文献情報
文献番号
202220015A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染者の妊娠・出産・予後に関するコホート調査を含む疫学研究と情報の普及啓発方法の開発ならびに診療体制の整備と均てん化のための研究
課題番号
21HB1008
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(奈良県総合医療センター 周産期母子医療センター / 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
- 高野 政志(防衛医科大学校 産科婦人科学講座)
- 出口 雅士(神戸大学 医学研究科)
- 吉野 直人(岩手医科大学 医学部)
- 杉浦 敦(奈良県総合医療センター 産婦人科)
- 田中 瑞恵(国立国際医療研究センター 小児科)
- 山田 里佳(JA愛知厚生連海南病院 産婦人科)
- 北島 浩二(国立国際医療研究センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
23,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV感染者の妊娠・出産・予後に関する全国調査によりわが国における発生動向を解析し、感染女性と児のコホート研究では抗HIV治療の長期的影響を検討する。HIV等の性感染症と妊娠に関する資料を妊婦に配布して知識の向上効果を検証し、資料を国民に周知する方法を開発する。「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」と「HIV母子感染予防対策マニュアル」の改訂により、わが国独自のHIV感染妊娠の診療体制を整備する。情報の集積・解析におけるIT支援も行う。
研究方法
1)HIV感染妊娠に関する研究の統括とこれまでの研究成果の評価と課題の抽出2)国民へのHIV感染妊娠に関する情報の普及啓発3)医療従事者へのHIV感染妊娠に関する情報の普及啓発と診療体制の整備と均てん化4)HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査等に関する全国調査5)HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析およびデータベースの更新6)HIV感染女性と出生児の臨床情報の集積と解析およびウェブ登録によるコホート調査の全国展開7)「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」と「HIV母子感染予防対策マニュアル」の改訂8)HIV感染妊娠に関する全国調査とデータベース管理のIT化およびコホート調査のシステム支援
結果と考察
1)厚労科研費によるHIV母子感染に関する研究成果を、「日本におけるHIV母子感染に関する研究のあゆみ」(概要版)として発刊した。1997年から3年毎9期間の研究課題を経時的にまとめ、成果を俯瞰的に理解できるよう概略版とし、今後の研究計画の立案に資することとした。2)ホームページとツイッターにて国民への啓発を行った。AIDS文化フォーラムと大学臨床検査学科で出前講座を行った。若年層への啓発にはマンガ・イラスト・動画が有効とされた。有床診療所と定点施設の妊婦647名へのアンケート調査では、資料を読んできていない妊婦(未読群)が38.6%もいた。HIV検査の偽陽性率を以前から知っていたのは既読群で7.3%、未読群で2.8%と、例年同様低いままであった。性感染症に関する動画を21本作製し、SNSに公開した。閲覧数が多い動画は、YouTubeで1万回、Instagramで140万回、TikTokで63万回となり、大きな反響を得た。3)HIV感染妊婦の分娩施設の助産師にアンケート調査を行った。3割程度が経腟分娩を支持したが、分娩介助経験を積むほど帝王切開を支持する傾向にあり、二極化した。若手vs中堅・ベテランでは帝王切開支持の割合は有意に異なり、若手では帝切分娩支持者が少なかった。4)妊婦のHIVスクリーニング検査率は病院では99.9%で、高率が維持されていた。5)データベースでのHIV感染妊娠の報告数は28例増加し1,156例となった。母子感染例は2例増加し62例となり、ほぼ毎年散発的に発生している。妊娠中のcARTにより、39.0%の例で分娩前ウイルス量は検出限界未満であった。近年の母子感染例では、妊娠初期スクリーニング陰性例を多い。予定経腟分娩例が1例報告された。6)コホート調査では、3例追加され累計38例の感染女性が登録されている。分娩歴上の出生児は53例である。女性と児の生命予後は良好であるが、女性のHIV非関連疾患の合併、児の先天形態異常、発達異常、頭部画像異常、発達検査異常を一定数認めており、今後も症例の蓄積が必要である。登録施設の全国展開を推進中である。7)「HIV母子感染予防対策マニュアル」第9版をホームページ上で公開し、冊子は学会などで配布した。「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」は、令和4年度のわが国の医療事情や施設の診療能力に関する実態調査の結果を踏まえて、令和5年度に第3版に改訂するための準備を行った。改訂点はわが国の診療体制の実態に則した分娩様式の推奨で、参考文献の推奨度が決定した。8)産科・小児科2次調査回答は、令和4年度まではウェブ登録と郵送回答の併用で実施した。令和5年度にはウェブ登録への一本化を目指す。さらにデータベース管理における共有化の精度も検証した。HIV感染女性と出生児のコホート調査のシステム支援も継続して行った。
結論
「日本におけるHIV母子感染に関する研究のあゆみ(概要版)」は、今後の研究計画の立案に役立つと考える。永続的なHIV感染妊娠発生の全国調査は必要不可欠であり、母子感染予防対策の最新化とガイドラインやマニュアルの改訂の根拠となる。HIV感染女性と児のコホート研究は抗HIV療法の長期フォローアップに有効である。SNSを利用したHIV感染に関する国民への教育啓発は、最も確実な感染予防対策になり得ると考える。欧米とは異なるわが国に特徴的な環境に則した医療体制の整備が求められる。
公開日・更新日
公開日
2024-04-01
更新日
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