文献情報
文献番号
200921008A
報告書区分
総括
研究課題名
口腔内細菌叢の変化を指標にした後期高齢者の老人性肺炎の予知診断システムの開発
課題番号
H19-長寿・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
高柴 正悟(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 永田 俊彦(徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
- 佐藤 勉(日本歯科大学 東京短期大学歯科衛生学科)
- 野村 義明(鶴見大学 歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
11,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は,誤嚥性肺炎の発症予知診断システムを細菌学・感染症学的な見地から構築することを最終目的に,高齢者の肺炎発症因子の候補を得た後,その候補因子を検査することの臨床的有用性を調べるものである。
研究方法
本年度は,前年度までにValidationされた歯周病原細菌に対する血漿IgG抗体価検査を用い,本研究の対象疾患である「誤嚥性肺炎」患者について,その有用性を検討した。比較的高齢者が多く入院する一般的市中病院において,市中肺炎の前向き検討をする中で,患者の歯周病菌に対する血清IgG抗体価を測定し,Aa, Ec, Pg, およびPi菌について検討した。肺炎入院患者は,誤嚥のリスクの無い「非誤嚥性肺炎」と,誤嚥のリスクを持つ「誤嚥性肺炎」とに分類して,統計学的解析を行った。なお,研究に同意を得ることができた84名を患者登録し,入院時と肺炎回復期(入院14日目)の2時点で測定できた18名を解析の対象とした。
一方,対照疾患として慢性閉塞性肺疾患(COPD)に着目し,京都大学呼吸器内科通院中のCOPD患者63名(平均年齢:73.0歳)を対象とし,血清IgG抗体価の測定は通法にしたがいELISA法を用いて行い,得られたデータについて統計学的検討を行った。
一方,対照疾患として慢性閉塞性肺疾患(COPD)に着目し,京都大学呼吸器内科通院中のCOPD患者63名(平均年齢:73.0歳)を対象とし,血清IgG抗体価の測定は通法にしたがいELISA法を用いて行い,得られたデータについて統計学的検討を行った。
結果と考察
誤嚥性肺炎を対象にした研究において,調べた4菌種とも慢性歯周病によると考えられる抗体価の高値を示す患者は存在した。そのうち,Pgのみ,2時点間で有意に抗体価の変動を示した(33 %)。このうち,臨床的に誤嚥性肺炎と考えられたものは4名(67 %)であった。誤嚥性肺炎の中では,Pg抗体価が上昇した患者の年齢は,上昇した患者の年齢よりも高い可能性があった(92才 vs 78.6才,P=0.08)。このことは,誤嚥性肺炎の発症リスクにPgの感染も大きく関与していることを示唆する。今後,歯周病の程度と感染抗体価の関係,肺炎治療に伴う抗体価の推移を引き続き検討する必要があると考える。
一方,COPDを対象にした研究において,Pg FDC381およびSU63に対する抗体価陽性群で有意に増悪の程度が減少した(単変量解析)。また,Pg FDC381およびSU63に対する抗体価陽性は頻回増悪の減少と関連していた(多変量解析)。このことは,歯周病菌に対するIgG抗体が歯周病起因菌の不顕性誤嚥にともなう下気道感染症を抑止しすることによって,COPD増悪頻度を抑制している可能性を示唆していると推測された。
一方,COPDを対象にした研究において,Pg FDC381およびSU63に対する抗体価陽性群で有意に増悪の程度が減少した(単変量解析)。また,Pg FDC381およびSU63に対する抗体価陽性は頻回増悪の減少と関連していた(多変量解析)。このことは,歯周病菌に対するIgG抗体が歯周病起因菌の不顕性誤嚥にともなう下気道感染症を抑止しすることによって,COPD増悪頻度を抑制している可能性を示唆していると推測された。
結論
歯周病原細菌に対する血中IgG抗体価は,老人性肺炎症性疾患の病態形成と関連があることが示唆された。
公開日・更新日
公開日
2010-05-24
更新日
-