口腔ケア・マネジメントの確立

文献情報

文献番号
200921011A
報告書区分
総括
研究課題名
口腔ケア・マネジメントの確立
課題番号
H19-長寿・一般-011
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
赤川 安正(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔頚部医科学講座先端歯科補綴学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 菊谷 武(日本歯科大学附属病院口腔介護リハビリテーションセンター)
  • 吉田 光由(広島市総合リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
2,910,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在わが国では,多くの介護施設や病院において,口腔ケアの専門家である歯科衛生士が配置されておらず,現場への供給が不足している状況にある。この問題に対し我々は、口腔衛生状態や口腔機能の的確なアセスメントやリスク評価に基づくケア計画の立案,実施,再評価というPDCAサイクル(Plan,Do,Check,Action)に則った多職種協働型の口腔ケア・マネジメントを確立することが必要と考え、多職種協働で口腔ケアの実施にあたるための方法を検討することとした。
このために、歯科関係者が口腔をアセスメントし,さらにケアプランを立案する際の多職種での共通のツールとなるようなアセスメント票を考案した。本票は,口腔内状態としてプラーク,舌苔,食渣,口腔乾燥,口臭,義歯,臼歯部咬合,う蝕,歯周病の状況を簡易に診査でき,口腔機能評価として食事中のむせ,痰がらみなどの観察所見ならびに頸部聴診や原始反射の発現を検査,さらに,口腔ケアリスクとして口腔ケアに対する拒否,自立度,座位保持,頚部可動域,開口保持,含嗽の可否を評価できる。
本調査の目的は、本事業で作成した口腔アセスメント票に基づき、肺炎発症との関連を示すことで、その項目の妥当性を探ることである。
研究方法
全国の介護保険施設33施設に入居する1791名(男性339名,女性1452名,平均年齢86.1±8.2歳)を対象に実施した。対象者に対して、作成した口腔アセスメント票を用いて、口腔ケアに係るリスクを評価した。その後、6ヶ月後までの間に肺炎などの発症について追跡調査した。
結果と考察
調査期間中に発生した肺炎とプラークの付着状態など口腔内状態との関連は明確ではなかった。一方、摂食嚥下機能障害すなわち誤嚥を疑うアセスメント項目(「食事中・後のむせ」、「痰がらみ」、「頸部聴診結果」)、免疫不全状態を疑う項目(BMI、体重減少率)において有意な関連を示した。誤嚥性肺炎を疑う肺炎の発症リスク因子として、誤嚥に関するアセスメント項目と免疫不全状態を示す栄養状態に関するアセスメント項目の重要性が示された。さらに、口腔ケアリスクを示す「口腔ケアの自立程度」、「口腔ケアの自発性」、「義歯の着脱」、「経管栄養チューブの使用」、「座位保持」、「頸部可動性」、「開口保持」などが有意な項目とされたことは、口腔ケアの際の姿勢の保持や開口の保持など、口腔ケアを安全に効果的に行うことができるような配慮が重要であることが示されたといえる。
結論
今回、我々が使用したアセスメント票は肺炎発症のリスクを捉えるために有用であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-10
更新日
-

文献情報

文献番号
200921011B
報告書区分
総合
研究課題名
口腔ケア・マネジメントの確立
課題番号
H19-長寿・一般-011
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
赤川 安正(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔頚部医科学講座先端歯科補綴学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 菊谷 武(日本歯科大学附属病院口腔介護リハビリテーションセンター)
  • 吉田 光由(広島市総合リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
口腔衛生管理が十分に行えない要介護高齢者に対し,限られた人的資源や社会資源を用いてう蝕や歯周疾患の予防を達成し,さらには気道感染の予防に資する質の高い多職種協同型の口腔ケアを提供できる体制づくりが求められる。このためには,口腔衛生状態や口腔機能の的確なアセスメントやリスク評価に基づくケア計画の立案,実施,再評価というPDCAサイクルに則った「口腔ケア・マネジメント」を確立する必要がある。
 本研究では,要介護高齢者に適切な口腔管理が必要であることを明らかにし,このような口腔管理が要介護高齢者にもたらす効果を検討することとした。
研究方法
研究1として全国19ヵ所の介護施設入所者172名(男性46名・女性126名,平均年齢84.0歳)を対象として,「誤嚥性肺炎の既往がある」,「食事中や食後のむせがある」,「食事中や食後に痰のからみがある」,「頚部聴診にて呼吸切迫やむせがあった」者を肺炎リスク群としてその割合を調査した。
研究2として,義歯治療による口腔機能の回復が要介護高齢者の栄養改善につながるか否かを検討するために,広島市内の某介護療養型医療施設の歯科診療所において平成16年10月から平成18年9月までに義歯治療を行った85名(男性24名,女性61名,平均年齢85.2歳)の治療半年後の体重変化ならびに血清アルブミン値を比較した。
結果と考察
研究1より、選別された肺炎リスク群は56名(男性18名,女性38名,平均年齢84.0歳)であり,これらの者では要介護度が有意に高く,開口保持,咀嚼運動が困難あるいはできない者が有意に多かった(p<0.05)。これらのことは,口腔機能の低下した者では肺炎リスクが高まることを示唆している。
研究2より,要介護高齢者に義歯治療を行った結果,治療半年後に義歯使用者では体重が有意に増加し(開始時45.1 ± 8.0kg,半年後46.3 ± 8.4kg),また,義歯使用者の血清アルブミン値も不使用者より有意に増加していた(p<0.05)。これらの結果より,義歯治療を通じた歯科医療の介入は高齢者の栄養の維持・改善に有益であることが示唆された。
結論
我々が考える口腔ケア・マネジメントは,歯科の専門職が継続的に利用者の生活機能を考慮しつつ関わることができるシステムである。これにより義歯治療による咀嚼機能の改善による栄養改善を図るべき対象者を把握でき,歯科医療につなげることができると考えられ,歯科医療がその実効性を持つことになる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200921011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
肺炎の発症には、プラークの付着状態など口腔内状態との関連は明確ではなかった。一方、摂食嚥下機能障害すなわち誤嚥を疑うアセスメント項目において有意な関連を示した。さらに、口腔ケアの際の姿勢の保持や開口の保持など、口腔ケアを安全に効果的に行うことができるような配慮が重要であることが示された。
臨床的観点からの成果
口腔機能の維持・向上の重要性は介護保険においても認められており,前回の改正において施設入所高齢者に対する口腔機能維持管理加算が導入されている。しかしながらこの加算には,個々の口腔の問題に対してのアセスメントやプランニングまでは求められておらず,我々の研究成果である今回のアセスメント票の普及をはかり,より個別化された口腔機能向上の取り組みに向けた第一歩にしたいと考えている。
ガイドライン等の開発
本年度の診療報酬改定において、歯科疾患在宅療養管理料の口腔機能管理加算の評価用紙として、今回の調査用紙が採用された。
その他行政的観点からの成果
本年度の診療報酬改定において、歯科疾患在宅療養管理料の口腔機能管理加算の評価用紙として、今回の調査用紙が採用された。
その他のインパクト
本テーマを検討するためのシンポジウムを日本老年歯科医学会において開催した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanehisa Y, Yoshida M, Taji T, et al.
Body weight and serum albumin change after prosthodontic treatment among institutionalized elderly in a long-term care geriatric hospital
Community Dent Oral Epidemiol , 37 (6) , 534-538  (2009)
原著論文2
Kikutani T, Tamura F, Nishiwaki K, et al.
Degree of tongue coating reflects lingual motor function in the elderly
Gerodontology , 26 (4) , 291-296  (2009)
原著論文3
Kikutani T, Tamura F, Nishiwaki K, et al.
Oral motor function and masticatory performance in the community-dwelling elderly
Odontology , 97 (1) , 38-42  (2009)
原著論文4
吉田光由, 菊谷武, 渡部芳彦,他
肺炎発症に関する口腔リスク項目の検討 口腔ケア・マネジメントの確立に向けて
老年歯科医学 , 24 (1) , 3-9  (2009)
原著論文5
花形哲夫, 田村文誉, 菊谷武,他
介護老人福祉施設における口腔ケア・マネジメントの効果
老年歯科医学 , 23 (4) , 424-434  (2009)
原著論文6
関野愉, 久野彰子, 菊谷武,他
介護老人福祉施設入居者の歯周疾患罹患状況
日本歯周病学会会誌 , 51 (3) , 229-237  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-