老化に伴う神経変性疾患の標準的医療確立のための長期縦断疫学研究

文献情報

文献番号
200921004A
報告書区分
総括
研究課題名
老化に伴う神経変性疾患の標準的医療確立のための長期縦断疫学研究
課題番号
H19-長寿・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
研究分担者(所属機関)
  • 田中 章景(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
  • 平山 正昭(名古屋大学 医学部附属病院(神経内科))
  • 渡辺 宏久(名古屋大学 医学部附属病院(神経内科))
  • 熱田 直樹(名古屋大学 医学部附属病院(神経内科))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加齢に伴う神経変性疾患の標準的医療確立には自然歴やQOLに影響する因子の解明が必要である。本研究は筋萎縮性側索硬化症(ALS) およびパーキンソン病(PD)などの神経変性疾患に対して、多施設共同長期縦断自然歴把握システムを構築し、遺伝子検体を併せて蓄積することで、我が国におけるこれらの疾患の横断的、縦断的臨床像および発症、進行、予後に関与する臨床的、遺伝子的因子を明らかにすることを目的とした。
研究方法
ALSについて、前向き経時的情報収集のために臨床研究コーディネーター(CRC)による電話調査を導入したシステムを構築した。また、匿名化された遺伝子検体を保存した。ALSに対する研究状況をホームページ(http://www.jacals.jp/)にて公開し、患者団体主催講演会などにおいても紹介した。PDについては担当医師の評価および経時的なQOL、ADLなどに関するアンケート調査を軸にした体制を構築した。
結果と考察
378名のALS患者を登録し、同数のゲノムDNAを保存した。登録患者の経過観察補足率は93%と高率であった。ALS重症度スケールであるALSFRS-Rが登録時までに年あたりどの程度下がったかを示すΔALSFRS-Rや登録時%VCが、1年後の予後予測指標として極めて有用であることを示した。DNA検体を用いた解析を理研ゲノム医科学研究センターとの共同で進め、p=7.6×10-10でALSとの関連を示す遺伝子多型が見出された。PDについて同様の多施設共同長期縦断自然歴把握システムを構築し、395例を登録した。主成分分析とクラスター解析を行うことにより、非運動機能異常に基づいてPDを5種類の臨床病型に分類できることを示した。また、頭部MRIのvoxel based morphometry 解析から、日中の予期せぬ眠気を有する群では側頭葉を中心に有意な大脳萎縮を認めることを明らかにした。
結論
我々の構築したALS、PDについての長期縦断自然歴把握システムにおいては、臨床現場の負担を増やさず、転医症例についても脱落例を最小限にして長期予後を把握することができる。これらにより標準的医療確立に有用な解析を行いうるのみならず、匿名化された遺伝子リソースとの組み合わせで、発症、進行、臨床病型、予後などと遺伝子多型との相関を解析していく基盤が整備された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200921004B
報告書区分
総合
研究課題名
老化に伴う神経変性疾患の標準的医療確立のための長期縦断疫学研究
課題番号
H19-長寿・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
研究分担者(所属機関)
  • 田中 章景(名古屋大学 大学院医学系研究科(神経内科))
  • 平山 正昭(名古屋大学 医学部附属病院(神経内科))
  • 渡辺 宏久(名古屋大学 医学部附属病院(神経内科))
  • 熱田 直樹(名古屋大学 医学部附属病院(神経内科))
  • 服部 直樹(名古屋大学 医学部附属病院(神経内科))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加齢に伴う神経変性疾患の標準的医療確立には自然歴やQOLに影響する因子の解明が必要である。本研究は筋萎縮性側索硬化症(ALS) およびパーキンソン病(PD)などの神経変性疾患に対して、多施設共同長期縦断自然歴把握システムを構築し、遺伝子検体を併せて蓄積することで、我が国におけるこれらの疾患の横断的、縦断的臨床像および発症、進行、予後に関与する臨床的、遺伝子的因子を明らかにすることを目的とした。
研究方法
ALSについて、前向き経時的情報収集のために臨床研究コーディネーター(CRC)による電話調査を導入したシステムを構築した。患者から採血を行い匿名化した後、DNA抽出およびB-cell line化を行った。ALSに対する研究状況をホームページ(http://www.jacals.jp/)にて公開し、患者団体主催講演会などにおいても紹介した。PDについては担当医師の評価および経時的なQOL、ADLなどに関するアンケート調査を軸にした体制を構築した。研究成果をもとに患者からしばしば受ける質問に対するQ and A集パンフレットを作成し、患者・家族への配布を進めた。
結果と考察
378名のALS患者を登録し、同数のゲノムDNAを保存した。登録患者の経過観察補足率は93%と高率であった。ALS重症度スケールであるALSFRS-Rが登録時までに年あたりどの程度下がったかを示すΔALSFRS-Rや登録時%VCが、1年後の予後予測指標として極めて有用であることを示した。蓄積されたDNA検体を用いた解析が理研ゲノム医科学研究センターとの共同で進められており、ALS関連遺伝子多型が見出されつつある。PDについて同様の多施設共同長期縦断自然歴把握システムを構築し、395例を登録した。PDでは多彩な非運動機能異常が出現し、QOLに強く影響することを示した。また、日中の眠気や幻覚と大脳萎縮の関連を明らかにした。
結論
我々の構築したALS、PDについての長期縦断自然歴把握システムにおいては、臨床現場の負担を増やさず、転医症例についても脱落例を最小限にして長期予後を把握することができる。これらにより標準的医療確立に有用な解析を行いうるのみならず、匿名化された遺伝子リソースとの組み合わせで、発症、進行、臨床病型、予後などと遺伝子多型との相関を解析していく基盤が整備された。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200921004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびパーキンソン病(PD)について、長期縦断自然歴把握システムを構築、378例のALS患者、395例のPD患者を登録した。遺伝子検体の蓄積も行った。電話調査でALS患者ADL縦断像を把握できるシステムを確立し、バリデーションを行った。遺伝子検体を用いたゲノムワイド関連解析、既知のALS関連遺伝子異常スクリーニング、新規ALS関連遺伝子候補のバリデーションを推進した。PD患者は多彩な非運動機能異常を有し、それに基づいて5種類の臨床病型に分類可能であることを示した。
臨床的観点からの成果
死亡もしくは永続的人工呼吸器導入をエンドポイントとしたALS患者の予後を、% VCと重症度スケールであるALSFRS-Rが年あたりどの程度下がっているかを示す指標を組み合わせて高率に予測できることを示した。日中の眠気を有するPD患者は有しない群に比べて多彩な非運動機能異常を有し、側頭葉を中心に有意な大脳萎縮を認めることを明らかにした。心臓超音波検査と血清 BNP 値を併せて評価していくことは、麦角系ドパミンアゴニスト内服PD患者を安全に管理する上で重要であることを示した。
ガイドライン等の開発
現在、我が国の特定疾患認定のためのALS診断基準では、上位運動ニューロン症候を身体一領域以上に認めることを診断の必須条件としている。しかし、今回の登録システムにより、臨床的に上位運動ニューロン症候を認めないALS患者が1割程度存在することが示された。縦断的、横断的臨床データベースの情報を基に、これらの患者を取りこみうる診断基準改訂に向けた準備が進行中である。
その他行政的観点からの成果
登録時情報からALS患者予後を予測するモデル開発は医療、福祉の体制づくりのための基礎情報となる。PD治療薬として広く使用されていた麦角系ドパミンアゴニストにより、心臓弁膜症のリスクが上昇することが近年になって判明し、いかに安全に使用するかが課題となっていた。本研究により、麦角系ドパミンアゴニストを継続使用する必要がある患者でも、心臓超音波検査と血清BNPを組み合わせることで比較的安全に管理していける可能性を示すことができた。
その他のインパクト
ALSおよびPDにおける縦断的臨床情報、多彩な横断的臨床情報から、予後予測因子、運動機能・非運動機能、日常生活活動度、QOLに関与する因子を抽出し、臨床現場における判断、患者説明、臨床試験計画策定などの基礎情報を提供した。ALSについてはホームページを用いて、研究および疾患情報一般の情報提供を広く行い、患者団体である日本ALS協会への説明、機関紙への情報掲載を行った。PDについては研究成果をもとに患者からしばしば受ける質問に対するQ and A集パンフレットを作成し、配布した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sone J, Niwa J, Kawai K et al.
Dorfin ameliorates phenotypes in a transgenic mouse model of amyotrophic lateral sclerosis.
J Neurosci Res. , 88 , 123-135  (2010)
原著論文2
Iguchi Y, Katsuno M, Niwa J et al.
TDP-43 depletion induces neuronal cell damage through dysregulation of Rho family GTPases.
J Biol Chem. , 284 , 22059-22066  (2009)
原著論文3
Atsuta N, Watanabe H, Ito M et al.
Age at onset influences on wide-ranged clinical features of sporadic amyotrophic lateral sclerosis.
J Neurol Sci , 276 , 163-169  (2009)
原著論文4
Suzuki K, Katsuno M, Banno H et al.
The profile of motor unit number estimation (MUNE) in spinal and bulbar muscular atrophy.
J Neurol Neurosurg Psychiatry , 81 , 567-571  (2009)
原著論文5
Banno H, Katsuno M, Suzuki K et al.
Phase 2 trial of leuprorelin in patients with spinal and bulbar muscular atrophy.
Ann Neurol , 65 , 140-150  (2009)
原著論文6
Watanabe H, Hirayama M, Noda A et al.
B-type natriuretic peptide and cardiovalvulopathy in Parkinson disease with dopamine agonist.
Neurology , 72 , 621-626  (2009)
原著論文7
Takeuchi Y, Katsuno M, Banno H et al.
Walking capacity evaluated by the 6-minute walk test in spinal and bulbar muscular atrophy.
Muscle Nerve , 38 , 964-971  (2008)
原著論文8
Kawai Y, Suenaga M, Watanabe H et al.
Prefrontal hypoperfusion and cognitive dysfunction correlates in spinocerebellar ataxia type 6
J Neurol Sci , 271 , 68-74  (2008)
原著論文9
Ito M, Watanabe H, Atsuta N et al.
Fractional anisotropy values detect pyramidal tract involvement in multiple system atrophy
J Neurol Sci , 271 , 40-46  (2008)
原著論文10
Kawai Y, Suenaga M, Takeda A et al.
Cognitive impairments in multiple system atrophy: MSA-C vs MSA-P.
Neurology , 70 , 1390-1396  (2008)
原著論文11
Suzuki K, Katsuno M, Banno H et al.
CAG repeat size correlates to electrophysiological motor and sensory phenotypes in SBMA.
Brain , 131 , 229-239  (2008)
原著論文12
Hori N, Takamori M, Hirayama M et al.
Pupillary supersensitivity and visual disturbance in Parkinson's disease.
Clin Auton Res , 18 , 20-27  (2008)
原著論文13
Hirayama M, Nakamura T, Hori N et al.
The video images of sleep attacks in Parkinson's disease.
Mov Disord , 23 , 288-290  (2008)
原著論文14
Iwasaki Y, Yoshida M, Hashizume Y et al.
Widespread spinal cord involvement in progressive supranuclear palsy. Neuropathology.
Neuropathology , 27 , 331-340  (2007)
原著論文15
Nakamura T, Hirayama M, Ito H et al.
Dobutamine stress test unmasks cardiac sympathetic denervation in Parkinson's disease.
J Neurol Sci , 263 , 133-138  (2007)
原著論文16
Niwa J, Yamada S, Ishigaki S et al.
Disulfide bond mediates aggregation, toxicity, and ubiquitylation of familial amyotrophic lateral sclerosis-linked mutant SOD1.
J Biol Chem , 282 , 28087-28095  (2007)
原著論文17
Jiang YM, Yamamoto M, Tanaka F et al.
1, early growth response 3, acetyl-CoA transporter, death receptor 5, and cyclin C) differentially correlate to pathologic markers in sporadic amyotrophic lateral sclerosis.
J Neuropathol Exp Neurol , 66 , 617-627  (2007)
原著論文18
Adachi H, Waza M, Tokui K et al.
CHIP overexpression reduces mutant androgen receptor protein and ameliorates phenotypes of the spinal and bulbar muscular atrophy transgenic mouse model.
J Neurosci , 27 , 5115-5126  (2007)
原著論文19
Adachi H, Waza M, Katsuno M et al.
Pathogenesis and molecular targeted therapy of spinal and bulbar muscular atrophy.
Neuropathol Appl Neurobiol , 33 , 135-151  (2007)
原著論文20
Ito M, Watanabe H, Kawai Y et al.
Usefulness of combined fractional anisotropy and apparent diffusion coefficient values for detection of involvement in multiple system atrophy.
J Neurol Neurosurg Psychiatry , 78 , 722-728  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-