老化の多施設共同縦断疫学調査に関する研究

文献情報

文献番号
199700606A
報告書区分
総括
研究課題名
老化の多施設共同縦断疫学調査に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 葛谷文男(名古屋大学名誉教授、社団法人オリエンタル労働衛生協会理事長)
  • 納光弘(鹿児島大学医学部教授)
  • 金森雅夫(浜松医科大学助教授)
  • 吉峯徳(名古屋大学医学部助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老化や老年病は、生活習慣や文化的背景など、さまざまな要因によって影響を受け、その成因を疫学的に解明するためには、多くの専門家や研究施設の協力が不可欠である。当研究班は、多施設共同での総合的な老化の長期縦断疫学調査を実際に行い、そのあり方を検討することを研究の目的としている。
老化の疫学研究には、?地域差や文化的背景の相違をモニタするための日本全体からの無作為抽出集団に対する調査票を主とした調査研究、?基幹施設での地域住民を対象とした医学・心理学・運動生理学・形態学・栄養学などの広い分野にわたる検査を含む学際的かつ詳細をきわめた縦断的調査、?基幹施設での包括的ではあるが一般的な調査研究を補う、専門性を重視した特定の施設での個別研究、?国際的な情報やデータの交換を行い、比較検討するための国際共同研究などが必要である。
研究方法
?全国無作為抽出標本(2669世帯中の1528世帯2763名が回答)と長寿医療研究センターの周辺の愛知県東浦市在住の地域ボランティア集団(男女89名)に対して同一の質問票を使用して、この地域の全国代表性を検討した。調査項目は、主観的健康度、既往歴・現病歴、夜間排尿回数、睡眠、喫煙習慣、受動喫煙、飲酒、食習慣、嗜好品、職業、身体運動、身長、体重、うつスコア(CES-D:Center for Epidemiological Studies Depression Score、 NIMH)、栄養調査(厚生省簡易栄養調査表)である。?上記の全国無作為抽出標本で昨年度にも回答を得られた874世帯1538名について、調査結果の1年間の変動について検討した。?平成3年より実施している鹿児島県大島郡笠利町の在宅高齢者神経学調査の対象者1910名のうち、4年後の変化を検討し得た108名について加齢による神経系の影響を検討した。?静岡県浜松市村櫛町の65歳以上の住民、平成8年度調査543名、平成9年度調査460名を対象に骨量およびADL等の基礎データを収集するとともに、転倒・骨折予防についての健康教育を行い、1年後にその介入効果を判定した。?名古屋市内人間ドック受診者66000人の大規模集団での追跡データを用いて加齢と聴力との関係について縦断的に検討するとともに、聴力損失の危険因子を検討した。?米国国立老化研究所で実施中されているボルチモア加齢縦断研究で、1961年から1993年までに聴力検査を受けた男性1326名を対象にして聴力の縦断的変化を検討し、日米の比較を行った。?長寿医療研究センターで実施を開始した老化の長期縦断疫学研究は、対象を当センター周辺の地域住民からの無作為抽出者としている。調査内容資料の郵送後、参加希望者に調査内容に関する説明会を開催し、文章による同意の得られた者を対象者とした。対象は40,50,60,70代男女同数とし2年ごとに観察を行う。2年間で計2,400人の調査を目標とする。
結果と考察
?全国調査と東浦町調査の比較では、東浦町で運動習慣を持つ者が多く、うつ傾向が有意に少なかったが、ほとんどの項目で有意な差は得られなかった。?全国無作為調査のうち2年間連続して回答を得られた874世帯、1538名について1年間の調査結果の変動について検討した。96年度と97年度の一致率を示すκはすべての項目で有意に一致していることを示しており、食生活・栄養調査に関する項目およびうつ傾向に関する調査項目を除く多くの項目で0.5以上であった。?神経学的追跡では4年間で悪化した所見は握力、視力、頸部運動制限、上肢不随運動、運動転換障害などであった。Mini Mental State Examination (MMS)の変化と尿失禁、下肢感覚障害、つま先立ち障害との間に相関関係があった。?転倒調査の1年間の介入効果は、対象者の身体特性に変化はほとんど認められなかったが、健康度自己評価、転倒率に改善が認められた。?大規模集団での聴力の縦断的検討では、男女とも30歳代から明らかな加齢による聴力低下が認められた。この聴力の低下は男女とも高音になるほど大きかった。男性での聴力低下は高音域で女性よりも大きかったが、出生コホートによる加齢変化の差はどの周波数でもほとんどなかった。聴力障害の危険因子を解析したところ、動脈硬化に関連する肥満、耐糖能異常、低HDLコレステロール血症などが有意な因子としてとらえられた。?米国での聴力検査値は対象者数が少ないこともあり、ばらつきが全体に大きかった。また測定の基準値が、日米で異なっていたが、これらを考慮すると、ほぼ同様の加齢変化であった。?長寿医療研究センターでの老化の縦断疫学研究では、平成9年10月にボランティアを対
象にテストランを行い、実施上の問題点の解決を図った後、11月より無作為抽出集団を対象に実際の調査を開始した。11月より1月までは1日2名、2月より1日4名の検査を実施した。4月より6名を予定しており、平成9年度は合計約200名、平成10年度は年間1200名の実施を行う。
縦断的疫学はその調査が継続的かつ信頼性の高いものであることが不可欠であり、施設での詳細な検討には人材・設備・経費が莫大なものとなるため、国家的プロジェクトとして進めることが重要である。
老化の縦断疫学研究は、さまざまな側面からの検討が必要であり、多施設共同での推進を行って行かねばならない。研究開始2年目にあたる本年度は、全国無作為抽出集団への質問票調査、基幹施設での地域住民への詳細な疫学的調査研究、特定の施設での専門的な個別研究、国際比較研究のすべてを実施し、多施設共同での老化の縦断研究のあり方を検討した。
当研究班の最終的な目標は、世界の最も優れているといわれる老化の縦断研究である米国国立老化研究所(NIA)でのボルチモア加齢縦断研究(BLSA)に劣らない縦断研究を多施設共同で日本で実際に行うことである。本年度より長寿科学研究センターにおいて、内容・規模ともにBLSAを越える、世界に誇れる縦断研究を開始した。これに加えての多施設共同での成果は、世界における老化研究をリードするものとなろう。
長寿医療研究センターでの縦断研究の対象は地域住民からの無作為抽出集団であるが、実際に調査を開始する前に、地域住民からのボランティアを対象に行った調査結果を全国調査と比較した。その結果、対象者がボランティア集団であり、健康に対する関心が高いことを考慮すれば、調査対象地区は日本のほぼ中心に位置し、名古屋市郊外の都市と農村の中間にあり、調査データは日本全国を代表するといってよいと思われる。
長寿医療研究センターで実施できない詳細な神経学的所見の加齢変動、転倒・骨折の介入効果の検討などについても、班研究の中でそれぞれに成果が得られた。また聴力の国際比較では検査機器の精度、検査手技の問題もあり、測定値の単純な比較は出来ないが、日本の検討同様に米国でのデータでも加齢による聴力障害のパターンを確認することができた。こうした国際的な比較研究は、詳細な縦断データを蓄積していくことで、より広範囲に実施できるようになっていくものと期待できる。
結論
老化を観察し、老年病の成因を明らかにするためには多施設共同での老化の長期縦断研究が不可欠である。老化を目標にした長期縦断研究は膨大な費用と時間を要するため、日本ではほとんど行われていなかった。本年度は、基幹施設施設である長寿医療研究センターで地域住民への詳細な疫学的調査研究縦断研究を世界一ともいえる内容・規模で開始するとともに、全国無作為抽出集団への質問票調査、特定の施設での専門的な個別研究、国際比較研究のすべてを実施し、多施設共同での老化の縦断研究のあり方を検討した。

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