIV療法は拠点病院により確実に提供継続されたことも示した。
臨床的観点からの成果
拠点病院は大部分が公的医療機関・大学・国を開設主体とし、ほとんどが感染対策向上加算1算定施設であることを明らかにした。また、拠点病院のHIV感染症/AIDS診療機能及び合併症や併存疾患への対応の可否を調べたところ、定期通院者が0人の施設は対応不可とする割合が明らかに高かった。HIV感染症/AIDS診療分野でも医療の集約化が進む中、診療機能維持には、診療に従事する人材の確保・育成の観点からも継続して診療経験が蓄積されることが必要であることを示した。
ガイドライン等の開発
毎年改訂している「拠点病院診療案内」は全国の拠点病院、行政機関等で活用されている。ブロック拠点病院の分担研究者により、HIV検査実施や社会福祉制度利用のための手引き等が成果物として作成され、全国に配布され活用されている。透析及び歯科領域では、「透析患者医療ガイド」、「HIV感染者の歯科診療ガイドブック」、「歯科衛生士のためのHIV/AIDS読本」等がそれぞれの学術団体の協力を得て作成され、診療現場で利活用されている。
その他行政的観点からの成果
本研究で得られた知見は、令和3年3月11日「HIV 感染症・エイズに関する医療体制について(依頼)」の通知、令和3年12月23日「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害者に対する指定自立支援医療機関の指定について」の事務連絡が発出に貢献した。拠点病院の現況の調査を研究班主体の調査票方式から行政主体のG-MISへの転換を試みこれを達成した。収集された結果は、毎年2回開催されるエイズ動向委員会や他の研究班の成果の検証にも活用され、我が国のHIV感染症/AIDS対策の推進に貢献している。
その他のインパクト
拠点病院からの情報収集システムを、厚生労働省と共同で調査票方式からのG-MISに移行させることに成功した。また、合併症や併存疾患及び高齢化等の課題の検討に資するため、「HIV感染症を合併した血友病患者に対する全国的な医療提供体制に関する研究」班(野田班)との共同研究によりNDBの活用による悉皆性の高い情報収集システムを構築した。そして、G-MISやNDBを利活用しエイズ診療の現況を可視化する体制を構築した。これは、今後の日本のエイズ診療に係る施策立案及び成果評価に有用であり必須である。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
158件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
198件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
ガイドライン作成2件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
ホームページ1件、拠点病院診療案内1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Toshio Naito , Hirotake Mori , Kazutoshi Fujibayashi, et al
Syphilis in people living with HIV does not account for the syphilis resurgence in Japan
Journal of Infection and Chemotherapy  (2022)

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202220024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
90,000,000円
(2)補助金確定額
85,026,000円
差引額 [(1)-(2)]
4,974,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 24,635,674円
人件費・謝金 1,705,690円
旅費 3,484,114円
その他 34,432,742円
間接経費 20,769,000円
合計 85,027,220円

備考

備考
千円未満切捨てのため

公開日・更新日

公開日
2024-04-02
更新日
-