日本におけるHIV感染症の発生動向に関する研究

文献情報

文献番号
202220002A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるHIV感染症の発生動向に関する研究
課題番号
20HB1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 佐織(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 長島 真美(東京都健康安全研究センター 微生物部)
  • 西浦 博(国立大学法人北海道大学 大学院医学研究科 社会医学講座衛生学分野)
  • 櫻木 淳一(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 松山 亮太(酪農学園大学 獣医学群獣医学類)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
16,680,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染拡大抑制に向け、精度の高いHIV発生動向の把握が重要である。我々は先行研究(厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業)において新規HIV診断者にしめる早期診断者割合の把握に向けた地域別血清学的調査を実施する連携体制を構築し、この早期診断率を指標に我が国において診断率が90%に達していないことを示した。この報告はバイオマーカーを指標とした国内初のHIV感染者数の推定値である。その一方で、血清学的地域が実施不可能な地域の推定値に課題が残っている。本研究ではこの高い独創性を維持・活用し、血清学的調査を基盤とした早期診断率の評価を継続するとともに、2019年から報告が開始された診断時CD4数を活用し、血清学的コホートの実施不可能な地域における早期診断率の推定を目指した。
研究方法
1. 診断時CD数を含む情報の収集
2019年よりエイズ動向調査の調査項目として追加された診断時CD数について、2021年3月31日時点で報告され、集計・公開されている情報を基にその属性を解析した。また保健所等のHIV行政検査等で診断・報告され、診断時CD4数が未登録であった機関に対しては東京都医師会、東京都福祉保健局の協力を得て、診断時の情報(診断後のウイルス量、過去の検査歴、ART歴等)として収集した。
2. 地域別早期診断率の推定
 血清学的手法により同定した早期診断者、長期感染者のCD4数等の診断時CD4数の分布、ウイルス量等の関連分析を実施し、CD4群別早期診断者割合を算出した。更にこの実験で求めた値の妥当性を検討するため、大阪府、福岡県の新規診断者の診断時CD4数から推定される早期診断者割合と血清学的手法により同定した早期診断者割合を比較検討した。
 また大阪府、福岡県については保健所等の無料匿名検査にてHIV陽性が判明した残余検体を用いて血清学的手法にて早期診断者を同定し、暦年の新規診断者に占める早期診断者割合を評価した。

結果と考察
本研究において2016年以降東京都新宿東口検査・相談室(行政委託検査)にて新たにHIV陽性が判明したものの、エイズ発生動向調査にCD4値の報告がなかったHIV診断者260例のデータを収集した。診断時CD4
値と医療機関で診断されNESIDに報告されたCD4値に統計学的有意差は認められなかった。更に血清学的手法におけるHIV感染後の期間と診断時CD4数の相関解析において、CD4高値群において早期診断者割合が高く相関傾向を示した。
CD4群別早期診断者割合の妥当性を検証するため、東京都のデータから算出したCD4群別早期診断率を東京以外のCD4報告値分布の外挿により算出した推計早期診断率と、血清学的手法により直接評価したところ、早期診断者割合を比較により算出した推計値は概ね一致した。
結論
本研究により算出したCD4群別早期診断者割合は、日本の流行株および宿主因子の特性を反映した指標であることが示唆される。直接的に早期診断率の把握が難しい地域においても、本指標は活用可能であることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-05-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202220002B
報告書区分
総合
研究課題名
日本におけるHIV感染症の発生動向に関する研究
課題番号
20HB1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 佐織(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 長島 真美(東京都健康安全研究センター 微生物部)
  • 西浦 博(国立大学法人京都大学医学研究科)
  • 櫻木 淳一(神奈川県衛生研究所 微生物部)
  • 松山 亮太(酪農学園大学 獣医学群獣医学類)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本国内におけるHIV感染拡大抑制に向け、精度の高いHIV発生動向の把握が重要である。WHOはHIV感染後の早期診断・早期治療を推進し、その数値目標としてケアカスケードに基づく95-95-95戦略を発表した。これは、未診断者を含む総HIV感染者の診断率、診断診断者の治療率、治療者の治療成功率のすべてを95%に達成し、集団における感染拡大防止に結びつけることを目標としている。日本のエイズ発生動向調査では新規報告数の約3割がエイズ発症により見出されており、上記3項目のうち特に診断率が目標値に達していない可能性が高い。
現在、国際的にはWHO主導のもとHIV感染者数の推定法に関するガイドラインの整備が進んでおり、診断時の特定の抗HIV抗体結合力またはCD4数のバイオマーカーを指標に組み込んだ方法論等が主に推奨されている。我々は先行研究(厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業)において新規HIV診断者にしめる早期診断者割合の把握に向けた地域別血清学的調査を実施する連携体制を構築し、この早期診断率を指標に我が国において診断率が90%に達していないことを示した。この報告はバイオマーカーを指標とした国内初のHIV感染者数の推定値である。その一方で、血清学的地域が実施不可能な地域の推定値に課題が残っている。本研究ではこの高い独創性を維持・活用し、血清学的調査を基盤とした早期診断率の評価を継続するとともに、2019年から報告が開始された診断時CD4数を活用し、更に精度の高い国内HIV発生動向把握を目指した。
研究方法
(1)大都市圏における早期診断率の推定
諸外国においてNational Surveillanceへの導入が始まっているHIV Incidence assayを活用し、東京都、大阪府、福岡県において血清学的調査を実施し、新規HIV診断者にしめる早期診断者率の解析を推進した。血清学的調査は東京都健康安全研究センター、独立行政法人大阪健康安全研究所、福岡県環境保健研究所、福岡市環境保健研究所にて2006年以降にHIV陽性が同定された血液検体を解析対象とし、Sedia HIV-1 Limiting Antigen Avidity EIAを用いてHIV感染後半年以内と推定される検体数の割合を調査した。
(2)診断時CD数の把握、および情報収集体制の強化に対する研究
2019年よりエイズ動向調査の調査項目として追加された診断時CD数について、2021年3月31日時点で報告され、集計・公開されている情報を基にその属性を解析した。2021年3月時点で保健所等のHIV行政検査等で診断・報告され、診断時CD4数が未登録であった機関に対しては東京都医師会、東京都福祉保健局の全面的にご協力いただき、診断時の情報(診断後のウイルス量、過去の検査歴、ART歴等)として収集した。
(3)地域別早期診断率の推定
 東京都健康安全研究センターが血清学的手法により同定した早期診断者、長期感染者のCD4数等の診断時CD4数の分布、ウイルス量等の関連分析を実施し、CD4群別早期診断者割合を算出した。更にこの実験で求めた値の妥当性を検討するため、大阪府、福岡県の新規診断者の診断時CD4数から推定される早期診断者割合と血清学的手法により同定した早期診断者割合を比較検討した。
(倫理面への配慮)
国立感染症研究所倫理委員会、および各関連機関の倫理委員会の承認を得た。

結果と考察
本研究において2016年以降東京都新宿東口検査・相談室(行政委託検査)にて新たにHIV陽性が判明したものの、エイズ発生動向調査にCD4値の報告がなかったHIV診断者のデータを収集した。診断時CD4
値は医療機関で診断されNESIDに報告されたCD4値336/mm3と比較するとやや高いものの統計学的有意差は認められなかった。更に血清学的手法におけるHIV感染後の期間と診断時CD4数の相関解析において、CD4高値群において早期診断者割合が高く相関傾向を示した。本研究で算出したCD4群別早期診断者割合の妥当性を検証するため、東京都のデータから算出したCD4群別早期診断率を大阪府、福岡県のCD4報告値分布の外挿により算出した推計早期診断率と、血清学的手法により直接評価したところ、早期診断者割合を比較により算出した推計値は概ね一致した。本研究により算出したCD4群別早期診断者割合は、日本の流行株および宿主因子の特性を反映した指標であることが示唆された。
結論
東京都の新規HIV診断者の血清学データおよび診断時CD4数を基にCD4群別早期診断者割合を算出した。本研究により算出したCD4群別早期診断者割合は、日本の流行株および宿主因子の特性を反映した指標であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-05-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202220002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
COVID流行以後、日本国内のHIV検査数は減少した一方で陽性率は増加し、新規診断者に占める早期診断者割合が低下したことから診断の遅れが生じていることが示唆された。これは診断の遅れを、検査数の減少以外から考察した初めての結果である。本結果は学術誌で公開するとともに、エイズ動向委員会等への還元、国際機関への報告を予定している。
臨床的観点からの成果
本研究はHIV感染後の動向分析であるため、診断基準等に直接影響するものではない。その一方で早期診断・早期治療の達成度をより正確に評価可能であるため、本研究成果を国内外の学術集会等で臨床医に広く情報提供した。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
本研究成果は令和3年8月24日開催の第157回エイズ動向委員会において研究の進捗を共有し、日本国内HIV発生動向の把握、将来予測に向けた基盤資料として活用された。
その他のインパクト
先行研究を含め、当該研究成果はWHO外部関連機関の系統的レビュー(JMIR Public Health Surveillance, 2022. DOI: 10.2196/34410)にて科学的根拠に基づく非常に信頼性の高い研究として最高ランクの評価を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
12件
HIV感染症の発生動向分析および理論疫学に関する原著12件
原著論文(英文等)
6件
HIV感染症の発生動向分析および理論疫学に関する原著6件
その他論文(和文)
1件
HIV感染症の診断ガイドラインに関する総説1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
3件
国際学会口頭1件、国際シンポジウムでの口頭発表2年
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
委員会での議論1件
その他成果(普及・啓発活動)
9件
講演・シンポジウム8件、マスコミへの情報提供1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
KagiuraF, Matsuyama R, Watanabe D, et al
Trends in CD4+ Cell Counts, Viral Load, Treatment, Testing History, and Sociodemographic Characteristics of Newly Diagnosed HIV Patients in Osaka, Japan, From 2003 through 2017: A Descriptive Study
Journal of Epidemiology , 33 , 256-261  (2033)
原著論文2
Matsuoka S, Adusei-Poku MA, Abana CZ, et al.
Assessment of the proportion of recent HIV-1 infections in newly-diagnosed cases in Ghana
Jap. J Infect. Dis. , 72 (4) , 395-379  (2022)
原著論文3
Minh TTT, Hikichi Y, Miki S et al.
Protective role of HLA-B*57:01/58:01 is impaired in HIV-1 CRF01_AE infection
Int. J Infect. Dis  (2023)
原著論文4
Hau TTT, Phan MH, Nishizawa M eta l.
Association of Envelope-specific B-cell differentiation and viral selective pressure signatures in HIV-1 CRF01_AE infection
AIDS , 36 (12) , 1629-1641  (2022)
原著論文5
Nii-Trebi NI, Matsuoka S, Kawana-Tachikawa A
Super high-resolution single-molecule sequence-based typing of HLA class I alleles in HIV-1 infected individuals in Ghana
PLoS ONE , 17 (6) , 1629-1641  (2022)
原著論文6
Nagashima M, Kumagai R, Kitamura Y et al.
Examination of the efficient HIV confirmatory testing protocol using HIV-1/2 antibody differentiation assay
Jpn J Infect Dis , 73 , 173-175  (2020)

公開日・更新日

公開日
2023-06-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
202220002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
17,465,000円
(2)補助金確定額
16,498,660円
差引額 [(1)-(2)]
966,340円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,590,578円
人件費・謝金 4,895,763円
旅費 393,240円
その他 863,624円
間接経費 785,000円
合計 16,528,205円

備考

備考
差額(自己資金額)総計 29,545円

公開日・更新日

公開日
2024-04-01
更新日
-