一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究

文献情報

文献番号
202219021A
報告書区分
総括
研究課題名
一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究
課題番号
20HA2002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 康幸(国際医療福祉大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 徳田 浩一(東北大学病院 感染管理室)
  • 倭 正也(地方独立行政法人りんくう総合医療センター 感染症センター)
  • 氏家 無限(国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の役割は一類感染症等の患者の医療を担当する特定及び第一種感染症指定医療機関を支援し,国の厚生行政に貢献することである.最新の知見を情報収集し,研修会や診療の手引きの公表を通じて,国内の医療従事者に還元を図ることを目的とする.2021年2月に指定感染症から新型インフルエンザ等感染症に指定された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床的課題について,迅速に解決を図る必要がある.
研究方法
新型コロナウイルス感染症対策
 研究班の横断的な活動として,研究分担者・協力者が協力して, 下記を実施した.
1. 診療の手引きの改訂
COVID-19の国内流行に対応するため,診療の手引き検討委員会を組織して診療の手引きを改訂した.新規治療薬や医療逼迫を背景に発出された事務連絡等の周知を図るよう,第7.2版(5月),第8.0版(7月),第8.1版(10月),第9.0版(2月)と計4回改訂した.
2. 診療の手引きに関する利用状況調査
2023年3月に北海道,岩手県,千葉県,新潟県,愛知県,大阪府,広島県,香川県,福岡県の重点医療機関(464施設)に勤務する医師を対象に利用状況の調査をオンラインで行ない,360名から回答があった.診療の手引きは309名(86%)の医師に利用されており,主に厚労省ホームページを通じて入手されていた.薬物療法(のべ267名),重症度分類とマネジメント(のべ251名),退院基準(のべ205名)の章の利用頻度が高かった.総合的な満足度(10点満点)の中央値は8点であった.
3. 診療の手引き別冊:罹患後症状のマネージメントの作成
 編集委員会を組織し,昨年度に刊行した暫定版を発展させ,WHOの症例定義の変更などを反映して第1.0版(4月),次いで第1.1版(6月),第2.0版(10月)と計3回改訂した.

集中治療
研究分担者の倭らはりんくう総合医療センターにおいて,一類感染症等の患者に対する治療手技を習得するワークショップを2回(6月と3月)開催した.成田赤十字病院,常滑市民病院,長崎大学病院,奈良県立医大病院の医療チームが1日から半日のコースに参加し,個人防護具を着用して気管挿管や中心静脈穿刺のシミュレーションを行なった.また,ワークショップを通じて治療手技の手順書を作成した.

医療従事者の研修・感染症危機管理に関する情報収集
 研究分担者の氏家らは感染症危機管理に関する情報収集を行い,第一種感染症指定医療機関等の医療従事者や行政関係者を対象に研修会をオンラインで開催した.テーマはサル痘(8月),輸入感染症・動物由来感染症(11月),感染症の研修実施のための模擬セミナー(1月)とした.のべ1,300名以上が参加登録した.
結果と考察
本年度の活動の中心にあった診療の手引きは厚労省から事務連絡で周知され,全国の医療機関等で利用されているものと考えられる.患者の予後改善には,その時点における標準的な治療法を多くの患者に提供することが重要と考えられる.本手引きがその一助となることが期待される.
診療の手引きの利用状況調査を通じて,重点医療機関の医師においては総合的な満足度は高いことが判明した.一方,情報量の増加とともによりコンパクトな内容を求める声も見受けられた.オミクロン株の出現以降,診療の場は外来中心になってきており,入院診療を中心に国や関連学会の情報収集を目的としてきた現行の手引きは転換を迫られているとも言える.薬剤の推奨度等については,システマティックレビューを経たガイドラインのニーズは増してきており,国内関連学会のさらなる関与にも期待したい.
COVID-19の急性期症状から回復後に倦怠感等が持続・出現する罹患後症状は世界中で大きな臨床的課題となっている.多くの患者において,半年から1年以上かけて症状は消失するものと考えられているが,標準的な治療やケアが確立していない.手引き別冊:罹患後症状のマネージメントはこのような状況の改善につながるものと期待される.今後の新たな知見に応じて,改訂が図られる必要がある.
今後の海外渡航の再開に伴い,海外で発生しているサル痘などの稀な感染症が国内で発生するリスクが増加すると予想される.特にウイルス性出血熱等の患者に対してより高度な医療が行える体制を整備することは2014年以来の課題となっている.先行研究班で着手し,COVID-19パンデミックのため中断していた治療手技を習得する実践的なワークショップをりんくう総合医療センターのご協力で再開できたことは将来につながる成果と考える.
結論
 COVID-19の流行を受けて,その臨床的課題の解決に努めた.診療の手引きおよび別冊:罹患後症状のマネージメントの改訂は患者に対する医療の均てん化という面で国の厚生行政に大きく寄与したものと考える.

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202219021B
報告書区分
総合
研究課題名
一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究
課題番号
20HA2002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 康幸(国際医療福祉大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究班の役割は一類感染症等の患者の医療を担当する特定及び第一種感染症指定医療機関を支援し,国の厚生行政に貢献することである.最新の知見を情報収集し,研修会や診療の手引きの公表を通じて,国内の医療従事者に還元を図ることを目的とする.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床的課題について,迅速に解決を図る必要がある.
研究方法
1. COVID-19に即応した研究班横断的な活動
診療の手引きの改訂
 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部と連携しながら,先行研究班で作成した診療の手引きを改訂し,医療従事者に最新の情報を提供するよう努めた.診療の手引き検討委員会を構成した上で重症度分類に応じた治療の考え方を整理して第2版を2020年5月に公表した.その後,新規治療薬や検査試薬,退院基準の変更などに応じて,2023年2月までに計19回改訂した.
 診療の手引きは厚生労働省から事務連絡で自治体に周知されるほか,同省ホームページから無償でダウンロードできるようになっている.2023年3月には重点医療機関に勤務する医師を対象に利用状況の調査行い,360名の医師から回答があった.総合的な満足度(10点満点)の中央値は8点であった.

診療の手引き別冊:罹患後症状のマネージメントの作成
 診療の手引き別冊として,罹患後症状のマネージメント(暫定版)を2年目の12月に発行した.多分野の専門家からなる編集委員会を組織して,第1.0版(4月),次いで第1.1版(6月),第2.0版(10月)と計3回の改訂を行なった.

2. COVID-19対策として1年目(令和2年度)に補助金の追加交付を受けて実施された研究
診断における唾液検体の検討
 研究分担者の豊嶋らは有症状者および無症状者におけるSARS-CoV-2のPCR検査において,唾液は鼻咽頭拭い液とほぼ同等の精度であると結論づけた.豊嶋らは唾液検体が抗原定量検査においても使用可能であることを証明したが,研究分担者の中川らは抗原定性検査には使用できないことを示した.
 研究代表者の加藤らは自衛隊中央病院の研究協力者と保存されていた鼻咽頭検体と唾液の診療残余検体を検討し,発症から9日以内で結果がよく一致することを明らかにした.

 このほかに研究分担者の和田らはクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から下船した外国籍患者の入院医療費の調査を行った.研究分担者の蜂矢らは渡航者の効率的な検疫方法に関する調査を行った.研究分担者の藤本らは個別検査とプール検査の一致率は比較的良好であることを示した.研究代表者の加藤らは抗原定性検査の臨床性能を評価した.研究分担者の倭らはCOVID-19患者を対象に血清サイトカインを測定し重症化因子を解析した.研究分担者の氏家らは世界保健機関と共同で海外派遣前の研修プログラムを開発した.

3. そのほかの重要な研究

集中治療
研究分担者の倭らはりんくう総合医療センターにおいて,一類感染症等の患者に対する治療手技を習得するワークショップを2022年6月と2023年3月に開催した.本ワークショップを通じて,治療手技の手順書を作成した.

医療従事者の研修
 研究分担者の氏家,忽那らは第一種感染症指定医療機関の医療従事者や行政関係者を対象に医療体制整備を目的とした研修会をオンラインで開催した.

(倫理面への配慮)
上記のうち,臨床研究は研究者の所属施設で倫理審査を受けて実施された.
結果と考察
 2019年末に発生したCOVID-19は国内流行も始まったことから,当初の予定を修正し,その臨床的課題の解決に努めることとした.唾液検体やプール化検体の有用性を明らかにした諸研究の成果は国の審議会の資料とされ,標準検体の一つとして採用されることになった.
 研究班の横断的活動として取り組んだ診療の手引き,及び別冊:罹患後症状のマネージメントは厚労省から事務連絡で周知され,全国の医療機関で利用されている.患者の予後改善には,その時点における標準的な治療法を多くの患者に提供することが重要と考えられる.
 医療従事者に対する研修は国立国際医療研究センターを事務局として,オンラインを活用して計画通り実施された.パンデミック収束後においてもオンラインを活用した情報提供は重要と考えられた.一方,治療手技を習得する実践的なワークショップも重要である.COVID-19パンデミックのため中断していたワークショップをりんくう総合医療センターのご協力で再開できたことは将来につながる成果と考える.
結論
 COVID-19流行を受けて,当初の予定を修正し,その臨床的課題の解決に努めた.唾液検体の有用性を明らかにし,診療の手引きを提供し続けたことは患者に対する医療の均てん化という面で国の厚生行政に大きく寄与したものと考える.

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202219021C

収支報告書

文献番号
202219021Z