成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの強化のための研究

文献情報

文献番号
202219019A
報告書区分
総括
研究課題名
成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの強化のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22HA1007
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
明田 幸宏(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 池辺 忠義(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 高橋 英之(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 常 彬(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 林原 絵美子(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 木下 諒(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 大島 謙吾(東北大学病院 総合感染症科)
  • 田邊 嘉也(新潟大学 医歯学総合病院第二内科)
  • 笠原 敬(奈良県立医科大学 感染症センター)
  • 阿部 修一(山形県立中央病院 感染症内科・感染対策部)
  • 金城 雄樹(国立感染症研究所 真菌部)
  • 神谷 元(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 土橋 酉紀(国立感染症研究所感染症疫学センター)
  • 有馬 雄三(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 横山 彰仁(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
  • 丸山 貴也(国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 大石 和徳(富山県衛生研究所)
  • 西 順一郎(鹿児島大学病院医学部・歯学部附属病院小児科)
  • 黒沼 幸治(札幌医科大学医学部呼吸器・アレルギー内科学講座)
  • 仲松 正司(琉球大学病院 感染対策室)
  • 後藤 憲志(久留米大学 感染制御学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
11,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、国内10道県において侵襲性肺炎球菌感染症(IPD), 侵襲性インフルエンザ菌感染症(IHD),侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD),劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の患者及び病原体のサーベイランスを実施し、4疾患の発生動向と原因菌の血清型等の関連性を明らかにすることにあり、これまで予防接種施策等に反映されるデータを取得してきている。今回は、①COVID-19 パンデミック下での成人IPD, IHD, STSSおよび全年齢でのIMDサーベイランス体制強化を図り、②IPD, IHD, IMDの血清群別の罹患率を監視するサーベイランス体制を構築する。③IMDのリスク因子、STSSの3菌種別の侵入門戸不明例のリスク因子や本研究対象細菌の細菌側因子他の解明を目指すとともに数理モデルを利用した解析を検討する。
研究方法
国内の10道県(北海道、宮城県、山形県、新潟県、三重県、奈良県、高知県、福岡県、鹿児島県、沖縄県;全国の18%の人口を占める)において、NESIDに届出された15歳以上のIPD, IHD, STS, IMD(IMDは全国から)症例を登録し、菌株の細菌学的解析、遺伝学的解析、ゲノム解析、登録症例情報(年齢、性別、併存症、予防接種歴等、病型、重症度、転機等の患者情報、原因菌の性状等)について、疫学的解析をおこなう。また数理モデル解析、起因菌の免疫原性に対する反応性についても解析する。
結果と考察
10道県より侵襲性細菌感染症由来肺炎球菌179株(IPD株)、インフルエンザ菌33株(IHD株)、髄膜炎菌8株(IMD株)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症由来株59株(STSS株)の解析を行った。IPD株の血清型分布は3および35Bが最も高く、続いて15A、23A、10Aであった。IPD株に対するワクチンカバー率はPCV13で26.3%、PPSV23で46.4%、新規の結合型ワクチンPCV15で29.6%であった。経年的なカバー率の低下に注意が必要である。IPD症例の届出数は新型コロナウイルス流行後(緊急事態宣言後)に減少した。また得られたIPD株に対するワクチン免疫血清の殺菌効果を評価する系を確立した。IHD株は9割以上が無莢膜型(non-typable)であった。また6.1%がβラクタマーゼ産生株であったが、薬剤感受性としてはおよそ半数がアンピシリン低感受性以上の性状を示した。さらにゲノム解析の結果から、分離株は5つのクレードに分類される事が明らかとなった。IHD症例の基本属性(年齢、性別、病型など)は新型コロナウイルス流行前後(緊急事態宣言前後)で比較しても大きく変化しなかったが、報告数は減少した。今年度、報告収集されたIMD株は8株であり、依然としてコロナ禍における感染対策や人流低下の影響を受けていると考えられた。血清型はY、Bと最も多く3株ずつ、Cが1株、non-groupableが1株であった。また注意すべき薬剤耐性は認められなかった。一方で同時期に収集されたnon-IMD株ではキノロン耐性株が高度に検出されており、薬剤耐性伝播について引き続き注視が必要である。IMD症例の疫学的解析では、血清型Y群が最も高頻度に分離されており、次いでB群であった。病型として菌血症が6割で報告されている。また基礎疾患を有する患者が約半数を占めていたが、髄膜炎菌ワクチンの接種は3%に留まっている。STSS株の細菌学的解析では、G群が最も多く、次いでB群、A群であった。G群におけるemm型別では、stG6792が8株, stG485が5株、stG10, stG652, stG653型が3株ずつであった。A群ではemm89が4株, emm77, emm81型が各2株であった。STSS症例における疫学的解析の結果、新型コロナウイルス感染症流行開始以降にS. pyogenesで減少傾向、S. agalactiaeで横ばい、S. dysgalactiae subsp. equismilis(SDSE)で増加傾向が認められた。今回の解析では死亡に関連したリスク要因として高齢、やせ、施設長期入所、要支援・介護、基礎疾患として精神疾患、が示された。
結論
コロナ禍において報告数の減少がみられた侵襲性細菌感染症もコロナ収束とともに増加へ転じている様子が確認されている。新型コロナウイルス対策業務による多忙から本研究への登録が過小となっていた状況からも復調しており、コロナ禍前後における侵襲性細菌感染症の変化についてより詳細を解析し実態を明らかにすることが可能となりつつある。菌株のゲノム解析も予定されており、ワクチン有効性や新規ワクチンの導入を見据え、当該細菌感染症の感染対策、公衆衛生対策に資するエビデンスの取得をさらに進めることが重要である。

公開日・更新日

公開日
2025-08-05
更新日
-

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倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2025-08-05
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収支報告書

文献番号
202219019Z