原因不明小児急性肝炎の実態把握の研究

文献情報

文献番号
202219033A
報告書区分
総括
研究課題名
原因不明小児急性肝炎の実態把握の研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22HA2004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
須磨崎 亮(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 多屋 馨子(神奈川県衛生研究所)
  • 鈴木 忠樹(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 川田 潤一(名古屋大学大学院 医学系研究科小児科学)
  • 虫明 聡太郎(近畿大学医学部奈良病院 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
25,350,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
英国では原因不明の小児急性肝炎は年間約20例程度であるが、2022年には6月23日の時点で258例が報告され、うち12例で肝移植が行われている。一方、日本では従来から、原因不明の小児急性肝不全によって年間10例前後の肝移植が行われてきた。したがって、厚生労働省のサーベイランス事業による届出例の漸増のみでは、日本でも英国と同じような「流行」が起きているか否か不明である。過去の調査を行い、ベースラインの発生数と比較する必要がある。そこで本研究では「原因不明の小児急性肝炎」について、WHO暫定症例定義に基づく症例の経時的推移を過去にさかのぼり、新型コロナウイルス流行前後にわたって調査する。
また、英米の研究結果からはアデノウイルス随伴ウイルス(adeno-associated virus 2, AAV2)感染との関連が示唆されている。日本では今までAAV2の検索は行われてこなかった。本研究では、日本で発症している原因不明の小児急性肝炎症例について、AAV2を含めて特定のウイルス感染と関連が見られるか否か、検討する。収集検体は貴重なので、患者または保護者の同意を得たうえで、新興・再興感染症データバンク事業ナショナル・リポジトリ(REBIND)に提供する。
研究方法
1)疫学調査
 日本小児科学会員が所属する全国の病院小児科責任者2,510人を対象にしたアンケート調査を実施した。2017年1月1日から2022年6月30日までの期間について、WHO暫定症例定義に基づき、年度ごとの該当する症例数、うち黄疸ありおよび肝移植の症例数、発症年齢と男女数を調査した。
2)病原体検索
日本国内で発生した原因不明の小児急性肝炎患者の残余検体(全血、血清、咽頭ぬぐい液、便、尿、肝組織など)を国立国際医療研究センターに集約し、ウイルス検索を行う名古屋大学小児科や国立感染症研究所などに分与し、さらに余った検体をREBINDに提供する体制とした。
名古屋大学小児科では、全血からAAV2を含む7種類のウイルスの定量的PCRによって迅速検査を行う。国立感染症研究所では、ヒト疾患と関連するAAV2を含む約170種類のウイルスのマルチプレックス定量的PCRと次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析により網羅的な病原体検索を行う。
(倫理面への配慮)
「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、日本小児科学会、国立国際医療研究センター、国立感染症研究所および名古屋大学医学研究科の各倫理委員会の承認を得て研究を実施した。
結果と考察
1)疫学調査
一次調査の回答率は37.7%で、対象期間中の症例数は1,229名であった。年間症例数は、パンデミック前の2017~2019年は各々260名、257名、243名に対して、パンデミック中の2020年、2021年は各々164名、192名で、パンデミック中は発症数が少ない傾向がみられた。とくに低年齢層で減少が顕著であった。地域別、時間的に明らかなクラスター形成はみられなかった。 
日本では2022年4月27日から開始されたサーベイランスにより2023年3月16日までに162例の届出があった。この届出症例数は、パンデミック前のベースライン発生数と比較して増加していないことが確認された。パンデミック中は厳しい衛生管理によって色々な小児の気道・消化器感染症の流行がほとんど消失し、日本ではこの時期には小児急性肝炎の発生も減少していた。一方、英米では行動制限の解除に伴って、アデノウイルスやAAV2の流行が起こり、本症の急増が起こったと想定される。日本では新型コロナウイルス感染症が5類となり感染症対策や行動制限が緩和される今後の増加が懸念される。今回の研究班で調査できた2023年6月までの成績では、パンデミック後の行動制限解除の影響が不十分にしか反映できていない点からも今後の疫学調査の継続がぜひ、必要である。
2)病原体検索
2021年10月以降に発症した暫定症例定義を満たす症例(肝移植例を含む)の検体を用いて、定量的PCRや次世代シーケンサーを用いた網羅的な病原体ゲノム解析を行った。とくに近年注目されたAAVに関するPCR法を確立して、国内症例で検討した。12例の血液からCMV,HHV-6,HHV-7,アデノウイルスが各1例検出され、AAV2は2例で検出された。日本では今後、AAVの病因的役割として、散発例としての検討が必要である。
結論
原因不明の小児急性肝炎について、現時点ではベースラインの発生数より増加していないことが確認された。また研究班発足の2022年10月以降に発症した本症患者7例からAAV2が検出されなかった。以上から、日本の本症の発生状況は、英米の「流行」とは異なる状況であると判断された。

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202219033C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新型コロナウイルス流行と原因不明小児急性肝炎の発生の関係を明らかにするために、全国の病院小児科を対象に調査を行い、過去5年6か月にわたり厚生労働省の暫定症例定義を満たす症例数推移の把握ができた。その結果、欧米で原因不明の小児急性肝炎が急増していた期間に、日本では、新型コロナパンデミック以前と比較して、増加していないことが判明した。さらに日本で2022年秋以降に発症した原因不明の小児急性肝炎症例では、英国や米国かと異なり、アデノ随伴ウイルス2型の検出は少ないことが判明した。
臨床的観点からの成果
症例数からみても、病因からみても、日本では現時点で原因不明小児急性肝炎の「流行」といった現象は起きていないことが確認された。厚労省のサーベイランス事業を補完する重要な知見で、国民の安心にも繋がるであろう。しかし今後、新型コロナウイルスの感染対策・行動制限が解除されるしたがって、アデノウイルス感染など小児に多い感染症の流行がおこり、これに伴って原因不明小児急性肝炎が増加しないか慎重に見極める必要がある。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
欧米の本症患者の急増によってWHOのOutbreak対象疾患となっており、世界からも日本の現状分析が求められている。本研究班の成果によって、欧米と異なる現状を明確に示す情報を提供することができた。
その他のインパクト
「原因不明の小児急性肝炎」は疾患の重篤度や英国・米国での急増の様子から、社会の関心も強く、サーベイランスによる症例数の漸増、肝移植例や死亡例の発表のたびに、多くの報道がなされた。本研究班では、新聞、テレビ取材、医学情報の発信、論文発表などを積極的に行い、無用な社会的不安を鎮静化するよう努めると共に、本症患者の人権を守れるように配慮した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
原因不明の小児急性肝炎-2022年欧米における流行と日本の現状について 須磨﨑亮、酒井愛子、モダンメディア70巻2号2024
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
原因不明の小児急性肝炎について、ラジオNIKKEI【感染症TODAY】(2022/11/14)と【小児科Up-to-DATE】(2023/2/7)で須磨崎亮が講演、以降オンデマンド配信

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
近藤宏樹、多屋馨子、須磨﨑亮 他
原因不明の小児急性肝炎に関する実態調査(一次調査)報告書
日本小児科学会雑誌 , 127 (7) , 1033-1038  (2023)
原著論文2
近藤宏樹、多屋馨子、須磨﨑亮 他
「原因不明の小児急性肝炎に関する実態調査(二次調査)」報告
日本小児科学会雑誌 , 128 (4) , 668-680  (2024)
原著論文3
須磨﨑亮、酒井愛子、虫明聡太郎 他
原因不明の小児急性肝炎:欧米と日本の比較並びに診療支援システムの整備
肝臓 , 65 (1) , 1-11  (2024)

公開日・更新日

公開日
2024-05-24
更新日
2025-05-23

収支報告書

文献番号
202219033Z