HIV・エイズの早期治療実現に向けての研究

文献情報

文献番号
202220010A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV・エイズの早期治療実現に向けての研究
課題番号
21HB1003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
谷口 俊文(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院・感染制御部)
研究分担者(所属機関)
  • 野田 龍也(公立大学法人奈良県立医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
  • 今橋 真弓(柳澤 真弓)(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
  • 尾又 一実(国立国際医療研究センター 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
10,076,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界各国では国連が提唱している90-90-90を達成するためにHIV感染者の治療をCD4細胞数の値に関わらず、すべての感染者を対象に開始することを提言している。日本の90−90−90を推計した論文ではHIV感染者の86%が診断されており、またその中の83%がART(anti-retroviral therapy)による治療中であるとしている。そして治療中の99%の感染者はウイルス抑制を達成している。NDBを用いた抗HIV薬の解析では約25,500人がARTで治療を受けている。そこから逆算すると、約5,000人が診断されておらず、約5,400人が診断されているがARTによる治療を受けていないことになる。すなわち、約10,400人のプールから新規HIV感染者が生まれていることが想定される。新規HIV感染者を減らすためには、HIV感染者の診断を増やすこと(検査体制)、HIVと診断された感染者をなるべく多くARTで治療すること(治療体制)が重要であるとされる。本研究ではHIV感染者をなるべく多くARTで治療する治療体制の構築のために、Rapid ARTの効果について基礎資料を作成することを目的とする。
研究方法
①Rapid ARTにより新規感染者やエイズ発症症例がどの程度減少するのかをシミュレーション・モデルにて検証:令和4年度ではHIV感染症に対する早期治療(Rapid ART)の効果として①年間の新規感染者数、②感染者総数、③エイズ発症者数、④未感染MSM(Men who have Sex with Men)の人数を推測した。本研究では逆算法(Back Calculation)およびコンパートメント・モデルの二つの数理モデルによる推計方法を用いている。令和3~4年度ではエイズ動向委員会から発表される新規HIV感染者数とエイズ発症者数、国立国際医療研究センターにおける診療情報を入力値として使用、またHIV感染の診断から治療開始までの日数については名古屋医療センターのデータを参照した。
② NDBから得られるHIV感染者のコホートで一人あたりの年間の総医療費などを算出する。またNDB上のHIV感染者のうち、エイズ指標疾患を発症している患者のコホート化する。エイズ発症に伴う入院医療費などを計算する。
③実態調査
・HIVと診断されてから、治療開始までにかかる期間
・自費診療や助成制度利用のない保険診療などを利用して治療している感染者数の推計、(ⅰ)これら感染者が治療している場合に負担している費用の実態把握、(ⅱ)治療していない感染者数と感染させるリスクの推計
・海外で治療を受けていたが日本では治療を受けていないあるいは自費診療や助成制度利用のない保険診療などで治療している人の数の推計、(ⅰ)どうやって治療をしているのか実態調査(治療中断・自己輸入など)、(ⅱ)日本で治療している場合に負担する費用の実態把握
結果と考察
①診断から治療までの時間を研究で採用した名古屋医療センターにおけるコホートの中央値である42日から短縮することで、1)年間の新規感染者数、2)感染者総数、3)エイズ発症者数を減らすことができることを示した。
②NDBを用いた研究では、HIV感染者のコホートから、ARTを開始した前後12か月間にエイズ指標疾患を発症した人を同定した。本定義によるエイズ発症者は47%と推定された。そしてエイズ発症者は医療費が多くなることも示すことができた。前述の数理モデルと組み合わせることにより、Rapid ARTでエイズ発症者の減少による医療経済的評価を今後示す予定である。
③現行の公費による治療の基準が当てはまらずにARTを開始できないのが1.8%と実態調査で明らかになった。またART開始までの日数の中央値が42日であり、160日以内に90%がARTを開始できていた。またすでに治療済みであった患者の中でも現行の制度(身体障碍者手帳)の取得をしていない人がおり、海外で診断を受けた場合の、現行制度によるHIV診療の難しさが明らかとなった。
結論
Rapid ARTを導入することにより、加療率を向上させ、診断から治療までの時間を短くすることにより新規感染者数、総感染者数、エイズ発症者総数が減少に転じることが数理モデルにより示された。エイズ発症者に関しては医療費が非エイズ発症者より多いこともあり、エイズ発症者の現象では医療費の削減も見込むことができる。公費の基準を満たさないために約1.8%の患者が治療を受けられない状況が判明し、また治療済みの患者でも海外で診断を受けた場合に公費による治療を受けられない人がいるため、こうした患者への医療支援を検討すべきである。

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202220010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,098,000円
(2)補助金確定額
13,098,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,135,894円
人件費・謝金 4,537,992円
旅費 1,041,340円
その他 2,360,774円
間接経費 3,022,000円
合計 13,098,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
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