創傷皮膚科学の樹立による褥瘡の病態解明と診療体系に関する研究

文献情報

文献番号
200921012A
報告書区分
総括
研究課題名
創傷皮膚科学の樹立による褥瘡の病態解明と診療体系に関する研究
課題番号
H19-長寿・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
磯貝 善蔵(国立長寿医療センター 先端医療部・先端薬物療法科)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 治(群馬大学大学院医学研究科・皮膚病態学)
  • 古田 勝経(国立長寿医療センター・薬剤部)
  • 米田 雅彦(愛知県立大学看護学部)
  • 渡辺 研(国立長寿医療センター・運動器疾患研究部)
  • 森 將晏(岡山県立大学・保健福祉学部)
  • 藤井 聡(名古屋市立大学大学院薬学研究科・病態解析学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
7,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
褥瘡、特に深い褥瘡の臨床的病態は多様である。しかし既存の学問体系ではその多様性を科学的に解析することが不可能で、褥瘡の病態に基づいた予防や治療の選択が困難であった。そこで褥瘡の詳細な臨床的所見を皮膚科学に基づいて記述する記載潰瘍学と創表面蛋白解析を両輪に据えた創傷皮膚科学と呼ぶ新しい学問分野を樹立し、褥瘡の多様な病態を客観的に解析し、それを診療体系として構築することを目的とした。
研究方法
昨年度までに樹立した記載潰瘍学を褥瘡臨床のデータベースを検討しつつ修正および発展させた。特に同一創面内での多様性と部位特異的な創の性質を検討した。さらに記載潰瘍学で記述した肉芽組織所見と対応する病理組織学的所見を過去の標本から検討した。創表面の蛋白解析では薬物療法の標的となる水分量を司る分子群に注目した。また創表面からの蛋白を記載潰瘍学的所見と対比するための生化学的方法を新規に開発した。肉芽組織に直接的に作用する外用薬の吸水性に関する検討を行い、褥瘡治療外用薬の物理化学的な性質をフランツのセルの系を用いて解析した。また実際の臨床で創傷皮膚科学に基づいた診療をおこない治癒速度を検証した。
結果と考察
記載皮膚科学では「摩擦性肉芽」を新規に定義するとともに、「浮腫性肉芽」においていぼ状肉芽や舌状肉芽などの形態的変化がおこることを見いだした。さらに仙骨部と踵部の異なる病態や同一創面内での多様性を明らかにした。記載潰瘍学所見に対応した病理組織学的特徴を5パターンに分類した。創表面の蛋白解析では肉芽組織に特徴的な流動的な組織内水分代謝を明らかにするとともに、肉芽表面の摩擦によって露出する線維成分を見いだした。さらにwound blottingと呼ぶ潰瘍表面蛋白質の解析方法を新規に開発し、記載潰瘍学的所見と対比させることができた。また製剤学的な見地から治療に用いられる軟膏剤の吸水性を吸水速度と容量の両面から評価する方法を開発した。これらを統合して記載皮膚科学に基づいた褥瘡診療体系を構築した。
結論
褥瘡の病態を記載潰瘍学と創表面蛋白解析を用いて解析し、病態を客観的に捉えて分類できるようになり、創傷皮膚科学が完成した。

公開日・更新日

公開日
2010-05-21
更新日
-

文献情報

文献番号
200921012B
報告書区分
総合
研究課題名
創傷皮膚科学の樹立による褥瘡の病態解明と診療体系に関する研究
課題番号
H19-長寿・一般-012
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
磯貝 善蔵(国立長寿医療センター 先端医療部・先端薬物療法科)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 治(群馬大学大学院医学研究科・皮膚病態学)
  • 古田 勝経(国立長寿医療センター・薬剤部)
  • 米田 雅彦(愛知県立大学・看護学部 栄養代謝学)
  • 渡辺 研(国立長寿医療センター・運動器疾患研究部)
  • 森 將晏(岡山県立大学・保健福祉学部)
  • 藤井 聡(名古屋市立大学大学院薬学研究科・病態解析学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
褥瘡は患者の個別性や合併症に影響を受けるため多様な病態を呈する。しかし現状の褥瘡の診察法は創傷治癒過程の経過や重症度を反映するのみで、病態解析と治療選択には不十分であった。その理由として皮膚潰瘍を詳細に記述する学問体系が不十分であり、褥瘡の多様性に関して医師の診断過程が存在しなかった。本研究では褥瘡に対する客観的かつ科学的な記述方法と創表面蛋白質解析を研究の両輪に据え、両者を病理学的な研究によって関連づける創傷皮膚科学と呼ぶ学問体系の樹立を目的とした。
研究方法
褥瘡臨床のデータベースを検討し、記載皮膚科学を基盤とした記載潰瘍学という学問体系を作成した。また同一創面内での多様性や部位特異的な創の性質を検討した。褥瘡の潰瘍内肉芽組織所見に対応した病理組織学的所見を過去の標本から検討した。表面蛋白解析では採取方法から始まり、抽出や解析方法を順次検討した。創傷治癒に関連し、創表面から検出できる分子を中心に免疫ブロットなどを中心に解析した。そのうち創所見との関連を複数の分子について検討した。また褥瘡治療外用薬の性質を物理化学的に解析した。また褥瘡の病態分類と治療指針を示し、実際の臨床で創傷皮膚科学に基づく診療をおこない治癒速度を検証した。
結果と考察
記載潰瘍学では褥瘡創面を残存組織、肉芽の色調・形態・性状、創縁の状態、周囲の皮膚所見といった順に記載し、所見の理論的かつ系統的な記載が可能となった。これを用いて仙骨部と踵部の異なる病態や同一創面内での多様性を明らかにした。さらに記載潰瘍学所見に対応した病理組織学的特徴を5パターンに分類した。褥瘡創面のたんぱく質解析では採取と抽出方法を標準化した。「浮腫性肉芽」では線維化促進に働くTGF-beta活性の制御分子であるLTBP-1断片が有意に多く検出され、「摩擦性肉芽」では弾性線維結合分子が検出された。また臨床所見と対比可能な潰瘍表面蛋白質の解析方法を新規に開発した。また製剤学的な見地から褥瘡治療薬の吸水性を吸水速度と容量の両面から評価する方法を開発した。創傷皮膚科学に基づいた褥瘡診療体系を構築し、それらを基盤とした褥瘡診療はこれまでのおよそ3倍の治癒速度であった。
結論
褥瘡の病態を記載潰瘍学と創表面蛋白解析を用いて解析し、多様な褥瘡病態を客観的に記述、分類し、適切な治療と予防を選択するための創傷皮膚科学を樹立した。

公開日・更新日

公開日
2010-05-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200921012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
褥瘡創面の情報を的確に読み取り必要とされる褥瘡診療を提供するため、客観的かつ科学的な記述方法である記載潰瘍学と創表面蛋白質解析を研究の両輪に据え、両者を病理学的な研究によって関連づける創傷皮膚科学と呼ぶ学問体系を樹立した。創表面細胞外マトリックス蛋白質を解析する方法を新規に開発し由来も含めて生化学的マーカーとしての意義を検討した。その過程で肉芽組織に関する新たな知見が見いだされた。
臨床的観点からの成果
創傷皮膚科学の樹立によって創所見から病態を適切に読み取って必要とされる予防と治療が提供できるようになった。すなわち多岐にわたる褥瘡対策の中で必要性の高いものを選択できる学問体系を構築した。また褥瘡対策チームでの医師の役割分担をより明確化し、慢性創傷に対する医師の診察の方法を明らかにした。この体系は臨床的にも大きな注目を浴びている。
ガイドライン等の開発
日本褥瘡学会による褥瘡予防・管理ガイドラインに研究分担者の古田が委員を務めている。褥瘡学会による2009年2月発行の褥瘡予防・管理ガイドラインでは外用治療に関して本研究班が強調している基剤の重要性が盛り込まれている。今後さらに創所見の重要性を取り込んだガイドラインを策定に関与している。
その他行政的観点からの成果
国立長寿医療センターでは創傷皮膚科学をベースに診療をしているが、治癒期間は今まで良好と報告された期間のおよそ3分の1であり、創傷皮膚科学の臨床現場における有用性を示している。当センターで褥瘡研修を希望する医療者も増えており、これらの学問体系を普及することができている。厚生労働省にも疾患としての位置づけをした上での本質的なチーム医療の必要性を繰り返し働きかけている。また確かな診断と治療に裏付けられた診療の基礎的なデータを収集し、行政的施策の基礎となるようにしている(投稿中)。
その他のインパクト
本研究班の最終年度に研究分担者の古田が会長を務め第6回日本褥瘡学会中部地方会を開催した。また研究代表者の磯貝は長寿財団の共催をうけて市民公開講座「じょくそうってなに、どうしたらいいの」を上記学会のサテライトプログラムとして開催した。そこにおいて研究成果の一部を褥瘡にかかわる家族や介護者にわかりやすく伝えることができた。創傷皮膚科学に基づいた診療に関しては褥瘡にかかわる医療者が基本的には対象になる。今後も論文発表、著書、学会、講演会などを通じて医療者、介護者に広く伝えていく。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
35件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
78件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
永井弥生、磯貝善蔵、古田勝経他
褥瘡に対する記載潰瘍学の確立とその有用性
日本褥瘡学会誌 , 11 (2) , 105-111  (2009)
原著論文2
Mizuno K, Wachi H., Isogai Z et al.
Availability of Latent TGF-β binding protein-1 (LTBP-1) in Wound Healing.
J Health Sci , 55 (3) , 468-472  (2009)
原著論文3
古田勝経
褥瘡治療薬;外用薬の選び方・使い方
日本褥瘡学会誌 , 11 (2) , 92-100  (2009)
原著論文4
松本尚子、大島弓子、米田雅彦
ヒト培養組織における加圧が細胞外マトリックスに及ぼす影響-褥瘡との関連
日本看護科学会誌 , 29 (3) , 3-12  (2009)
原著論文5
松本尚子、大島弓子、米田雅彦
褥瘡創面における細胞外マトリックス分解産物の解析
日本看護科学会誌 , 29 (3) , 13-23  (2009)
原著論文6
Noda Y, Fujii K, Fujii S
Critical evaluation of cadexomer-iodine ointment and povidone-iodine sugar ointment
International Journal of Pharmaceutics , 372 , 85-90  (2009)
原著論文7
磯貝善蔵
外用薬
看護技術 , 56 (1) , 81-86  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-