高齢者医療とQOL改善に対するグレリンの臨床応用とその基盤的研究

文献情報

文献番号
200921002A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者医療とQOL改善に対するグレリンの臨床応用とその基盤的研究
課題番号
H19-長寿・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
寒川 賢治(国立循環器病センター研究所 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中尾 一和(京都大学医学研究科)
  • 千原 和夫(神戸大学大学院医学研究科)
  • 芝崎 保(日本医科大学大学院医学研究科)
  • 村上 昇(宮崎大学農学部)
  • 中里 雅光(宮崎大学医学部)
  • 土岐 祐一郎(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 赤水 尚史(京都大学医学研究科)
  • 児島 将康(久留米大学分子生命科学研究所)
  • 永谷 憲歳(国立循環器病センター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
13,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胃から産生・分泌されるグレリンの病態生理学的意義の解明、および高齢者医療とQOL改善に対する臨床応用を目的とした。
研究方法
1)循環器疾患におけるグレリン投与の治療的意義、2)拒食症モデルラットでのグレリンによる摂食機能回復、3)オクタン酸高含有食品の摂取による内因性グレリンの増加と臨床応用、4)加齢に伴う体脂肪蓄積機序におけるグレリンの生理的役割、5)グレリンの過剰発現、または遺伝子欠損マウスの開発と解析、6)高齢ラットにおける筋萎縮に及ぼすグレリン受容体作動薬の効果、7)上部消化管外科領域、および慢性閉塞性肺疾患に対するグレリンの臨床応用
結果と考察
 グレリンは心筋梗塞後の心臓交感神経を抑制し、心筋梗塞後の急性期死亡率を減少させ、また、慢性低酸素による肺高血圧と肺動脈リモデリングを改善した。拒食症モデルラットの研究から、拒食症の種類によってはグレリンの摂食誘起効果が中枢性と末梢性投与で異なることが推測された。加齢に伴う体脂肪蓄積、筋量減少には成長ホルモン分泌低下や褐色脂肪細胞の機能低下が関与し、グレリン/グレリン受容体の経路が重要である。グレリン受容体作動薬は高齢者におけるデキサメサゾン誘導性筋萎縮を抑制する薬物となる可能性が示された。遺伝子改変動物の解析からは、グレリンの自律神経機能調節に対する病態生理学的重要性が示され、グレリンの新たな生理作用や自律神経障害への創薬の方向性が示された。グレリン過剰発現動物を二つのアプローチから作出し、成長や摂食、耐糖能などの発現型を検討中である。臨床研究分野では、「体重減少をきたした慢性閉塞性肺疾患患者の運動耐容能改善」の試験を終了し結果を解析中である。「胃切除術後患者」および「食道切除胃管再建術後患者」に対するグレリンの臨床効果を検討した二重盲検比較試験では、摂食量増加や体重減少の抑制などの有益な臨床効果を確認した。オクタン酸高含有食品を摂取すると内因性グレリンが増加し、カヘキシアを呈する患者の栄養療法として重要であることが示された。
結論
 グレリンの自律神経障害や循環器疾患への病態生理学的意義の解明、加齢による脂肪蓄積や筋萎縮に対する改善効果などの基礎的な研究成果に加えて、慢性閉塞性肺疾患、胃切除後や食道切除胃管増設術後の患者に対する効果の評価など、臨床分野においてもグレリン治療の適応疾患の拡大に向けた重要な成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200921002B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者医療とQOL改善に対するグレリンの臨床応用とその基盤的研究
課題番号
H19-長寿・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
寒川 賢治(国立循環器病センター研究所 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中尾 一和(京都大学大学院 医学研究科)
  • 千原 和夫(神戸大学大学院 医学研究科)
  • 芝﨑 保(日本医科大学大学院 医学研究科)
  • 村上 昇(宮崎大学 農学部)
  • 中里 雅光(宮崎大学 医学部)
  • 土岐 祐一郎(大阪大学 医学系研究科)
  • 赤水 尚史(京都大学 医学部附属病院)
  • 児島 将康(久留米大学 分子生命科学研究所)
  • 永谷 憲歳(国立循環器病センター研究所 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 胃から産生・分泌されるグレリンの病態生理学的意義の解明、および高齢者医療とQOL改善に対する臨床応用を目的とした。
研究方法
 基礎的研究としてグレリンの持つ多彩な生理作用(成長ホルモン分泌促進、摂食亢進、循環器、呼吸器、消化器などの主要臓器の機能維持、筋・骨代謝、糖・脂質代謝)を解明し、その生理作用を応用した臨床研究を行った。
結果と考察
 加齢に伴う食欲低下、除脂肪体重減少、体脂肪蓄積に対してグレリンが有用であることが示された。高齢者のステロイド誘導性筋萎縮に対してグレリンは有用な治療法となり得ることが示された。中枢神経での神経再生や糖尿病性末梢神経障害に対する予防および改善作用、さらには心筋梗塞や肺高血圧に対する改善作用が示された。グレリン分泌は機械的刺激より化学的刺激で抑制されていることや、環境要因やストレスに対する恒常性維持機構に関与している可能性、また、拒食症の種類によってはグレリンの摂食誘起効果が中枢性と末梢性投与で異なる可能性も示された。これらの結果は今後、グレリンの治療適応の拡大を検討する上で重要な知見と考えられた。遺伝子改変動物の解析からは、グレリンの自律神経機能調節に対する病態生理学的重要性が示され、グレリンの新たな生理作用や自律神経障害への創薬の方向性が示された。デスアシルグレリンの過剰発現モデル動物からは、デスアシルグレリンはインスリン感受性を亢進する可能性が示された。グレリン過剰発現動物を二つのアプローチから作出し、成長や摂食、耐糖能などを検討中である。臨床研究では、カヘキシアをきたし高齢者に多くみられる慢性閉塞性肺疾患、胃切除術後、食道切除胃管再建術後、慢性下気道感染症、機能性胃腸症、神経性食思不振症に対するグレリンの臨床効果を検討し、多くの研究で有用な効果が得られている。変形性股関節症に対する人工股関節置換術患者の周術期回復におけるグレリンの有効性に関しては、体組成の改善は認めたが、筋力や歩行速度には差を認めなかった。オクタン酸高含有食品を摂取すると内因性グレリンが増加し、カヘキシアを呈する患者の栄養療法として重要であることが示された。
結論
 本研究事業により、グレリンのもつ抗老化作用のメカニズム解明が進展し、高齢者におけるソマトポーズに起因する病態やQOL低下に対する臨床応用に向けたグレリン研究が着実に成果を上げることができた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2011-01-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200921002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
グレリンの病態生理学的意義の解明や高齢者医療と生活の質(QOL)改善に対する臨床応用を目指し、以下の基礎的研究成果を得た。
1)グレリンは心筋梗塞の治療に有用、2)拒食症の種類によりグレリンの摂食誘起効果が異なる、3)加齢に伴う体脂肪蓄積に関与するGH分泌低下および褐色脂肪組織の機能低下にグレリン/グレリン受容体系が重要、4)グレリン過剰発現モデルマウス作出に成功、5)グレリンは高齢ラットにおけるステロイド誘導性筋萎縮を抑制、6)グレリンは血圧、体温および消化管運動などの自律神経機能に重要
臨床的観点からの成果
グレリンの基礎的研究成果に基づき、以下の臨床研究を行った。
1)慢性閉塞性肺疾患の運動耐容能改善の検証のため、多施設二重盲検無作為化比較試験を終了し、結果を解析中、2)オクタン酸高含有食品の痩せた慢性呼吸器疾患患者での摂取は、内因性グレリンを増加させ、栄養状態を改善、3)胃全摘および食道切除胃管再建に対する二重盲検無作為化比較試験の結果、グレリン投与群で摂食量、食欲、体重が増加
さらに新たな適応疾患の拡大や臨床応用研究の推進により、ソマトポーズや高齢者のQOL維持に対する新規治療法が期待できる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
発明名称:デスアシルグレリン及びその誘導体を有効成分とする脊髄神経修復促進治療剤(特許番号:PCT/JP2007/065769)、発明名称:グレリン及びその誘導体又は成長ホルモン分泌促進因子レセプター1aアゴニストを有効成分とする慢性呼吸器感染症治療剤(特許番号:特願 2008-88324号)、発明名称:加療中動物の回復促進治療剤(特許番号:特願2010-6557)他2件
2009 Inter National Symposium on Ghrelin, Nov 18-19, 2009

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
154件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
55件
学会発表(国際学会等)
27件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計5件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mano-Otagiri A,Ohata H, Shibasaki T, et al.
Ghrelin suppresses noradrenaline release in the brown adipose issue of rats.
J Endocrinol , 201 (3) , 341-349  (2009)
原著論文2
Yano Y,Kangawa K, Nakazato M, et al.
Plasma des-acyl ghrelin, but not plasma HMW adiponectin, is a useful cardiometabolic marker for predicting atherosclerosis in elderly hypertensive patients.
Atherosclerosis , 204 (2) , 590-594  (2009)
原著論文3
Kyoraku I, Kangawa K, Nakazato M, et al.
Ghrelin reverses experimental diabetic neuropathy in mice.
Biochem Biophys Res Commun , 389 (3) , 405-408  (2009)
原著論文4
Nakao K, Kangawa K, Akamizu T, et al.
A mouse model of ghrelinoma exhibited activated growth hormone-insulin-like growth factor I axis and glucose intolerance.
Am J Physiol Endocrinol Metab , 297 (3) , 802-811  (2009)
原著論文5
Theil MM, Akamizu T, Kangawa K, et al.
Suppression of experimental autoimmune encephalomyelitis by ghrelin.
J Immunol , 183 (4) , 2859-2866  (2009)
原著論文6
Akamizu T, Shibasaki T, Kangawa K, et al.
Ghrelin increases hunger and food intake in patients with restricting-type anorexia nervosa: a pilot study.
Endocr J , 56 (9) , 1119-1128  (2009)
原著論文7
Akamizu T, Iwakura H, Kangawa K, et al.
Effects of ghrelin treatment on patients undergoing total hip replacement for osteoarthritis: different outcomes from studies in patients with cardiac and pulmonary cachexia.
J Am Geriatr Soc , 56 (12) , 2363-2365  (2008)
原著論文8
Schwenke DO, Tokudome T, Kangawa K, et al.
Early ghrelin treatment after myocardial infarction prevents an increase in cardiac sympathetic tone and reduces mortality.
Endocrinology , 149 (10) , 5172-5176  (2008)
原著論文9
Kodama T, Kangawa K, Nakazato M, et al.
Ghrelin treatment suppresses neutrophil-dominant inflammation in airways of patients with chronic respiratory infection.
Pulm Pharmacol Ther , 21 (5) , 774-779  (2008)
原著論文10
Soeki T, Kishimoto I, Kangawa K, et al.
Ghrelin suppresses cardiac sympathetic activity and prevents early left ventricular remodeling in rats with myocardial infarction.
Am J Physiol Heart Circ Physiol , 294 (1) , 426-432  (2008)
原著論文11
Yamamoto D, Ikeshita N, Matsubara T, Chihara K, Okimura Y, et al.
GHRP-2, a GHS-R agonist,directly acts on myocytes to attenuate the dexamethasone-induced expressions of muscle-specific ubiquitin ligases, Atrogin-1 and MuRF1.
Life Sciences , 82 (9) , 460-466  (2008)
原著論文12
Fukumoto K, Kangawa K, Murakami N, et al.
Synergistic action of gastrin and ghrelin on gastric acid secretion in rats.
Biochem Biophys Res Commun , 374 (1) , 60-63  (2008)
原著論文13
Doki Y, Okada K, Monden M, et al.
Long-term and short-term evaluation of esophageal reconstruction using the colon or the jejunum in esophageal cancer patients after gastrectomy.
Dis Esophagus , 21 (2) , 132-138  (2008)
原著論文14
Akamizu T, Iwakura H, Kangawa K, et al.
Repeated administration of ghrelin to patients with functional dyspepsia: its effects on appetite and food intake.
Eur J Endocrinol , 158 (4) , 491-498  (2008)
原著論文15
Nakao K, Kangawa K, Akamizu T, et al.
Efficacy of Ghrelin as a therapeutic approach for age-related physiologic changes.
Endocrinology , 149 (7) , 3722-3728  (2008)
原著論文16
Kojima M, Kangawa K, Murakami N, et al.
Regulation of GH secretagogue receptor (GHS-R) gene expression in the rat nodose ganglion.
J Endocrinol , 194 (1) , 41-46  (2007)
原著論文17
Katayama T, Kangawa K, Murakami N, et al.
Glucagon receptor expression and glucagon stimulation of ghrelin secretion in rat stomach.
Biochem Biophys Res Commun , 357 (4) , 865-870  (2007)
原著論文18
Toshinai K, Kangawa K, Nakazato M, et al.
Ghrelin stimulates growth hormone secretion and food intake in aged rats.
Mech Ageing Dev , 128 (2) , 182-186  (2007)
原著論文19
Ueno H, Shiiya T, Nakazato M, et al.
Plasma ghrelin concentrations in different clinical stages of diabetic complications and glycemic control in Japanese diabetics.
Endocr J , 54 (6) , 895-902  (2007)
原著論文20
Akamizu T, Nakao K, Kangawa K, et al.
Effects of ghrelin administration on decreased growth hormone status in obese animals.
Am J Physiol Endocrinol Metab , 293 (3) , 819-825  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-