沖縄における食生活等疫学的研究

文献情報

文献番号
199700605A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄における食生活等疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
柊山 幸志郎(琉球大学医学部教授)
研究分担者(所属機関)
  • 井関邦敏(琉球大学医学部助教授)
  • 等々力英美(琉球大学医学部助教授)
  • 川崎晃一(九州大学健康科学センター教授)
  • 山村卓(国立循環器病センター研究所室長)
  • 緒方絢(国立循環器病センター部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
なぜ沖縄に長寿者が多いかその理由については不明な点が多く、遺伝、環境、疾病の発症率など多方面からの研究が必要である。食生活は重要な環境要因である。沖縄に特徴的な因子があるか否か、食生活により影響される血清脂質などと循環器疾患の関連を調べる。 外国において血清コレステロールは既に確立された危険因子であるが、我が国ではこの面の疫学的研究がほとんどなく、一定の成績は得られていない。 本研究班では(1)沖縄住民の血清コレステロール値と重要臓器合併症である心筋梗塞、脳卒中発症率との関連を調べる。(2)血清コレステロール値と末期腎不全の発症率との関連を調べる。(3)沖縄住民の摂取する食品について分析するための基礎的調査表を作成する。(4)高血圧による循環器合併症は長寿に関わる因子の一つであり、高血圧に影響を及ぼす地域住民の食塩摂取量とカリウム摂取量を尿分析により推定し検討する。(4)動脈硬化と強く関連するリポ蛋白(a)をコレステロール値とともに沖縄住民と他の地域とで比較し、体質素因の特徴を調べる。(5)高血圧患者の合併症である脳出血を病理学的に検討する。以上のように多方面からの調査により沖縄の長寿要因を食生活、脂質因子、血圧、尿中電解質を地域住民で分析するとともに、重要臓器合併症との関連を明らかにして沖縄の長寿要因を調べることを目的とする。
研究方法
(1)血清コレステロール値と脳卒中、心筋梗塞との関係:1983年度の沖縄住民検診で血清コレステロール値を有する者を対象とし、1988年4月から1991年3月までに沖縄で発症した脳卒中・心筋梗塞の登録データを利用して発症者を抽出する。血清コレステロール値により4群(≦167、168-191、192-217、≧218 mg/dl)に分け、年齢、性、脳卒中発症率、心筋梗塞発症率を多重ロジスティク分析により解析し、低コレステロール群(≦167)に対する脳卒中・心筋梗塞発症のオッズ比を算出した。
(2)血清コレステロールの末期腎不全に及ぼす影響:1983年度の沖縄住民検診で血清コレステロール値を有する者を対象とする。1995年度末までに沖縄での慢性透析患者を登録している沖縄透析研究のデータと合わせて、検診受診者を抽出し、血清コレステロール値の末期腎不全へ及ぼす影響を多重ロジスティック解析で検討した。
(3)沖縄における食物摂取頻度調査表の作成:沖縄で平均的な健康水準をもつ久米島の住民70世帯140人を対象として栄養士が点検を行いながら食物摂取を調査し、食品リストを作成した。
(4)住民の地域別食塩摂取量と血圧値:沖縄県総合保険協会人間ドック受診者の男女1515人を対象に性、年齢、血圧、服薬状況、血液生化学の結果及び尿電解質、尿クレアチニンを測定し、24時間尿中Na・K排泄量の推定値を算出する。血圧値と尿中Na・K排泄量との関係を重回帰分析により検討する。
(5)血清脂質と動脈硬化の地域差:大阪府住民や奈良県児童とともに沖縄住民(平成9年10月の沖縄県総合保険協会人間ドック受診者497人)の血清脂質、リポ蛋白(a)(Lp(a))を測定し、さらにLp(a)表現型を解析した。また家族性高コレステロール患者についても同様な測定を行い比較した。
(6)脳内出血の原因:国立循環器病センターの脳出血剖検151例で高血圧や止血異常などの臨床像を病理組織学的検索結果と合わせてその原因を分析した。
結果と考察
(1)脳卒中4512人中654人、心筋梗塞例1021例中152人が検診受診者であり、血清コレステロール値を有していた例は脳卒中315例、心筋梗塞65例であった。全脳卒中例と血清コレステロール値には有意な関係は見られなかった。しかし男性では血清コレステロールが低いほど脳出血の発症が高くなった。心筋梗塞は血清コレステロール値の上昇とともに発症率が増加し、年齢・性を考慮した多重ロジスティック解析でも有意な発症予知因子であった。
(2)末期腎不全の累積発症(10万人対)は血清コレステロールが増加するにつれて179、216、315、334と増加が見られた。オッズ比(95%信頼区間)は1.25(1.04-1.45)であったが、性、年齢、蛋白尿の有無、血尿の有無で補正したオッズ比は1.10(0.91-1.33)と有意ではなかった。
(3)栄養調査の参加者160名7日間の全食品・料理830種の結果をもとに52の摂取栄養素量を目的変数とし、各食品ごとの摂取栄養素量を説明変数としてstepwise法による重回帰分析を行い累積寄与率が80%になるまで食品を選択して130品目に絞り込んで食物摂取頻度調査表を作成した。また沖縄独特の食品料理品目のデータベースを作成し約2200品目のコード化を行なった。
(4)地域での尿分析結果より尿中クレアチニン排泄予測式と24時間尿中Na・K排泄量推定式を作成した。その推定式を用いて沖縄県全域の沖縄県総合保健協会人間ドック受診者1363名(男性862名、女性501名)を対象として解析を行った。沖縄県住民と福岡県、長崎県の2地域の住民を比較すると、Na排泄量推定値は沖縄県住民が有意に低値であった。尿中K排泄量推定値は福岡県より少ないが長崎県とは差はなかった
(5)成人ならびに小中学生について血清Lp(a)を測定した。各年代とも明らかな男女差はなかった。男性では30から50歳代で上昇傾向を示し、70から80歳代では低下していた。女性では50歳代以後に高値を示していた。家族性コレステロール血症患者でLp(a)を測定した結果では他の高脂血症患者に比べて高値を示し、その値はLp(a)分解率よりもLp(a)合成率と強い相関を示した。沖縄住民497人については測定中である。
(6)脳内出血は151例中167病巣が認められ、原因が推定できたものでは高血圧113病巣、高血圧+止血異常18病巣、止血異常7病巣、脳アミロイドアンギオパチー(CAA)15病巣その他13病巣であった。高血圧とCAAは微少動脈瘤破裂が原因と考えられた。
心筋梗塞は欧米と同様に血清コレステロール値の上昇とともに発症率は高くなることが示された。また脳卒中では脳出血の男性のみで血清コレステロール値が低いほどの発症率が増加した。
高コレステロール値は腎不全進行の独立した危険因子ではなかった。また高度(>300mg/dl)の高コレステロール血症患者が少ないのは末期腎不全に至る前に脳卒中や心筋梗塞で死亡している可能性がある。
沖縄住民を対象として作成した質問表は130品目の食品・料理数からなり、地域的特性のある食品を絞り込むことが可能となった。長期的コホート研究で食物摂取頻度調査表を用いて沖縄独特の食生活が解析可能と考えられる。
24時間尿中Na・K排泄量推定式を用いて沖縄住民の尿中Na・K排泄量を測定した。他地域との比較では沖縄県住民は食塩摂取量は少なく、カリウム摂取量は同等であった。
動脈硬化の危険因子とされているLp(a)は加齢と共に上昇するが、男性と女性ではそのパターンが異なっている。またLp(a)値を規定するのは分解率ではなく合成率であることが示された。
脳内出血の約68%は高血圧が原因と考えられた。高血圧およびCAAでは微小動脈瘤破裂が原因と考えられた。
結論
沖縄の長寿の要因を食生活、血清脂質、高血圧、重要臓器合併症の立場から解析を行った。血清コレステロール高値は心筋梗塞と、血清コレステロール低値は男性の脳出血と関連している。腎疾患との関係は明らかでなかった。沖縄に特徴的な食生活を解析するために食物摂取頻度調査表を作成した。尿中Na・K排泄量や血清リポ蛋白については地域により違いが見られており、沖縄住民は食塩摂取量が少ないことが認められた。

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