百日咳とインフルエンザの患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策の推進に資するエビデンス構築のための研究

文献情報

文献番号
202219007A
報告書区分
総括
研究課題名
百日咳とインフルエンザの患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策の推進に資するエビデンス構築のための研究
課題番号
20HA1010
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 元(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 大塚 菜緒(国立感染症研究所細菌第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、代表的な呼吸器感染症である百日咳とインフルエンザについて、患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策推進に資する疫学手法の確立とエビデンスの構築、ならびに政策への反映目的としている。今年度は、百日咳に関しては、新しく保険収載されたイムノクロマト法を用いた迅速診断キットの疫学的評価、並びに精度評価を行った。インフルエンザに関してはインフルエンザの患者がほとんど報告がなかったため、COVID-19を例に定点サーベイランスの評価を行った。
研究方法
百日咳は前年度から認めれたサーベイランス結果の変化について検討した結果、イムノクロマト法による診断例が急激に、かつ局所的に増加していることが判明したため、全国10の医療機関の協力のもと、百日咳疑い患者に対しLAMP法とイムノクロマト法を実施し、検査の感度、特異度を評価した。また得られた検体について病原体検索を実施しイムノクロマト法によって偽陽性になった検体についてその原因を検索している。インフルエンザはCOVID-19の全数報告下で得られた情報をインフルエンザ定点で診断された患者情報についてまとめることでCOVID-19の定点サーベイランス化の評価を行った。
結果と考察
百日咳に関しては、COVID-19の影響で疫学が異なるなか、新たに保険収載されたイムノクロマト法による届け出例の割合が急増した。この増加がこれまでの疫学と大きく異なるため、検査の精度について検討したところ、偽陽性が多く、その原因を検討している。インフルエンザに関しては、COVID-19に対する社会、個人の感染対策の影響で患者がほとんど報告されなかったため、COVID-19が定点サーベイランスに移行した場合の状況について検討し、全数サーベイランスと比較し定点当たり報告数は全数の報告数と同様のトレンドを示すことを示した。
百日咳については偽陽性の原因についてさらに評価するとともに、イムノクロマト法の有効な利用方法について検討する。インフルエンザについてはCOVID-19の定点サーベイランス化で得られた知見をインフルエンザでも同様であるかと今後検討することで、インフルエンザ定点サーベイランスの質の向上が期待できる。
結論
イムノクロマト法百日咳菌抗原キット「リボテスト百日咳」の高い偽陽性率が明らかとなり、イムノクロマト法による検査結果の解釈には注意が必要であることが指摘された。今後さらに解析検体数を増やし、検査精度の評価および偽陽性原因の探索を継続する必要があるが、一つの地域からの被験者が多く、地域的な偏りを生じている可能性があるため、今後サンプル数やサンプルサイズを拡大し、イムノクロマト法の精度評価及び偽陽性原因の探索を継続する必要がある。
インフルエンザに関しては、報告数が少なかったためCOVID-19を代替として定点サーベイランスを評価したが、定点医療機関に地域の中核病院が含まれる離島において、定点当たり報告数は全数の報告数と同様のトレンドを示しており、定点サーベイランスも定点の設定によっては十分疾病の流行や疾病負荷を捉えることができる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2024-07-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202219007B
報告書区分
総合
研究課題名
百日咳とインフルエンザの患者情報及び検査診断の連携強化による感染症対策の推進に資するエビデンス構築のための研究
課題番号
20HA1010
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
神谷 元(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大塚 菜緒(国立感染症研究所細菌第二部)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 蒲地 一成(国立感染症研究所 細菌第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2018年1月1日より百日咳は全数把握疾患へと変更になった。この変更は2016年に百日咳核酸検出/LAMP法など複数の検査法の健康保険適応が大きく影響している。本研究では全数サーベイランス移行時に患者の届け出の統一を図るべく作成された「百日咳感染症法に基づく医師届出ガイドライン」に基づいて、国の発生動向調査に報告された症例からより百日咳菌による感染者を抽出し、正確な国内の百日咳患者の疫学の把握に努めること、並びにその疫学データから得られる知見に基づいた課題の指摘と解決への検討、提言等を行うことを目的としている。
正確な疫学情報を得るためには精度の高い検査診断法が用いられなければならない。そこで、本研究では新規百日咳検査法について検査精度の評価を行った。百日咳の検査診断法は大きく分けて①抗体検査、②菌分離および同定、③イムノクロマト法による抗原検査、④遺伝子検査の4種類があるが、近年は新規の検査法が次々と開発されているため、新規の検査法を評価の対象とした。
インフルエンザについては、患者及び病原体の両面からサーベイランスの精度を高め、発生動向調査上の変化や疾病負荷を正確に捉える体制の構築が必要とされている。インフルエンザの患者・病原体を一体視したサーベイランスシステムの評価を行い、疫学的知見の提出を行うことを目的とした。
研究方法
令和2~4年度のCOVID-19流行下での国内の百日咳の疫学をまとめた。その経過中に新規に保険収載されたイムノクロマト法陽性に基づいた症例のアウトブレイクが散見されたため、令和4年度はイムノクロマト法により届けられた百日咳について検討した。
病原体診断はR2年度はノバグノスト百日咳IgA, IgMキットを用いて、DPT追加接種児血清の抗体価測定を行った。また、遺伝子組み換えにより百日咳菌FHA欠損変異株の作製を行った。R3年度は臨床分離株およびFHA欠損変異株を用いて、MALDI微生物同定装置による菌種同定試験を実施した。R4年度はリボテスト百日咳の精度評価を行うとともに、偽陽性原因の探索研究を行った。
インフルエンザについては、沖縄県宮古島市にてインフルエンザの診療にあたる主な医療機関(研究協力機関)7施設(人口のほぼ9割強をカバー)において、発熱で受診し、臨床症状から医師がインフルエンザを疑って迅速検査を行った患者(インフルエンザ様疾患患者:ILI)を対象とし、患者について得られた情報について記述疫学、ワクチン効果に関する症例対照研究、ワクチン効果の分析に必要な流行状況の指標、定点サーベイランスの質について評価した。
結果と考察
2020年以降のCOVID-19の流行により百日咳の疫学は2018-19年と大幅に変化した。この変化の中で、就学前児童へのDTP追加接種による学童期患者の減少の意義、成人層の更なる百日咳患者の存在を示唆する所見が得られた。
一方、検査診断の評価に関しては、血清診断法「ノバグノスト百日咳IgA, IgM」、MALDI微生物同定装置による菌種同定、抗原検査キット「リボテスト百日咳」はいずれも百日咳の検査診断法として用いる際に注意すべき点があることが指摘された。新規保険収載されたイムノクロマト法は現時点では高い偽陽性率が明らかとなり、イムノクロマト法による検査結果の解釈には注意が必要であることが示唆された。また、この結果が百日咳サーベイランスへ及ぼす影響が非常に大きいため今後サンプル数やサンプルサイズを拡大し、イムノクロマト法の精度評価及び偽陽性原因の探索を継続する必要がある。新規に開発された検査診断法については、臨床知見や評価研究の蓄積により検査精度の実態を明らかにしていく必要がある。
インフルエンザに関しては、強化サーベイランスによって地域のワクチン効果の分析に必要な流行状態の指標として、定点当たり10以上から4週間の分析でその後大きく変化しない統計学的に有意な結果が得られた。この結果から、シーズン中であっても、国内サーベイランスを目安として早期のワクチン効果情報が得られる可能性が示唆された。また、定点医療機関に地域の中核病院が含まれる離島において、定点当たり報告数は全数の報告数と同様のトレンドを示しており、定点サーベイランスも定点の設定によっては十分疾病の流行や疾病負荷を捉えることができる可能性が示された。
結論
百日咳、インフルエンザ、ともに患者情報と病原体検査を組み合わせることで、質の高いサーベイランスの実施と、そのデータを用いた研究により正確な疫学の把握による課題の指摘と介入、介入策の評価が実施できることが明らかになった。そのためには検査の質が高く保たれること、検査の実施率を高め、報告まで行うことを徹底することが重要である。

公開日・更新日

公開日
2024-07-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-07-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202219007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
COVID-19の流行は百日咳の疫学にも影響を与えたことを示した。精度の高い検査法を用いたサーベイランスを実施すれば、百日咳アウトブレイクへの早期探知・対応が今後期待されるとともに、検査の精度の評価を継続的に実施することでサーベイランスの質を保てることを示した。インフルエンザについてはCOVID-19を用いた定点サーベイランスで得られた知見から、定点の選定を正確に行うことで、インフルエンザ定点サーベイランスの質の向上が期待できる。
臨床的観点からの成果
成人にも百日咳(特に肺炎)患者がいることが示された。また、流行がない状況で百日咳イムノクロマト法を用いると偽陽性が多いので注意が必要であることが示唆された。インフルエンザサーベイランスを活用し、インフルエンザ流行中のインフルエンザワクチンの有効性を算出できる可能性がある。
ガイドライン等の開発
感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第二版)百日咳
令和 3 年 12 月 28 日
その他行政的観点からの成果
百日咳の疫学を記述し、就学時前の百日咳含有ワクチンの追加接種の必要性を示した。今後ワクチン小委員会等での議論の基礎資料になり得る。また保険収載されている検査の偽陽性が多い可能性が示唆されたが、今後の発生動向調査に影響を及ぼす事案のため、さらに精査する。インフルエンザの定点サーベイランスの精度やシーズン中のワクチンの有効性の迅速評価などの活用方法について検討し、今後のサーベイランス等への基本的資料として活用可能であると考える。
その他のインパクト
毎年の発生動向調査に報告される百日咳症例をガイドラインに基づいてより百日咳菌による感染者を抽出し、それらの結果をまとめ国立感染症研究所のホームページで還元している。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ガイドライン作成1件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
ホームページ3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Wakimoto Y, Otsuka N, Yanagawa Y, et al
The First Reported Case of Bordetella pertussis Bacteremia in a Patient With Human Immunodeficiency Virus Infection.
Open Forum Infect Dis. , 7 (9(3)) , ofac020-  (2022)
DOI: 10.1093/ofid/ofac020
原著論文2
国立感染症研究所
新型コロナウイルス感染症流行下の国内百日咳の疫学のまとめ.
病原微生物検出情報(IASR) , 42 (6) , 113-114  (2021)

公開日・更新日

公開日
2024-05-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
202219007Z