高齢者の切迫性尿失禁に対する膀胱壁内A型ボツリヌストキシン注入療法の多施設臨床試験と腹圧性尿失禁に対する新規治療法の開発

文献情報

文献番号
200921001A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の切迫性尿失禁に対する膀胱壁内A型ボツリヌストキシン注入療法の多施設臨床試験と腹圧性尿失禁に対する新規治療法の開発
課題番号
H19-長寿・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 菊夫(国立長寿医療センター 手術・集中医療部)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤百万(名古屋大学大学院医学系研究科 病態外科学講座 泌尿器科学)
  • 橋本有弘(国立長寿医療センター 再生再建医学研究部)
  • 山本徳則(名古屋大学医学部附属病院 泌尿器科学)
  • 上住 円(国立長寿医療センター 再生再建医学研究部・細胞再生研究室)
  • 宋 時栄(島文理大学 神経科学研究所 実験病理学)
  • 丸山彰一(名古屋大学医学部附属病院 腎臓内科学)
  • 松尾清一(名古屋大学大学院 医学系研究科 病態内科学講座 腎臓内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
切迫性、腹圧性尿失禁は高齢者のQOLを大いに障害する。切迫性尿失禁に対して抗コリン薬は有効な治療法であるが、効果が不十分な症例も少なくなく、認知症悪化、堪えがたい口内乾燥、便秘などの高齢者につらい副作用もある。一方、女性に多く見られる咳・くしゃみ、重いものを持ち上げた時などに生じる腹圧性尿失禁は、高齢男性においても前立腺肥大症、前立腺癌の手術後に一定頻度で発生することが知られている。腹圧性尿失禁に対する新たな治療法として、自己骨格筋幹細胞や脂肪組織由来幹細胞を用いた再生治療の開発を目指した。
研究方法
①切迫性尿失禁に対するA型ボツリヌストキシン膀胱壁内注入療法(非神経因性過活動膀胱 (100単位注入)と神経因性膀胱排尿筋過活動 (200U注入))の2つの臨床試験、②腹圧性尿失禁に対する脂肪組織由来幹細胞移植治療の臨床試験、③腹圧性尿失禁に対する自己骨格筋からの培養幹細胞移植による再生治療の3つの研究を行った。
結果と考察
①参加施設を増やせるよう努力し、非神経因性過活動膀胱には17例、神経因性膀胱排尿筋過活動には19例を登録した。注入後1ヶ月目の時点で膀胱容量の増大、不随意収縮圧の消失・低下が認められ、その効果も一定期間持続できることがわかった。副作用として、非神経因性過活動膀胱において術後1ヶ月ぐらいまで残尿の増加はあったが尿閉は認めなかった。②平成21年度は前年の2例に加え、3例の難治性腹圧性尿失禁5症例に対して吸引自己脂肪から分離した幹細胞を内視鏡下に傍尿道周囲に注入した。1例で著効、3例で有効を得た。一過性の尿閉(その後自尿可能)が1例に生じたが、その他特記すべき副作用はなかった。③では、開腹手術時に採取された腹壁筋からの移植用骨格筋細胞の調製、品質管理システム、および移植後の安全性検定法の開発・改良を行い、3年目で細胞接着分子CD56(NCAM)を用いることで筋幹細胞への分化能の検定法を確立した。継続培養した細胞においても造腫瘍性は認められなかった。
結論
切迫性尿失禁に対するA型ボツリヌストキシン膀胱壁内注入療法は、有効性の高い治療法となりうる。脂肪組織由来幹細胞/間質細胞を用いた腹圧性尿失禁治療も有望であると考えられた。骨格筋幹細胞移植治療も十分に臨床応用可能なレベルに達しており、今後、臨床試験に向けた体制作りを行う所存である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-17
更新日
-

文献情報

文献番号
200921001B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者の切迫性尿失禁に対する膀胱壁内A型ボツリヌストキシン注入療法の多施設臨床試験と腹圧性尿失禁に対する新規治療法の開発
課題番号
H19-長寿・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 菊夫(国立長寿医療センター 手術・集中医療部)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤百万(名古屋大学大学院医学系研究科 病態外科学講座 泌尿器科学)
  • 橋本有弘(国立長寿医療センター 再生再建医学研究部)
  • 山本徳則(名古屋大学医学部附属病院 泌尿器科学)
  • 上住 円(国立長寿医療センター 再生再建医学研究部・細胞再生研究室)
  • 宋 時栄(徳島文理大学 神経科学研究所 実験病理学)
  • 丸山彰一(名古屋大学医学部附属病院 腎臓内科学)
  • 松尾清一(名古屋大学大学院 医学系研究科 病態内科学講座 腎臓内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
切迫性、腹圧性尿失禁は高齢者のQOLを大いに障害する。切迫性尿失禁に対して抗コリン薬は有効な治療法であるが、効果が不十分な症例も少なくなく、認知症悪化、堪えがたい口内乾燥、便秘などの高齢者につらい副作用もある。一方、女性に多く見られる咳・くしゃみ、重いものを持ち上げた時などに生じる腹圧性尿失禁は、高齢男性においても前立腺肥大症、前立腺癌の手術後に一定頻度で発生することが知られている。腹圧性尿失禁に対する新たな治療法として、自己骨格筋幹細胞や脂肪組織由来幹細胞を用いた再生治療の開発を目指した。
研究方法
①切迫性尿失禁に対するA型ボツリヌストキシン膀胱壁内注入療法(非神経因性過活動膀胱 (100単位注入)と神経因性膀胱排尿筋過活動 (200U注入))の2つの臨床試験、②腹圧性尿失禁に対する脂肪組織由来幹細胞移植治療の臨床試験、③腹圧性尿失禁に対する自己骨格筋からの培養幹細胞移植による再生治療の3つの研究を行った。
結果と考察
①非神経因性過活動膀胱には17例、神経因性膀胱排尿筋過活動には19例が登録され、注入後1ヶ月目の時点で膀胱容量の増大、不随意収縮圧の消失・低下が認められ、その効果も一定期間持続できることがわかった。副作用として、非神経因性過活動膀胱において残尿の増加はあったが、尿閉は認めなかった。②平成20~21年度は名古屋大学倫理委員会の承認を得て、前立腺全摘除術後1年以上経過した70歳以上の難治性の腹圧性尿失禁5症例に、吸引自己脂肪から分離した幹細胞を内視鏡下に傍尿道周囲に注入する新規治療を施行し、1例で著効、3例で有効を得た。一過性の尿閉(その後自尿可能)が1例に生じたが、その他特記すべき副作用はなかった。③では、開腹手術時に採取された腹壁の筋からの移植用骨格筋細胞の調製、品質管理システム、および移植後の安全性検定法の開発を行った。細胞接着分子CD56(NCAM)を用いることで筋幹細胞への分化能の検定法を確立した。継続培養した細胞においても造腫瘍性は認められなかった。
結論
切迫性尿失禁に対するA型ボツリヌストキシン膀胱壁内注入療法は、有効性の高い治療法となりうる。脂肪組織由来幹細胞/間質細胞を用いた腹圧性尿失禁治療も有望であると考えられた。骨格筋幹細胞移植治療も十分に臨床応用可能なレベルに達しており、今後、臨床試験に向けた体制作りを行う所存である。

公開日・更新日

公開日
2010-05-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200921001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまでの治療法では治療が難しい高齢者の腹圧性と切迫性尿失禁に対して、新規治療法を提案できた。これらの治療法の確立は今後の問題である。以下の論文発表を行った。野尻佳克, 岡村菊夫. A型ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の標準的方法と有効性は? EBM 泌尿器科疾患の治療. 342-347, 2009.
臨床的観点からの成果
日本人に対する難治性の非神経因性・神経因性排尿筋過活動に対するA型ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の効果を、本邦で初めて多施設共同研究において検討した。途中経過ではあるが、大変有用性の高い治療法であると推測された。前立腺全摘除術後の腹圧性尿失禁に対する脂肪組織由来幹細胞移植治療の有効性を、パイロットスタディーではあるが実証した。また自己骨格筋幹細胞移植治療に関しては、臨床応用へ進められる方法論を確立できた。

ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
2010年4月22日発行のMedical Tribune vol.4, No.16, p55「高齢者の切迫性尿失禁、脊髄損傷患者の排尿筋過活動に有効」という見出しで取り上げられた。また、2010年10月1日に開催される第17回日本排尿機能学会のシンポジウムにて研究協力者の野尻佳克と仙石淳が研究成果を報告する予定である。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mukai, A. and Hashimoto, N.
Localized cyclic amp-dependent protein kinase activity is required for myogenic cell fusion
Exp.Cell Res. , 314 , 387-397  (2008)
原著論文2
Hashimoto, N., Kiyono, T., Wada, M. R., et al.
Osteogenic Properties of Human Myogenic Progenitor Cells.
Mech. Dev. , 125 , 257-269  (2008)
原著論文3
Mukai, A., Kurisaki, T., Sato, A. B., et al.
Dynamic clustering and dispersion of lipid rafts contribute to fusion competence of myogenic cells
Exp.Cell Res. , 315 , 3052-3063  (2009)
原著論文4
野尻佳克, 岡村菊夫.
A型ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の標準的方法と有効性は?
EBM泌尿器科疾患の治療 , 342-347  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-