「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改定に資する研究

文献情報

文献番号
202219006A
報告書区分
総括
研究課題名
「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改定に資する研究
課題番号
20HA1009
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮入 烈(国立大学法人浜松医科大学 医学部 小児科学講座)
  • 小林 徹(国立成育医療研究センター データサイエンス部門)
  • 明神 翔太(国立成育医療研究センター 感染症科)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 岡部 信彦(川崎市健康福祉局 川崎市健康安全研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,330,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli; EHEC)に感染した患者および無症状病原体保有者に対する便検査の実施状況、排菌期間、二次伝播を調査した。これにより「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について(平成11年3月30日付け健医感発第43号厚生省保健医療局結核感染症課長通知)」(以下、通知)での菌陰性化判定が困難な長期保菌例や陰性化確認後の二次感染例の詳細な疫学を明らかにし、このような事例の要因となる臨床的・微生物学的な特性を検討することを目的とする。
研究方法
本研究班における令和4年度の研究は以下の4つの調査研究で構成される。
① EHEC感染症の発生状況
② EHECの排菌期間に関するシステマティックレビュー
③ EHECの病原体保有者に対する抗菌薬投与と排菌期間の関連を検討する後ろ向きコホート研究
④ 長期排菌に関連した微生物学的特性を明らかにするための菌株解析
結果と考察
本検討により以下のことが明らかとなった。
① EHEC感染症の発生状況(2022年)
感染症発生動向調査によるEHEC感染症の届出は3,376件、うち有症状者は2,259件(67%)であった。HUS発症症例は58件報告されていた。 EHECの地方衛生研究所における検出例報告は1,683例で、全検出数における上位のO血清群の割合は, O157が57.6%、O26が15.2%であった。2022年は例年に比べ報告数は少なかったが、新型コロナウイルス感染症の流行以降、ほぼ例年の報告数に近づきつつある。
② EHECの排菌期間に関するシステマティックレビュー
EHEC保菌者の排菌期間の定義、排菌期間の長さについて調査した論文を精査し、有症状者と無症状病原体保有者、年齢、治療介入、菌の微生物学的な違いによる排菌期間の違いを検討する目的で2596件の一次スクリーニング、318件の2次スクリーニングを完了した。解析対象となる文献30件から、合計1511人の排菌期間に関する情報を抽出した。排菌期間は中央値20-30日前後と報告している文献が殆どであったが、数ヶ月に渡る排菌事例の報告があり、最長の排菌期間は3ヶ月男児の341日間であった。各文献からは、成人より小児において、無症状者より有症状者において排菌期間が長くなる傾向があるとの記載が散見された。
③EHECの病原体保有者に対する抗菌薬投与と排菌期間の関連を検討する後ろ向きコホート研究
2017年1月1日から2022年12月31日に、川崎市においてEHEC感染症として届出のあった229件を対象とした。患者は172件、無症状病原体保有者は57件であった。発症から初回検体採取日までの日数の中央値(範囲)は3日(-3日〜38日)で受診までのタイミングを反映していた。抗菌薬不使用の患者の排菌期間は、定義①では14.5日(5〜113日)、②では11日(4〜108日)と、抗菌薬使用の患者①13日(7〜59日)、②11日(6〜56日)に比べてやや長く排菌し、かつ長期排菌者も多かった。無症状病原体保有者の排菌期間は、抗菌薬使用者は16.5日(10〜23日)、不使用者は13日(6〜23日)と抗菌薬不使用の方が短く、抗菌薬は排菌期間に大きく影響しないことが示唆された。いずれもその後に病状が悪化した事例はなかった。 家庭内では、患者からは接触者の7.3%、無症状病原体保有者からは1.5%に感染させ得ることから、特に患者との接触には注意が必要であると考えられた。
④ 長期排菌に関連した微生物学的特性を明らかにするための菌株解析
1)メタゲノム解析の結果、EHEC陽性または陰性サンプル間で菌叢が異なっていたものの、有意な差は認められなかった。継続して知見を集積することで、両サンプル間の違いをより詳細に明らかにすることができると考えられる。
2)EHEC陰性確認法の基本方針の策定
検査時間短縮のためにPCR法またはLAMP法による陰性確認法を実施可能とし、①PCRの結果は培養後の陰性確認に限定する(PCR陽性の場合は分離確認が必要)、②O157, O26, O111等選択分離培地が有効なO群については培養法のみによる確認も可能とする、③リアルタイムPCR/コンベンショナルPCR/LAMP各法の選択, DNA調製法は各施設での選択とするとした基本的な方針を策定し、EHEC感染症検査・診断マニュアル(感染研HPからダウンロード可能)に記述した。
結論
腸管出血性大腸菌の排菌状況にかかわるエビデンスが集積された。「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の通知の改訂に際しては、対象者のリスクを踏まえた内容が妥当と考えられたが、更なる調査を要する。

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202219006B
報告書区分
総合
研究課題名
「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改定に資する研究
課題番号
20HA1009
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮入 烈(国立大学法人浜松医科大学 医学部 小児科学講座)
  • 小林 徹(国立成育医療研究センター データサイエンス部門)
  • 明神 翔太(国立成育医療研究センター 感染症科)
  • 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 実地疫学研究センター)
  • 岡部 信彦(川崎市健康福祉局 川崎市健康安全研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli; EHEC)感染症は、出血性腸炎や溶血性尿毒症症候群をきたす予後不良な疾患である。罹患した患者については、「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」(結核感染症課長通知)に基づき、原則として有症状者は便培養2回、無症状者は1回の陰性を確認することで、就業制限等が解除されている。しかしながら、菌陰性化確認後に再度陽転化する例や長期排菌が持続する例がある。隔離解除のための便検査のタイミングや菌陰性化の判定の詳細は保健所や地方衛生研究所に委ねられ、現場からは新たなエビデンスに基づいた統一した基準が求められている。
本研究の目的は、(1)EHEC排菌に関わるエビデンスの整理のために、先行研究について網羅的調査を行うこと、(2)現行の陰性化確認方法について保健所への実態調査や実施検証を行い、運用上の問題点を把握すること、(3)国内外の運用の違いを比較するために、各国のガイドライン等の調査を行うこと、(4)最新の技術に基づいて病原体検出法等を更新すること、(5)「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改定に資する提案を行うことである。
研究方法
本研究は以下の分担研究で構成される。
(1) 全国におけるEHEC感染症の発生状況
(2) EHECの排菌期間に関する日本語文献の先行研究調査
(3) EHECの排菌期間に関するシステマティックレビュー
(4) 国内のEHEC保菌者に対する陰性確認・就業制限に関する規定について
(5) 国内のEHEC保菌者に対する陰性確認・就業制限に関する実態調査
(6) 国外におけるEHEC保菌者に対する公衆衛生上の対応に関する調査
(7) 病原体陰性確認方法の最適化
(8) 長期排菌者における微生物学的検討
(9) 腸管出血性大腸菌の病原体保有者に対する抗菌薬投与と排菌期間の関連を検討する後ろ向きコホート研究
上記の研究結果を踏まえて、研究班として「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改訂に関する提言を最終成果物として提示する。
結果と考察
(1) 2018〜2022年第37週(9月12日~18日)集計時点までの累積報告数は3002例、2670例、1883例、2230例、2404例であった。溶血性尿毒症症候群は52例、49例、35例、37例、30例であった。
(2)国内文献を総括すると排菌期間は数日から2-3週間程度とするものが多かったが、治療介入の有無や、検便頻度・排菌期間の定義によっても差が生じていた。
(3) 合計1511人の排菌期間に関する情報を抽出した。排菌期間は中央値20-30日前後と報告している文献が殆どであったが、数ヶ月に渡る排菌事例の報告があり、最長の排菌期間は3ヶ月男児の341日間であった。成人より小児において、無症状者より有症状者において排菌期間が長くなる傾向があった。
(4)国内の規定において陰性確認すべき対象が明確に決まっていないこと、長期排菌者や除菌については現場判断となっていることが問題として挙げられた。
(5)全国の保健所470か所を対象に実態調査を行い、205件から回答を得た。排菌陰性化確認が困難な例を経験したことがあるとする75件については、長期に渡り陽性が続いた(60%)、抗菌薬投与を要した(28%)、陰性確認後に再度陽性(15%)であった。
(6)国際的には臨床的なリスクや微生物学的な要因などを踏まえた対応の層別化が国際的な主流になりつつある。
(7)培養後のPCR法またはLAMP法を用いたstx陰性確認方法に関して「腸管出血性大腸菌(EHEC) 検査・診断マニュアル」に追加し、改訂(2022年10月)した。
(8)長期間排菌されるEHEC株の遺伝的変化について、これまでに37事例104株の解析を実施した。長期間排菌されるEHEC株の遺伝的特性については明確な特徴は見出せなかった。
(9)抗菌薬は排菌期間に大きく影響しないことが示唆されたが、検体採取のタイミングも関与していると思われた。いずれもその後に病状が悪化した事例はなく、無症状で長期間排菌する場合には、陰性化を目的に抗菌薬を使用する選択も可能と考えられた。家庭内では、患者からは接触者の7.3%、無症状病原体保有者からは1.5%に感染させ得ることから、特に患者との接触には注意が必要であると考えられた。
結論
腸管出血性大腸菌の陰性化確認方法に関わるエビデンスを集積し、病原体検出マニュアルの改訂を行った。長期排菌者については、小児、有症状者が多いこと、分離菌は低病原性の血清型が多く、遺伝子学的変化は乏しいことが判明し、家庭内伝播リスクがあることが確認された。研究結果からは、保菌者のリスクを踏まえた通知の改訂が妥当と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202219006C

収支報告書

文献番号
202219006Z